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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2013年12月30日

高校選手権開幕戦 熊本国府×國學院久我山@国立

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kokuritsu1230.jpg約束の地へ帰ってきた、頂を目指す"13 久我山"の大航海。全国的な名門の大津をPK戦で下して、勇躍全国へと乗り込んできた熊本国府とのオープニングマッチは日本サッカーの聖地・国立霞ヶ丘競技場です。
渡辺夏彦(3年・FCトリプレッタJY)、富樫佑太(3年・ジェファFC)、平野佑一(3年・東京ヴェルディJY)の"1年生トリオ"が国立のスタンドを沸かせたのは2年前。昨年は夏も冬も都予選で敗退する結果となりましたが、雌伏の時を経て、今年のインターハイでは全国16強へ。「今年1年本当にもう1回あの舞台でやりたいと思っていた」(富樫)選手権の出場権も堂々と獲得し、唯一の目標はキャプテンの渡辺が「みんなに共通イメージができるように、あえて言っている」"日本一"です。
大津とルーテル学院という、熊本高校サッカー界に君臨する2強の前に、長きに渡って全国への道を閉ざされ続けてきた熊本国府。ところが、県予選準決勝で今回も絶対的本命と目されていた大津をPK戦の末に倒してファイナルへ。そこでも逆の山でルーテル学院に競り勝ってきた伏兵の鎮西を2-0で下し、15年ぶりの全国切符を獲得。目指すは初出場の前回出場時に達成したベスト8超え。すなわち国立への帰還です。綺麗な冬の青空が広がった聖地には、17954人の大観衆が。高校サッカーを志すものなら誰もが憧れ、目指した国立のピッチに散った22人の選ばれし精鋭。注目の一戦は熊本国府のキックオフでスタートしました。
先にシュートを記録したのは久我山。2分、相手CKをクリアした所からカウンター発動。渡辺、富樫と回し、飯原健斗(2年・横浜FC JY)が中へ戻したパスを、平野は40mロングにチャレンジ。ボールは枠を超えましたが、その視野の広さにスタンドがどよめくと、5分には早速決定機。右SBの鴻巣良真(2年・ジェファFC)が付けた浮き球を、胸トラップで収めた富樫はそのままドリブルで運んでフィニッシュ。わずかに熊本国府のGK小野公治(3年・ブレイズ熊本)が触ったボールは左ポストに弾かれ、詰めた松村遼(3年・國學院久我山中)も押し込めなかったものの、10番を背負う富樫がそのセンスを国立の舞台で発揮して見せます。
7分も久我山。平野が右へ大きくサイドを変えたボールは飯原まで届き、富樫が枠へきっちりシュートを飛ばすと、ここも小野がファインセーブで掻き出しましたが、「ポストに当たったシュートでスイッチが入った」と話したのは小野。この入った"スイッチ"が、以降の久我山を苦しめていくことになります。
14分も流れる久我山のアタック。小田寛貴(3年・ジェファFC)、富樫、渡辺とスムーズなパス交換から、最後は富樫まで付け切れなかったものの、"らしさ"を存分に体現。18分には熊本国府も川上康平(2年・ソレッソ熊本)がチームファーストシュートとなるミドルを枠の上へ打ち込むも、ゲームリズムは変わらず。19分の久我山。富樫がDFに果敢なプレスを仕掛けてボールを取り切り、飯原が狙ったミドルは枠の左へ。23分も久我山の決定機。鴻巣のパスを渡辺が縦に入れると、富樫は華麗にヒールでラストパス。走り込んだ鴻巣のシュートはわずかにゴール左へ外れるも、「自分たちのいつもの戦い方で戦えた」とは渡辺。押し込み続ける久我山。
