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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
上に昇格れるか、昇格れないか。至ってシンプルな2つの結末。J1へと続く180分間の最終章は、日本サッカーの聖地・国立霞ヶ丘競技場です。
西京極で屈辱に打ち震えたあの日から1年。恐れを知らぬ新鋭の勢いに気圧され、耐えて耐えて耐え忍び、約束の地へと駒を進めてきたのはシーズン3位の京都。その志向するスタイルは特異なれども、真摯にサッカーを愛する指揮官の下、4年ぶりとなるトップディビジョンへの帰還だけがただ一つの目標です。
掴み掛けた悲願が掌をすり抜けていったあの日から2年。リーグ屈指のタレント集団に先んじ追い付かれ、最後は9000人を超える援軍と"鉦"の音をも活かし切り、最後の1試合へと勝ち上がってきたのはシーズン4位の徳島。百戦錬磨、機略縦横の指揮官に率いられ、望むのはゴールだけ、勝利だけ。国立に詰め掛けたのは、千駄ヶ谷側の紫と代々木側の青も含めて23266人。2013年シーズンのJリーグを締め括る90分間は、徳島のキックオフで戦いの火蓋が切って落とされました。
その特殊な性質から、「始めの入り20分までは、非常に硬くてどっち付かず」(京都・大木武監督)の状況になったゲーム。それでもその大木監督も「多少ウチが握っている感じ」と表現したように、ボールキープの長さは京都。7分、横谷繁のパスから工藤浩平がトライしたミドルは徳島GK松井謙弥にキャッチされたものの、まずはファーストシュートを記録。11分には右サイドを工藤とのコンビネーションで崩した駒井善成の鋭いクロスはニアへ飛び、突っ込んだ山瀬功治はわずかに触れず。14分にも駒井のドリブルで獲得した左CKを山瀬が蹴ると、ニアで合わせた秋本倫孝のヘディングは枠の左へ。20分にも山瀬がゴールまで約25mの距離から直接狙ったFKはカベに当たりましたが、J1復帰を期す古都の紫が手数を繰り出していきます。
さて、「10分することなくハーフコートにひしめいてしまうようなサッカーになり、20分くらいまではプレスが速くて落ち着かない展開」と小林監督が語り、「どうやって攻撃しようかなというか、攻撃できるのかなと思っていた」とCBの千代反田充も苦笑いしたように、ほとんど攻撃の形は創れなかった徳島でしたが、それでも前半最大のポイントは「先に点数を取られるとウチは2点取らなくてはいけない展開になるので、まず先取点を与えないということ」(橋内優也)。21分にはようやく柴崎晃誠と津田知宏の連携から奪った右CKも、アレックスが入れたボールはクリアされましたが、ここからのカウンターを許さないことが優先事項。守備面では途切れない集中力。
27分は京都。レフティの福村貴幸が右から蹴り込んだFKに、最後は混戦から秋本が詰めるも、ゆっくりゴール方向へ転がったボールはわずかに枠の右へ。30分も京都。山瀬の右FKがバヤリッツァの足元にこぼれるも、トラップが1つ大きくなり松井が何とかキャッチ。32分も京都。ルーズボールを拾った駒井が中央へドリブルで突き進みながら、右へラストパス。横谷のミドルはGKの正面を突きましたが、「セットプレーも多くなってチャンスが出てきた」と大木監督。変わり始めるゲームリズム。
33分には徳島も宮崎光平が左へ回し、津田が短いドリブルから中へ戻すと、大﨑淳矢のミドルは古巣対決に挑む京都GKオ・スンフンにキャッチされましたが、ようやくチームファーストシュートが。それでもペースは「ちょっとボールを引き出せるようになって、ある程度自由にできるようになってきていた」(工藤)京都。35分には負傷を押しての出場となった右SBの安藤淳を起点に、工藤が上げたクロスは何とか松井がキャッチ。37分にも山瀬の右CKがこぼれ、再び山瀬が放り込んだクロスに、うまく合わせたバヤリッツァのヘディングは枠の右へ。漂い始めた先制点の香り。
