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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
10年ぶりの赤い悪魔か、14年ぶりの太陽王か。"2度目"を懸けた最終決戦の舞台は歴史と伝統に彩られたナショナルスタジアム。言うまでもなく、国立霞ヶ丘競技場です。
セミファイナルではアウェイで川崎と打ち合って敗れたものの、2万7千を集めたホームの埼スタでは新エース・興梠慎三の決勝弾でファイナルへと駒を進めてきた浦和。一昨年も含め、過去4度経験している国立での勝敗は意外にも1勝3敗。鹿島を粉砕した2003年以来、10年ぶり2度目の戴冠を赤一色のサポーターへ捧げたい一戦です。
今シーズン最も安定した力を発揮していると言っていい横浜FMを相手にしたセミファイナルでは、ファーストレグで挙げた衝撃の4ゴールを生かして、最後の1試合まで勝ち上がってきた柏。ネルシーニョ監督率いるチームにとって、J2、J1、天皇杯とここ3年は毎年獲得してきたタイトルパズルの中で、唯一欠けているのがこのナビスコカップ。鹿島をPK戦の末に下した1999年以来、14年ぶり2度目の戴冠を黄色一色のサポーターへ捧げたい一戦です。快晴が定番だった11月のファイナルも、今日のスタジアムを見上げると飛び込んでくるのは鈍色の空。何かが起きそうな"最後の"国立決戦は国歌斉唱を経て、浦和のキックオフでスタートしました。
大谷秀和と橋本和が警告累積で出場停止。鈴木大輔、キム・チャンス、山中亮輔が欠場と、主力を大幅に欠く中、策士ネルシーニョは浦和とまったく同じ3-4-2-1を採用。最終ラインの右CBには、リーグの浦和戦でも途中からこの位置を務めた谷口博之を抜擢。左WBにはジョルジ・ワグネルを起用し、2シャドーの左には帰ってきたレアンドロ・ドミンゲスが強行出場。完全なミラーゲームで相手を封じに掛かります。
一方の浦和はいつも通りの3-4-2-1を敷きますが、「タイトルの懸かった試合は、ああいう入り方になるのはよくあること」と右WBの平川忠亮が話したように、しっかりブロックを築く柏を前にして、ボールを握る時間こそ長いものの慎重な立ち上がりに。7分にはその平川が右からアーリークロスを放り込むと、興梠がニアで合わせるも柏のGK菅野孝憲がしっかりキャッチ。13分には左サイドでボールを回し、槙野智章が単騎で仕掛けるも、藤田優人がきっちりカバーに入ってゴールキックへ。静かな流れのままで最初の15分は経過していきます。
19分には平川が右から中へ付け、フリーの宇賀神友弥が枠の上へ外れるミドルを放ちましたが、これがこのゲーム2本目のシュート。「前半始めから、守備からのカウンターという形が今日のゲームの主な流れだった」とネルシーニョ監督。レアンドロ・ドミンゲスとジョルジ・ワグネルが縦に並ぶ、柏懸案の左サイドも、「今日一番頭の中に入れていたのがバランス。レアンドロも守備の部分で凄く気を遣ってくれたし、上がってくる選手へのケアというのが凄く良かったので、意識が高かった」と彼らの後方を預かる渡部博文も振り返ったように、守備で穴を開けるようなシーンは皆無。結果的に浦和の右CBに入った森脇良太のオーバーラップがほとんどなかったことも手伝って、崩れない黄色の守備ブロック。
27分には柏木陽介が小さく出し、槙野が狙ったミドルも藤田が体を投げ出してブロック。29分にも阿部勇樹が左からアーリーを放り込み、飛び込んだ平川のヘディングも菅野がキャッチ。「攻撃的に点を取りに行く姿勢を見せた」(ペトロヴィッチ監督)浦和にもなかなか漂わないゴールの香り。
