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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2013年09月12日

天皇杯2回戦 横浜FM×ヴァンラーレ八戸@ニッパ球

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tennohai0908.jpg「青森からJの舞台へ」。2016年のJリーグ参入を明確に掲げている県南の星が、初めて対峙するJクラブはトップディビジョンの首位を走るトリコロール。クラブ史に残るであろう一戦は伝統の三ツ沢です。
イタリア語の"南の郷"(Australe)と"起源"(Derivante)という意味を組み合わせたクラブ名を頂き、2006年から東北2部北でその活動を開始したヴァンラーレ八戸。2年後に前述したJリーグ加盟をクラブの方針として打ち出すと、2010年には青森県を制して初の天皇杯本大会出場権を獲得。翌年は圧倒的な成績で東北2部優勝に輝きながら、レギュレーションの関係上で昇格はならず。そして昨年はリーグ2位でコバルトーレ女川との昇格決定戦に挑むと、延長の末に勝利を収め、念願の1部昇格を勝ち獲り、勇躍乗り込んだその1部では14節を消化した現時点で首位。着々とステップを登ってきたクラブです。3度目の天皇杯本大会で初勝利を挙げて迎えたこの一戦は、新たな歴史を創る第一歩。「J1の首位ということは日本で一番強いチーム」(小林定人)と向き合う水曜ナイターは、3127人の観衆を集め、横浜のキックオフでスタートしました。
当然と言うべきか、横浜がボールを長く持つ展開で立ち上がったゲームは、序盤こそ「アップでも硬くなっていたところはあるので、みんな緊張していたと思う」とキャプテンマークを巻く新井山祥智が振り返った八戸がアタフタする場面も見られましたが、先にセットプレーからチャンスを創ったのはその八戸。10分に左SBの吉田智宏が左からFKをファーへ送り、佐々木絢也が頭で折り返すと、ここは何とか栗原勇蔵がクリアしたものの、直後のCKも新井山は鋭いボールを中へ。セットプレーとはいえ、悪くないアタックを繰り出します。
その八戸はスタートこそ関口雄与をアンカーに置き、新井山は明確に前へいるものの、岡田真之介は守備に軸足を置きつつ、前にも出ていくような逆三角形に近い中盤の4-3-3を敷いていましたが、「マリノスさんがどんどん流動的に中、中へと入ってきていたので、どうやって掴むか悩んで、途中からちょっと引いてやろうと」(新井山)ピッチの中で話し合うと、新井山を頂点に岡田と関口が後方に陣取る正三角形の中盤にシフト。これで劣勢の中でも、ある程度は落ち着きながらゲームを進めることに成功します。
すると、「まさか先制できるとは思っていなかった」と10番のキャプテンも驚いたアウェイチームの歓喜は19分。左サイドで小林祐三のミスパスを引っ掛けた小林はそのまま縦にコースを取りながら独走。やや中に切れ込み、GKとの1対1も躊躇なく左足を振り抜くと、ボールは最高の軌道とスピードで、右スミギリギリのゴールネットを射抜きます。「少なからずチャンスはあると思っていた」という小林ですが、決して簡単ではない角度から沈めた、まさにゴラッソ。八戸が堂々正面突破でスコアを動かしました。
「やっぱりかという感じ」と新井山も笑ったJ1首位の実力。21分、小林のクサビを藤田祥史がきっちり落とし、比嘉祐介は右へ。返ってきたボールを小林が高速で中へ入れると、走り込んだ兵藤のシュートはDFをかすめてゴールへ吸い込まれます。「普段の試合ではすぐに得点を返されることはないんですけど、やっぱりJ1のチームだと思った」と新井山。たちまち点差は霧散しました。
このゴールを奪い合ったターンから、にわかに動き出したゲーム。23分には八戸も新井山がわずかに枠の上へ外れる直接FKを見舞ったものの、「慎重になり過ぎて、ボールを後ろでしか回さないネガティブな展開」(樋口靖洋監督)でも、やはり大きく上回る個の力。24分に比嘉、兵藤と回し、熊谷アンドリューのシュートは何とか八戸GK山田賢二がキャッチしましたが、37分にも兵藤が蹴った左CKの流れから、再び兵藤が入れたクロスにファビオが飛び込むと、ここも山田が懸命にキャッチ。
41分にも兵藤を起点に藤田が右へ展開。小林のクロスに比嘉が合わせたヘディングは枠の左へ。押し込む横浜に耐える八戸。とはいえ、樋口監督も「非常に組織的に規律を持って守れるチーム」とスカウティングの印象を話した後者は、成田諒介と照井篤のCBを中心に高い集中力で45分間をクローズ。1-1という予想外のスコアで、"首位"同士の一戦はハーフタイムに入りました。