劣勢。ただし、「前半はとりあえず守れればいいかなと思っていたので、そんなに慌てるような展開でもなかった」と橋内。「相手に結構ボールを持たれていたけど、『危ない場面はなかったね』みたいにみんなと話していたし、それは結構ウチの流れ」とはルーキーの藤原広太朗。そして輝いたのは、この舞台で2度の日本一を経験し、「たぶんサッカーをやっている間にもう国立でできる機会はないと思うので、最後に頑張ろうかなみたいな感じでやった」と笑うベテランのCB。
39分、アレックスが蹴ったこの日2本目の右CK。「1人がブロックして橋内だけが入っていくという話だったけど、僕も橋内もマークを外すのは結構得意なので、2人であそこへ入って行こうみたいな話をしていた」という千代反田はあっさりマーカーを振り切ると、ニアへ走り込んでのハンマーヘッド。懸命に飛び付いたオ・スンフンもボールに触りましたが、掻き出すことは叶わず。「僕も33歳でだいぶ先が短いと思うので、そういう意味ではこういう環境を楽しもうと思っていた」という千代反田の、ちょうど半年振りとなる今シーズン"2点目"が飛び出し、徳島のスコアボードに1の数字が灯りました。
準決勝の千葉戦では先制の3分後に同点弾を許した徳島。タイスコアでも保てたアドバンテージは、このゲームでは即ビハインドに。すると、この日も先制からわずか4分後に動いたスコア。動かしたのは、しかし徳島。43分、最終ラインでボールを持った藤原は「ツー君(津田)が裏に抜けて、ヒロ君(高崎)が足元に落ちてきたのはわかっていたし、監督からも向こうのCB2枚は裏が弱いと言われていた」と好フィードを前へ。「チャンスは来るなと思っていた」高崎が潜って頭ですらすと、ボールはラインの裏へ。ここに走っていたのは「何とかボールを追い掛けて、"裏に"ということだけを考えてやっていた」津田。マーカーと競りながら、ボールへ足が届きかけたストライカーの選択は「相手に先に触られそうだったので、早めにトゥキック」。決断から1秒後に揺さ振られたゴールネット。誰よりも2年前の悔しさを心に刻んできた男の華麗な追加点。「出来すぎの形で取れた」(小林監督)「ラッキーだと思いましたよ」(千代反田)。最初の45分間が終わった時、2点のリードを奪っていたのはシュート3本の徳島。小さくない点差が開き、プレーオフファイナルはハーフタイムへ入りました。
後半はいきなり徳島のアタックから。開始のホイッスルから1分経たない46分、左サイドで細かくパスが繋がり、エリア内へ侵入した高崎はオ・スンフンともつれて転倒。村上伸次主審のホイッスルは鳴らず、PKにはならなかったものの、早くも掴んだ決定機の一歩手前。50分にも京都のCB酒井隆介がパスを大﨑に渡してしまい、最後は津田のシュートがクロスバーの上に外れたとはいえ、明らかに攻勢は「相手を見てしっかり守備から入ること」と指揮官に送り出された徳島。
52分も徳島。アレックスのパスから高崎が狙ったクロス気味のシュートは、何とか秋本がクリア。「まず1点を取れればという想いはあったけど、やっぱりどこか慌てるというか、焦りのようなものは無意識の内にあったのかもしれない」と山瀬。「とりあえず行かなきゃ行かなきゃという感じだったので、前半ほどの冷静さは向こうになかったと思う」と千代反田。得意のパスワークから精度が失われ、フィニッシュワークに辿り着かない京都。
先に動いたのは「前半と違って相手のプレッシャーが少し緩くなってきて、ハマ(濱田)やコウセイ(柴崎)といった中盤の選手でボールが回るようになった」と判断した小林監督。58分、スタメン起用にアシストで応えた高崎に替えて、先週の準決勝で負傷退場を余儀なくされたドウグラスを満を持して投入すると、61分には絶好の追加点機。藤原が右から当てたクサビを津田が巧みに落とし、受けた柴崎は氷の冷静さでマーカーを切り返して外すと、フィニッシュはバヤリッツァにブロックされましたが、「2点目が入ってからはむしろ向こうのスペースが空き出したのでやりやすかった」と藤原が話したように、徳島が一気にゲームリズムを手繰り寄せます。
62分のカウンターは京都。徳島のCKをクリアすると、ボールがこぼれたのは工藤の足元。運んで運んで、丁寧に右へ送った絶妙なラストパスは、少し山瀬のトラップが流れて角度がなくなり、それでも枠へ飛ばしたシュートは松井がセーブ。直後に山瀬が左右から送り込んだCKはどちらもゴール前の混戦を生み出すも、共に松井がパンチングで応酬。畳み掛けたい大木監督は64分に2枚替えを決断。山瀬と倉貫一毅を下げて、送り込んだのは原一樹と三平和司。その2人を最前線に並べ、横谷が中盤に落ち、左の駒井と近い高さまで右の安藤が張り出すような、3-1-4-2気味の布陣で勝負に出ます。
