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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2013年08月07日

スルガ銀行チャンピオンシップ 2013 IBARAKI 鹿島×サンパウロ@カシマ

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kashima0808.JPG日本王者の指揮官が南米王者に、南米王者の指揮官が日本王者に、それぞれ在籍経験を持つ"運命"に導かれたタイトルマッチは、日本で最もブラジルの香りを放つカシマスタジアムです。
ナビスコカップを2年続けて制し、同じく2年続けて優勝に王手を懸けた"コパ・スルガバンク"の獲得に燃える鹿島。リーグ戦の合間に組み込まれたウィークデイのゲームですが、トニーニョ・セレーゾ監督にとってみれば、チームの一員として南米タイトルを掲げ、トヨタカップでも連覇を成し遂げた思い出のクラブとの対峙。本気度はおそらくこの大会に臨むJリーグのクラブの中でも、過去最高かもしれません。
対するはコパ・スダメリカーナを制し、日本へと乗り込んできたサンパウロ。指揮官は2006年の1年間鹿島を率い、後の3連覇の基盤を構築したパウロ・アウトゥオリ。当然監督の凱旋に懸ける想いはひとしおのはずですが、リーグ戦の状況や「8日間で4試合をやったというのは、チームにとって大きな負荷」とアウトゥオリ監督も話す、バイエルン・ミュンヘンやベンフィカと対戦した直前の欧州遠征の影響もあって、ルイス・ファビアーノやジャジソン、オズヴァウド、デニウソンなど代表クラスの中心選手は不参加に。それでもサントス時代にネイマールと抜群のコンビネーションを誇ったガンソや、PKやFKのキッカーも務める"不惑"の守護神ロジェリオ・セニなど、おなじみの顔触れも。王国の名を頂くからにはアウェイでも負けは許されません。気温27.1度、湿度82%の条件はどちらへプラスに働くか。真夏のタイトルマッチはサンパウロのキックオフでスタートしました。
先にペースを掴んだのはガンソを2トップ下に置く4-4-2で立ち上がったサンパウロ。4分に左SBのレイナウドからパスを受けたアロイージオが1人かわして、枠の上に外れるミドルを放つと、7分にもショートコーナーからレイナウドが惜しいクロス。8分には鹿島の連携ミスを突いて、アロイージオがボールにアタック。辛うじて青木剛がクリアしたものの、「最初の10分間はサンパウロペースだった」とトニーニョ・セレーゾ監督も認めたように、平均年齢23.1歳の"ヤング"サンパウロがまずは攻勢に回ります。
一方、やや劣勢の鹿島にあって積極性を打ち出していたのは大迫。9分に青木のクサビを引き出し、左足ミドルを枠の右へ飛ばすと、14分には曽ヶ端準のフィードを土居聖真が頭で繋ぎ、拾った大迫の左カットインミドルは枠の上へ消えましたが、9番らしいシュート意欲をサンパウロに提示して見せます。
17分はサンパウロに決定機。マイコンを起点に、ガンソがDFラインの裏へ落とすと、アロイージオはダイレクトでラストパス。フリーになったアデミウソンのシュートは、絶妙の距離感で間合いを詰めた曽ヶ端が体でストップ。先制点とはいかない中でも、ブラジルらしい華麗なパスワークを披露。20分にも1本のフィードからアロイージオが惜しいボレーにチャレンジするなど、徐々に漂い始めたゴールの香り。
ただ、この前後からボールをしっかり回し始めたのは「確実な試合をすることを選手たちに要求した」とトニーニョ・セレーゾ監督が明かした鹿島。小笠原満男と柴崎岳のドイスボランチが「チームの土台の部分でのパス交換」(トニーニョ・セレーゾ監督)で相手を上回り、前への推進力を援助。23分には土居が左に付けると、ジュニーニョを回った柴崎が中へ好クロス。大迫にはわずかに合わなかったものの、ボランチのダイナミックな攻め上がりがチャンスに直結します。
日本王者の咆哮。25分、西大伍のパスから柴崎は相手ラインの裏へ優しく浮かせたラストパス。飛び出したGKにも「直前で判断を変えた」大迫は、軽くボールを浮かせていなすと、無人のゴールへ難なくプッシュ。エースの冷静なフィニッシュで、まずは鹿島が1点をリードしました。
