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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
一昨年度のリーグを制した太陽王と昨年度のリーグを制した紫熊が、公式戦で3試合続けて激突することになった怒涛の連戦もラストステージ。生き残りを賭けたナビスコの準々決勝セカンドレグは柏の聖地・日立台です。
ここまでの2試合は、まずリーグ戦が完全なミラーゲームの末にスコアレスドロー。先週のファーストレグは、お互いにやや"合わせ鏡"にヒビが入るような格好で3つのゴールが生まれた中、ゴールを1つ多く奪ったのはアウェイの柏。小さくないアドバンテージを握って、ホームへ帰還しています。シーズン開幕を告げるゼロックスでの対戦も含めれば、4ヶ月で4度目の邂逅。「いつも拮抗した試合になる」とネルシーニョ監督が語った過去3試合は1勝1分け1敗とまったくの五分。多くの示唆に富む高度な戦術戦は、柏のキックオフで激闘へと誘われました。
ネルシーニョ監督は1週間前とまったく同じメンバーを同じポジションに配してスタート。森保一監督は左WBをパク・ヒョンジュンから山岸智へシフトし、ゴールマウスには代表帰りの西川周作を起用と、2人を入れ替えてスタート。基本的には過去2試合と同じミラーゲームに入っていく中、「広島は今までと違って前からプレッシャーを掛けてきた」と工藤。最低でも2ゴールが必要な広島は、いつも以上に積極的な姿勢を立ち上がりから打ち出します。
ただ、まず手数を出したのは柏。2分にカウンターからジョルジ・ワグネルが中へ送ると、田中順也のトラップが大きくなって、フィニッシュには至りませんでしたが、3分には右サイドで藤田優人が粘り、最後は工藤が枠の左へ外れるミドル。13分には広島も石原直樹、高萩洋次郎と回し、上がってきた右CBの塩谷司がミドルレンジからチームファーストシュートを放つも、柏GK菅野孝憲は落ち着いてキャッチ。お互いにチャンスは少ない中でも、前へのパワーでは柏がやや上回った格好でゲームが推移していきます。
そんな中、少しずつ目立ち始めたのは柏のサイド攻略。特に今日も間違いなくホットゾーンになることが予想された山中亮輔とミキッチのマッチアップ、つまり"柏の左"と"広島の右"は互角か、橋本和の効果的な援軍も得た前者がやや優勢。24分には、その山中がミキッチとの競り合いから獲得したCKをジョルジ・ワグネルが蹴り込むと、際どいコースに飛んだ橋本のヘディングは西川がわずかに触って回避。26分にも山中がジョルジ・ワグネルとのワンツーから左サイドを抜け出し、クロスはわずかに中と合わなかったものの、20歳のレフティが自らの持ち味を存分に発揮してみせ、少しずつ引き寄せたゲームリズム。
一方の広島は29分、千葉和彦のクサビを石原が体を張ってフリック。佐藤寿人が絶妙のリターンで得点機かと思われたシーンは、藤田の素晴らしいカバーの前に霧散しましたが、これがこのゲームで初めてエリア付近へ侵入してのチャンス。「柏は我々の攻撃を受けてカウンターという試合の流れになるだろうと思っていたが、前半少し術中にハマりそうなところがあった」と森保監督。時にはボランチに入っている大谷も最終ラインに戻り、4バック気味に守備する時間も創った柏の前に、いつものような流れるコンビネーションを出し切れず、31分のカウンターも青山敏弘のミドルはクロスバーの上へ。「守備の意識がハッキリしていた」(水本裕貴)相手の前に決定機を生み出せません。
41分に煌いたのは、広島のファンタジスタ。青山からパスを受けた高萩は、一旦時間を創ってから間髪入れずに針の穴を通すようなスルーパス。完全に意識がシンクロした佐藤はわずかに届かず、菅野までボールは流れましたが、2秒もあれば決定的なシーンを創造してしまう脅威を、一瞬で柏へ植え付けます。
逆に前半はサイドをうまく使えたことを証明するような、柏が獲得した9本目のCKは絶好の先制機。45+2分、右からジョルジ・ワグネルが放り込んだキックを西川はファンブル。こぼれを狙った橋本のシュートは、しかし利き足とは逆の右足ボレーになり、クロスバーを越えてしまいます。至近距離からのシュートミスに頭を抱えた22番。直後に石原がエリア内からチャレンジしたシュートもヒットせずに枠外へ外れ、ここ2試合とは違った緊張感の下で推移した前半は、スコアレスでハーフタイムへ入りました。