40分は浦和。原口元気、宇賀神友弥と回り、阿部が枠へ飛ばしたミドルは菅野がキャッチ。44分も浦和。右サイドから原口がさすがの突破力で4人のマーカーを振り切り、中央に切れ込んで放ったミドルは谷口がブロック。45分は柏。茨田陽生のパスを引き出したCBの近藤直也が持ち上がって中へ。こぼれをワントラップで叩いたジョルジ・ワグネルのボレーはわずかに枠の右へ逸れたものの、この日のチームファーストシュートで一瞬変わった勝負の風向き。
仕留めたのは「こういう大会のような一発勝負では、レイソルの強さを選手みんなが自信を持っている」と語るストライカー。45+1分、膝を負傷していた藤田がその痛む右足で繰り出したのは、「夏頃から監督のアドバイスで練習を積んできた」レーザービーム。「目が合ったというよりは感覚」でファーに潜り込んだ工藤のヘディングは、伸ばした山岸範宏の手をかいくぐって、ファーサイドのゴールネットへ弾み込みます。「この大舞台でピンポイントのクロス、僕もピンポイントのヘディングが出せるのは、レイソルに関わる全ての人たちの気持ちが乗り移った」と話した9番の先制弾。ワンチャンスを結果に結び付けたエースの一撃で、柏が望外のリードを奪い、前半の45分間は終了しました。
後半はスタートから柏に1人目の交替が。「彼は気持ちが強い選手なので、やれる所までやってくれたが、ハーフタイムでドクターからストップが入った」とネルシーニョ監督が明かした藤田に替えて、太田徹郎をそのまま右WBへ投入。これで柏は左に渡部とジョルジ・ワグネル、右に谷口と太田が縦関係で並ぶ、ほとんど未知数と言っていい布陣で、最後の45分に挑みます。
再開したゲームの基本様相は前半と変わらず。ただ、明らかに変わったのは「後半は自分が下がってボールを触ることによって、色んな所に動いて相手を困らせるようなことをしようと」判断した柏木のポジショニング。ある程度低い位置へ落ちてボールを捌くことで、前半の終盤はほとんど左に偏っていた攻撃に、右のアクセントも増加。44分の突破を見てか、「原口選手のドリブルに対してなるべく距離を開けないで、1人抜かれてもいいから、まずはアタックしろと言われていた」と渡部が話した通り、原口へはマンツーマン気味に1枚が付いていくものの、落ちた柏木への対応は中途半端に。栗澤も「あそこまで柏木が落ちてくると、彼はシャドーだから誰が見るのかとなる。谷口は行けないし、俺も槙野のドリブルも警戒しなきゃいけない、ということになっていくとどうしてもラインが下がる。だから、最後をやらせなきゃいいかなという気持ちでいた」と強いられた難しい対応を口にしています。
52分には右サイドで獲得したCKを柏木が蹴ると、ニアサイドへ飛び込んだ古巣対決となる那須大亮のヘディングはわずかにゴール右へ。59分には決定機。鈴木啓太が繰り出したのは、中央を切り裂くスルーパス。走った柏木はフィニッシュまで持ち込み、ここは懸命に食らい付いた谷口のブロックもあり、最後は菅野がキャッチしましたが、「後半はうまく散らしながらできたと思う」(平川)「後半は自分たちのサッカーができた」(柏木)と両者が声を揃えたように、強まる赤の攻勢。
60分にクレオが打った枠外ヘディングを経て、65分も浦和。柏木の右FKを、那須が頭で合わせたボールは大きくゴール右へ。69分も浦和。柏木が右から蹴り入れたCKは、中央でオフェンスファウルの判定。直後には「クロスでサイドからの攻撃を活性化させる意図」(ペトロヴィッチ監督)で、平川と関口訓充を入れ替えると、1分後にも決定機。阿部が左へ展開したボールを、エリア内へ侵入した原口が通したDFの門。ここへ全力で3列目から駆け上がってきた阿部のフィニッシュは、しかしわずかにクロスバーの上へ。電光掲示板の数字は"1"と"0"。変わらないスコア。
