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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
あと2つで届く、カテゴリーを問わない異種格闘技戦とも言うべき全国の夢舞台。天皇杯予選の準決勝は、東京最高峰のピッチを誇る西が丘です。
JFLからJ2へ1年での復帰を狙うFC町田ゼルビアを、後半アディショナルタイムの決勝ゴールで1-0と下し、昨年に続いて都の準決勝まで勝ち上がってきた東京23FC。その昨年は決勝でPK戦の末に敗れており、今年へと懸ける想いはかなり強い様子。「僕たちはやっぱり全国区のクラブではないので、是非本選に出て行って、『ああ、こんなチームもあるんだ』という所を知ってもらいたいなという思いが大きい」とは町田戦後の米山篤志監督。昨年のリベンジと、新たな舞台へのチャレンジを同時に手に入れるべく、この一戦に臨みます。
一方、日本工学院八王子専門学校と駒澤大を倒して、学生の部の代表という立場で準決勝まで進出してきた日本体育大。鈴木政一前監督のU-18日本代表監督就任に伴い、今年の春から一昨年までFC東京U-18を率いていた倉又寿雄監督が母校の指揮官に。2年ぶりの現場復帰に「現場じゃなくても与えられた仕事は一生懸命やってきているつもりですけど、やっぱり現場はいいですよ」と笑顔を見せる中、就任半年での快挙まではあと2勝です。8月下旬とはいえ、相変わらずの暑さは31.3度。思わずビールに手が伸びそうなコンディションの中、日体大のキックオフでゲームはスタートしました。
ファーストチャンスは東京23。3分、天野徹(24・専修大)が入れた左クロスに、逆サイドから河村太郎(26・日本工学院F・マリノス)が飛び込み、DFに間一髪でクリアされたものの、まずは勝利への意欲を前面に押し出します。
ただ、日体大も4分に2トップの一角を占める北脇健慈(4年・東京Vユース)が、GKの位置を見て35m近いロングをわずかに枠の上へ飛ばすと、8分にも左サイドを抜け出した北脇のシュートが枠の左外側を強襲。10分にはCBの広瀬健太(3年・浦和ユース)が当てたクサビを、受けた阿部潤(3年・矢板中央)は反転スルーパス。3列目から飛び出した稲垣祥(4年・帝京)にはわずかに届きませんでしたが、こちらも「天皇杯予選が始まる時から掲げていた、東京の代表になるという1つの目標」(倉又監督)への想いを感じさせる立ち上がり。お互いの火花が激しくぶつかり合います。
14分に日体大の左SBに入っていた宮内啓汰(4年・鹿島学園)が、腕の負傷で中西規真(4年・滝川第二)との交替を余儀なくされると、直後に訪れた東京23の連続決定機。伊藤龍(26・ジェフリザーブズ)のフィードから、天野が果敢に狙ったミドルはDFに当たってわずかにゴール右へ。そのCKを右から田仲智紀(23・中央大)が蹴り入れ、中山友規(25・ガイナーレ鳥取)が頭で折り返すも、混戦からゴールへ向かったボールはライン上で広瀬が懸命にクリア。スコアは動きません。
17分には北脇のドリブルがこぼれ、稲垣はミドルレンジからわずかに枠の左へ外れるシュートにトライしましたが、「取りに行けば出されるし、取りに行かなければ運ぶし、基本的なことができるチームだと感じた」と米山監督が触れた日体大が、稲垣を中心にボールを回す時間をしっかり確保する中でも、決定機は不思議と東京23に。
23分、田仲の右CKは一旦DFにクリアされたものの、右から猪股聖哉(25・亜細亜大)が上げたクロスは、ファーに走り込んでいた中山にドンピシャ。余裕を持って叩いたヘディングは、しかし日体大のGK畠中翔太(2年・湘南U-18)が抜群の反応速度でファインセーブ。28分にまたも猪股の右クロスから田村聡(24・神奈川大)が、32分にここも猪股の右FKから伊藤が、それぞれ狙ったフィニッシュは共に枠外も、惜しいシュートを着々と繰り出す東京23。
とはいえ、「ボールをたくさん繋ぎながら攻撃を構築してくる、スタイルとしては遠くないかなという所」(米山監督)の両チームに、25分過ぎくらいから出てきた差。「ある程度自分たちがボールを保持している時間帯もあったので、逆に慌てることはないなと思っていた」と倉又監督が話し、「ボールを持っている時間が短いので、ウチとしても苛立つ部分が多かった」と米山監督も言及したように、稲垣と石井晃樹(4年・千葉国際)で組んだドイスボランチを中心に、日体大がジワジワとポゼッションで優勢に。加えてSHの梅村徹(4年・野洲)が積極的に縦へと仕掛けることで、右サイドでの優位性も確保します。
すると、スコアを動かしたのもやはり日体大の"右"。39分、右サイドの高い位置で相手のパスを読み切った稲垣がインターセプトを成功させると、そのまま中央へラストパス。受けた長谷川健太(3年・湘南工科大附属)は冷静な切り返しで1人外し、さらなる冷静さでボールをゴールネットへ送り届けます。1ヶ月近く離脱していたというキャプテンの力強いアシストで日体大が先制すると、4分後にも再びキャプテンのアイデアが炸裂。
43分、右サイドのハーフウェーライン付近でボールを持った稲垣は、オフサイドポジションにいた2人をうまく使うようなタメを創ってから、一撃必殺のスルーパス。東京23のラインコントロールが中途半端になった所を、完璧なタイミングで飛び出した梅村は、これまた完璧なタイミングでシュートを右スミへ沈めます。「気持ちも強いしキャプテンシーもあるので、彼がいるかいないかでもこのチームは少し変わってくる部分はある」と倉又監督も高評価を与える10番の2アシスト。日体大が小さくないアドバンテージを得て、ハーフタイムに入りました。
