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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
雷鳥が目指す頂はJ1か、あるいはさらにその先か。満員札止め。首位を快走する絶対王者を迎え、スタジアム史上最多となる17148人を飲み込んだ熱狂の地はアルウィンです。
反町康治監督が松本の地に足を踏み入れたのはわずかに2年前。初めてのJリーグ挑戦となった昨シーズンも昇格を現実のものとして捉える位置を経験し、一時は3連敗を喫するなど中位以下に沈んだ今シーズンも、29節で強豪の千葉を3-2という撃ち合いの末に下すと、そこから怒涛の4連勝で一気に7位まで浮上。「始まる前からみんな名前も顔を知っている選手」(岩上祐三)を揃えた今季の"J2モンスター"と聖地で、そしてこのタイミングで対峙するこのゲームは、クラブとしてもターニングポイントになり得る一戦です。
余儀なくされたJ2でのシーズンも早7ヶ月。決して楽なゲームばかりではなかったものの、ここまでに付けられた黒星はたったの3つ。周囲の想像通りという、最もプレッシャーの掛かる絶対王者を演じ切り、いよいよJ1復帰へのカウントダウンに入りつつあるG大阪。数々のムーブメントを巻き起こしてきたアウェイの中でも、おそらく今節が"最大"のアウェイ。これがトップディビジョン復帰に向けての最終試験かもしれません。選手入場とともに咲き誇るのは、老若男女問わず勢い良く振り回すタオルマフラーの花々。鳥肌が立つような雰囲気の中、松本のキックオフでゲームはスタートしました。
いきなり震えたアルウィン。震わせたのはホームチーム。5分、玉林睦実の突破から獲得した右CK。「いいボールを蹴ることができた」と自賛した岩上のキックがニアへ放り込まれると、ここに飛び込んだのは塩沢勝吾。角度のない「狙っていたゾーン」で頭に薄く当てたボールは、狭いニアサイドを潜り抜けてゴールネットへと吸い込まれます。満員の緑、沸騰。地元出身のストライカーが一仕事。相手も「警戒していたセットプレー」(長谷川健太監督)から、松本が早くもリードを奪いました。
7分にも岩上の超ロングスローを塩沢が頭ですらし、相手に懸命のクリアを強いるなど、勢い良く立ち上がったのは松本。逆に「風の強さや芝生の長さも含めて、若干選手も雰囲気を掴み切れなかったのかな」と長谷川監督も話したG大阪は、ボールこそ握る時間を創るものの、高い位置でのパスワークが停滞。13分に藤春廣輝、宇佐美貴史と回し、遠藤保仁が狙ったチームファーストシュートとなるミドルも大きく枠外へ。なかなかテンポが上がってきません。
それでも相手のミスを見逃さず、一撃で仕留めてしまうのがやはり首位の力。14分、遠藤を起点に二川孝広は左足で最終ラインとGKの間を狙い、何ともいやらしいコースとスピードのクロス。GKもやや判断が悪く、DFとお見合いするような格好で対応したボールを収め切れません。これを「今週トレーニングでやってきた動き方」で抜け目なくプッシュしたのはロチャ。松本からすれば痛恨の失点。リードはわずか10分足らずで霧散しました。
さて、立ち上がりは前への推進力が目立った松本も、失点前後からは「ずっとボールを持たれて、引いて引いてという感じ」(犬飼智也)の展開に。15分には阿部巧の左クロスから、岩上がヘディングを枠の右へ飛ばすと、カウント上はこれが前半最後のシュート。25分にはCKからの競り合いでプレー続行が不可能になったGKの白井裕人に替えて、村山智彦をピッチへ送り出すアクシデントも発生。「我々の右サイドに宇佐美が来る、二川が残っている、藤春が上がってくると。この三角形を我々のディフェンスがコントロールできなくなってきた辺りからズレが生じた」と反町監督。続くG大阪の攻勢。