「やる前から押し込まれる展開はイメージしていた」(工藤)凌ぐ柏で特に目立ったのは2人。1人はCBの中央を務める近藤。おそらく今のJ1の中でも、戦術的な意味合いでは最重要かつ最もその役割を忠実にこなしているであろう興梠に対し、フィフティ以上の確率でボールをクラッシュ。それでも興梠が収め切る場面もありましたが、そこでの反転や基点創出を最小限に抑えたことが、中央からのピンチを創らせなかったことに直結していた印象です。もう1人は「今日はしっかり守備をすることができた。自分としては今日のポジションでやるべきことはやったと思う」と語るジョルジ・ワグネル。相手は左サイドから槙野や原口が仕掛ける回数が多く、再三流れてきたクロスはことごとくファーサイドで懸命にクリア。また、後半は平川の攻め上がりも増え、さらに関口の投入でギアチェンジを施された自サイドでも、「ほとんどクロスも上げられていないので、彼の守備の貢献度は本当に高かった」と栗澤も賞賛する奮闘ぶり。着々と時計の針は刻まれていきます。
74分には柏に千載一遇の追加点機。茨田のクサビをクレオは巧みにヒール。カウンター発動にレアンドロ・ドミンゲスは運んで右へ送り、受けた工藤のシュートは懸命に戻った那須がブロックしたものの、後半最初の決定的なチャンスに意気上がるゴール裏の黄色。76分には慣れない位置で果敢に戦った谷口と増嶋竜也が、77分には鈴木とマルシオ・リシャルデスが、それぞれ2枚目のカードとしてピッチへ解き放たれ、いよいよ熱戦は最終盤の攻防へ。
「大きなリスクを負って攻撃を仕掛け続けた」(ペトロヴィッチ監督)浦和は、宇賀神と槙野の位置もスイッチさせて、とにかく縦への意識を一層強調。86分にはボランチに下がった柏木が浮き球を送り込み、こぼれに反応したマルシオ・リシャルデスのシュートはヒットせずに枠の右へ。87分は柏にビッグチャンス。レアンドロ・ドミンゲスとのワンツーから、栗澤が枠へ収めたシュートは山岸がファインセーブで回避。直後も柏にビッグチャンス。その右CKをジョルジ・ワグネルが入れると、ニアでフリックしたレアンドロ・ドミンゲスのヘディングも、山岸がファインセーブで阻止。35歳の赤き守護神が仁王立ち。ゲームはまだ終わりません。
90分の天国と地獄。マルシオ・リシャルデスが右へ大きくサイドチェンジ。ジョルジ・ワグネルと交錯しながら森脇が繋いだボールを、関口はグラウンダーで中へ。原口が収め、こぼれを蹴り出したDFのクリアは柏木の顔にヒットして興梠へ。エースが鋭い反転から左足を振り抜くと、ボールはゴールネットを揺らします。山口博司副審の旗は上がらず。浦和の劇的な同点弾かと思われましたが、山口副審と協議した扇谷健司主審のジャッジはオフサイド。記者席からはかなり際どいシーンに見えたものの、「顔に当たった後もボールを見ていたけど、オフサイドというのは分かっていた」と当の柏木。映像を見ても明らかなオフサイド。変わらないスコアボードの"0"。
「最後は本当に守り切る自信もあったし、みんなも落ち着いてできたのかな。やっぱり去年の天皇杯の決勝とか、こういう大舞台を経験しているのが出たんじゃないかなと思う」と栗澤も語った柏が、パワープレー気味に最後の力を振り絞ってきた浦和をいなし、第4審がボードで掲示した4分に、もう1分だけ追加されたアディショナルタイムも老獪に消し去ると、最後のクロスも増嶋が頭で跳ね返した95分10秒、曇天の国立を包んだホイッスルは優勝を告げるファンファーレ。
「今日の相手のペトロヴィッチ監督の率いる浦和は、私のサッカー人生の中で一番難しい相手だった」と百戦錬磨のネルシーニョ監督も認めた難敵を撃破しての戴冠。金色の紙吹雪が舞い散る中、「自分がキャプテンをした試合は今年一度も勝っていなかったので、『これで負けたらヤベーな』という不安の方があったけど、優勝するというのはやはり最高。今年は結婚式を控えているので、誰かいい写真を撮ってくれたかな」と笑う栗澤キャプテンが、歴史と伝統へ別れを告げる国立の空へ掲げた銀色のカップ。"2度目"の王座に返り咲いたのは、手負いの太陽王でした。 土屋
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