後半は日体大の決定機からスタート。48分、右サイドを抜け出したのは長谷川。そのままドリブルから持ち込んだフィニッシュは、東京23GK岡本翼(22・専修大)がファインセーブで阻みましたが、52分に天野の突破に対して、広瀬が素晴らしい間合いのタックルでピンチを回避すると、53分には梅村が突破から上げた右クロスは北脇へわずかに合わず。54分にも阿部のパスから北脇が粘って粘って枠内シュート。「中断期間でボールを失った後の切り替えの所、1人じゃなくてチーム全体でどうやってボールを奪うかという連動性の所を意識してずっとやってきた」(倉又監督)という攻守の切り替えで上回った日体大のゲームリズムは続きます。
59分の決定的なチャンスも日体大。広瀬が鋭いクサビを縦に当て、長谷川はDFラインの裏へ絶妙スルーパス。単騎で抜け出した北脇のシュートは、ここも岡本が足でのビッグセーブを披露すると、その流れから東京23の高速カウンター発動。右サイドから河村が中へ送り、山本恭平(25・尚美学園大)はきっちり左へ。フリーで田村が狙ったシュートはわずかにゴール右へ外れましたが、お互いに繰り出しあったスリリングなシーンに、少し雰囲気の変わった西が丘。米山監督はすぐさま天野に替えて、「チャンスメークもできるし、ゴールに直結する動きもできる」と評した山下亮介(28・福島ユナイテッドFC)を投入。倉又監督も61分に北脇と野田彰吾(21・東亜学園)を入れ替え、"1点目"と"3点目"をそれぞれ狙うと、生まれたのは前者。
62分に猪股のドリブルで獲得した東京23のFK。直接狙いそうな助走から猪股がボールをまたぐと、田仲は意外にもカベのすぐ左へショートパス。ここに潜っていた山本は、完全に裏をかかれた日体大ディフェンスを尻目に、スムーズな体の運びから縦へボールを持ち出し、低空シュートをゴール右スミへ突き刺します。「ものの見事にセットプレーで入れられてしまった。サインプレーだと思うが、あそこは本当にうまかった」と敵将も脱帽の練り込まれた一撃。たちまち点差は1点に縮まりました。
「もう少し主導権の奪い合いを含めて、もっと競った状態でゲームが推移できると良かった」と米山監督が振り返った"競った状態"に近付けた東京23。ある程度ボールもコントロールしながら、前半よりは守備の時間も増えた中で「ユニバで自信を付けてきたというのはあるし、DFラインの中でもリーダーとしてやっていく意識も持ってやってくれている」と指揮官も認める菊地俊介(4年・伊奈学園総合)を中心にしっかり守れていた日体大にも訪れた潮目。69分には東京23に同点機。左から猪股がCKを蹴ると、ファーで伊藤が折り返し、中央で合わせた中山のヘディングはわずかにクロスバーの上へ。意気上がる赤いサポーター。スコアは1-2。
「アレが一番大きかったかな」と倉又監督が振り返ったのは70分のゴラッソ。石井を起点に梅村がもう1つ右へ繋ぐと、SBの横野敏大(3年・近畿大附属)はファーサイドへピンポイントでアーリークロス。フリーで走り込んでいた長谷川の選択は、ノートラップランニングボレー。このチャレンジはボールが二アサイドを猛々しく撃ち抜いたことで結実します。「流れが変わる前に3点目を取れたのは凄く大きかった」と重ねて倉又監督。再びスコアは2点差に戻されました。
「少し単調というか、攻め急いでしまう部分が多かった」(米山監督)中で、2点のビハインドを追い掛けることになった東京23。74分には田村に替えて、岡正道(24・横河武蔵野FC)をピッチへ送り込み、長身の中山もポジションを前に移し、ハイボールを多用しながら何が何でもという姿勢を打ち出しますが、日体大も81分には長谷川が岡本のファインセーブを強いるシュートを放つなど、なかなか相手ゴール前までは迫り切れません。
それでも勝利を渇望する東京23の執念。81分には左サイドを丁寧に崩し、河村のシュートは畠中に防がれたものの、ルーズボールに飛び込んだのは岡。しかし、枠に飛ばしたボールも畠中が驚異的な反応を見せると、弾かれたボールはクロスバーの上へ。「最後はちょっとバテちゃったけど、これだけ蒸し暑い中で選手はよくやってくれたと思う」と倉又監督も手応えを語った日体大が、昨年のファイナリストを倒して、3日後に東京代表を懸けて横河武蔵野FCと対峙する決勝へ勝ち進む結果となりました。
「凄くいいチームだというのは織り込み済みでゲームに入ったが、やはり日体大は素晴らしいチームだった」と米山監督も認めたように、日体大からすれば完勝に近いゲームだったと思います。「去年まで鈴木さんが2年間作ってきたチームなので、急に自分の色に全部変えてというのはしたくなかった」と語った倉又監督ですが、続けて「守備の所の切り替えの意識は足りない部分だったので、そこは自分の色として出している所」とも。確かに倉又スタイルの生命線とも言うべき"攻守の切り替え"は、かなり徹底されていた印象です。「こうやって巡り合わせがあって現場に戻って来れたので、大学生を見るのは初めてという中で、自分が何ができるかというのをチャレンジしている所」と語る指揮官に率いられた"青葉台"の勇者が、全国へと飛躍するために必要な勝利は、あとわずかに1つです。 土屋
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