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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
昨年の選手権を沸かせた越後の技巧派集団と、全国制覇も経験している阿波の古豪が激突する一戦。会場は川崎の殿堂、等々力陸上競技場です。
14番を背負ったエースの小塚和季(アルビレックス新潟)を擁し、長岡JY FC時代から培った個人技と一体感を武器に、新潟勢としては28年ぶりにベスト8まで駆け上がった帝京長岡。今年はインターハイ予選、プリンス北信越と頂点には一歩届きませんでしたが、同校のOBでもある古沢徹監督に指揮官が替わった選手権予選では、堂々と県連覇を達成。「昨年ベスト8になったことで国立だったり優勝を彼らも本気で目指したと思うし、それが常日頃の励みになっていたので、彼らにとっても去年の結果はモチベーションになっていた」と谷口哲朗ヘッドコーチ。狙うは昨年の1つ先。新潟県勢初となる国立の舞台です。
インターハイ優勝1回。全日本ユース優勝1回。80年代後半から90年代前半にかけては、南宇和と共に四国のサッカーシーンを牽引していた徳島市立。その2度の全国制覇を選手として経験した河野博幸監督がこの4月から就任すると、インターハイ予選で敗れた経験を糧に、県予選決勝では前回王者の鳴門を後半終了間際の決勝点で振り切って、2年ぶりの王座を獲得。「伝統のあるチームなので、ウチがこれからの徳島のサッカーを引っ張っていかなくてはいけない」と語る指揮官が、植え付けつつある勝者のメンタリティを発揮する舞台は夢の全国です。大晦日の等々力にも2000人を超えるサッカージャンキーが集結。気温10度とやや寒さが和らいだ感もある気候の中、ゲームは帝京長岡のキックオフでスタートしました。
「こっちも相手も初戦ということもあって長いボールが多くなった」(河野監督)立ち上がりを経て、ファーストシュートは徳島市立。6分、右から郡捷太(3年・徳島ヴォルティスJY)が蹴ったCKに、大西致誠(2年・三好井川中)が合わせたヘディングはクロスバーを越えますが、8分も徳島市立。バイタルで細かく繋いだ流れから、大西が右へ振り分け、SBの鏡洋人(1年・徳島ヴォルティスJY)が上げたクロスはファーへ流れたものの、まずは2つのチャンスを創出します。
しかし、先に決定機を掴んだのは帝京長岡。9分、小池一馬(3年・長岡JY FC)が裏へ1本のパスを送り込み、走った山田貴仁(3年・長岡JY FC)はそのままフィニッシュ。徳島市立のGK高橋理駆(3年・徳島ヴォルティスJY)が懸命に弾き、再び拾った山田の左クロスへ、ファーに飛び込んだ岩渕裕人(3年・ボニートンFC)のヘディングは枠の右へ外れましたが、「カウンターで10番が抜け出すのが怖かった」と河野監督も警戒していた形からの決定的なシーンで、流れは一気に帝京長岡へ。
11分、栁雄太郎(3年・長岡ビルボードFC JY)の右CKにCBの笛木浩大(3年・新潟西高)が競り勝つと、こぼれを狙った山森湧斗(3年・長岡JY FC)のミドルはわずかに枠の上へ。13分、吉田瞬(3年・長岡ビルボードFC JY)のパスから山田が体の強さを最大限に生かして運び、GKを外して中へ入れると、栁のシュートはゴールカバーに入っていた徳島市立の左SB中峯正博(2年・徳島川内中)が超ファインブロックで阻止。そのCKを桝が蹴り込み、笛木が当てたヘディングは枠の上へ。立て続けに生まれる先制機。
15分に迎えた歓喜の瞬間。ただし、迎えたのは劣勢の徳島市立。左サイドへ展開した流れから、2分前に失点を独力で回避した中峯がピンポイントクロスをファーへ。ここに走り込んだ大西が躊躇なく叩いたダイレクトボレーは、勢い良くゴール左スミへ飛び込みます。「中峯は常にああいうのを狙っている」と河野監督も話した2年生レフティが攻守に大仕事。徳島市立がスコアを動かしました。
