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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
改修前の聖地で行われる最後のファイナルは、リーグ戦の2位と1位が激突する正真正銘の最強決定戦。元旦決戦の舞台は、言うまでもなく国立霞ヶ丘競技場です。
数字で考えれば2位という素晴らしい結果を残しましたが、その失ったものの大きさを考えると、悔しさだけが残るリーグ戦となってしまった横浜FM。「リーグを意識しながらベスト8までは戦ってきた」(中村俊輔)天皇杯も、リーグ戦終了後に行われた大分戦と鳥栖戦をしっかり勝ち切り、前身の日産時代以来となる21年ぶりの決勝に進出。等々力で涙を流したウルトラレフティにカップを掲げさせたい一戦です。
一度は優勝戦線から脱落したように見えながら、最後の2試合をしっかり勝ち切った対価として、リーグ連覇という偉業を達成することとなった広島。昨年は地域リーグ所属のFC今治相手に不覚を取った天皇杯も、今年は甲府、FC東京と続いた120分プラスPK戦を粘り強くモノにしてこの決勝へ。サンフレッチェにその名前が改称されてから、国立で行われたカップファイナルはナビスコも含めて5戦5敗という"シルバーコレクター"の称号を返上すべく、6度目の正直に挑みます。ホームゴール裏に踊った文字は"2014 横浜の年に"。アウェイゴール裏を染める紫に浮かび上がったのは白い文字の"広島"。スタンドが46569人の大観衆で埋め尽くされる中、広島のキックオフで2014年最初のタイトルマッチが幕を開けました。
序盤の数分を経て、明確になった構図は「思っていたより横浜FMの勢いが我々より勝っていた。そこで受け身になった」と森保一監督も話したように、攻める横浜と守る広島。中村俊輔を軸にボールを横浜が回し、石原直樹と高萩洋次郎もワイドのスペースを埋める形で、GKも含めた10枚のブロックを築いた広島。7分にはドゥトラ、端戸仁、中町公祐とボールを回し、中村が強引に右足で狙ったミドルはクロスバーの遥か上へ。9分には中町、小林祐三、端戸と繋ぐも、小林はクロスを上げ切れず。ほとんど動きのない時間が続きます。
そんな中でも、この2シーンにしっかり顔を出していたように、1トップに入った端戸は「調子のバロメーターがボールタッチなので、ファーストプレーだけは大事にしようと思っていた」というファーストタッチに成功すると、バイタルへするする降りて、相手の間、間でボールを受ける持ち味をしっかり発揮。「自分に回ってきた今シーズン最初で最後のチャンス」という覚悟を、ワンプレーワンプレーに滲ませます。
変わらないリズムの破調は17分。おそらくチームで"2番目"に仕掛ける意識の高い小林は、「強引に行き過ぎた所もあった」と振り返るドリブルでエリア内へ侵入。DFともつれたボールを「こぼれてくるかなくらいに思っていたら来た」という端戸が拾って繋ぎ、兵藤慎剛が中へ入れると、エリア外からフリーで右足を振り抜いた齋藤のシュートは、ゴール左スミへ転がり込みます。端戸と齋藤というマリノスのDNAを体に刻み込む2人が絡んだ格好で、横浜が1点のリードを奪いました。
きっちり作っていたはずのブロックに穴を開けられ、ビハインドを背負った広島も19分にファーストシュート。青山敏弘のフィードへ走り込んだ石原直樹は、浮き球にも躊躇なくバウンドを合わせたボレーを敢行。横浜のGK榎本哲也がわずかに触ったボールは右のポストを直撃するも、シンプルなアタックの脅威を横浜守備陣に突き付けます。
ところが、次の得点もトリコロールに。21分に齋藤が左サイドで奪ったCK。中村が蹴り込んだボールを、ニアへ飛び込んだ中町は頭でジャストミートさせて枠内へ。広島のGK西川周作も必死にはたき落としましたが、ここに詰めていたのは中澤。頭で押し込んだボールは、広島サポーターの目の前にあったゴールネットを揺らします。準決勝の前半には1本もなかったCKでしたが、やはり獲得すればチームにとってはフィフティに近い確率でゴールを計算できる絶対的な武器。ウルトラレフティとボンバーがその"格"を見せ付け、あっという間に点差は2点に開きました。
さて、森保監督は「とにかくアグレッシブに試合に集中して入っていこうと伝えた」ものの、ボールを支配される展開の中で早くも2点を失ってしまった広島。25分には高萩が右へスルーパスを通し、ミキッチが上げたクロスは佐藤寿人へ届かず。30分には高萩が右からショートコーナーを試みるも、味方との連携が合わずにボールロスト。32分にも青山が右へ振り分け、ミキッチが強いボールで蹴り込んだクロスは榎本が弾き、こぼれに反応した佐藤寿人のシュートも榎本がしっかりセーブ。「先に取られてしまうと相手もリスクをかけなくていいので、守備に比重を掛ける割合も多かったと思う」と佐藤寿人が話したように、ポゼッション率は反転の一歩手前ぐらいまでは持ち直したものの、栗原勇蔵と中澤を中心に立ちはだかる横浜守備陣の安定感。
