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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
抱き続けてきた夢と確かな現実の入り混じった晴れ舞台。東京の覇権に王手を懸けるセミファイナル4番勝負。Aブロックの第1試合は聖地・西が丘です。
混戦のインターハイ予選を制し、久々に全国の空気を吸った成立学園。そのインターハイ予選では全国出場権を獲得する準決勝まで、3試合連続でPK戦をモノにするなど、ある意味では"らしくない"粘り強さを発揮できるのが今年の強みであり、準々決勝でも激しい雨の中、ディフェンディングチャンピオンの実践学園を激戦の末に下し、ここまで勝ち上がってきました。
対するは「やっていて面白いサッカーをやりたい」と川島純一監督が明言している通り、高い個人技をベースに攻撃サッカーを貫く東海大高輪台。インターハイ予選ではPK戦で敗れたものの、名門・帝京と互角以上に渡り合い、そのゲームから夏以降の課題も抽出。迎えた今大会も堀越、高輪と実力校を苦しみながらも撃破して、この舞台まで駆け抜けてきました。西が丘は選手にとっても、そして応援する側にとっても特別なステージ。両チームの応援団が大声援を送る中、成立のキックオフでセミファイナルの火蓋は切って落とされました。
ファーストシュートは成立。3分、左SBの浦上吏騎(3年・FC古河)がクロスを送り、逆サイドから飛び込んだ根本凪人(3年・成立ゼブラFC)のヘディングはヒットせず、高輪台GK砂田政和(3年・東海大高輪台中)にキャッチされましたが、7分にも浅野裕永(3年・鹿島アントラーズつくばJY)がうまく落とすと、深尾春輝(3年・FC杉野)が枠の左へ外れるボレーにトライ。青のゼブラが積極的に飛び出します。
さて、9分には左サイドで相手のボールを奪い返し、伊藤竜之介(3年・ヴェルディSS調布)が成立GK中座大輔(3年・ソシエタ伊勢FC)にファインセーブを強いるミドルを放った高輪台は、川島監督も「最初は緊張していた訳じゃないけど、構え過ぎちゃいましたよね」と話したように、いつもより多かったアバウトな長いフィードもマイボールへと効果的に繋げられず、攻撃が単発に。13分に左から小山拡志(3年・インテリオールFC)が入れたCKも中とは合わずゴールキックへ。なかなか自分たちの時間を創れません。
逆に「初めはちょっと長いボールも多かったので、サイドを使おうと言った」と太田昌宏監督が話した通り、10分過ぎからは左の中村諒介(3年・武南ジュニア)の推進力も目立ち始めた成立が、さらに強めた攻勢。20分には浅野がドリブルでエリア内へ侵入し、最後は高輪台のCBを務める宮下諒也(3年・Y.S.C.C.)の的確なカバーリングにシュートは打てませんでしたが、21分には深尾が左へ付けると、中村がゴリゴリ運んで砂田にキャッチされる枠内ミドル。「サイドが使え出してからはウチのリズムになった」と太田監督。広がるゴールへの可能性。
23分には高輪台も、キュンキュン系ドリブラーの荒川真作(3年・FC駒沢)が得意のドリブルからスルーパスを繰り出し、エリア内へ潜った伊藤が前を向きましたが、成立の右SB吉田将也'(2年・成立ゼブラFC)がしっかり対応してクリアすると、ほどなくして動いたスコア。24分、右から根本が蹴り込んだFKへ飛び込んだ浅野は、マーカーより頭1つ分は高い打点からヘディングシュート。ボールはゴール右スミへゆっくりと吸い込まれます。10番を背負ったエースがこの大一番でさすがの先制弾。成立が1点のアドバンテージを獲得しました。
畳み掛けるゼブラ。28分、吉田、金子拓矢(3年・ジェフユナイテッド千葉U-15)、浅野と回し、ルーズボールに反応した吉田のミドルはクロスバーにヒット。30分、根本が右へ流し、浅野がエリア内へ入るも、高輪台の左SB後藤優一(2年・品川大崎中)がタックルで回避。32分、最終ラインの深い所で高輪台ディフェンスにミスが出ると、かっさらった深尾のシュートは無人のゴールへ向かうも、ボールは右のポストにヒット。際どいシーンを連続で生み出します。