31分、遠藤の左ショートコーナーから、二川が放ったミドルはわずかにゴール右へ。32分、藤春との連携で左サイドを崩した宇佐美のクロスに、ロチャが合わせたヘディングはゴール左へ。34分、遠藤、阿部浩之と繋ぎ、加地亮の折り返しを宇佐美がワントラップから叩いたボレーは大きく枠外へ。35分、遠藤の縦パスをスイッチに、阿部が打ち切ったミドルはゴール右へ。37分、今野泰幸のフィードがこぼれると、二川のフィニッシュはDFに当たって枠の右へ。「だいぶ回されてキツかった」とは岩上。ジワジワと締め付けるようなG大阪の圧力。
「あそこでパスを出せる選手は中村俊輔と遠藤とウチの喜山だけ」と反町監督が独特の表現で言及したのは、2人目に名前を出した男が見せたアシストのアシスト。39分、今野からパスを引き出した遠藤はまったくのフリー。「狭いエリアでも裏を狙う姿勢」から繰り出した、右サイド裏へ絶妙のピンポイントフィード。一度動き直してからフリーで抜け出した加地がダイレクトで折り返すと、「相手も最近はマークしてくるので、"外す"動きを意識した」フリーのロチャは、ダイレクトボレーを松本ゴールへ突き刺します。「J2の他のチームだったら何とかごまかせるが、やっぱり『ウチのリズムが悪いな』という時には、ちゃんと点が取れるのがガンバさん」と敵将も脱帽の逆転弾。前半の内にきっちりビハインドを引っ繰り返したG大阪が、1点のリードを握ってハーフタイムへ入りました。
後半も先にシュートを放ったのはアウェイチーム。47分、ロチャが右サイドでボールを収め、阿部が打ったシュートは枠の左へ外れたものの、まずはしっかり披露した追加点への意欲。48分には松本も岩上が中盤で粘って右へ振り分け、玉林のクロスはファーの阿部まで合うも、シュートには至らず。セカンドハーフも流れはそのままか。
48分、アルウィンを包んだ2度目の絶叫。左サイドから「どこのチームに対しても武器になる」と自ら語る岩上が投げたロングスローは、グングン伸びてゴール前へ。ニアで飯田真輝が潰れ、落下地点の読みがわずかにズレたGKが触り損ねると、「来そうだなという感じはあったが、実際にこぼれてきた」ボールを執念で押し込んだのはCBの犬飼。「よく最後に詰めた」と指揮官も評価した伏兵の同点弾。2-2。スコアはイーブンに揺り戻されました。
「3点目を取られたらゲームは終わってしまうので、そこのせめぎ合いだった」(反町監督)時間を最小限にとどめ、力強く追い付いてみせた松本が、ここから掴んだ自分たちの時間帯。50分、阿部のリターンから船山貴之が左クロス。岩上はシュートを打ち切れず、岩沼俊介のシュートも相手のブロックに遭いましたが、得点後もすぐさま畳み掛けると、52分には船山が右へ展開したボールから、玉林はそのままクロスを送り、走り込んだ岩上のヘディングは枠を越えるも、一気に引き寄せたゲームリズム。「明らかに雰囲気が違うというか、ゴールが決まるたびにスタジアムが1つになった」と岩上。これこそ"ホーム"の力。ほとばしる一体感。
56分も松本。喜山と船山の連携で獲得した左CK。岩上が蹴り入れたボールを玉林が頭で折り返し、最後は喜山が狙ったシュートはDFが何とかブロック。60分も松本。船山がFKを素早く右へ送り込み、岩上がファーへ届けたクロスに、全力で飛び込んだ阿部のヘディングはクロスバーの上に消えるも、明らかに再逆転へのムードがスタジアムに充満します。
当然、同点ゴールという後ろ盾があったにしても、明らかに変わった松本の前へと向かう姿勢。最終ラインの犬飼も「引かずにしっかり守るというのは後半の方ができていた。ズルズル下がらないようになった」と振り返っています。これに関しては、「前半の失点シーンで遠藤に誰も行かなかったが、ああいうことのないようにボールホルダーへ食い付けと。それはCBでもいいんだぞと」指示を出したと反町監督。「そうしたら彼らは飯田も犬飼もハーフウェーラインを越えて、プレッシャーに行ったのがありましたよね」と。それは総じて言うと「相手を怖がらないことがウチにとってのスタート」なのだと。試合の中で松本の選手たちには、タレント集団相手にも"怖がらない"メンタリティが芽生えていたようです。