40分の決定機も横浜。中村を起点に中町がスルーパス。斜めの動きからエリア内へ侵入した兵藤のシュートはわずかに枠の右へ逸れましたが、あわや3点目というシーンに沸き上がる横浜サポーター。45+2分も横浜。中村が右へ振り分け、小林のクロスを齋藤が頭で合わせたシュートは枠の左へ。「立ち上がりからいい形で押し込んで、ボールを前で奪えて、更にゴールも奪えた」と樋口監督が振り返った前半は、横浜が2点のアドバンテージを握ってハーフタイムへ入りました。
後半開始から動いたのは森保監督。左WBのファン・ソッコを下げて、同じ位置に清水航平を投入。「横浜が数的優位を作ってくる所で、うまくハマらなかった」サイドへのてこ入れに着手すると、47分には高萩が蹴った左CKの流れから、青山が右クロス。ファーへ流れたボールは高萩がグラウンダーで折り返し、ここは中央と合いませんでしたが、51分には決定的なチャンス。塩谷司を起点にして、高萩が中へ浮かせたボールを佐藤は丁寧に頭で落とし、フォローに入った石原が至近距離から左足で狙ったシュートは、しかしわずかにボール数個分だけ枠の右へ。絶好の追撃弾機を逃してしまいます。
こうなると「リスクを最小限に抑えながら攻めた」(中村)横浜に再び傾いていくゲームリズム。57分には青山からボールを奪った富澤清太郎を始点にカウンター発動。端戸が右へ回したボールを、そのまま駆け上がった富澤は枠内シュート。西川も何とか防いだとはいえ、横浜からすれば申し分のないアタック。直後の右CKも中村がボールを右ポストに直撃させるなど、効果的な手数で虎視眈々と狙うのはトドメの一撃。
63分には今日の広島を象徴するシーンが。塩谷が素晴らしいインターセプトでかっさらったカウンター。高萩は左へ回し、駆け上がった青山は再び中へ。塩谷を経由したボールは佐藤が打ち切れず、拾った中澤に塩谷が足を引っ掛けてオフェンスファウルを取られてしまい、絶好のチャンスの芽もフィニッシュまで持ち込めず。この日は珍しく青山と高萩の2人にパスミスやボールロストが目立ち、チーム全体としても前へのテンポアップを遂行できません。
65分は横浜。榎本のロングキックを齋藤が競り合ってキープ。中村が短く出したボールを、ドゥトラは枠の上へ外れるミドルにトライ。70分も横浜。齋藤が巧みに奪った左CK。中村が得意の左足で放り込み、こぼれを中澤が打ち切ったボレーはクロスバーの上に消えましたが、複数人の選手が口にした「ウチにとって良い展開」で進めていくゲーム。消し去るべき残り時間はあと20分。
71分には高い位置でボールを奪ったミキッチがやや強引に放った左足ミドルも、富澤に当たって榎本にキャッチされ、77分に佐藤、石原と繋いだボールから清水が上げたクロスもあえなくゴールラインを割ると、「違うシステムにすることで選手の連携が滞るよりも、同じシステムの中で前線のフレッシュな選手を入れた方が今日はいいのかと思って」森保監督が下した最後の決断は2枚替え。佐藤と高萩の2枚看板を下げて、野津田岳人と浅野拓磨をピッチへ。広島の命運は準決勝のPK戦でも堂々と決め切った2人のルーキーに託されました。
それでも上がらないリーグ王者のギア。80分には森﨑和幸の信じられないパスミスから、最後は西川が止めたものの齋藤のドリブルシュートを招くと、同じく80分にはカウンターからミキッチがカットインしながら放ったシュートは、榎本ががっちりキャッチ。88分にはせっかく掴んだ相手陣内深い位置でのFKも、イエローカードを狙ったのか、スポット近くに立っていた相手に当てたミキッチのキックに西村雄一主審のホイッスルは鳴らず。絶好のチャンスをみすみす放棄してしまいます。
焦る広島を尻目に揺るがない横浜守備陣の牙城。栗原と中澤は危なげなく最後尾に君臨し、ドゥトラはミキッチのクロスもほとんどシャットアウト。樋口監督も84分には齋藤と奈良輪雄太を、88分には「真ん中でプレーしたいというのはシーズン通して思ってきましたし、使われない悔しさは1年間持ち続けてきた」という奮闘した端戸と佐藤優平をそれぞれスイッチする、万全を期した交替策で静かに待ち受ける歓喜の瞬間。
89分は広島。水本裕貴、石原と懸命に繋ぎ、野津田がトライしたボレーは枠の左へ。90+5分、野津田が蹴った左CKのこぼれ球を清水がボレーで中へ放り、反応した浅野のヘディングは枠内を急襲するも、榎本が驚異的な反応で触ると、その榎本がさらにもう一度掻き出し、最後は中町が決死のクリア。横浜が固く掛けたゴールの鍵は、広島の執念をもってしてもこじ開けられず。96分19秒、最後の元旦国立に鳴り響いた試合終了のホイッスル。「"終わり良ければすべて良し"じゃないけれど、現実に優勝できたのでそれはサポーターに捧げたい」と話した中村が聖地の表彰台で掲げた聖杯。明けて2014年。ワールドカップイヤーの年初に戴冠を果たしたのは、間違いなく2013年のJリーグで最も輝いたウルトラレフティをキャプテンに頂く、ハマのトリコロールでした。 土屋
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