すると、ゲームに大きな影響を与えるジャッジが下されたのは33分。成立はボランチの山本涼汰(3年・東川口FC)がスルーパスを繰り出し、抜け出した浅野が独走。やや判断が遅れたGKが飛び出してタックルを敢行すると、交錯した浅野は転倒します。場所はエリア外。微妙なシーンに現場では見えましたが、小梢正道主審が提示したカードの色はなんと赤。「ちょっと正直厳しいなという判定」と敵将も言及したものの、当然とはいえジャッジは絶対。高輪台は残りの60分近くを1人少ない人数で戦うことになりました。
この苦境に川島監督は、1トップ下でスタメンに抜擢された野村浩輔(1年・FC東京U-15深川)に替えて、リザーブに入っていたGK安斉優太(2年)を投入。「0-1で粘ろうという腹づもり」でシステムも0トップ気味の4-2-3にシフトして、まずは前半を凌ごうという意図をピッチへ注入すると、35分には右寄り、ゴールまで約30m近い位置から根本が枠に飛ばしたFKは、入ったばかりの安斉がファインセーブで阻止。その後も宮下と広瀬滉大(3年・FC駒沢)を中心に相手の攻撃をかわしながら、37分には金子真彦(3年・川口戸塚西中)が中央から惜しい直接FKを放つなど、反撃の手数まで。成立も39分には金子が、40+1分には浅野がそれぞれ枠外シュートを繰り出すも、「前半最後の所でカウンターが出て、いいイメージで終わってきた」とは川島監督。さまざまなことが起こった前半は、1-0で成立がリードしてハーフタイムに入りました。
後半のファーストシュートも成立。42分、左スローインから最後はこぼれを浅野が強引にボレー。ボールは大きく枠の左へ外れましたが、43分にも右から根本が蹴ったFKはゴール前で混戦になり、高輪台が何とかクリア。勢いは持続されるかと思われた立ち上がりを経ると、しかしゲームリズムは「たぶんメンタル的にも吹っ切れたんでしょうね」と川島監督が振り返った黄黒の縦縞へ。
47分、CBの宮下が右サイドから縦に素晴らしいフィードを送ると、駆け上がった小山は中央へグラウンダークロス。密集の外にこぼれてきたボールを金子が叩き、その軌道はわずかにゴール左へ逸れたものの、10人の高輪台がこのゲームで初めて決定機を創出。49分には左サイドのアタックからCKを獲得すると、直後のチャンスも左から。相手のボールを高い位置で奪った伊藤がクロスを上げ切り、DFのクリアを豪快にミートした金子のボレーは中座がファインセーブで回避。52分にも阿部駿佑(3年・GRANDE FC)が繋ぎ、金子真彦のミドルは枠の右へ。「左サイドで勝負を懸けていた」(川島監督)「前半は右SBと右SHで守備できてたけど、後半は運動量が落ちたことで1対1になる場面が多かった」(太田監督)と2人が揃って言及した通り、にわかにホットゾーンとなった高輪台の"左"。
52分には成立も右サイドを根本がえぐり、中央に戻したボールを山本が狙ったシュートは宮下が体でブロック。55分は高輪台。またも左に開いた伊藤が縦に抜け出し、クロスに飛びついた荒川のヘディングはシュートまで至らなかったものの、「後半はこの子たちのイケイケが随所に見えた」と川島監督。中盤のキーマン吉野崚平(3年・川口在家中)のボールタッチも増え始め、消えた人数の優位性。
次に生まれたゴールは"左"から。ただし、成立の。57分、浦上から左サイドでボールを受けた中村は、迷いなく中央へ突き進むと、ミドルレンジから思い切ってフィニッシュ。安斉も懸命に飛び付きましたが、ゴール右スミへ一直線に飛び込んだボールの着地点はゴールネット。「2点目が入るまでがなかなか遠かったので、取ってくれてちょっと安心した」とは太田監督。後半最初の決定的なチャンスを成果へ結び付けた青のゼブラ。点差が広がりました。