このゴールですっかりペースを掴んだ徳島市立。途端に前への迫力も出始め、追加点への意欲をはっきりと見せた中で、「ここ最近はずっとそんなんだったので予想通り」と河野監督も苦笑したシーンは20分。右サイドでCKを獲得した帝京長岡。キッカーの栁はストレートボールを入れると、山田が高い打点で叩いたヘディングはGKの頭上を破り、カバーへ入ったDFも掻き出せずに越えたゴールライン。「アイツがエースなので決め切ってくれないと」と谷口ヘッドコーチも言及する10番の力強い同点弾。わずか5分で両者の点差は霧散しました。
以降は帝京長岡がボールをある程度握りながら、徳島市立もカウンターで好機を窺う展開に。23分は帝京長岡。高い位置で小池がボールを奪い、吉田のスルーパスに反応した岩渕は、エリア内でDFともつれるもノーホイッスル。28分も帝京長岡。GKの位置を確認した栁が40m強の位置からトライしたロングは高橋がキャッチ。33分は徳島市立。CBの奥田雄大(1年・徳島ヴォルティスJY)が左へ回し、中峯のクロスに大西がボレーというホットライン開通も、ボールはヒットせずに帝京長岡のGK亀井照太(3年・FCトリプレッタJY)がキャッチしましたが、「長いボールも含めて、収めたりチャンスを創ってくれたりしていた」と指揮官も一定の評価を口にした大西の存在は、帝京長岡守備陣にとっては間違いなく脅威に。
34分は徳島市立。岸田龍也(3年・阿波市場中)が左へ送り、エリア外から福住卓磨(3年・プルミエール徳島SC)が枠へ収めたシュートは亀井がキャッチ。35分は帝京長岡。桝がクイック気味にFKを蹴り込み、岩渕がヒールで残したボールを山田が打ち切るも、正面で高橋がキャッチ。38分は徳島市立。中央やや左、ゴールまで30m弱の距離から郡が狙ったFKはクロスバーの上へ。40+2分は帝京長岡。ゴール前でルーズボールをかっさらった小池の左足ミドルは枠の上へ。手数の量と質では互角に近かった前半は、1-1のままでハーフタイムへ入りました。
「全体が間延びし出したので、もう少し丁寧に」と指揮官に送り出されたのは徳島市立。すると、47分の決定機はその徳島市立。鏡が右から蹴り込んだフィードを、マーカーと競りながら収めた大西は完全に独走態勢になりましたが、この1対1は飛び出した亀井がビッグセーブ。すぐさまやり返した帝京長岡。48分、岩渕が右へ流したボールを栁がミドルレンジから枠へ飛ばしたシュートは高橋がファインセーブで応酬。殴り合う両者に、ヒートアップする両応援団。
59分は帝京長岡。右サイドで小池とのパス交換から、吉田が左足で上げたクロスを山田が収め、強引に打ったシュートはゴール右へ。61分も帝京長岡。山森を起点に桝が左へ付けると、SBの小林拓夢(1年・長岡JY FC)は一度失ったボールを奪い返してシュート。高橋が懸命に弾き、リバウンドを小林が再び叩くもボールはクロスバーの上へ。62分も帝京長岡。岩渕が右へ完璧なラストパスを通し、フリーで抜け出した山田の決定的なシュートは力み過ぎて枠の右へ逸れましたが、ここに来て越後の緑が一段階アクセルを踏み込みます。
67分に帝京長岡ベンチが決断したのは2枚替え。山森と小林に替えて、種岡優希(2年・長岡JY FC)と五十嵐匠(3年・三条第四中)を投入。笛木をボランチに1列上げて、最終ラインは右から蔦優斗(2年・長岡ビルボードFC JY)、五十嵐、そこまでもスケール感を見せ付けていた大桃海斗(1年・長岡JY FC)、吉田という並びにスライドさせて、もう1点を明確に狙います。
