最近のエントリー
カテゴリー
アーカイブ
このブログについて
J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
東京Tリーグ2013の大トリを飾るのは、なかなか実現しそうでしなかった公式戦での対峙。選手権東京王者と街クラブの雄がT1の座を争うラストマッチ。舞台は引き続き大井第二です。
連覇を期待された選手権予選では、準決勝で東海大菅生をPK戦で振り切ると、決勝では成立学園相手に一旦2点のリードを引っ繰り返されましたが、後半終了間際の奇跡的な同点ゴールで息を吹き返し、延長が終わると勝っていたのは修徳。ここ2年における東京のトーナメントでは無類の強さを誇ったチームも、リーグ戦は7位でフィニッシュ。直前までこのゲームを戦うかどうかが流動的だったこともあって、「このメンバーで行こうと決めていた」と岩本慎二郎監督の話したメンバーは、選手権での出場機会獲得に燃える選手たちです。
今年はその実力を各方面から高く評価されながら、ここまで目立った実績は挙げられず、最後の一戦を迎えることになったFCトリプレッタユース。先月の3位・4位決定戦では東京実業を5-1と粉砕して、この入替戦へ。「クラブユースとJユースカップでは全国に出たかったけど出られなかったので、本当にこの大会に懸ける想いはみんな強かった」と話したのはCBの割田大遥(3年・FCトリプレッタJY)。ジュニアとジュニアユースも含めた大応援団が自主的に駆け付ける中、スタメンに8人が名前を連ねた3年生は、後輩たちに最後の雄姿を刻み込ませるための90分間に臨みます。期せずしてトリプレッタ応援団から聞こえてきたのは中島みゆきの「ファイト」を独唱する声。戦うヤツの歌がピッチに響き渡り、修徳のキックオフで正真正銘のラストマッチは幕を開けました。
2分にトリプレッタは左から割田が、6分に修徳は山崎利貴(3年・ヴェルディSS相模原)がやはり左から、お互いにFKを蹴り込み、共にDFのクリアに遭った所からスタートしたゲームは、静かな立ち上がり。9分にはトリプレッタも、氏橋寛(2年・三菱養和調布)の右FKを大久保広一(3年・FCトリプレッタJY)が繋ぎ、名幸龍平(2年・杉並アヤックス)がシュートを放つもDFがブロック。基本はトリプレッタがボールを持つものの、「硬さがあったからプレッシャーがきつい分、判断ができなくて逃げちゃうプレーが多かった」と米原隆幸監督も振り返った通り、スムーズに崩すような形は出てきません。
逆にいわゆる"Bチーム"的なメンバー構成となった修徳は、「たぶんプレッシャーにしっかり行けば、相手も繋げないとは思っていた」と岩本監督も話したように、室橋周平(3年・柏ラッセル)と沖山正信(3年・板橋志村第四中)で組んだドイスボランチのプレスも速く、バイタルへの侵入はこの2人に加え、大野翔平(3年・クリアージュ)と栃木俊二(3年・ジェファFC)のCBコンビも強烈に監視。トリプレッタのパスワークをブチブチと寸断していきます。
26分は修徳。ミドルレンジから室橋が枠へ収めたボレーは、トリプレッタのGK久保田泰一郎(3年・成蹊高)がしっかりキャッチ。31分も修徳。右から山崎が蹴ったFKはゴールに混戦を生み出すも、割田が何とかクリア。36分はトリプレッタ。ゴール左、約25mの位置から大久保が直接狙ったFKはカベを直撃。37分もトリプレッタ。割田が左から入れたFKに、CFの村川薫平(3年・FCトリプレッタJY)が合わせたヘディングは枠の右へ。「お互いにセットプレーしか得点は入らないかなと思っていた」とは岩本監督。流れの中からは双方繰り出せない手数。
