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このブログについて

J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2013年11月25日

J2第42節 神戸×熊本@ノエスタ

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kobe1124.jpg2013年11月24日、ノエビアスタジアム神戸。ワールドカップも開催されたこの伝統あるスタジアムで、2人の男が現役生活に別れを告げます。
吉田孝行、36歳。横浜フリューゲルスを伝説の天皇杯優勝へ導くゴールを奪い、横浜F・マリノスではステージ優勝の栄誉にも。大分トリニータでクラブの悲願だったJ1昇格に大きく貢献した彼が、2008年に辿り着いたのは地元のクラブでもあるヴィッセル神戸。3年前に最終節のゴールで奇跡をもたらした男は、愛するクラブの降格と昇格を見届け、19年にも及ぶプロキャリアの終幕を今日迎えます。
北嶋秀朗、35歳。市立船橋高校時代から世間の注目を集めてきたストライカーは、地元・千葉の柏レイソルでその得点感覚を磨き、2000年にキャリアハイの18ゴールを叩き出すと、フィリップ・トルシエ監督率いる日本代表でもプレー。「サポーターと共に戦うことを学んだ」清水エスパルスで3年間を過ごし、J2降格と同時に帰還した柏では2度の昇格とクラブ史上初となるJ1優勝を経験。「ここに来られた自分のことを気に入っているし、来られて良かったなと思う」と話すロアッソ熊本で1年半に渡ってチームのために戦い、17年にも及ぶプロキャリアの終幕を今日迎えます。
11時58分、ベンチ前で円陣を作ってからサポーターの元へと向かったのは熊本。挨拶を終えた選手たちへ、全力で1人1人のチャントを奏でた"火の国魂"のサポーターたちは「男北嶋完全燃焼 最後の最後まで共に戦おう」という横断幕の真横に「吉田孝行選手お疲れ様でした」という文字を掲げます。
11時59分、サポーターとのハイタッチでピッチへと駆け出していったのは神戸。大小の旗が打ち振られたゴール裏には「ありがとう俺達のタカユキ」の横断幕が。メンバー表の順番にコールされた最後の選手は吉田孝行。本人も右手を掲げてサポーターに応えると、浮かび上がったのはハートを射抜く"17"の数字。全所属クラブを網羅した鳴り止まないチャント。着々と近付く別れの時。12時17分、最後のウォーミングアップを終えた2人がロッカールームへと消え、ピッチはキックオフの時を待つだけとなりました。
12時22分、メンバー発表のアナウンス。スタメンの北嶋秀朗に加え、古巣対決となる高橋祐太郎に神戸サポーターから温かい拍手が送られると、ベンチスタートとなった吉田孝行のアナウンスには熊本サポーターも大きな拍手。神戸賛歌の合唱。12時29分、ピッチへと登場してきた熊本の先頭に立つのは北嶋秀朗。コイントスに勝利し、直前に南雄太と話し合って決めたピッチを入れ替える大役も果たし、整った舞台。両チームにとって今シーズン最後の、そして2人のベテランにとって現役最後の90分間は、神戸のキックオフで幕を開けました。
まず、いきなりこのゲームへの意欲を見せたのは神戸。開始わずかに11秒。中央から森岡亮太は左へ。ここに3列目から上がってきていた橋本英郎のシュートはヒットしなかったものの、5分にも右に開いた森岡のクロスへ、逆サイドからニアまで走り込んだ小川慶治朗はシュートまで持ち込めませんでしたが、「肩の力が抜けていて、前半から自分たちのペースで試合ができた」と安達亮監督も話したように、ホームチームが最終戦への想いを攻勢に繋げていきます。
