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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

スタッフブログ 2013年12月12日

あの日の浜川を忘れない。

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今日、関西サッカーリーグの公式サイトにて
同リーグ2部に所属するパナソニックエナジー洲本サッカー部の
休部によるリーグ離脱が発表されました。
同サイトにもあるように、パナソニックエナジー洲本サッカー部は
2011年まで三洋電機洲本サッカー部という名前で活動。
2010年にはJFL昇格へあと一歩という所まで迫った強豪でした。
今回は彼らにまつわる想い出をご紹介したいと思います。


三洋電機洲本サッカー部を初めて見たのは3年前の市原臨海。
大会は地域決勝大会決勝ラウンド最終日。
相手はつい先日のJ2・JFL入れ替え戦で
悲願のJリーグ入りを決めたカマタマーレ讃岐でした。


ゲームはJFL昇格を目の前にして
明らかに硬くなっていたカマタマーレを尻目に
結果次第では自動昇格もあり得る三洋電機洲本が
かなり押し気味にゲームを進める展開。
前半にはクロスバーに当たるシュートを繰り出すなど、
カマタマーレの選手、ベンチ、そしてサポーターを
かなり追い詰める所まで躍動していた印象があります。
ただ、結果は「何が何でもJFLへ」という覚悟でこの大会に臨んでいた
カマタマーレが後半に挙げた1点を守り切って勝利。
三洋電機洲本は3位でJFLとの入れ替え戦へ回ることになります。


実はこの時点で関西1部を連覇していた同チームは
前年も地域決勝を経験。
1次ラウンドではヴォルカ鹿児島とツエーゲン金沢という難敵相手に
いずれも7-8という壮絶なPK戦の末に敗れるなど大健闘。
2年連続出場となったこの年の地域決勝でも
ダークホース的な存在ではあったものの、
決して3位という順位がフロックではないような
れっきとした実力派のチームでした。
試合後、三洋電機洲本を率いる稲葉宗久監督の元を訪れると、
非常に柔和な方ではあるものの、1本の強い筋が通っている方という印象で、
色々なことを丁寧にお話して下さいました。


三洋電機自体がパナソニックに買収されることは決まっていた中で、
今後の活動方針に関する質問もお聞きしたのですが、
「我々は詳しいことは聞いていないんです」とのこと。
ただ、「正直に言って運営面など色々あるとは思うんですけど、
自分たちで勝ち取ってJFLを掴もうと話しているんです」と語ってくれた
稲葉監督の優しい笑顔の中に確固たる決意が垣間見え、
素直に「頑張って欲しいなあ」と思えました。
きっと稲葉監督は既にある程度チームの行く末に
待ち受けている未来も受け入れながら、
それでも結果が自分たちの今後を変え得る可能性を
強く信じていらっしゃったんだと思います。


2週間後。群馬県高崎市。浜川競技場。
JFLで17位となったアルテ高崎との入れ替え戦に臨む
三洋電機洲本は寒風吹きすさぶ上州のピッチに立っていました。
ホームで行われた第1戦は0-3の完敗。
最低でも3点が必要になった三洋電機洲本は序盤から猛ラッシュ。
19分にはセットプレーから先制点をもぎ取り、
アグリゲートスコアでも2点差に。
その後も一方的に攻め続け、「もしかしたら」という雰囲気が
満員に近い観衆で埋め尽くされたスタンドに充満します。


ただ、やはりホームで負った3点のビハインドは小さくなく、
必死に攻め続けるもののゴールネットは揺れず。
後半のアディショナルタイムには
アルテが意地のゴールを叩き込み、2戦合計スコアは4-1。
「もうやりたくないよ。胃が痛いもん」と
アルテの後藤義一監督も漏らした入れ替え戦は、
"残留"という2文字が刻まれて終焉を迎えました。


私はどうしても稲葉監督にお話を伺いたかったので、
試合後に室内のアップエリアを探すと、
1人でうなだれている姿が視界に飛び込んできました。
声を掛けようか少し迷いながらゆっくり近付くと、
稲葉監督は気配を察して立ち上がってくれたのですが、
その目にはハッキリと光るものがありました。


試合のことをお聞きすると、
「選手は最後まで頑張ってくれましたけど、少しだけ差があったと思います。
でも、JFLに手が届きそうな戦いができたという意味では嬉しかったですね」と
2週間前と同じ笑顔で語ってくれた稲葉監督。
しかし、「チームの来年以降はどうなるかわからないですけど」と前置きしながら
「来年は34敗してもいいから、アイツらをJFLに連れていってやりたかったです」と
再び涙声で搾り出したその言葉に、
稲葉監督の選手とチームを思う気持ちがすべて凝縮されていて、
何とも言えない感情がこみ上げてきたことは
あれから3年近くが経った今でも鮮明に記憶しています。


2010年の地域決勝大会決勝ラウンドで
三洋電機洲本と戦ったライバルは3チーム。
前述したカマタマーレ讃岐は来年からJ2へ。
2位でJFL昇格を果たしたAC長野パルセイロは今年、同リーグを制覇。
4位で敗退となったY.S.C.C.はその2年後にJFLへ昇格し、
来年からはJ3へと参入します。
そして、入れ替え戦を制して残留を勝ち取ったアルテ高崎はその翌年、
JFLからの退会を希望し、現在は活動を休止しています。


もしかしたら1つの勝利や1つのゴールで
変わっていたかもしれない未来。
それは勝負の世界では常に存在することです。
それでも、あの日の浜川の、アップエリアで耳にした
稲葉監督の言葉は一生忘れることができないと思います。


アルテ高崎と三洋電機洲本。
来シーズンの日本サッカー界には存在しないであろう2チームの激闘。
あの日の浜川には間違いなく、"サッカーが持つ情熱"のすべてがありました。
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土屋

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