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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2013年07月21日

J2第25節 栃木×熊本@グリスタ

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tochigi0720.jpg1つの勝ち負けで2つ3つの順位が平気で動く乱戦模様のJ2。久々の土曜開催はグリスタです。
直近の6試合で4分け2敗。既に1ヶ月以上白星から見放され、ジワジワと上位に離され始めている栃木。ここ2試合は共に退場者を出すなど、苦しい初夏の陣を強いられています。それでも、現状で昇格プレーオフ圏内との勝ち点はわずかに2。3つ並んだホームでのドローを生かすべく、力強い勝利を黄色いサポーターへ届けたい一戦です。
対するは今シーズンから指揮を執っていた吉田靖監督の退任を受け、池谷友良社長が監督代行としてベンチに座る緊急事態となった熊本。新体制初戦となった前節の岐阜戦も終盤に追い付かれてのドローと、こちらは4連敗を挟んで8試合勝利がない状況。遠く栃木まで駆け付けたサポーターと"カモンロッソ"を踊るべく、正念場のアウェイゲームに挑みます。試合前の気温は22.3度。この時期で考えれば絶好と言えるコンディションの中、「1回こういう流れに入ってしまうと、勝つのはそんなに簡単じゃない」という南雄太の言葉が重くのしかかる両者にとって、浮上のキッカケを掴みたい対峙は栃木のキックオフでスタートしました。
立ち上がりのピッチを見ていて、まず目を引いたのは熊本の並び。前節も試合途中に試した3バックをスタートから採用。最終ラインには右から矢野大輔、吉井孝輔、そして本人も「公式戦で最終ラインをやるのは初めて」と話す橋本拳人を並べ、3-4-3のシステムながら「守備の時には5-4-1みたいな形」(南)で、まず前半は守備の安定を図ります。
これに対して、どうしてもグリスタで勝利を掴みたい栃木は開始直後から前へ。8分には左サイドで高木和正、山形辰徳と繋ぎ、杉本真のクロスを、ファーに入っていた右SBの西澤代志也が叩いたボレーは枠の上へ外れましたが、以降も左サイドを中心にホームチームのラッシュは続き、16分には菊岡拓朗が高い位置でボールを奪うと横に短く流し、クリスティアーノの弾丸ミドルはクロスバーを越えたものの、「今日に懸ける気持ちを前半から出してくれた」と松田監督も言及した通り、主導権を完全に握った状態でゲームを進めていきます。
さて、「プレスが厳しく、ボールをとってもすぐに奪われてゴール前まで運ばれる苦しい時間帯」(片山奨典)を強いられ、攻撃の糸口を見出せない熊本。18分には3トップの頂点に入った北嶋秀朗が、さすがのポストプレーから右へ展開するも、藏川洋平のクロスは中と合わず。「本当は最終ラインでもう少しボールを動かして優位性を持ちたかったが、前半はあの圧力の中でそれができなかった」と池谷監督。相手陣内への侵入もままならない時間が続きます。
畳み掛ける栃木。21分、ゴールまで約35mの位置から、これくらいは射程距離だと言わんばかりにクリスティアーノが打ち込んだFKはクロスバーの上へ。23分、左から廣瀬浩二が上げたクロスをサビアが落とすと、最後は高木が枠へ飛ばすも、カバーに入った吉井が決死のブロック。25分、菊岡の左CKからこぼれをクリスティアーノが拾い、チャ・ヨンファンが左足を振るもヒットせず。さらに30分、菊岡が左サイドから直接狙ったFKはわずかに枠の左へ。セットプレーも数多く獲得し、押し込む栃木に耐える熊本。
34分には決定機。中央を持ち上がったクリスティアーノは溜めて溜めてノールック気味にスルーパス。うまく潜った杉本のシュートは、しかし南が圧巻のファインセーブで仁王立ち。35分も栃木。廣瀬の左クロスにフリーで飛び込んだ杉本は、ギリギリで滑った橋本の対応でシュートを打ち切れず。38分も栃木。菊岡がエリアのすぐ外からトライした直接FKはカベを直撃。42分も栃木。ここも廣瀬の左クロスを杉本が落とし、クリスティアーノの左足ミドルは枠の上へ。ワンサイドゲームという表現以外に出てこないような前半は、それでもゴールは生まれず。スコアレスでハーフタイムへ入りました。
後半もスタートから手数は栃木。50分にはルーズボールを左サイドで収めたサビアが、やや強引に放ったボレーミドルは枠の左へ。52分には左サイドを廣瀬と高木で完璧に崩すと、シュート態勢に入った菊岡には吉井が辛うじてブロックに入り、フィニッシュは阻止したものの、チャンスの芽はホームチームに生まれます。
ただ、シュートという意味ではいまだにゼロが続く熊本も、後半のスタートから相手陣内でプレーする時間を創出。「後半の立ち上がりは前半と違ってパスも繋げるようになった」と話したのは片山。確かに出てきた攻撃のリズムに、池谷監督も決断で呼応。57分に仲間を下げて齊藤和樹を送り込み、「必要だった制空権」(北嶋)の獲得に着手します。
