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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
"1回目"と"40回目"の対峙。初めての選手権に乗り込んできた大阪の新鋭と、大会最多出場回数を誇る秋田の名門が激突する舞台も、引き続き等々力です。
2003年の創部という新興勢力ながら、その翌年にはいきなりインターハイで全国へ出場するなど、順調過ぎるスタートを切った履正社高校サッカー部。ところが、最大の目標とも言うべき選手権にはなかなか縁がなく、近年は府大会ベスト8が1つの壁として立ちはだかってきました。久々にその壁を突破した今予選は、準決勝でJ1クラブ内定選手2人を擁する興国、昨年度王者の東海大仰星を共にPK戦で破り、創部10年目にしてとうとう辿り着いた冬の全国。「ボールの繋がりと人の繋がり」(平野直樹監督)を武器に晴れ舞台へ挑みます。
積み上げた出場回数は40回。全開催回の半数に迫る全国切符を手にしてきたのは秋田商業。ただ、ここ2年間は冬の王座を取り逃がしており、4月からは第73回大会で全国のピッチに立っている鎌田修明部長が監督へ就任。県予選の決勝ではインターハイの決勝で敗れた秋田南にきっちりリベンジを果たして、3年ぶりとなる晴れ舞台へ戻ってきました。センターラインにフレッシュな1年生を起用する若いチームがまず目指すのは、秋田県勢として9年ぶりとなる初戦突破です。ピッチ上は快晴、微風とこの時期にしてはかなりの好コンディション。履正社のキックオフで第2試合はスタートしました。
立ち上がりからリズムを掴んだのは初出場の履正社。「これだけ注目されている大会で、高校サッカーに携わる人が目標とする大会ですから硬かったですね」とは平野監督ですが、3分にCFの瀧本高志(2年・FCB2)が枠の右へ外れるオープニングシュートを放つと、8分には10番を付ける司令塔の石川玲(3年・大阪東淀川FC)が秋田商業のGK鎌田裕二(3年・秋田城東中)にファインセーブを強いる好ミドルを枠内へ。11分にも左CKの流れから、最後は宮原直也(3年・千里丘FC)がクロスバーの上にシュートを打ち上げましたが、まずは大阪王者が勢い良く飛び出します。
一方の秋田商業はセットプレーで反攻。12分には右からレフティの左SB佐々木嵩(3年・秋田城東中)が蹴ったCKはゴール前で混戦になり、何とか履正社DFがクリア。直後にも右から佐々木が、左から山本隼(1年・にかほ仁賀保中)が相次いでCKを蹴り込むと、16分には流れの中から掴んだファーストシュート。右に開いたボランチの岩澤勇也(3年・秋田山王中)が放り込んだクロスを、中央でキャプテンの安田海斗(3年・秋田東中)が収め、放ったシュートはDFにブロックされたものの、「サイドにドリブルできる選手や速い選手を置いているので、そこがウチのポイント」と鎌田監督も言及したストロングが垣間見られます。
ただ、20分の決定機は履正社。瀧本が左サイドをえぐってえぐって、GKを外した上で中へ。受けた林大地(1年・ガンバ大阪JY)の目の前にはゴールが広がっていましたが、「だいぶ大振りしてシュートを打つのも遅れた」と自ら振り返ったシュートは、全力で戻った石川巧(1年・エスポルチ秋田FC)がブロック。22分にも石川玲が蹴った25m弱の直接FKは枠を捉え、鎌田がわずかに触ったボールは左ポストに弾かれるも、流れは完全に履正社へ。
