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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2013年10月12日

Jユースカップ予選リーグGグループ 湘南ユース×松本U-18@馬入

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banyu1012.jpg遥かなる長居へと続く道の第一歩。2013Jユースカップ 第21回Jリーグユース選手権大会、通称"Jユースカップ"のオープニングマッチは季節外れの真夏日となった馬入です。
プリンス関東2部から無念の降格となり、今年は神奈川県の1部リーグに当たるKSリーグを舞台に戦うこととなった湘南ユース。Jの下部組織や桐光学園、桐蔭学園などのプレミア、プリンス勢を除いても、川和や日大藤沢、湘南工科大付属といった強豪がひしめくリーグの中で、現在は下位に低迷するなど厳しい戦いが続いています。3年生にとっては最後の公式戦となるのがこの大会。「最近は攻撃の形や流れや、イメージの共有が凄くできてきた」と石川隆司監督も手応えを掴みつつある中で、京都U-18や横浜FMユースなど、大会の優勝候補にも挙げられるような難敵がひしめくグループを考えると、まずはきっちりと勝ち点3を獲得しておきたいのが今日の開幕戦です。
今年は県3部リーグで2位という好成績を叩き出し、夏のクラブユース選手権でも北信越予選で優勝した富山U-18に惜しくも1点差で敗れるなど、着々と実力を付けつつある松本U-18。今年から監督には鳥栖や横浜FCでトップチームを率いた経験を持つ岸野靖之氏を招聘。昨年は無得点での予選リーグ敗退を余儀なくされたこの大会で、新たな歴史を築くべく、初戦のアウェイゲームに臨みます。前述したように、会場は秋晴れと言うより真夏とも表現できそうな29.1度の馬入。両サポーターの熱い応援合戦が繰り広げられる中、松本のキックオフでゲームはスタートしました。
「彼らなりにテンション高く入ったと思う」と岸野監督が振り返ったように、立ち上がりから勢い良く飛び出したのは松本。4分には小松蓮(中学3年・諏訪市サッカー少年団)が果敢なプレスで奪ったCKを、右から篠原貫太(2年・SS CANTERA)が蹴り込み、オフェンスファウルにこそなったものの、いい形でのファーストチャンスを創出。6分にも篠原の右CKから、こぼれを山寺優作(1年・M.A.C SALTO JY)が拾って右へ付け、篠原のクロスは惜しくもゴールキックへ。さらに9分にも、この試合3本目となる篠原の右CKをニアで高橋晟弥(1年・FC THINKERS)がフリック。最後はDFにクリアされましたが、右のハイサイドを生かしたアタックで攻め込みます。
ただ、先にゴールを陥れたのは「テスト期間とかあって、選手が全然出てこれなかったので、最初は体が重かったりだとか、うまくいかないのは予想していた」と石川監督も冷静に流れを見ていた湘南。11分、ショートカウンターから右サイドを中隈英次(2年・秦野FC)が抜け出して、そのままクロス。密集をすり抜けたボールは、ファーへしっかり詰めていた鈴木達朗(2年・湘南ベルマーレU-15平塚)が丁寧なシュートでゴールへ送り届けます。ゲームのファーストシュートがそのまま先制点に。少し押し込まれていたホームチームが1点のリードを奪いました。
攻勢の中で失点を喫し、追い掛ける展開を強いられた松本でしたが、出足の良さは衰えず。18分には篠原の左FKがこぼれた所に、いち早く反応した中村亮太(1年・FC ASA FUTURO)のボレーはクロスバーの上へ。22分にも篠原の右FKから、こぼれを池上雄太(2年・松本山雅FC U-15)がボレーで叩いたミドルはクロスバーの上へ。シュート数でも相手を上回るなど、同点への意欲を前面に打ち出します。
