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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2013年09月30日

J2第35節 京都×長崎@西京極

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kyoto0929.jpgその差はわずかに勝ち点1。日本文化の象徴とも言うべき古都の3位と、異国情緒溢れる港町の5位が、昇格プレーオフ圏内に位置しながら、この終盤戦で対峙する舞台は初秋の西京極です。
悪夢の3連敗から、1つの引き分けを挟んで現在3連勝。順位も3位へと浮上するなど、再び昇格に向けてのエンジンが掛かり始めた感のある京都。昇格プレーオフでJ1への道を絶たれた昨年のリベンジを果たすために、用意すべき舞台は当然西京極。この順位を確保するためにも、直接のライバルを確実に蹴落としておきたい一戦です。
ここまで積み上げてきた勝利の数は京都とまったく同じ16。G大阪を撃破しての3連勝後、現在2連敗中ではあるものの、5位をキープしているのはJリーグ1年生の長崎。「僕自身も今シーズンは残留を最大限の目標にしていたが、何が起こったのか分からないですけど」と笑うのは高木琢也監督ですが、この快進撃が"サプライズ"と捉えられていたのはもはや昔の話。今や誰もが認める昇格候補として残り8試合に挑む上で、勝ち点差1で2つ上の順位に付ける京都のホームに乗り込み、1勝以上の価値がある"シックスポイントゲーム"に臨みます。西京極の青空に浮かぶのは秋の雲。爽やかな気候の中、長崎のキックオフでゲームはスタートしました。
ファーストシュートは1分経たず。開始44秒、幸野志有人のパスを左に開いて受けた小松塁は、そのままドリブルから枠内シュート。ボールは京都GKオ・スンフンがキャッチしたものの、勢い良く飛び出したのはアウェイチーム。3分には金久保彩が右からFK、9分にはやはり金久保が右からCKで相手ゴール前を脅かすと、10分にも金久保の右CKに高杉亮太が頭で飛び付き、こぼれを拾った奥埜博亮のクロスはゴールキックになりましたが、中盤での出足でも、短いパス交換のスムーズさでも上回った長崎がゲームリズムを引き寄せます。
ところが、先に"1"の数字をスコアボードに刻んだのはホームチーム。13分、右サイドで獲得したFK。左SBの福村貴幸が利き足の左でボールを蹴り込むと、ファーサイドでDFと競り合ったバヤリッツァが肩に当てた球体は、フワリと浮かんでゴール右スミへゆっくりと吸い込まれます。セルビア人CBの今シーズン4点目は貴重な先制弾。セットプレーからのファーストシュートで京都が1点のアドバンテージを手にしました。 
さて、「立ち上がりから押し込まれる流れが続いていた」(オ・スンフン)「立ち上がりはいい形で入れた」(岩間雄大)と両チームの選手が言及していた時間帯で京都がリードを奪いましたが、15分のチャンスも長崎。古部健太を起点に奥埜が左へ振り分け、井上裕大のクロスはファーの小松まで。ワントラップから放ったボレーは枠の上に外れるも、「いつもだったら失点してバタバタする試合が多かったが、今日の前半は自分たちのサッカーがしっかりできた」と岩間が話したように、譲らなかったゲームリズム。21分と25分には横谷繁にミドルを許したものの、28分には金久保との連携から右サイドをえぐった小松が惜しいクロスを送り、31分にも古部が左から上げたクロスに、飛び込んだ奥埜のヘディングはオ・スンフンの正面を突くも崩した形を披露。ファイティングポーズを下ろしません。
京都はここ2試合採用していた4-4-2から、4-3-3気味にシフト。中盤は秋本倫孝をアンカーに置き、その前に工藤浩平と倉貫一毅を並べる逆三角形になっていましたが、「前半は相手の前に前にという力をなかなか外せず、相手の縦に出てくる所に後手を踏んでいた」と工藤。それゆえに「相手が出てくる分、ウチも引かなくてはいけなくて、前に入れても出て行けない状況」(工藤)が続き、前線と中盤の距離が遠くなってしまった感があったのかなと。
それは裏返せば「ハードワークだったり、球際だったり、セカンドボールという部分の特徴が今日は出せた」と岩間も言及した長崎の、攻守にしっかりと統率された規律の賜物。33分には横谷の右CKから、安藤淳がニアでわずかに枠の右へ外れるヘディングを放った場面もありましたが、「正直決定機を創られている訳ではないが、攻められない状況で前半が終わった」(大木武監督)「前半は"キリカエ"の速かった長崎の方が良かったと思う」(バヤリッツァ)と京都の2人が声を揃えたように、スコアとは裏腹に長崎が持ち前の"走力"を生かした格好で、ペースを握りながら最初の45分間は終了しました。
「"我慢比べ"で長崎がどうなってくるのか、まずそこを見なくてはならないなという気持ちで入った」(大木監督)後半に、すぐさま訪れた歓喜は古都の紫。48分、左へ流れたクロスに長崎のDFが反応していましたが、「たぶん相手の視野からは見えてなかったと思うので、トラップした所を狙っていた」という横谷がかっさらって後方へ。福村はダイレクトでクロスを送り、ファーに走り込んだ駒井のボレーはヒットこそしませんでしたが、結果的にGKのタイミングを外した格好で、ゆっくりとゴールネットへ収まります。「みんな1人1人が当たり前のことをやった結果が2点目に繋がった」と話したのは、この場面では守備で貢献したCFの横谷。大きな2点目が京都に記録されました。