24分、キャプテンマークを巻く右SBの松岡拓郎(3年・高槻FC)の左CKを、CBの長尾悠平(3年・FC PASENO ITAMI)が頭で残し、石川玲のシュートはDFがブロックで回避するも、27分にもビッグチャンス。右サイドを「こういう場で何もかも初めてだったので緊張した」という林がえぐり切ると、松岡のシュートはDFに当たり、長尾のシュートも秋田商業のCB伊藤和樹(3年・大仙大曲中)にうまくブロックされましたが、31分のチャンスも16番のサイドアタッカーがフィニッシュ。松岡が左へ回し、SBの小川明(3年・FCB2)が入れたクロスは飛び出したGKが触れず、こぼれを拾った林のシュートは枠の右へ。「伸び伸びというのか、自分勝手というのか」と平野監督は苦笑したものの、林、牧野寛太(1年・ガンバ大阪JY)、CBの安田拡斗(1年・ガンバ大阪JY)といった1年生が物怖じせずに躍動し、ゲームリズムを握って離しません。
33分も履正社。宮原が左へ回し、小川が上げたクロスに下がりながら合わせた林のヘディングは鎌田がキャッチ。37分も履正社。多田将希(2年・FC PASENO ITAMI)の右CKから、こぼれを瀧本が叩いたシュートは枠の右へ。38分には秋田商業にも久々のチャンス。佐々木のスルーパスに青山和樹(1年・DEMAIN SOLEIL福岡)が絡み、ゴール前の混戦に安田海斗が突っ込むと、シュートには至らなかったものの、「小さくてスピードのある選手がウチには集まっている」と鎌田監督も語る特徴の一端を覗かせます。
39分は履正社の決定機。牧野が小さく落としたボールを、石川がミドルレンジから枠へ飛ばすも、鎌田がファインセーブで回避。40分も履正社の決定機。松岡の左CKがこぼれると、林は右に小さくラストパス。牧野がフリーで放ったシュートは、ここも「野生のカンみたいな感じの選手。今日は結構当たっていた」と鎌田監督も認めた鎌田が何とか反応して、ボールはわずかにクロスバーの上へ。「周りから見ていたらかなり劣勢だったかもしれないが、子供たち自身はそんなに辛くはないと。私もそういう展開になると思っていたし、相手がイヤになるだけできる自信はあった」と指揮官も語ったように、鎌田を中心に履正社の猛攻を1つずつ消していった秋田商業の集中力が際立った前半は、スコアレスでハーフタイムへ入りました。
後半もファーストシュートは履正社。開始から1分も経たない41分、宮原が左へ付けたボールを牧野が運び、ファーサイドを狙ったシュートは鎌田がこの日5本目のファインセーブで掻き出しましたが、明らかに上げに掛かった攻撃のギア。そのギアを上げるために、指揮官が改めて搭載させ直したエンジンの主電源は"繋がり"。
44分、多田を起点に宮原が右へ送ったボールは林の足元へ。「前半はあそこでちょっと持ってしまったりすることがあった」(平野監督)流れの中で、「ちょうどGKとDFの間が顔を上げたらパッと見えた」林の選択は素早いグラウンダークロス。狙い通りにGKとDFの間を高速で抜けたボールへ、突っ込んだ瀧本は左足で確実にプッシュしてみせます。「1人でサッカーをやらずに、1+1を3にしようとか、そういった"繋がり"をしっかりと持ってやりたいね」と選手たちを後半のピッチへ送り出した平野監督の名言ズバリ。履正社が"らしい"アタックで、とうとう秋田商業ゴールをこじ開けました。
続いていた集中力をわずかに上回るゴラッソで、1点のビハインドを負った秋田商業。47分には安田海斗がエリア内まで切れ込み、果敢にシュートまで持ち込みますが、安田拡斗の体を張ったブロックに遭うと、以降は再び追加点を狙う履正社のラッシュ。48分には右サイドを切り裂いた瀧本のドリブルシュートは、鎌田が足でビッグセーブ。49分にも牧野のパスから、宮原が左足で狙ったミドルはわずかに枠の右へ。少し膠着した時間を経て、59分のチャンスも履正社。松岡、瀧本と細かく回し、林の右クロスを牧野が落とすと、宮原は打ち切れなかったものの、"繋がり"十分な攻撃を披露。60分には平野監督も宮原と岡田裕希(3年・セレッソ大阪西U-15)を入れ替え、前線の機動力を一層高めに掛かります。