ところが、26分に相手DFのクリアを拾った佐藤尚輝(2年・湘南ベルマーレU-15平塚)が、カットインから枠を越えるミドルを繰り出したあたりから、徐々にボールをしっかり回しながら、右の中隈、左の佐藤とワイドのアタッカーが一層躍動し始めた湘南が一気に強めた攻勢。29分には左FKの流れから佐藤が繋ぎ、中隈が角度のない位置から放ったシュートはクロスバー直撃。33分にも右に開いたボランチの久保拓道(1年・鎌倉深沢中)がクロスを放り込み、左SBの藤井龍(2年・湘南ベルマーレU-15平塚)が中へ戻すと、鶴見由春(2年・湘南ベルマーレU-15平塚)のミドルはわずかに枠の左へ外れましたが、松本陣内でのプレー時間が着実に増えていきます。
すると、35分に記録されたのは追加点。右SBの高橋広大(2年・湘南ベルマーレU-15平塚)が中へ送り、受けた久保はそのまま左へスルーパス。佐藤は目の前に狭いスペースを見い出すと、少し運んでDFの隙間からフィニッシュ。ボールはゴール右スミへ綺麗に吸い込まれます。さらに37分には、畳み掛けて奪った3点目。右から高橋が入れたCKは、ニアを通過してそのまま中央へ。混戦の中で押し込んだのはCBの宮下航輔(2年・湘南ベルマーレU-15平塚)。「1つ何かのきっかけがあれば、ゲーム中にもああいう展開になるだろうなとは思っていた」と石川監督。45+2分に掴んだ佐藤の決定機は、松本CB古市真也(2年・松本山雅FC U-15)が決死のブロックで回避しましたが、それでも両者の間に横たわる点差は小さくない3点。完全にゲームリズムを手にした湘南がリードして、前半の45分間は終了しました。
後半はスタートから両者に交替が。石川監督はCFの吉沢駿也(1年・SC相模原JY)を下げて、「凄く調子が良くて、凄く意欲的に前向きにやってくれていたのでチャンスを与えようと」古木蓮(1年・湘南ベルマーレU-15平塚)を投入。一方の岸野監督も立ち上がりは推進力を見せていた塩野崎貴史(2年・松本山雅FC U-15)と小松に替えて、伴勇(2年・松本梓川中)と塩原健(1年・松本山雅FC U-15)を投入。塩原は地元の先輩でもある塩沢勝吾のチャントに送られて、ピッチへ解き放たれます。
いきなり目立ったのは「立ち上がりは凄くいい入りをしましたね」と岸野監督も認めた伴。47分には篠原からのパスを引き出すと、その伴がうまくDFの門を通すラストパス。3列目から飛び出してきた中村のシュートは、2種登録選手でもある湘南のGK南翔太(3年・南足柄中)のファインセーブに阻まれたものの、49分にも池上を起点に伴が左へラストパス。高橋佳汰(1年・松本山雅FC U-15)のミドルはクロスバーの上へ消えるも、交替で入ったばかりの伴が2つのチャンスに絡み、後半もスタートは松本が前へのパワーで上回ります。
それでも一発で仕留めた追加点は53分。中央から佐藤がトライしたスルーパスはGK、DF、古木のちょうど中間地点あたりにコントロール。もつれたボールが選んだ着地点は古木の足元。無人のゴールへ確実に流し込んだシュートは4点目。試合の大勢を決する1点が湘南に入りました。
諦めなかった、折れなかった岸野チルドレン。失点直後の54分、湘南DFからGKへのバックパスが少し弱くなった所を見逃さず、全力でプレッシャーを掛けたのは高橋。最前線でなかなかボールが回ってこない状況でも、集中力を切らさずに守備へ奔走した小柄な16歳が視界に捉えたのは、目の前のボールと誰もいないゴール。正面から打ち込んだ堂々たる一撃。少なくないサポーターが狂喜乱舞する横で、松本のスコアボードに"1"の数字が踊ります。
以降は再び、石川監督も「後半のアレをベースにした中で、もっと精度を上げて、ミスを減らしたり、そこの量を増やしたりしたい。あの"ボールが動きながら"というのは、トップチームを参考にしている部分が出た」と一定の評価を口にしたように、素晴らしいアイデアの攻撃を数多く創った湘南のラッシュ。58分、右から入れた高橋のクロスに、途中出場の新井泰貴(1年・湘南ベルマーレU-15)が飛び込み、一旦はGKに防がれたものの、きっちり押し込んで5点目。76分、GKの南が蹴ったボールは裏へそのまま届き、新井が独走からGKを冷静にかわして流し込み6点目。この時間帯は1トップ下に並んだ古木、寺久保辰哉(1年・シュートJY FC)、新井の3人が高い技術を生かして、躍動感のあるコンビネーションを披露。その中でも確実にゴールを取り切る力強さも見せてくれました。