「立ち上がりはバタバタだった」と最後方に位置する南が振り返った熊本も、6分には黒木晃平がゴールまで30m近い距離から直接FKを枠の上に飛ばし、12分にも大迫希が自らのクロスで獲得した右CKを蹴り込むと、青木良太のヘディングが神戸のGK徳重健太にキャッチを強いるなど、2つの手数を繰り出すも、流れを引き戻すまでには至らず。
16分は神戸。左SBでスタメン出場を果たした林佳祐がオーバーラップから中へ送り、力んだポポの空振りを経て、上がってきた右SB大屋翼が狙ったシュートは枠の右へ。17分は神戸に決定機。3バックの中央を務める青木良太が、最終ラインで信じられないボールロスト。拾った森岡はGKと1対1になりましたが、慎重に打ったシュートは右のポストを直撃。21分も神戸。森岡がさすがのヒールキックで相手を外し、橋本を経由したポポキャノンはゴール左へ。続く神戸のラッシュ。
22分も神戸の決定的なチャンス。今度は3バックの右を任されていた筑城和人がイージーにボールを失い、奪ったポポが挑んだ1対1は絶妙のタイミングで間合いを詰めた南が体に当てるビッグセーブで回避。「相手の圧力に押し込まれるだけ」(南)となり、苦しい熊本。さらに25分には中央やや右、ゴールまで約35mの位置にもかかわらず、直接狙ってきたポポのFKは何とか北嶋秀朗が頭でブロックしたものの、熊本にとっては苦しい時間が続きます。
アクシデント発生。柏時代のチームメイトでもあるポポの弾丸シュートを、至近距離で食らった北嶋秀朗が立ち上がれません。熊本サポーターは「MAX!MAX!キタジMAX!」のチャントで呼びかけ、神戸のゴール裏からも「キタジー」という声が。「ちょっと体がフワフワしちゃって、夢の中にいるような感覚になっちゃった」中で北嶋秀朗が気力を振り絞って立ち上がると、神戸サポーターからも大きな拍手が。ゲームは再び動き出しました。
32分には熊本も中盤で奮闘していた養父雄仁がスルーパスを繰り出し、「いつもねちっこくて頑張れるヤツ」と北嶋秀朗も認め、今日は試合開始からこのゲームに懸ける気持ちを前面に出していた仲間隼斗が放ったシュートは枠の左へ外れるも、ようやく流れの中からチャンスを創出。盟友のラストゲームに誰よりも勝利を渇望する南も、33分に杉浦恭平が左足で右スミギリギリを狙ったミドルをファインセーブで掻き出し、「前半の途中からやっと落ち着いてきた」と自ら振り返る流れを引き寄せます。
45分に訪れた北嶋秀朗のファーストシュート。高い位置でエステバンへ果敢にプレスを掛けた養父がボールを奪い切ると、中央で拾った39番の前に開けた視界。「シュートの意識は凄く強く持って臨んでいた」という言葉通り、ミドルレンジから枠を捉えるシュートを放ちましたが、ここは徳重がセーフティーにフィスティングで回避。それでも北嶋秀朗の惜しいミドルを目の前にして、チャントへ力の籠もる熊本サポーター。「たまたま失点しなかったけど、前半は一応プラン通り」と南。神戸優勢もスコアボードの数字に変化なし。0-0で最初の45分間は終了しました。
後半はスタートから熊本に動きが。池谷友良監督代行はなかなか2シャドーの位置でボールを収められなかったファビオに替えて、チームトップスコアラーの齊藤和樹をそのままの位置に送り込み、「立ち上がりを乗り切ること、特に15分を集中すること」という指示を添えて、選手をピッチへ送り出します。
しかし、その狙いを打ち破ってみせたのがやはり昇格チームの底力。48分、杉浦が右から蹴ったCKに飛び込んだのは河本裕之。今シーズンは負傷していた時期も長く、これが21試合目の出場となったキャプテンが均衡を破る意地の一撃。歓喜の輪に飛び込んだ選手たちが、河本を筆頭に指差したのはゴール裏でアップを続ける吉田孝行の姿。「前半に決定機が2つあって、そこで取れなかったのでちょっと嫌だなと思っていた」という指揮官の不安も一掃する先制弾で、神戸がリードを奪いました。