さて、ビハインドを追い掛ける格好となったサンパウロ。頼みのガンソにもボールは入らず、攻撃も散発。28分にはカイオがヘディングで、32分にはマイコンがミドルでゴールを狙うも共に枠外。中央の密集を嫌って、ガンソはややプレーエリアを左へ移しましたが効果薄。少なくない人数が詰め掛けたアウェイゴール裏も、ジリジリするような時間が続きます。
「僕がコメントする必要がないくらい急成長している」と"クアトロ・オーメン・ジ・オーロ"の1人も賞賛したストライカーの狡猾。39分、再三攻撃の起点となっていた遠藤康が左へ振ると、ジュニーニョはニアへ速いクロス。ここへDFの背後に潜り、一瞬で前へ出た大迫が右足を突き出すと、ボールはゴールネットを当然のように揺らします。ストライカーの教本通りと表現したくなるような、パーフェクトな動きで大迫は自身2点目。内容と点差がマッチした鹿島が2点のアドバンテージを握って、前半の45分間は終了しました。
ハーフタイムで決断を下したアウトゥオリ監督。アデミウソンとマイコンを下げて、ロニと「ベンフィカ戦は途中から入って非常に良い仕事をした」という18歳のルーカス・エヴァンゲリスタを投入。攻撃的な選手の入れ替えで「確かに良くなかった」(アウトゥオリ監督)前半からの巻き返しを図ります。
47分の決定機はサンパウロ。アロイージオがエリア内へドリブルで侵入すると、そのまま短く右へ。シウビーニョのシュートは曽ヶ端の正面を突きましたが、いきなり替わったFWが決定的なシーンに顔を出すと、49分に前野貴徳の左クロスを遠藤が1トラップからボレーで枠に収めるも、ロジェリオ・セニがしっかりキャッチ。「(疲労を抱えて)体を動かしている中で、少しずつスムーズに体が動き始めることは非常に感じ取れた」とアウトゥオリ監督。軽やかなリズムを刻み始めた王国のトリコロール。
そんな中、着々とゲームにアジャストし始めたのは「彼が偉大な選手であることは間違いない」とアウトゥオリ監督も認めるレフティ。55分にガンソはアロイージオのバックヘッドシュートを導くFKを入れると、56分にもガンソはフリーのシウビーニョに合わせるFKを蹴り込み、ヘディングは枠を捉え切れなかったものの、急速かつ確実に温まった左足。
58分、右サイドで相手のクリアを拾ったガンソは、中央をスルスルと持ち上がると、そのまま左足一閃。突如として繰り出されたミドルに一歩反応が遅れたGKは弾き切れず、高速でゴール左スミへ吸い込まれた球体。とうとう目を覚ました天才のゴラッソ。たちまち点差は1点に縮まりました。
鹿島の反撃はその3分後。相手CKを奪ったカウンターからジュニーニョが付けたのは途中出場の野沢拓也。ブラジルでのプレー経験もある野沢は最適なコースとスピードで大迫へスルーパス。素早いターンでシュートレンジへ入った9番を、シウビーニョはエリア内で倒してしまい、ホームチームにPKが与えられます。
キッカーはハットトリックの懸かる大迫。ゴールを守るのはキャプテンマークを巻くロジェリオ・セニ。右を狙った23歳のキックを、40歳のGKは完全に読み切って弾き出しましたが、副審が上げていたフラッグ。「試合前に主審と副審には、相手のGKが蹴る前にかなり前に出てくるという情報を入れた」と笑ったのはトニーニョ・セレーゾ監督。確かにロジェリオ・セニはかなり前に出ており、蹴り直しは妥当な判定。鹿島に戻った追加点機。
「僕はキッカーを変えて欲しかったが、選手たちには『僕が出す指示に対して、そこに何か工夫をして良い』と常に言っている」とトニーニョ・セレーゾ監督。ピッチ内の判断は大迫の再チャレンジ。ところが短い助走から蹴り込んだキックは、まさかのクロスバー越え。沸き上がる白いサポーター。点差は変わりません。