林拓実(1年・松本山雅FC U-15)と古市のCBを中心に何とか耐えながら、1点ずつ返していきたい松本の活路は、やはりセットプレー。86分には伴のドリブル突破で獲得したFK。左から成瀬和弥(1年・FC BOASORTE)が放り込んだボールは南がしっかりキャッチ。88分、唐澤真三郎(1年・M.A.C.SALTO JY)が蹴った左FKに、塩原が飛び込むもわずかに届かず。90+1分、ここも唐澤が蹴った右FKはDFがクリアで凌ぎ、これ以上スコアは動かず。「単刀直入に言うと、もっとできなかったかなという所が大きかった」とは石川監督ですが、緊張感も抱えた初戦で6ゴールを挙げた湘南が、勝ち点3を幸先良く掴み取る結果となりました。
湘南は改めていい環境だなと。それは公式記録の250人という数字が大袈裟ではないくらいに集まった観衆もそうですし、石川監督や田村雄三コーチを筆頭にしたコーチングスタッフと選手の距離感も含めて。特に石川監督は、この日も試合を見守っていたトップチームのチョウ・キジェ監督がユースを率いていた時のコーチでもあり、「遠藤航とか古林将太とかをチョウさんは1年生からどんどん使っていて、僕は彼らがそこで伸びていくのを横で見ていた」とのこと。当然、南やキャプテンの中川大介(3年・湘南ベルマーレU-15平塚)という3年生を軸に置きながら、1年生や終盤に登場して積極的なミドルにもチャレンジした斉藤未月(中学3年・湘南ベルマーレJr)など、どんどん下級生を起用していく方針も明確。「勝ち負けも大事だけど、使って経験させて、失敗させて、もう1回向き合わせてというのを繰り返させないと、やっぱりトップには近付かないなと思っている」(石川監督)というポリシーの下、多くの選手にチャンスが与えられる環境は、クラブの伝統になっているのだなと再認識させられました。
松本で印象的だったのは岸野監督の立ち振る舞い。鳥栖や横浜FC時代の、テクニカルエリア最前列で選手を鼓舞し続ける姿が目に焼き付いている方も多いと思いますが、このゲームではほとんどベンチに座りっぱなしで指示も最小限。この日の馬入に訪れていた方の中でも、そうだと言われなければ松本を率いているのが岸野監督だとは気付かなかったはずです。そのことを問うと、「彼らが本当に自分たちで考えて、実際グラウンドに立ってやらなくてはいけなくなった時に、何を感じたかというのが凄く大事で、本当にわかったのか、わからないままで終わったのか、色々あると思いますけど、それも含めて僕は良かったと思うので、『次は右だ、次は左だ、前へ行け』というのは言わないように我慢しています」とのこと。「実際僕が言って色々やった方が結果は出るんですよ。やっぱりいいゲームができるんですけど、それは言わなくてもできるようにしていかなくてはいけない」のだと。
スタンダードを上げるための我慢。松本の選手たちが必死の想いで奪った1点は、「これがストレスとかって言っていたら、やっていられないと思う。これを笑えるくらいでやっていかないと」と実際に笑いながら話してくれた岸野監督の想いに応える、貴重な1点だったと私は解釈しました。「全ての面でまだまだ。やり続ける努力や忍耐力もまだまだ低いですけど、彼らの一番の強みは素直。本当に素直です。だから僕は伸びしろはあると思います」と語る指揮官。信州、松本の地で始まった55歳のチャレンジが、"伸びしろ"をどこまで目に見える成果へ昇華させてしまうのかに、とてつもなく大きな期待をしてしまうのは私だけではないはずです。          土屋

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