50分には杉浦とのワンツーから、森岡がタイミングを外すようなシュートを繰り出すも、南がこの日3本目のファインセーブでピンチを凌ぐと、ここからは熊本が掴んだリズム。54分に大迫がトリック気味に出したFKは仲間と合わなかったものの、55分にはその仲間が左サイドをドリブルで切り裂き、放った枠内シュートは徳重がファインセーブ。直後にも大迫の左CKから、黒木がDFのブロックでわずかに枠の上へ外れたミドルにトライ。57分にも黒木、藏川洋平と繋ぎ、仲間の強引なミドルは枠の右へ外れましたが、「大きな成長を感じているし、かわいいヤツだなと思っている」と北嶋秀朗も評した21歳のアタッカーが、チームに推進力をもたらします。
57分には安達監督も1人目の交替に着手。ボランチのエステバンを下げて、同じ位置に田中英雄を投入すると、田中はファースッタッチでポポからのパスを右へ流し、大屋の枠外ミドルを演出。少し相手に傾きかけていた流れを引き戻すと、62分に杉浦がゴールを強襲する左足ミドルを放ち、南のファインセーブに阻まれるも、再びゲームリズムを取り返します。
輝いた10番。左サイドで杉浦からボールを引き出した森岡は、いつも通りの良い姿勢で運んだドリブルからマークの緩さを見切ると、ゴールまで25m近い位置から右足一閃。強烈なシュートに南もよく触ったものの、森岡が乗せた勢いが勝ると、ボールはそのままゴールネットへ吸い込まれます。30節からスタメンに定着し、終盤戦のチームを牽引した若き10番の追加点。2-0。時間帯も点差も含めてあらゆるシチュエーションが整い、いよいよやってきたその瞬間。
67分58秒、センターラインに立ったのは吉田孝行。杉浦との交替でピッチに登場する17番の姿で、スタジアムのボルテージは最高潮に。「実は昨日から足の状態があまり良くなかったので、だいたい何分行けるかはアップの時に決めた。コーチに20分くらいは行けると言っていた」と試合後に明かした吉田孝行。現役最後の20分間プラスアルファに19年間のすべてを懸けて、ノエスタの芝生へ駆け出します。
73分には左から中央をしっかり見た吉田孝行がピンポイントクロス。小川がダイレクトで繋ぎ、田中はシュートまで持ち込めなかったものの、相変わらずの切れ味にざわめくスタンド。「普段通りと思いながらやっていたが、凄く僕に決めさせようとしていて、無理に出そうとしているのを感じていた」と苦笑したのは吉田孝行ですが、イレブンの想いは1つ。
その想いは「今日の選手たちの戦う気持ちや姿勢は、100パーセント以上のモノを出してやっていたと思う」と北嶋秀朗も感じていたように熊本イレブンも同じ。78分、北嶋秀朗を起点に齊藤を経由し、大迫の右クロスがこぼれると、養父の左足ボレーはクロスバーの上へ。79分には池谷監督も2人目の交替を決断。大迫に替えて、「攻撃のリズムを変えたくて」(池谷監督)起用されたのは堀米勇輝。「サッカーが基本の生活はサッカー選手として当たり前だけど、その当たり前の難しさへ真摯に取り組んでいる所を見て影響を受けた」と大先輩への想いを口にしたレフティも、覚悟を持ってピッチへ飛び出します。
81分は神戸。左サイドに開いたポポは丁寧なクロスを中へ送るも、吉田孝行へはわずかに届かず。84分は熊本。藏川のフィードを矢野大輔が頭で落とし、北嶋秀朗が左足で叩いたダイレクトボレーはクロスバーの上へ。85分も熊本。北嶋秀朗のポストを受けた堀米がドリブルから右へはたき、仲間がシュート気味に蹴ったグラウンダークロスは北嶋秀朗に合わず。90分は神戸。替わったばかりの松村亮が絶妙のスルーパスを通し、フリーで抜け出した吉田孝行のシュートは、しかし南が執念のビッグセーブで阻止。2人に残されたのは3分間のアディショナルタイム。
