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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
全国を懸けて激闘を繰り広げた26日前のリターンマッチ。"十条ダービー"の舞台は駒沢第2です。
ちょうど1ヶ月前に当たる6月22日。東京に2枚与えられている全国切符を手にすべく、インターハイのセミファイナルで激突した帝京と成立学園。延長までもつれ込んだ熱戦は100分間で決着が付かず、最後はPK戦という非情なロシアンルーレットで、成立が全国へと駒を進めることになりました。選手権予選では別々のブロックになることが決まっているため、この対戦が都内の公式戦で実現するのはもうT1リーグのみ。「絶対に負けたくない試合」と帝京の柳下大樹(3年・浦和レッズJY)が表現した想いは部員全員の総意であり、当然成立もライバルを返り討ちにする覚悟十分。注目の一戦は15時30分、照り付ける太陽の下でキックオフされました。
0-0のスコアが続いたのはわずか1分間。2分のアタックは成立。ハマったハイプレスから高い位置でボールを奪うと、根本凪人(3年・成立ゼブラFC)は丁寧なラストパス。エリア内へ入ってきた浅野裕永(3年・鹿島アントラーズつくばJY)は、DFともつれながらも確実にゴール左スミへボールを流し込みます。早くも動いたゲームにザワつくスタンド。そして、0-1のスコアが続いたのもわずか2分間。4分、右SBの吉田将也(2年・成立ゼブラFC)が根本とのコンビネーションからサイドを切り崩すと、こぼれ球に反応した根本のシュートもゴールネットを捕獲。ゲームはいきなり2点差が付く格好でスタートしました。
その後も止まらないゼブラの勢い。8分には根本のスルーパスから、浅野がDFをかわすもトーキックでのフィニッシュは帝京GK古島圭人(3年・湘南ベルマーレJY)がファインセーブで阻止。14分にも浅野が溜めて右へ送り、上がってきた吉田のシュートは枠の右へ外れたものの、3点目の予感も十分。成立の押し込む時間が続きます。
さて、リベンジへの想いも強い中で、早々に追い掛ける展開を強いられた帝京。「あそこで出てくるとは思っていなかった」と成立の太田昌宏監督も話し、本人も「後ろでのスタートかと思っていたんですけど」と驚いた柳下のFW起用も、なかなかそこまでボールが入らず、30分に尾田雄一(2年・帝京FC)と桶谷亮太(3年・帝京FC)で右サイドに侵入し、最後は古市拓巳(3年・岐阜VAMOS)が枠に飛ばすも、成立GK芝崎寛文(3年・柏レイソルU-15)にキャッチされたミドルがチームのファーストシュート。時折サイドを使ったアタックも見られたものの、崩し切るような攻撃の形は出てきません。
ところが、ほとんど"無"の状態からゴールを導き出したのは、やはり9番のこの男。32分、指揮官も絶対の信頼を寄せる武藤稜(3年・浦和レッズJY)が中へ短く出すと、柳下は左足で思い切ったボレーミドルにチャレンジ。これがGKの頭上を見事に破り、ゴールへ吸い込まれます。「遠目から打ったら入っちゃった」と本人も苦笑するくらい綺麗なゴラッソ。たちまち点差は1点に縮まりましたが、この一撃はここから前半の残り10分間を激しく殴り合うファンファーレ。
35分は成立。芝崎のキックに浅野が競り合うと、ラインの裏へ落ちたボールをDFと競り合いながら制した根本は、そのままゴール右スミへ叩き込む好シュート。1-3。ゲームは再び2点差に。39分は帝京。桶谷が正確なフィードを裏へ落とすと、柳下のノートラップボレーは芝崎がファインセーブで応酬。41分も帝京。土井幸大(3年・帝京FC)、柳下、三浦勇介(3年・練馬開進第四中)と繋いだボールを、柳下が打ち切ったシュートは、芝崎が何とか触ってクロスバー直撃。42分も帝京。古市が右から蹴ったCKはファーまで届き、高い打点で合わせた岩野広基(3年・GRANDE FC)のヘディングはゴール右スミへ飛び込みます。2-3。ゲームは再び1点差に。壮絶に打ち合った45分間で生まれたゴールは5つ。成立が1点のリードを保持して、乱戦はハーフタイムへ入りました。
後半はスタートからカードを切り合った両指揮官。荒谷守監督は桶谷と竜崎廉(3年・FC駒沢)を、太田監督は金子拓矢(3年・ジェフユナイテッド千葉U-15)と河上知樹(3年・FC杉野)をそれぞれスイッチさせ、残りの45分間へ向かう態勢を整えます。