後半開始から樋口監督は「ゲームプランの中で45分間使うつもりだったし、2週間空いたゲーム勘を戻す意味もあって」前日の代表戦にも短い時間ながら出場した齋藤学を、小林との交替で投入。左SBの奈良輪を右SBへスライドさせ、その左SBには比嘉を1列下げて、攻撃の活性化を図ると、47分には早速齋藤が左から鋭く中へ切れ込みシュートまで。DFのブロックに遭いましたが、そのスピードを見せ付けます。
すると、49分に八戸の山田松市監督が行った、CFの吉岡弘樹と柏崎昂大をスイッチする交替を挟み、50分に横浜へ訪れたのは逆転機。熊谷が縦にうまく付け、兵藤のラストパスでエリア内へ侵入した佐藤がDFに倒されると、高山啓義主審はペナルティスポットを指し示します。キッカーは藤田。自らの右に飛んだ山田に対し、藤田が蹴り込んだのは逆側のゴールネット。2-1。点差は引っ繰り返しました。
それでも「1-1で折り返したが、自分たちができると思わないで、初心に帰って守備を頑張れ」と指揮官に送り出された八戸は折れずに反攻。52分には水戸でのプレー経験もある右SBの鶴野太貴が裏へ好フィードを送り、快足を飛ばした小林はわずかに届かなかったものの、シンプルなアタックで惜しいシーンを創ると、直後に齋藤が魅せたドリブルループも凌いだ八戸に到来したのは、願ってもないラッキーチャンス。
59分、最終ラインのパス回しに加わったGKの六反勇治が、ペナルティアーク付近にいた富澤清太郎に付けると、信じられないトラップミスがルーズボールに。素早く反応した新井山が右へ短く出したボールはフリーの佐々木へ。焦った六反も体勢を崩し、後は流し込むだけというシチュエーションで、しかし一瞬躊躇してしまった佐々木のシュートは枠の右へ。頭を抱える佐々木に、ベンチに、ゴール裏のサポーター。千載一遇の同点機を逃してしまいます。
こうなると「パススピード、切り替え、選手自体の速さと、すべてにおいてレベルが違った」(小林)トリコロールの名門に流れは移行。65分、齋藤のクサビを藤田はヒールで落とし、兵藤が左へ送ったラストパスから、藤田はニアをぶち抜く「彼本来の豪快に決められるという持ち味を発揮したフィニッシュシーン」(樋口監督)で3点目。68分にもファウルで倒した横浜の選手を八戸の選手が気にしている隙に、比嘉が素早く出したFKから齋藤が豪快に右スミへ蹴り込んで4点目。「ちょっとした弱みを出した所をリスタートなどで加点された」とは山田監督。覆し難い3点のリードを横浜が手にしました。
72分には足を痛めた鶴野が佐藤邦祥との交替を余儀なくされるなど、苦しくなった八戸でしたが、ゴールを奪った前半よりは、後半の方が「普段から守備を前から頑張って、奪ってダイレクトプレーでゴールに繋げようという練習をしている」(新井山)成果は見られ、中でもより高い位置に張ることの多かった新井山は、「10番の選手が潰しにいったところを外せる能力があったし、そこから前につける力も持っているという部分では、カウンターの怖さを感じて戦っていた」と樋口監督も認める実力を披露。79分には30m近い距離を直接枠に飛ばすFKを蹴ると、80分には岡田の縦パスをバイタルで受けてそのままスルーパス。わずかに柏崎には届かなかったものの、「全体的に見ると後手後手になって、相手に支配されたが、部分部分でやれる所もあった」と一定の手応えは掴んでいた様子でした。
何とかもう1点という姿勢を見せた八戸を尻目に、最後の得点も横浜。90分、齋藤のドリブル突破で再び獲得したPKを、再び藤田がGKの逆を突いてきっちりゴール。藤田はこれでハットトリック達成の大活躍。「先制して相手が本気になってくれたかなと思う」と新井山が話したように、後半は横浜が力の差をはっきりと示すような格好で、3回戦へと駒を進める結果となりました。
八戸で非常に悔やまれるポイントは2つ。1つはせっかく先制点を奪った2分後に追い付かれてしまったこと。もう1つは「あそこで決めていれば、もうちょっと流れが変わったと思うんですけど」と新井山も振り返った、2-1の時点で訪れた決定機を佐々木が沈められなかったこと。前半の横浜が「天皇杯の初戦の難しさというか、前半は自分たちで難しくしてしまった展開」と樋口監督も話した内容だっただけに、前述の2つは少しもったいなかったなと思います。それでも、高校生も巻き込んで「マリノスサポーターに負けないくらいの応援をしてくれた」(小林)八戸サポーターへ、プレゼントすることができたJ1の首位から奪ったゴール。「天皇杯は県を代表していると自分たちも強く思っているので、恥ずかしくない試合をやっていけるようにと話していた。チームしてはこういう舞台が初めてだったので、少なからずいい経験になったと思う」と地元出身のキャプテンが話したように、三ツ沢の地で彼らは新たな"Derivante"を手にしたのかもしれません。        土屋

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