40分のセットプレーは修徳。山崎の右CKへ、ニアに飛び込んだ大野のヘディングは枠の右へ。45+1分のセットプレーはトリプレッタ。大久保が短く出したのは「練習していたトリックが効いた」(割田)ショートコーナー。宮澤俊太朗(2年・FCトリプレッタJY)が戻して大久保が繋ぐと、中嶋脩人(3年・FCトリプレッタJY)はショートコーナーを返した宮澤に縦パスをグサリ。エリア内へ潜っていた宮澤のシュートは修徳のGK伊原悠人(3年・ヴェルディSSレスチ)がファインセーブで回避したものの、修徳からすれば間一髪の危機。
45+2分に修徳も佐藤知斗(3年・板橋志村第四中)のパスでエリア内へ雪江悠人(2年・三郷ジュニア)が侵入するも、ここは抜群の危機回避能力を有するトリプレッタのボランチ佐藤健太(3年・ジェファFC)がタックルで阻止。「大きなミスはなかったから我慢だったかなと。かなり我慢したけどね」と笑ったのは米原監督。スコアに動きはないまま、最初の45分間は終了しました。
後半のファーストシュートは修徳。50分、「勤勉であまり波がない選手」と岩本監督も評価を口にするSHの藤本優斗(3年・ジェファFC)が左サイドからカットインしながら、そのまま枠へ飛ばしたシュートは久保田がキャッチ。53分も修徳。右SBの田原迫隼人(2年・Forza'02)がアーリークロスを送り込むも、中とは合わず。54分も修徳。山崎の右CKはDFにクリアされましたが、勢いは東京の常勝軍団か。
「あそこは1つ進化した形なのかな」と米原監督も振り返ったのは57分の歓喜。中嶋が右サイドで獲得したCK。大久保がここもショートで出した流れから、宮澤を経由したボールを佐藤健太はアーリー気味に中へ。ゴールまで少し距離のある落下点に走り込んだ村川は、それでも果敢にヘディングへチャレンジ。枠に向かったボールへ修徳のDFも殺到しましたが、掻き出し切れなかった球体は、ゴールラインを割ってネットへ転がり込みます。「今までだったらあんな所は絶対に強引に打ちに行かない」と米原監督も話したシーンは、オウンゴールという公式記録になりましたが、9割9分は9番を託されたストライカーのゴール。トリプレッタが1点のリードを奪いました。
このゴールで蘇った"トリプらしさ"。58分、村川、名幸と回したボールを宮澤が狙ったミドルは枠の右へ。64分、割田が右から蹴ったFKに、飛び込んだ左SBの眞壁亮太(3年・FCトリプレッタJY)はわずかに届かず。65分、宮澤が左へ鋭いパスを通し、迫力あるオーバーラップから眞壁が上げたクロスはファーサイドまで。フリーで合わせた大久保のヘディングは伊原がファインセーブで防ぎ、宮澤のボレーも枠の上へ外れたとはいえ、「ウチはシュン(宮澤)にボールが入った時はスイッチが入るから」と指揮官も言及したように、3トップ下の宮澤にボールが集まり出したトリプレッタが主導権を握り始めます。
相手に傾き出した流れを見て、動いたのは岩本監督。66分には佐藤知斗に替えて、選手権予選ファイナルでチームを全国へと導く決勝ゴールを挙げた関秀太(3年・スクデット)を、70分には室橋に替えて、「あまり後ろをいじるよりも前で取って攻めた方がいいという判断」からCB起用の多い渡邊黎生(3年・LARGO FC)をボランチに相次いで送り込み、1点を追い掛ける勝負に打って出ます。
それでも流れを渡さないブルーのサッカー小僧たち。71分もトリプレッタ。割田が右から蹴ったFKに、飛び込んだ大久保のヘディングはクロスバーの上へ。75分には修徳も小野寺湧紀(2年・荒川第五中)を3枚目のカードとして送り込むも、77分の決定機もトリプレッタ。大久保のショートコーナーを、宮澤は縦にグサリ。受けた大久保のシュートはクロスバーにヒットしましたが、そもそも1点を守り切る気持ちなど毛頭ありません。ただ、「早く2点目を取って俺を出して欲しいなと思っていた」という男がベンチに1人。