決して流れは悪くない中で、2点のビハインドを追いかける形になった長崎。高木監督は52分に幸野のミスパスが相手の決定機に繋がり掛けたのを見て、その幸野を下げて佐藤洸一を投入し、前線の顔触れに変化を加えると、57分には金久保のFKがカベに跳ね返ったボールを、山口が枠に収めたシュートはオ・スンフンにファインセーブで回避されたものの、その直後の58分には金久保とチョン・フンソンも入れ替え、選手交替で2段階は上げたい攻撃のギア。
59分の決定機は京都。中央から左へ流れながら工藤が裏へ落とすと、横谷はシュートとの選択肢からラストパスをチョイス。最前線まで駆け上がってきた倉貫は、飛び出したGKの頭上を華麗に破るループを打ち込みましたが、ここは長崎のキャプテンマークを巻く山口貴弘がライン上でスーパークリアを敢行し、ボールはポストの下側を叩いてピッチへ生還。キャプテンの執念が、スコアの変化を水際で食い止めます。
71分には長崎にビッグチャンス。GKの金山隼樹がパントキックを右サイドへ届け、佐藤洸一は縦への加速からマーカーを振り切ってクロス。ファーで待っていた奥埜が折り返すと、至近距離からのフィニッシュに足を振り上げた小松の前でボールをクリアしたのは、全速力で最後尾まで戻ってきた秋本。「ウチも走り合いで落ちなかったと思う」とは工藤。1得点分の価値があるアンカーの大仕事が飛び出し、変わらないスコアボードの数字。
78分も長崎。相手のクリアを拾った井上は、ミドルレンジから左足でのシュートを枠へ収めるもオ・スンフンがキャッチ。79分も長崎。岡本拓也、奥埜と繋ぎ、右から切れ込んだチョン・フンソンのシュートはDFが体でブロック。こぼれを古部が押し込むも、ここはオフサイドの判定でノーゴール。79分には高木監督も最後の交替を決断。足の攣った古部に替えて、チョ・ミヌを左CBへ送り込み、「フィジカル的にまだ体力も残っていたので、前で勝負をして欲しかった」高杉は左WBへ。さらにボランチの岩間を右CBへ落とし、その位置にいた岡本が1列上がって右WBへ。ボランチには奥埜が1列下がり、右WBを務めていたチョン・フンソンが1トップ下のシャドーへ上がるという、大幅なスライドで最後の勝負を仕掛けます。
「3点目を取って試合を終わらせるか、もうちょっと自分たちのボールの時間を長くしたかった」と工藤が言及した前者の絶好機は84分。2アシストの福村は相手の縦パスを鋭い出足で絡め取ると、そのままスルーパス。4分前に投入されていた三平和司は独走。中央から右へ流れながら、GKを良く見てコースを狙ったシュートは、しかしゴールのわずか左へ。終わらせられない試合。残すは5分間とアディショナルタイム。
90分は長崎。ポジションチェンジでさらなる推進力を自ら生み出したチョン・フンソンが、左サイドを抜け出してクロスを送るも、中央とはわずかに合わず。90+4分も長崎。岡本の突破から獲得したCK。チョン・フンソンが右から蹴り込んだボールは、途中出場の中村祐哉が懸命にクリア。90+4分も長崎。再び右からチョン・フンソンが蹴り込んだCKは、ここも酒井隆介がクリアすると、陽の傾きかけた秋空に染み入るタイムアップのホイッスル。「こういう"根性勝負"というか、タフなゲームに勝ち切れたのは良かった」と笑ったのは工藤。京都がビッグマッチを制し、ライバルとの勝ち点差を4へ広げる結果となりました。
京都は苦しいゲームをきっちり2点差でモノにした勝負強さが印象的でした。「決める所はしっかり決めるということ、耐える所はしっかりと耐えることができた」とは大木監督。押し込まれた立ち上がりを受けての先制点と、リズムを引き寄せ切れなかった後半開始早々の追加点と、"決める所"を逃さなかったのも、勝負強さの証でしょう。その追加点も前述したようにきっかけは横谷のチェイスから。その独特なスタイルとテクニックに目が行きがちですが、「このチームではFWが守備をするのは当たり前のこと」と横谷が話した"当たり前"の徹底と浸透が、京都の生命線なのだと再認識できたゲームだったと思います。
「前節からの反省点も含めて、京都さんに対して非常に勇敢に戦ってくれたと思う。決して選手が頭を下げる様な負け方ではなかった」という高木監督の言葉に、誰もが頷くような長崎の90分間でした。中盤で火花散る攻防を繰り広げ続けた工藤も、「相手も走れるチームだし、頑張っていたので難しいゲームだった」と素直に認めています。改めて言うまでもありませんが、Jリーグに昇格してきたばかりのチームがここまでこの順位に居続けるというのは、おそらく今後を含めてもほとんどあり得ない出来事なのは間違いない所。「1試合1試合が本当にトーナメントのつもりで、目の前の試合をしっかり見て戦っていければ」と岩間。「とにかく前向きに攻撃的なサッカーを続けていきたい。それで答えが出るか出ないかというのは僕も分かりません」と高木監督。この先に待ち受けているのは7試合か、8試合か、あるいは9試合か。情熱の指揮官と、彼に率いられた献身を誇る闘士たちの行く末やいかに。         土屋

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