動いたスコアに、動いた両ベンチ。58分は成立。攻守に奮闘した根本に替えて、送り込まれたのは河上知樹(3年・FC杉野)。「河上は守備よりも攻撃の選手なので、逆にあのサイドで主導権を握りたいなという形で入れた」と太田監督。やられていた"左"対策に着手します。60分は高輪台。中盤を支えた吉野と阿部を下げて、送り出したのは三ヶ尻京平(3年・GRANDE FC)と渡邊夢大(2年・FCトリプレッタ)。「0-2になったので、試合を壊しにいった感じ」と川島監督。"3"のワイドに位置した荒川と伊藤がドイスボランチに落ち、右に渡邊、左に三ヶ尻を配置。実質FW5人を攻撃的なポジションに並べて勝負に出ます。
65分は成立。河上が左から入れたCKのこぼれを山本が拾い、浅野の枠内ミドルは安斉が好セーブ。直後のCKも河上が蹴り込み、CBの荷平雅史(3年・アルビレックス新潟JY)が合わせたヘディングはDFがブロック。右、左と続いた河上のCKも、決死のクリアで凌ぐ高輪台。69分にはその高輪台も左CKを小山が蹴ると、ニアに潜った金子のヘディングは惜しくも枠の左へ。縮まらないスコア。ゲームはいよいよ最後の10分間へ。
この時間帯に目立ったのは成立守備陣の安定感。「インターハイの時は結構ゴール前で粘って守ることが多かったけど、それから修正してうまくラインをコントロールして対応できるようになった」とは太田監督。荷平と内田悠磨(2年・東松山ペレーニア)のCBもきっちりプッシュアップを繰り返し、「あの子が本当に攻守に中心になって、リーダーシップを取ってできるようになった」と指揮官も信頼を口にした金子と山本のドイスボランチもそこに連動。さらに懸案の右サイドも「あそこから起点になって攻撃できていた」(太田監督)ことで、相手の選手交替以降はほとんど自由にやらせず。時間を確実に潰していきます。
73分は成立。4分前に浅野との交替で入った町田ブライト(2年・鶴ヶ島南中)が右へ運び、ループ気味に狙ったミドルは安斉がキャッチ。75分は高輪台。金子が持ち味のポストプレーを発揮し、渡邊が右から上げた高速クロスはDFが確実にクリア。76分は成立。河上の左CKに、荷平が飛び付いたヘディングはクロスバーの上へ。78分も成立。町田がスルーパスを操り、中村が放ったシュートはゴール右へ。しっかりと攻める姿勢を押し出しながら、着実に引き寄せていく歓喜の瞬間。
「サッカーを楽しむヤツら」(川島監督)の象徴とも言うべき、2人のフィニッシュワークは80分。荒川がエリア内で粘って粘って、何とか繋いだボールを、金子が得意の左足で打ち切ったシュートはわずかに枠の左へ外れ、これが数的不利の中で果敢に戦い抜いた高輪台のラストシュート。西が丘を切り裂いたタイムアップのホイッスル。「誰が出てもという所で競争心もあるし、誰が出ても安定してプレーができるようになっている」と太田監督も話した成立が終わってみれば磐石のゲーム運びで、4年ぶりのファイナルへ駒を進める結果となりました。
成立はあらゆる意味で"強い"チームになった印象です。それはピッチ上での攻守はもちろん、メンタル面も含めて。特に後半の序盤に強いられた苦しい展開にも、動じる様子は一切なし。「今年の選手は本当にマジメで、応援の生徒も凄く1つになってこれている」という太田監督の言葉にも頷ける、チームとして勝負所で発揮する一体感は近年の成立でも屈指のレベルではないでしょうか。「歴史を変えていかなくてはいけないというのは選手にも言っている」と太田監督。歴史の変わり目は、すぐそこまで迫っています。
前半での数的不利というハンデを負いながら、それでも高輪台は"らしさ"の一端を見せてくれました。「やっていて面白いサッカー」というスタイルを掲げ、今年の東京を彩ってくれた攻撃的なサッカーは見事の一言。結果的に見ている者をも魅了していった彼らの輝きは、決してこの1試合だけで色褪せるものではありません。高輪台の今年にはここでひとまず区切りが付きますが、彼らが貫いた"らしさ"に心からの拍手を送りたいと思います。 土屋
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