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このブログについて

J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2013年11月16日

高校選手権東京A決勝 成立学園×修徳@西が丘

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nishigaoka1116①.jpg最初の敗者が決定したのは、まだ蝉の輪唱が幾重にも鳴り響き続けた8月13日。それから約3ヶ月の時を経て、最後の敗者と唯一の勝者が決まる最終決戦。ファイナルの舞台は、説明不要の聖地・西が丘サッカー場です。
8年ぶり3回目の全国を目指すのは成立学園。今シーズンから再び指揮を執り始めた太田昌宏監督が、新チーム立ち上げ時に掲げた目標は「日本一を目指そう」。最初はその響きに共鳴を覚え切れなかった選手たちも、「練習から手を抜かずに100%でやる」ことを続けた結果が、PK戦を3試合続けて勝ち取ったインターハイの全国大会出場。「成立自体にちょっと足りなかった部分」(太田監督)を手に入れ掛けているチームにとって、ラストピースを埋めるのは今日の勝利に他なりません。
一方、2年連続9回目の東京制覇に王手を懸けているのは修徳。昨年はインターハイ予選、選手権予選と堂々の東京2冠を達成。今年も関東大会予選、インターハイ予選と共にベスト4まで進出するなど、トーナメントでの強さは伝統の安定感。今大会も「ウチがボールを持つ時間が長いゲームが3試合続いた」(岩本慎二郎監督)中でも結果を出し続け、先週の準決勝では東海大菅生に「相当練習しているので、それでも何とか勝つんだと言い続けてきた」(岩本監督)PK戦で見事に勝利。東京連覇へはあと1つの勝利のみです。バックスタンドを彩る両校の応援団にとっても、この一戦は唯一無二。東京最強は果たしてどちらか。最後の1試合は、成立のキックオフでその幕が上がりました。
キックオフシュートで立ち上がったゲームは、お互いにやや慎重なスタート。5分は成立。浦上吏騎(3年・FC古河)が裏へ落とし、バウンドを合わせた深尾春輝(3年・FC杉野)のヘディングは修徳GK高橋太郎(3年・すみだSC)がキャッチ。7分も成立。浅野裕永(3年・鹿島アントラーズつくばJY)がFKを獲得すると、ゴールまで約25mの距離から直接狙った根本凪人(3年・成立ゼブラFC)のキックはわずかにクロスバーの上へ。まずは成立が手数を繰り出します。
10分を過ぎると、最終ラインを中心にボールを握り始めたのは成立。ドイスボランチの一角を務める金子拓矢(3年・ジェフユナイテッド千葉U-15)が低い位置まで落ち、ビルドアップに関与することでパスの本数は増えたものの、修徳もCBの田中拓夢(3年・Wings U-15)と渡邉黎生(3年・LARGO.FC)を最終ラインに鎮座させ、その前に位置する池田晃輔(3年・埼玉ユナイテッドFCフェスタ)と久保祐貴(3年・習志野第一中)のドイスボランチも加わって、中央にはパスを通させず。13分には成立も右SBの吉田将也(2年・成立ゼブラFC)が浅野とのワンツーからエリア内へ潜るも、シュートはヒットせず。16分にも根本が入れた左CKから、浅野とCBの内田悠磨(2年・東松山ペレーニア)が絡んでチャンスを創るも、最後は高橋がキャッチ。決定的なシーンまでは持ち込めません。
27分も成立。山本涼太(3年・東川口FC)が左へ振り分け、中村諒介(3年・武南ジュニア)が縦に持ち出しながら上げたクロスは、ファーで今野尚也(3年・GOODLY)が何とかクリア。30分も成立。深尾のラストパスを浅野はエリア内で引き出すも、切り返しに体を投げ出した峰和也(3年・Wings U-15)は粘って何とか危機回避。ボールの回りや攻撃の回数を考えれば成立リズム。ただ、凌いでいる中で守備が研ぎ澄まされていくことを考えれば修徳リズム。すると、一瞬の煌きを放ったのは後者の10番。
32分、左サイドで今野が中に付けると、受けた田上真伍(3年・FC東京U-15深川)は加藤禅(3年・柏レイソルU-15)へ。その加藤がワンタッチで返すと、「相手の寄せもキツくはなかったので、狙ってやろうというのはあった。イメージ通り」という田上が閃いたのはトーキック。爪先でつつかれたボールはゴール右スミへ飛び込みます。ケガの影響から準決勝も途中出場と、「今までエースとか言われてきたんですけど、何もエースらしいプレーができていなかったので、今日はやってやろうという気持ちがあった」と語った"エース"の、元ブラジル代表のロナウドを髣髴とさせるスーパーな一撃。ワンチャンスを生かした修徳が1点をリードして、最初の40分間は終了しました。