先制点は唐突に。27分、ボランチの中島一希(3年・ロサリオフットボールアカデミー)を起点にしたカウンター。右サイドでボールを持った山口慶希(2年・太陽SC熊本玉名)は、「ダイレクトでシュートを打つのが得意」と自ら分析していた川上康平(2年・ソレッソ熊本)へピンポイントクロス。川上が予想通りのダイレクトボレーを敢行すると、そのボールをニアでプッシュしたのは大槻健太(3年・八代第一中)。「早くゴールを入れて、DF陣に余裕を持たせてあげたかった」と語る11番が聖地で大仕事。ワンチャンスを確実に成果へ繋げた熊本国府が、1点のアドバンテージを手にしました。
さて、最初のピンチでビハインドを負ってしまった久我山は、「ボールは回せるけど、侵入した所でブロックが堅くてテンポ良く侵入できなかった」と渡辺が話したように、ボールはいつも通りに回り、CBの内藤健太(2年・Forza'02)が蹴り込むフィードも冴え渡るものの、そこからなかなかフィニッシュへのイメージをチームで共有できず、どうしても単発での仕掛けが目立ち始めます。31分には熊本国府も1本のフィードを大槻が収め、そのまま持ち込んだシュートは内藤がブロック。33分には久我山も高い位置で渡辺がボールを奪い、受けた富樫のシュートは小野がファインセーブで回避。「ずっとこっちが攻めていた」と渡辺も話した久我山ペースの前半は、しかし熊本国府が1点をリードしてハーフタイムへ入りました。
「生徒の本音は『非常に上手いし速い』と。1対1では負ける可能性があるから、後半は1対1の局面を2対1にして、かわされても次のプレイヤーがしっかりカバーするといった部分や、チームで戦おうという所を徹底した」と話したのはリードしている熊本国府の指揮官・佐藤光治監督。スコア的には100点満点に近い出来も、押し込まれる時間の長い展開が予想される中で、まずは守備面でのポイントを強調し直します。
41分は久我山。左SBの加藤寿弥(3年・FC東京U-15深川)、小田と回り、富樫の放った後半ファーストシュートはクロスバーの上へ。45分も久我山。渡辺のクサビに、DFを背負いながら反転した富樫のシュートは小野がキャッチ。47分も久我山。短いパス交換から小田がエリア内で倒れるも、榎本一慶主審はノーホイッスル。51分も久我山。富樫のパスから平野がトライしたミドルはクロスバーの上へ。「後半も必ずビッグチャンスが何度も来るだろうということで、焦りはそんなになかったし、じっくりやっていこうと話していた」と渡辺。ぶつけ合う久我山の"矛"と熊本国府の"盾"。
53分に久我山へ訪れた絶好の同点機。ここまで対面の殿島圭悟(3年・ブレイズ熊本)にほぼ完璧に封じられていた松村が、ここは左サイドをえぐって中へ。ファーまで通り抜けたボールは渡辺まで届くも、ワントラップから素早く打ったシュートは小野が足でブッグセーブ。「小野のファインセーブは非常に大きかった」と佐藤監督も賞賛した守護神の仁王立ち。"1"と"0"が刻み込まれたスコアボードの数字は変わりません。
54分も久我山。松村の外側を回った加藤が中へ戻し、「僕が点を取ってこないといけないという想いが強過ぎたかなと思う」という富樫のこの日5本目となるシュートはクロスバーの上へ。58分も久我山。小田、渡辺、松村と細かく繋ぎ、上がってきた加藤のクロスは中と合わず。「今年はゴール前という部分が勝ち上がっていく上で大事だということで、結構ゴール前のディフェンスのトレーニングは多かった」と佐藤監督が話し、「シュートブロックの練習もやってきたし、何回かシュートを体に当てて外に飛ばすことができた」とキャプテンのCB西村大吾(3年・ブレイズ熊本)も同調した通り、その西村と太田黒嶺(3年・ブレイズ熊本)のCBコンビを中心に、"守る"部分の揺るがない熊本国府の堅牢。
62分には李済華監督も1人目の交替を決断。小田に替えて、インターハイ予選では全国を決めるゴールをマークした萩原優一(3年・横河武蔵野FC JY)を投入し、中盤の運動量を上げに掛かるも、65分には山口の左クロスから大槻がフィニッシュを取り切り、ここは久我山のGK仲間琳星(2年・ジェファFC)が何とか阻止したものの、15分近くシュートがない状況を見て、李監督は68分には3トップの右に入っていた飯原と久竹陸(3年・FC多摩)もスイッチ。ラスト10分間の勝負に出ます。