ところが、62分に鎌田監督も青山と船川琢之介(2年・秋田泉中)を入れ替え、前線の再構成に着手すると、その1分後には秋田商業にビッグチャンス。ゴール右寄り、30m強の位置からクロス気味に狙った山本のFKがグングン伸びて履正社ゴールを強襲。GKの安川魁(2年・藤井寺中)が間一髪で弾きだしたものの、直後のCKも決定機に直結。山本が左から入れたCKのこぼれを、岩澤がダイレクトで狙ったボレーはわずかに枠の上へ消えるも、「ウチには速くてスタミナのある子がいる。それはそれで子供たちの特徴」と鎌田監督も触れた"秋商"が、ここから発揮し始めた本来の姿。
70分には佐々木の右CKが履正社ゴール前を襲い、DFが辛うじてクリア。72分には履正社も林が右へ付け、3分前に投入されたばかりの菅原大空(1年・大阪東淀川FC)が絶妙のトラップで抜け出すも、1対1は鬼神と化した鎌田が気迫のファインセーブで阻止。77分は秋田商業。鎌田のロングキックを岩澤が繋ぎ、混戦の中から小玉裕翔(2年・エスポルチ秋田FC)が放ったシュートはDFにブロックされましたが、「秋商はメッチャ走るんでちょっと怖かった」と林も振り返った通り、"メッチャ走る"秋田商業の執念に覆われる等々力のピッチ。
80分は秋田商業に絶好の同点機。佐々木の左クロスを小玉が気持ちで繋ぎ、ルーズボールをかっさらった荒木竜也(3年・仙台FC JY)は右からカットインしながら左足を振り抜くと、ゴールへ向かった鋭い軌道はわずかにクロスバーの上へ。その軌道を見届けると、思わずのけぞった鎌田監督。いよいよ試合はアディショナルタイムの攻防へ。
「相手も人数を掛けていた分、後ろが少なくなっていたのでそこは狙っていました」(林)と、1年生も状況を的確に見極められる履正社のしたたかさ。ピンチを凌いだ直後の80分、岡田が左サイドをドリブルで駆け上がり、冷静に中へ。ボールを受けた菅原は、ワントラップで自らのレンジにボールを収めると、ゴール右スミを的確に射抜く完璧なコントロールショット。「若干迷いはあったが、トレーニングマッチの中でも良く点を取っていたので、瀧本が疲れたらトライしてみようと思って出した」いう平野監督の期待に応える1年生のゴールでトドメを刺した履正社が、粘る秋田商業を振り切って全国初勝利を掴み取る結果となりました。
粘り強い守備で堅牢を築き、終盤には意地の猛攻を見せながら、惜しくも初戦敗退となった秋田商業。「私としてはもっと行けたはずなんですが」とは鎌田監督ですが、その実力は間違いなく全国の舞台でも通用していたと思います。近年は秋田の中でも人材が各校へ分散する傾向もある中で、「秋商はイメージ的に厳しいとか坊主頭だとかあるんですけど、ウチでやりたいという子は必ずいるので、そういう子を大事にしたい。ウチに来て伸びてくれればいいなと思っている」ときっぱり言い切った鎌田監督。名門復活へ。その狼煙はこの等々力から確実に上がったのではないでしょうか。
「高校サッカーって何かあるかもしれないし、なかなか思い通りに行かないこともある」と平野監督も想定していた難しい初戦を勝ち切り、念願の全国1勝を手に入れた履正社。印象的だったのはスタメンに名を連ねた3人の1年生が、非常に伸び伸びとプレーしていたこと。これに関しては「上級生が上下関係なくやれるような環境を創ってくれているので、後輩はそれに甘えて遠慮なくやらせてもらっている」(安田)「試合に出ていない上級生も、みんなでやろうという雰囲気がある」(林)と2人が声を揃えたように、人の"繋がり"がもたらす雰囲気が影響しているようです。「全国で3年生と笑ってサッカーできるなんて何チームもないでしょ」と嬉しそうに語った平野監督。その"何チーム"の中から、履正社が最後の4チームまで上り詰める可能性は決して低くなさそうです。 土屋
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