68分には遠藤と中村充孝をスイッチさせた鹿島を尻目に、「試合が流れていくにつれて、選手たちも徐々にエンジンが掛かっていった」(アウトゥオリ監督)サンパウロの続く攻勢。70分にドゥグラスの右CKにシウビーニョが合わせたヘディングは、DFが何とか頭でブロック。73分もドゥグラスの右CKに、17歳のCBルーカス・シウバが当てたヘディングは枠を外れましたが、セットプレーからも窺う同点機。後半開始から投入されたシウビーニョとルーカス・エヴァンゲリスタの投入が当たり、彼らの推進力が引き寄せた好リズム。73分にはアタッカーのロニを送り込み、さらなるパワーを攻撃に注ぎ込みます。
南米王者の咆哮。75分、再三の攻撃参加が目立っていた右SBのドゥグラスは、中央からグラウンダーで斜めにピッチを切り裂くスルーパス。大外へ走り込んだガンソへは誰も付いていけず、丁寧な折り返しをここもフリーで押し込んだのはアロイージオ。「強い意志を持って何とかビハインドを跳ね返そうと頑張った」(アウトゥオリ監督)サンパウロの執念が実り、残り15分で試合は振り出しに引き戻されました。
とうとう追い付かれた鹿島は78分に「何度かチャンスを創られたセットプレーの対応策」(トニーニョ・セレーゾ監督)として前野と中田浩二をスイッチさせると、場内が沸いたロジェリオ・セニのFKを挟み、85分には「疲労の様子が窺えた」(同)青木と岩政大樹を、ジュニーニョと梅鉢貴秀をそれぞれ入れ替え、守備面での修正に着手します。
「我々がほとんどゲームを決めかかっていた時点」(アウトゥオリ監督)の決定的なチャンスは90+2分。緩やかなパスワークから、スペースを一刺ししたのはガンソのスルーパス。中盤アンカーで攻守に存在感を放ったウェリントンが最前線に飛び出し、マーカーを切り返しで外して打ったシュートは、しかし力なく曽ヶ端がキャッチ。スタジアムを埋めた26202人がPK戦での決着を覚悟し始めた頃、試合を決めたのは「日本語で言えば"持っている"」と指揮官も表現したあの男。
90+2分、右サイドで西大伍がボールを運び、大迫は中央へ浮き球のパス。野沢が落としたボールを、「後半はノーチャンスだったので1本に賭けてみた」柴崎が思い切ったミドルに変えると、DFを直撃したボールはさらに大迫に当たり、逆を突かれたロジェリオ・セニを嘲笑うかのようなスピードで、ゴールの中へ転がり込みます。本人は納得のいかない表情を浮かべたものの、「人によっては運と言うかもしれないが、そこにいるということが重要」というトニーニョ・セレーゾ監督の言葉も一理。大迫のハットトリックとなるチーム3点目は「相手が反撃できない時間」(トニーニョ・セレーゾ監督)の決勝弾。劇的なサヨナラ勝ちで、小笠原キャプテンが2年続けてカップをカシマの夜空へ掲げる結果となりました。
前半は低調と言わざるを得ないパフォーマンスに終始したサンパウロでしたが、やはり後半の修正力はさすがの一言。「消耗の激しい中、ビハインドを同点まで持っていけたというのは非常に重要なこと。若い選手にとっては非常によい経験になっていくと思う」とアウトゥオリ監督も一定の手応えを掴んだ様子でした。この後は「ブラジルに帰って2日後に全国選手権の試合があるという殺人的なスケジュール」(アウトゥオリ監督)ということですが、降格圏に沈んでいる全国選手権でも、是非名門の意地を見せてほしいと思います。
「選手としてタイトルをもたらしましたし、素晴らしい人生の時を過ごしたサンパウロFCという相手を見た時に複雑な心境がありました」というトニーニョ・セレーゾ監督。それでも「キックオフの笛が吹かれ、毎日指導している若い選手たちがピッチで一生懸命僕が伝えた情報や戦法をやろうとした姿を見た瞬間、スイッチが切り替わりました」と揺れた心を明かしてくれました。確かにミッドウィーク開催という厳しい日程を強いられ、消耗度を考えると非常に難しいゲームだったと思いますが、リーグ平均の倍近い観衆が訪れた中で戴冠を喜ぶ鹿島の選手を見ていると、「観る人に非常に良い試合を提供できたと思う」(アウトゥオリ監督)「サッカーの楽しさを見るということでは、5点入った訳ですから色んな意味で面白さがあったのではないかと思う」(トニーニョ・セレーゾ監督)という両指揮官の言葉にも頷ける、スペクタクルな真夏の祭典だったのではないでしょうか。       土屋

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