背負った10番の証明。70分、前掛かっていた鴻巣のパスを受けて、渡辺は目の前の密集をものともせず右へラストパス。抜け出した富樫はかなり角度がなくなったにも関わらず、「あそこの角度ではニアハイも狙うというのは意識していた」というその"ニアハイ"へズドン。狭い空間を射抜いたボールは、ゴールネットへ激しく突き刺さります。「このチームでCFを任されている限りは、必ず1点取ってこないといけない」という決意で今大会に臨んだストライカーのゴラッソ。スコアは振り出しに引き戻されました。
スタジアムも後押しする久我山のラッシュ。73分、久竹のパスから渡辺がエリア内まで運び、DFとの接触で転倒しかけ、粘って粘って最後はゴールラインを割ったものの、スマートなキャプテンが見せた勝利への執念。76分、松村の左CKを花房が頭で折り返すも、中央には誰も入れず。79分、カウンターから富樫が左へ展開し、加藤がエリア内から折り返したボールはこぼれ、萩原のシュートはクロスバーを越えたものの、国立に漂い始める逆転への予感。
80+1分は久我山の決定的なシーン。鴻巣のパスを引き出した平野は、ミドルレンジから果敢な弾丸シュート。ボールは枠を捉え、逆転ゴールかと思われた瞬間、ワンハンドで叩き落したのはやはり小野。「あそこで流れができたかもしれない」と自ら振り返ったビッグプレーは、そのまま熊本国府のカウンターへ。右サイドでボールを持った倉原弦岐(2年・ソレッソ熊本)がクロスを放り込むと、GKとDFが待ち受けていた空間に、突如として突っ込んできたのは「笛が鳴るまでワンチャンスを狙っていたし、PK戦のことはまったく考えていなかった」大槻。スローモーションのような場面に、スタジアムにいた誰もが息を呑んだ1秒後、球体によって揺らされていたゴールネット。「いつも自分が決めると思って試合に入っている」という小柄なストライカーが記録したこの日2ゴール目は、チームを勝利へ導く決勝弾。「県大会からずっとこういう形で勝ってきた」(佐藤監督)熊本国府が、今大会の先陣を切る勝ち鬨を国立のピッチで上げる結果となりました。
「決め切る所で決め切れなかった所に尽きる」と渡辺が明確に敗因を口にした久我山。得点以外に少なく見積もっても5回以上はあった決定機を生かせなかった代償は、後半アディショナルタイムに決勝点を奪われての敗戦という、非常に悔しい結果になってしまいました。試合後はほとんどの選手がその場から立ち上がることができませんでしたが、それでも1年間という時間を掛けて創り上げてきた"13 久我山"の片鱗を、「独特の雰囲気があるし、その中でできたのは楽しかったし、見る景色も素晴らしかった」と渡辺が表現した国立の舞台で披露してくれたのも間違いない所。最後の最後まで久我山スタイルを貫いた彼らにも、惜しみない拍手を贈りたいと思います。
「あそこまで守り切れるという部分に関しては非常に良かったと思う」と佐藤監督も話した熊本国府。「ディフェンスに関しては自信があった」と西村が話せば、「いつもウチは押されていても失点は全然しないので、安心して見ていた」と大槻。"想定内"という展開を、焦ることなくやり過ごしていく冷静さが印象的でした。「サッカーで言えばカッコ悪いサッカーだと思うんですよね。でも、選手たちがそのカッコ悪い部分を自分たちの良さだと思ってやってくれました」と教え子を労った佐藤監督。"カッコ悪い"部分を突き詰めた先に待っていたものは、国立での劇的な勝利という最高に"カッコ良い"対価でした。           土屋

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