後半も勢いよく飛び出したのは修徳。42分にエリア内で粘った田上の左足シュートはクロスバーの上へ消えましたが、44分にも田上、小野寺湧紀(2年・荒川第五中)と回し、久保が狙ったミドルはクロスバーの上へ。45分には渡邉が素晴らしいパスカットからそのまま持ち上がり、田上が右へ付けると、佐藤悠輝(3年・FC東京U-15深川)のシュートは成立GK中座大輔(3年・ソシエタ伊勢FC)がキャッチしたものの、2点目への意欲を前面に打ち出します。
太田監督の決断は46分。「流れ的にボールは回しているんだけど、裏がなかったり、シュートがなかったりした」展開を打破するため、根本に替えて切り札の町田ブライト(2年・鶴ヶ島南中)を早くも最前線に投入。深尾を右SHにスライドさせて、縦への推進力を高めに掛かります。ところが、次に魅せたのもディフェンディングチャンピオン。
50分、カウンター気味に左サイドでボールを運んだ田上はショートパス。中央へ入っていた佐藤が左へ送ると、ここにいたのは小野寺。少し縦にドリブルした小野寺が左足を振り抜くと、ボールはゆっくりと、確実に右スミのサイドネットへ転がり込みます。スタメン唯一の2年生が、この舞台で堂々たる大仕事。「先に1点取って、カウンターで2点目までいって、そのまま逃げ切るというのが従来のウチ」とは岩本監督。まさに勝ちパターン。リードが広がりました。
さて、「取りにいくしかなくなった」(太田監督)成立は2人目の交替に着手。深尾を下げて、こちらも切り札のレフティ上田悠起(2年・成立ゼブラFC)をピッチへ解き放ち、町田と共に「フィニッシュまで持っていくような、スルーパスだったりシュートだったりという所」(太田監督)に期待しつつ、まずは1点を返しに打って出ます。
実った指揮官の采配。58分に町田が粘って奪った左CK。上田が放り込んだキックを中村が拾うと、山本は左へリターン。待っていた上田が躊躇なくトライしたクロスへ、全身で飛び込んだ浅野のヘディングが捉えたのは左スミのゴールネット。「いつもだったら0-2で終わっていたかもしれない」と正直に話した太田監督が、1年間掛けて創り上げてきた今年のゼブラはこれが真骨頂。1-2。たちまちスコアは1点差に縮まりました。
「1点取られると相手も強いのでノッてくるというのはあった」と池田が話した修徳。64分にはカウンターから小野寺が右へ回し、加藤が掴みかけた決定機は、全力で戻った山本がスライディングタックルで回避し、3点目は奪えず。66分は成立。山本のフィードを浅野が落とし、中村が打ったシュートは峰が体でブロック。67分には修徳が加藤と関秀太(3年・スクデット)を入れ替えましたが、68分も成立。左から上田が投げたロングスローを、ニアで浅野がフリックするも高橋がキャッチ。69分も成立。上田の左ロングスローから、クリアを拾った中村の好クロスは高橋がキャッチ。71分には両チームに交替が。成立は中村と河上知樹(3年・FC杉野)を、修徳は佐藤と雪江悠人(2年・修徳中)をそれぞれ入れ替え、残すは10分間とアディショナルタイム。
待っていた天国と地獄。75分、左から上田がロングスローを投げ入れ、金子が放ったミドルは今野が体を投げ出して阻止したものの、切れなかった流れの中から再びボールは上田の足元へ。バウンドを整えて得意の左足を振り抜くと、GKから逃げていく軌道が吸い込まれたのは左スミのゴールネット。成立!成立!2-2。同点。
77分、右のハイサイドで押し込んだ流れから浅野がフワリと縦へ。町田が力強く収めて落とすと、その持てる力を振り絞って前線まで駆け上がってきた内田のミドルは、まるで勝利の女神に魅入られたかのようなスピードとコースで、ゴール右スミへ突き刺さります。成立!成立!2-3。逆転。「あの展開でイケイケになった状態」(太田監督)を一気に引き寄せた成立の連続ゴール。優勝へのゴールテープを切るための順序は、わずか3分間で劇的に入れ替わりました。
「2-0というのはセーフティリードだと思っているのに、3点取られちゃった」(岩本監督)修徳。指揮官が放った最後の一手は79分。右SBの峰を下げて、本来はCBのレギュラーを務めていた負傷上がりの大野翔平(3年・クリアージュ)をCBへ投入。池田を右SBへ、そしてCBの渡邉を最前線にスライドさせ、成立と無慈悲に刻まれる時間との勝負に挑みます。80+1分は修徳。雪江のパスから渡邉が放ったミドルはゴール左へ。掲示されたアディショナルタイムは3分。「正直行けたかなというのはあった」と太田監督。