するとその齊藤がいきなり一仕事。61分、中央でボールを拾った堀米のパスを齊藤はしっかりリターン。利き足とは逆の右で枠へ飛ばした堀米のシュートは栃木のGK榎本達也が何とかファインセーブで凌ぎ、こぼれを収めた北嶋のパスから黒木晃平が打ったミドルは、DFに当たって榎本がキャッチしたものの、ようやく繰り出したチームファーストシュートは決定的なチャンス。北嶋、堀米、齊藤の新たなトライアングルが、早くもゴールへの予感を漂わせると、62分にも矢野大輔のFKにフリーで抜け出した齊藤のボレーはわずかに枠の右へ。前節に続くスタメン落ちに、「もう1回自分を見つめ直し、今日試合に出たら何かしてやろうという気持ちでプレーした」というエースの奮起。にわかに反転した攻と守。
逆に栃木は「パスの回るテンポが悪くなって、3バックの背後を突くボールをもらいたかったが、そういうボールを引き出せなかった」と廣瀬が振り返ったように、縦へのシンプルなチャレンジが多くなり、それに精度が伴わず。「(栃木が)サイドからのクロスと縦へのボールになったので、守りやすくなったかな」と池谷監督が話し、「攻撃が単調になって、やっていて楽だった」とは南。あれほど保っていた勢いが失われ、エリア内への侵入回数は激減します。
71分には栃木に久々の好機。山形が左から蹴り入れたボールを菊岡が落とし、杉本が至近距離から放ったシュートは吉井が全身でブロック。逆に73分には熊本に好機。高い位置で原田拓がボール奪取。クサビを齊藤が落とし、堀米のラストパスを左へ流れながら打ち切った北嶋のシュートは枠の左へ外れたものの、「いい距離感で当てて落として3人目が出て行くという形ができていた」(堀米)トライアングルでフィニッシュまで。劣勢の時間帯にも「絶対チャンスは来るからというような声しかなかった」(橋本)というポジティブの連鎖。相手を飲み込む赤い炎。
77分に池谷監督が切った2枚目のカードは、北嶋に替えてファビオ。ピッチを後にする39番が去り行く舞台へ注ぎ込む執念。歓喜と絶叫はその1分後。78分、「完全にパスコースが見えたので、あとはそこに通すだけ」と振り返った堀米のスルーパス。抜け出したファビオが中へ付けると、走り込んだ齊藤は「一番いい所を選択した」ラストパス。全力で駆け上がってきた片山のシュートは、GKの手を弾いてゴールの中へ転がり込みます。まさに「ワンチャンスをものにできた」(池谷監督)渾身の一撃。先制点は熊本が強奪しました。
まさかのビハインドを背負うことになった栃木。松田監督も79分に杉本と湯澤洋介を入れ替え、ラスト10分間に懸けた最後の勝負。80分は栃木。山形のパスから、クリスティアーノが放ったミドルは枠の上へ。83分も栃木。クリスティアーノのフィードをサビアが落とし、菊岡がチャレンジしたボレーも枠の上へ。84分には菊岡と久木野聡もスイッチし、85分も栃木。湯澤のクロスをDFがクリアすると、拾った山形のハーフボレーも枠の上へ。「最後の所はみんな頑張っていた」(南)熊本の気迫。残るは5分とアディショナルタイム。
89分も栃木。山形が湯澤との連携から上げた左クロスに、サビアが合わせたヘディングも枠の上へ。松田監督が最後に切ったカードは、廣瀬に替えて勝又慶典。第4審が掲げたボードには"3"の数字。いよいよ訪れるクライマックス。
90+2分も栃木。山形がエリア内から浮かせたボールをDFがクリアすると、反応したクリスティアーノのボレーは、しかし枠の遥か右へ。93分51秒、グリスタに響いた今村義朗主審のファイナルホイッスル。「してやったりじゃないけど、90分間のゲームプランという意味で勝ち点が取れた」(南)「90分間トータルの駆け引きに勝った感覚がある」(北嶋)と、奇しくも両ベテランが声を揃えた"90分間"のデザイン力。熊本が9試合ぶりの勝ち点3を、アウェイまで駆け付けたサポーターと共に"カモンロッソ"で分かち合う結果となりました。
「うまくいかない時に立ち返る場所の共通理解もできてきている」という橋本の言葉が象徴するように、熊本は前半の劣勢にも割り切った戦い方をイレブンが共有していたことが、結果として勝利に繋がった印象です。「今はわからなくなったり、ちょっとゴチャゴチャし出したらポジションに戻りましょうということを言っている」とは池谷監督。当たり前のように思える感覚も、改めて指揮官の言葉として浸透させたことが、選手から迷いを取り去ったのではないでしょうか。一度選手たちでやり終えた"カモンロッソ"も、ゴール裏へ池谷監督が駆け寄ると今日2度目のアンコールダンス。消えかけていた赤い炎が小さく、しかし確実に勢いを取り戻しました。      土屋

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