これを見て、すぐさま手を打った小林監督。2枚目のカードは宮崎光平に替えて那須川将大。那須川は左SBへ入り、アレックスが一列上がって左SHへ移ると、大﨑が左から右へスライド。自らの左サイドへ万全の備えを整え、さらにお互いチャンスを創り切れずに動かないゲームの流れを判断すると、75分には最後の手札をピッチへ。殊勲の津田に替えて、京都時代に入れ替え戦での昇格を経験している斉藤大介を投入。津田から斉藤へと引き継がれる黄色の腕章。クラブの悲願はチームキャプテンの舵取りに託されました。
80分に訪れた京都のビッグチャンス。福村が右から長いボールを放り込むと、飛び出した松井は触り切れず、ボールは左サイドへ。素早く反応した三平が背中越しにボレーでGK不在のゴールへ飛ばしたシュートは、しかし「ケンヤくん(松井)が少し出て行ったので、『誰かカバーしなきゃいけないな』と思って、フリーだったので後ろに入っていた」藤原が確実にクリア。「チームに入る前は個人的な目標の方が大きかったが、ずっと試合に出られていたのでチームの目標も考え出すようになった」というルーキーの冷静な対応。勝利の瞬間までは10分間とアディショナルタイム。
86分に大木監督が切った最後のカード。奮闘した安藤に替わって、前線へ送り込まれたのは宮吉拓実。87分は京都。バヤリッツァのフィードがこぼれると、駒井がミドルレンジからボレーで枠に飛ばすも、松井がセーフティーにパンチングで回避。88分も京都。横谷の右CKは藤原がクリア。88分も京都。横谷が再び蹴った右CKは松井ががっちりキャッチ。「僕も小さいけどある程度ヘディングは売りにしてやっている」橋内と、「普段通りプラスちょっとは自分にハッパも掛けながら、あまりやるぞやるぞと思い過ぎないようにしようかなと思っていた」千代反田で跳ね返す徳島の堅陣揺るがず。井上知大・第4の審判員が掲示した数字は"3"。代々木側の青いサポーターから巻き起こるカウントダウンの歌声。
90+1分は京都。左へ流れた工藤が懸命に入れたクロスは、飛び出した松井が丁寧にキャッチ。90+4分は京都。福村が左から放り込むと三平が執念で繋ぎ、横谷が至近距離から狙ったシュートも「少し足が滑って対応が遅れたが、何とか後ろ足が残った」藤原が決死のブロックで防ぎ、松井が懸命にキャッチ。93分14秒。村上主審が右手を上げ、吹き鳴らしたホイッスルが国立のピッチに生み出す、あまりにも鮮明なコントラスト。個人としては史上初となる3度目の快挙を成し遂げた指揮官をして「もうこんな残酷な試合は2度としたくない」と言わしめた最後の90分間はシーズン4位に軍配。徳島に、そして四国に、J1という未知なる歓喜がもたらされる結果となりました。
「今日のゲームは本当に"でき過ぎ"のような形」と小林監督も言及した徳島で、印象的だったのはJ1を知る選手たちの客観的な視点。「来年は苦労する。J2の2位や3位、4位のレベルだと厳しいのはわかっているので、それはわかった上で何がやれるかを考えてみんなでやるしかないかなという感じ」と千代反田が話せば、「まだまだたくさん課題があるし、このままだったら来年J2になってしまうので、まずはJ1で1勝を挙げることを目標にやっていきたい」とは高崎。柴崎も「これからJ1に立つが、そんなに甘いものじゃない」と厳しい言葉を発しています。ただ、「ポテンシャルを持っているのだろうか、持っていないのだろうかとすごく考えながらの戦いだった」とシーズンを振り返った小林監督が、「今日でもこんなに力を出せるんだなとビックリしている次第」と正直に話したように、チームが土壇場で発揮したのは大きなポテンシャル。それはすなわち「すごく伸びしろがある」(小林監督)ということの裏返しでもあるでしょう。四国初のJ1へ。無限の"伸びしろ"を信じる稀代の昇格請負人を頂いた徳島の新たな航海が、今日幕を開けました。 土屋
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