64分にはG大阪のフラッシュパスが炸裂。内田達也の横パスから、加地は強めのクサビを縦へ。チェストで落とした宇佐美のボールを、二川は飄々と裏へラストパス。反転した宇佐美のボレーはわずかに枠の左へ逸れましたが、パーフェクトな崩しにスタンドから大きな溜息が。67分には宇佐美と遠藤のパス交換から左へ展開し、藤春のクロスを阿部はフィニッシュまで持ち込めずも、再び勝ち越し弾への勢いが再燃。68分には松本も船山がゴールまで35m近い距離から無回転ミドルを枠へ飛ばし、ここは藤ヶ谷陽介に掻き出されたものの、お互いに攻撃姿勢を鮮明に、残された時間はあと20分。
71分に動いたのは長谷川監督。「動きがよくなかった2人」という判断で宇佐美と阿部を下げ、前節もゴールを決めている川西翔太と岡崎建哉をピッチへ送り込む2枚替え。77分には反町監督も実質"1枚目"のカードを切る決断。ゴールも含めて奮闘した塩沢に替えて、長身FWの長沢駿を投入し、前線のパワー増強に着手しますが、ここで松本に降り掛かったカードトラブル。78分、足の裏でややレイト気味に遠藤へタックルを見舞った阿部へ、佐藤隆治主審が提示したのはレッドカード。一発退場。やや厳しい判定のように見えましたが、最終盤には人数の均衡が崩れる予想外の展開が待っていました。
10人になった状況下で、反町監督は3-4-2をチョイス。玉林を右から左のWBにスライドさせ、岩上がその右WBへ。前線には長沢と船山を残し、攻守のバランスを整えながら、それでも"もう1点"を諦めない姿勢で最後の10分間へ。
82分はG大阪。左右に大きく揺さぶり、右サイドで加地のパスを受けた川西のシュートは右サイドネット外側へ。84分もG大阪。遠藤と加地が絡み、藤春が左に付けたボールへ、後方から走り込んだロチャのシュートはクロスバーの上へ。両ベンチが切り合う最後の手札。85分は反町監督。玉林とスイッチしたのは飯尾竜太朗。88分は長谷川監督。二川とスイッチしたのはパウリーニョ。スタンドで揺れる緑の大波と、青黒の少なくとも確かな人波。アディショナルタイムは4分。
ラストチャンスはG大阪。90+4分、今日8本目のCKを右から遠藤が丁寧に蹴り入れ、内田がフリーで合わせたヘディングは、しかしクロスバーの上へ外れると、ほどなくして主審が笛の音で告げたタイムアップ。アルウィン史上、最も多くの人がピッチを見つめた一戦はドロー決着。双方に勝ち点1ずつが振り分けられる結果となりました。
「取られた後にバタつかなくなったのは、夏前から良くなっている」と長谷川監督が話したG大阪は、今日も先制を許す展開になったものの、一時は逆転まで持っていくなど、相変わらずの強さも随所に発揮しながら、それでもその理由を問われた指揮官も「言ってるんですけどね」と苦笑した先制点の献上癖は喫緊の課題。「結果は残念だったけど、いい所も結構あった」(今野)ゲームだけに、その部分へのフォーカスとクリアが来シーズンへのステップになるはすです。
「ハーフタイムも切れることなく前を向いていたので、みんな自信が付いているのかなというのは感じた」と岩上が振り返ったように、11人の松本が見せた後半の反攻は見事の一言。それでも「最後はガンバも足が止まっていたので、勝てない試合ではなかったと思う」(犬飼)「勝っていてもおかしくなかった」(塩沢)と2人が口を揃えたのは勝利への欲求。「強豪相手に力の差がある中で奮闘したのは、今までやってきたことが間違いないということ」と反町監督も一定の評価をチームへ与えています。終盤は数的不利でも、集中を切らさずに守り抜いた対価は「もしかしたら最後に大きく響いてくるかもしれない」(反町監督)勝ち点1。指揮官の仮定が現実になるか否か。残されたリーグ戦は、あと8試合です。 土屋
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