「相手も能力があるので押されっぱなしになった」(河野監督)徳島市立も、辻拓也(2年・徳島ヴォルティスJY)と奥田のCBコンビを中心に何とか相手のアタックを耐え忍ぶと、73分には絶好の勝ち越し機。最前線にポジションを移した福住のポストから、左サイドを郡が抜け出してそのままフィニッシュ。亀井が辛うじて体に当てたボールはゴールへ向かうも、間一髪で吉田がクリア。76分にも再び勝ち越しのチャンス。左から郡が上げたクロスは、5分前に投入された吉川航平(1年・徳島ヴォルティスJY)まで届くも、ここも吉田がギリギリのクリア。「あんな所は普段やっていない」と谷口ヘッドコーチもギャンブルで配置した左SBの吉田が連続で危機回避。1-1のスコアは変わらず、アディショナルタイムは短めの2分。
80+3分、帝京長岡に訪れた最後の決定機。亀井が大きく前線に蹴り込んだFKを、笛木が高い打点で落としたボールは山田の元へ。フリーで受けた10番が体を倒し、豪快に狙ったボレーは会場中の時間を一瞬静止させましたが、軌道の行方は数十センチの差で枠外へ。両者譲らず。2回戦への進出権はPK戦で決することになりました。
先攻の帝京長岡1人目は栁。昨年のベスト8を知る司令塔は、GKの逆を突いて左へ成功。思わず力の篭もるガッツポーズ。後攻の徳島市立1人目は郡。県予選ファイナルでは決勝点となるPKを決めた男の選択はその時と同じ右も、ここは亀井が横っ飛びでセーブ。1人目で早くも点差が付いてしまいます。
帝京長岡の2人目は笛木。自分の間合いで蹴ったキックは、しかし枠外へ。徳島市立2人目の岸田はきっちりGKの逆に成功。帝京長岡3人目の岩渕、徳島市立3人目の川人辰也(3年・三好井川中)は揃ってゴールネットに突き刺し、先攻の帝京長岡4人目はゴールも記録したエースの山田。左を狙ったキックが蹴られると、雄叫びを上げたのは徳島市立の背番号1。読み切った高橋のビッグセーブ。辻も亀井に触られながら何とかねじ込み、とうとうラストキッカーとなる勝負の5人目へ。
外せば敗退の決まる大事なシーン。キッカーはキャプテンでもあるGKの亀井。構える高橋。守護神同士の1対1は、ボールがクロスバーの上に消え、迎えた決着の時。「PKも力だという人もいるけど、選手たちが思い切ってやれたのであればそれでいい」と谷口ヘッドコーチ。「まずここに出て、1つでも多く勝つのが目標だったし、とりあえず勝って自信を付けることが重要」と河野監督も語った徳島市立がPK戦を制して、2回戦へと勝ち上がる結果となりました。
「今年はディフェンスも含めて淡白だったので、とにかく何でも粘り強くやるということをやってきた」と河野監督が話した徳島市立は、劣勢の時間が長い中でも指揮官の言葉通り、"粘り強さ"が印象的でした。就任した4月当時の選手からは「何となく入ってきて、何となくやっていた」空気を感じていた河野監督が、「声をかけてずっとアプローチをしてきた」成果は、この全国の舞台で1つ花を咲かせたと言ってもいいでしょう。スタメンにも1,2年生が7人も顔を揃えているだけあって、伸びしろは十分。ひょっとするとこの若武者たちは、大会を掻き回す存在になるかもしれません。
「これが高校サッカーかなという感じですね」と谷口ヘッドコーチが開口一番に話したように、主導権と十分な決定機を手に入れながらも、結果的には敗退という現実を突き付けられた帝京長岡。「この悔しい想いが人生の中で役に立つことは間違いないから、本当に今日は存分に悔しがれ」とヘッドコーチからメッセージを贈られた選手たちの大半は、悔し涙に明け暮れていました。常日頃から選手権の素晴らしさを説き続けている谷口ヘッドコーチが最後に話してくれたのは、「まずは続けて出ることで、出たら1回や2回で負けないようなチーム作りをしないと、本当の意味でチャンピオンを取るということもできないだろうし、1回ポッと出て勝ちましたじゃ実力じゃないと思うので、今後帝京長岡がもっと素晴らしいチームになるようにずっと応援していきたいなと思います」という言葉。常勝軍団への道はまだ半ば。帝京長岡の"これから"にも是非注目していきたいと思います。 土屋
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