修徳は死なず。80+2分、センターサークル付近で得たFK。キッカーは「自分のミスで3点目はやられたので、あそこはいいボールを蹴って得点を決めなくてはいけない所」という覚悟でスポットに立った田上。「いいボールを蹴ることだけに集中した」10番のFKがゴール前を襲うと、懸命に頭を伸ばしてクリアしようとしたDFに当たったボールはゴール方向へ。左のポストを叩いた球体は、そのままゴールネットへ飛び込みます。「運が悪いとも言えるけど、そういうモノが西が丘にはあるし、そういうモノを修徳は持っている」と敵将も脱帽した修徳の執念。3-3という信じられないスコアで、終了のホイッスルを聞いた所定の80分間。竜虎相譲らず。サッカーの神様ですら想定できないような激闘は、前後半10分間の延長戦へとその決着が持ち越されました。
スタンドのざわめきも覚めやらない中で、迎えた延長戦半のキックオフ。修徳はスタートから足を攣らせながら奮闘した田中を田原迫隼人(2年・Forza'02)と交替させ、池田をボランチに、渡邉をCBにそれぞれ戻し、田原迫は右SBへ。「守備の所をもう1回安定させよう」(岩本監督)という明確なプランで最後のカードを切り終えます。
81分には浅野がミドルで延長のファーストシュートを記録しますが、以降は運動量で上回った修徳に勢い。83分、カウンターから小野寺が粘り、雪江が左から入れたクロスは中座が何とかキャッチ。88分、左から今野がクロスを送り、3回続けて狙ったシュートは、3回続けて成立DFも体でブロック。ジワジワと押し込むのは「やることは変わらない」(池田)白の勇士。
その時は93分。右サイドで池田が粘って縦へ付けると、ボールを引き出した関は中へ。「足はキツかったが、秀太は1対1でも1対2でも全然やれていたので、あそこは出さなきゃいけなかった」という田上が気持ちでリターン。受けた関は加速して加速してマーカーを振り切ると、目の前に開けたのはGKとゴールのみ。この極限下で関が選択したのは、小憎らしいまでに冷静な右足アウトサイドでのフィニッシュ。GKの手を掻い潜ったボールが到達したのは左のサイドネット。「普通のヤツじゃ決められないと思う」と岩本監督も珍しく絶賛した一発は、このゲーム2度目の逆転弾。再び修徳が1点のリードを手にしました。
いよいよ追い込まれた太田監督は、PK戦を想定して残していた最後のカードを送り込む決断を。「取りに行かなきゃいけなかったので、1年間頑張ってきた丸を出した」との言葉通り、こちらも足を攣らせながら気持ちでピッチに立っていた荷平に替えて、丸紘生(3年・ジェフユナイテッド千葉U-15)に全てを託します。
諦めない成立のラストチャンス。100+2分、チームに数々の奇跡をもたらしてきた上田が左足でFKを蹴り込み、懸命に町田が残したボールに飛び込んだのは丸。ゼブラ軍団の想いを乗せたシュートはわずかにクロスバーの上に外れ、結果的にはその前のオフェンスファウルを主審は取っていたものの、「今までウチが持っていなかったものを、少しは今年のチームで変えられたかなというのはある」と太田監督が話した部分を最後まで表出。それでも西が丘の青空へ吸い込まれた音色は、連覇を告げるホイッスル。「応援だったり、最後まで諦めない気持ちだったり、そういう単純なことであそこまでできたんじゃないかなと思う」と池田も振り返った修徳が壮絶なファイナルを制して、全国切符を勝ち取る結果となりました。
「技術や戦術を超えたものが、このピッチの中にあった」という太田監督の言葉通り、東京の1年間を締め括るにふさわしいファイナルだったと思います。「やっぱり2失点を3得点で跳ね返せるという力は相当」と岩本監督が成立を称えれば、「粘り強さや堅守速攻もわかっていて、あれだけ対策を練っていてもやられてしまう。それは彼らのいい所なんでしょうね」と修徳を評したのは太田監督。勝敗を分けたのは、間違いなくほんのわずかな"運"だったと言っていいのではないでしょうか。「西が丘のこの雰囲気と、全国に行くという高校サッカーの雰囲気というのが垣間見えましたね」という言葉を口にして、会場を後にした太田監督。後世に語り継ぐべき"雰囲気"が、確かにこの100分間の西が丘にはありました。       土屋

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