先に決定機を掴んだのは帝京。50分、古市が左から入れたFKはゴール前でルーズボールに。GKが飛び出し、無人になっていたゴールに竜崎がボールを蹴り込んだものの、ライン上で犬童輝(3年・柏レイソルU-15)がスーパークリア。同点ゴールを許しません。すると、そのままの流れで生まれた追加点。直後の51分、右から河上がグラウンダーで蹴ったFKを浅野がフリック。抜け出した中村諒介(3年・武南ジュニア)は至近距離からズドン。次のゴールは成立に。三たびスコアは2点差に広がりました。
追い付けそうで追い付けない帝京。53分には岩野のクサビを武藤がダイレクトで捌き、抜け出した柳下のシュートはここも芝崎がビッグセーブ。62分にも土井、武藤と経由したボールを柳下が持ち込んだフィニッシュは枠外へ。ボールは握れるようになり、チャンスの芽も多く出てきながら縮まらないスコア。それでも「追い付け追い越せという気持ちでやっていた。今日は気持ちが全然折れなかった」(柳下)カナリア軍団の底力はここから。
70分、左サイドのスローインを柳下は縦にフリック。竜崎が繋ぐと三浦は粘って左サイドを突き進み、マイナスに絶妙な折り返し。走り込んだ竜崎のシュートは、ゴール右スミギリギリに飛び込みます。3‐4。三たびスコアは1点差に。勝負所と見た荒谷監督も、土井に替えて10番を背負う都築洋平(3年・浦和レッズJY)を送り込み、一気に狙う同点とその先。
74分に吠えたカナリア。古市の左CKをキャプテンの小川一矢(3年・FCトッカーノ)が執念のヘッドで触ると、岩野を経由して柳下が放ったシュートは芝崎のファインセーブに遭いますが、諦めずにこぼれ球へ飛び込んだ柳下がDFともつれて転倒。ホイッスルを鳴らした主審の指先はペナルティスポットへ。帝京に絶好の同点機が訪れます。ここでキッカーに名乗り出たのは、インターハイでPK戦の1番手として登場し、芝崎に止められていた柳下。「ベンチから『蹴るな』みたいに言われたけど、絶対に蹴りたかったので決めてやろうと」渾身の力を籠めて蹴り込んだボールは、ゴール左スミへグサリ。4‐4。とうとうスコアは振り出しへ揺り戻されました。
「点は取れているけど、ウチがボールを動かせていた訳ではない。バラバラのリズムでやっていた」と太田監督も言及したように、相手の荒波に飲み込まれる格好でとうとうリードを吐き出した成立。78分には鈴木和真(3年・FC東京U-15深川)と中村を下げて、切り札の町田ブライト(2年・鶴ヶ島南中)と佐藤倖一郎(3年・成立ゼブラFC)を投入し、失われた縦への推進力を取り戻しに掛かります。
「ここ10年に起きなかったことが起き始めている」(荒谷監督)名門の伝統力。80分、右サイドで獲得したFK。古市が低い弾道を選択したボールに、頭から突っ込んだのはまたも柳下。自ら「一番のストロングポイント」と語ったセットプレーからのヘディングが呼び込んだのは、FW起用に応えるハットトリックであり、衝撃の逆転弾。このゲームで生まれた9つ目のゴールで、初めて帝京が勝利のゴールテープへ向けて一歩前に踏み出しました。
3度の2点差を守り切れず、とうとうリードを許した成立は意気消沈。87分にFKから山本涼太(3年・東川口FC)が粘り、河上が放ったミドルがクロスバーを越えると、それがこのゲームのラストシュート。アディショナルタイムの3分も力強く消し去った帝京が、歴史に残るような大逆転劇を見せ、1ヶ月前のリベンジを完遂する結果となりました。
両者合わせて9ゴールが入るという、T1でも稀に見る乱打戦になった十条ダービー。ゲーム展開も非常にスリリングで、炎天下の駒2に詰め掛けた観衆は90分間を大いに堪能したと思います。その中でも、やはり今日の特筆すべきポイントは帝京の凄まじい反発力。いつも通り、「技術よりも判断力の部分で慌てるだとか、そこで成立と差が出ている。まだまだトレーニングさせていくしかない」などと厳しい言葉も並べた荒谷監督でしたが、「昔で言う"帝京魂"の真髄が彼らにも少しはわかってきたかな」と思わずこぼした一言に、わずかではあるものの間違いなく名門復活への光明と手応えを、指揮官は見出だしつつあるような印象を受けました。 土屋
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