「本当に幸せなこと」(ポポ)の到来は90+2分。中央で森岡がボールを奪うと、松村が丁寧なスルーパスを左へ。シュートレンジに入ったポポの選択は「僕のためにプレゼントしてくれたような」(吉田孝行)エンジェルパス。主役が左足で流し込んだボールは、一片の迷いもなくゴールネットへ収まります。「『持ってるね。俺とは違うね』と吉田さんに話した」と北嶋秀朗も脱帽した現役生活を締め括るラストゴール。「僕の中ではずっと一緒にやってきたという気持ちが強いので、けじめとして僕が引退するときにはと思っていた」という"3"の数字があしらわれたヘアバンドを付けるやいなや、徳重も含めたイレブンからもみくちゃにされた吉田孝行。「みんなが僕のためにという感じだったので、監督もそうだし、本当にそういうチームメートに感謝したい。このスタジアムの雰囲気は最高でした」という17番が自ら大トリを飾り、2人の偉大なフットボーラーの現役生活が幕を閉じました。
ユニフォームを交換し、話し込む吉田孝行と北嶋秀朗の姿がビジョンに映し出されると、自然と拍手に包まれたスタジアム。すると神戸のゴール裏に現れたのは「キタジお疲れ様」という横断幕。神戸サポーターから巻き起こる北嶋コール。「毎日がいっぱいいっぱいの中でサッカーができていたし、サッカーのことを考えて生きてきたので、それをどうやってプレーに反映していくかとか、そういうことを考えながら生きてきて、だから満足してるんですよ。幸せな気持ちでサッカーやめられるんです」とは言いながらも、涙が止まらない北嶋秀朗。一拍置いて熊本サポーターも叫んだ吉田コール。それに笑顔で応える吉田孝行。クラブの枠を超える一体感が芽生えたノエスタには、2人の去り行くレジェンドが愛した"サッカー"という最高の日常が存在していたと思います。
それは85分のこと。齊藤のクサビを北嶋秀朗がワンタッチで落とし、しっかり受けた堀米がドリブルからスルーパスを繰り出したシーン。一見何気ないプレーのように見えますが、このワンプレーには大きな意味がありました。「ホームの神戸戦の時に、キタジさんのクサビの落としに反応できなくて怒られた」と堀米。北嶋秀朗も「前回の神戸戦の時に『何でそこにサポート取れないんだ』と試合中にキレて、試合後にも話をして、『そこじゃ取れない気がする』ってアイツも言っていたけど、『いや、俺はそのパスを通してきたし、絶対に通るから』と言ったんですよ」と、その時のことをハッキリと覚えていました。翻って今日の神戸戦。「『こういう所に走ってろよ』と思ってパスを入れた」北嶋秀朗のポストを、完璧なサポートで受け取ってチャンスを演出した堀米は、「今日の神戸戦で1本クサビが受けられて、ドリブルで運んでスルーパスで状況を打開できたので、自分が成長できていることは確かだと思う」と手応えを口にし、「同じ神戸戦でそのパスからアイツが学んだというのは、俺も嬉しかった」と北嶋秀朗も笑顔を見せてくれました。そして、そのポストプレーは私自身にとっても、今日の90分間で最も北嶋らしいプレーとして、強く印象に残っているプレーでした。
「公式戦で点が取れなかったシーズンは初めてで今年だけ。引退にふさわしい成績だと思います」と晴れ晴れしく語った北嶋秀朗。1997年に柏へ入団してから、公式戦で積み上げてきた85のゴール。その数字を86に伸ばすことはできませんでしたが、85のゴールを奪った一瞬一瞬とおそらくは等しい熱量で捌いた"85分"のポストプレーを、きっと堀米と私は一生忘れないと思います。「サッカーの神様は基本的に僕に意地悪な人なので」と笑った北嶋秀朗が、サッカーの神様ですら与えられない数々のモノを我々へ遺してくれたことに感謝しつつ、心からの「お疲れ様」を贈ります。          土屋

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