84分に名幸に替わって奥秋瑠比(3年・大宮アルディージャユース)が大きな拍手と共にピッチへ送り出されると、その男の登場は89分。「アップしているのは見えていたので、声が掛かったらすぐに巻きに行こうと思っていた」という割田がピッチサイドまで走り寄り、腕から外したキャプテンマークを巻いたのは沼地祐斉(3年・FCトリプレッタJY)。東京実業戦の前に無念の負傷離脱。仲間が引退試合を1ヶ月伸ばしてくれたことに感謝した本来のキャプテンが、とうとうピッチに帰ってきました。
90+2分、右サイドでボールを持ったのは沼地。「スピードが持ち味じゃないのでどうしようかと思ったけど、とりあえず仕掛けて、あとは何とかなれと思って」運んだボールは、少なくなった時間をさらに潰すのには十分なワンプレー。目の前のキャプテンに沸き上がる大応援団。夢の実現は、ずなわち引退へのカウントダウン。90+3分には田山真吾(3年・FCトリプレッタJY)と佐藤大貴(3年・大森FC)が続けて送り込まれ、これでフィールドプレーヤーの3年生は全員がピッチへ。
「嬉しいというよりは引退かなという感じで涙が出てきた」と割田。「終わった瞬間だけウルッと来たけどね」と笑った米原監督。大井の夕闇に鳴り響いたホイッスルは、新たな門出を祝うファンファーレ。「俺がチームを創っている中で、"ファミリー"という言葉をずっと使い続けていて、彼らにも『下の学年を面倒見ろ』『上のヤツらと関われ』とやってきている中で、今日も小さい子が自主的にたくさん応援に来てくれた。そういう所も含めて、1つ街クラブの形じゃないけど、みんなが目指してくれるようなクラブになりつつあるかなという感触はあるよね」と米原監督が話した"トリプファミリー"の結実。トリプレッタが念願のT1昇格を全員でもぎ取る結果となりました。
「もっと落ちるかと思ったけど、彼らもプライドがあるから予想以上に強かった」と敵将も認めたように、T1の、そして選手権出場校の意地はしっかり見せた修徳。ただ、特に来年をT2で戦うことになった2年生の選手が泣いていたのが印象的でした。試合後、選手全員を集めて行った少し長めのミーティングを問うと、「『お前らが東京都で優勝したとしても、強いから勝つとは限らない。逆に言えば選手権がそうだぞ。強い者が勝つんだったら、正月は休むものだから家でモチ食ってた方がいいだろう。強い者が勝つかわからないことが証明されたから、おまえらにもチャンスは凄くあるはずだ』と話しました」と岩本監督。マイナスの状況もプラスに変える指揮官の強気と優しさ。選手権の修徳には間違いなく期待して良さそうです。
数回のチャレンジを経て、とうとう念願のトップディビジョンに辿り着いたトリプレッタ。とにかく試合前も試合後も、何から何まで楽しそうな雰囲気はなかなか真似できるものではないでしょう。そのことを聞くと「外から入ってきたヤツもどんどん自分たちでそういう色に染めていくので、結局そういうヤツらになっちゃうという感じ。みんなでそうしちゃうんですよ」と沼地。「ちょっと羽目外し過ぎちゃう所はあるけどね」と苦笑したのは米原監督ですが、その染めていく感じが唯一無二の"らしさ"に繋がっているのだなあと改めて感じました。ピッチになだれ込んだ"ファミリー"が、ひとしきり騒いだ後に向かったのは米原監督の元。「なんか恥ずかしいけど(笑)、『なんかこの人』っていうのがないと胴上げなんてやってくれないと思うし、種を蒔いて水と肥料を与えて、最後は花を咲かせて散らずにこのまま行く訳だから、そういう子供たちの成長に関われたのは凄く嬉しい」と満面の笑顔で語った指揮官が、スタッフが、そして沼地がピッチの上で宙を舞い、"ファミリー"が奏でる歓喜の歌声は、激闘を見守り続けた夜空にいつまでも轟いていました。 土屋
J SPORTS フットボール公式Twitterをフォローしてフットボールの最新情報をチェック!