後半はスタートから広島に宿った、ゴールへ向かう強い意識の表出。47分、高萩がミドルレンジから果敢に狙ったシュートは、菅野かキャッチ。48分、佐藤が左へ振り分けると、石原、高萩を経由して、森﨑和幸が放ったミドルはゴール左へ外れるも、躊躇なく打ち始めた積極性。55分にも山岸とのワンツーから、塩谷司が枠へ収めたミドルは菅野がよく弾き、詰めた石原にも菅野が頭から突っ込んでスコアは動きませんでしたが、ミドル連発で狙う柏ゴール。
56分に柏もジョルジ・ワグネルの左CKを増嶋竜也が頭で折り返し、工藤がわずかに触れずというシーンを創ると、先に動いたのは森保監督。57分に山岸と替えて送り出したのは、ファーストレグで負傷から帰ってきたばかりの清水航平。サイドにさらなる推進力を投入し、その清水も58分には高萩とのワンツーから果敢にカットインミドル。「森﨑選手が攻撃に参加し、ちょっと上がるようになってきてから、我々が守備に追われる時間帯が増えてしまった」とはネルシーニョ監督。押し寄せる紫の猛風。
「寿人さんの力は凄い」(工藤)「寿人さんに凄いシュートを入れられてしまった」(田中)と柏の2人も脱帽したエースのゴラッソは59分。塩谷を起点にミキッチが繋ぎ、受けた高萩はアーリー気味にクロス。佐藤が「コントロールはイメージより外側に流れた」トラップから、「自分の中では打てるエリア」という確信に基づく左足で叩いたボレーは、菅野の頭上を完璧な軌道で破るスーパーゴール。「トラップした位置と背中でゴールの位置はわかる」と語るトップストライカーのスペシャルな一撃。このゲームのスコアは0-1。アグリゲートスコアは2-2。俄かに活気付く紫のサポーター。セミファイナルへ進む切符の行方はまだまだわかりません。
ゴールを奪っただけではなく、ゲームリズムも一気に奪い返した広島。3連戦の3戦目で広島が施してきた変更点について言及したのは、柏のキャプテンマークを巻く大谷。曰く「僕とクリさんが出た時に、その裏のスペースへ高萩と石原が前回よりも降りてくることが多く、そこで少しマークが中途半端になって、CBの(橋本)ワタルやマスが付くのか、ボランチが2度追いするのかがうまく修正できなかった」とのこと。特に大谷は前述したようにバランスを見て、時には最終ラインに入って守備に備えることもあり、浮いた格好になった2シャドーの対応で後手を踏んだことを、キャプテンは劣勢の原因として見ていたようです。
残り30分に差し掛かったゲームは、ここからの10分間でアグレッシブな打ち合いに。62分は柏。ジョルジ・ワグネルが中央左、ゴールまで30m強の距離から直接狙ったFKは左ポスト外側へヒット。66分は広島。ミキッチが獲得した右CKを高萩が蹴ると、水本のヘディングを佐藤がワンタッチでプッシュ。菅野がよく弾き、石原が詰めてゴールネットを揺らしましたが、判定は佐藤のオフサイド。これは本人も「相手がラインを上げたときに戻るべきだった」と認めるノーゴール。67分は柏。ジョルジ・ワグネルのラストパスから、田中が左足を振り抜いた強烈なシュートはサイドネット外側へグサリ。「互いに主導権を握り合う時間がある」(ネルシーニョ監督)ゲームは残り20分間の勝負に。
71分にネルシーニョ監督が抜いた伝家の宝刀は2枚替え。ジョルジ・ワグネルと大谷に替えて、クレオと茨田陽生をピッチへ送り込み、クレオを最前線にシャドーが田中と工藤。茨田をそのままボランチへ配し、ポジションバランスを整えつつ、前からのプレスを一層強化します。
73分の決定機は柏。右サイドで得たFKのキッカーは田中。「ジョルジの球質とは違ったボールで勝負していきたい」と話すレフティの高精度キックはクレオの頭にドンピシャ。ボールは西川を破りましたが、カバーに入った高萩がライン上で執念のクリア。共にカバーへ戻った水本も「やられたと思った」と振り返った絶体絶命のピンチを10番が救った広島。75分にはその高萩がピッチ中央からスルーパスを繰り出し、佐藤のシュートはクロスバーの上へ。次の1点は果たしてどちらへ。
「残りの時間は守り抜くという意図がわかった」(田中)指揮官のラストカードは鈴木大輔。78分、山中を下げて投入した鈴木は3バックの右へ。戦術上のキーマンとも言うべき増嶋が左CBへ回り、左WBへ橋本がスライド。「勝ち上がることが今日の目的」と工藤が話したように、その唯一の目的を達成すべく、ラスト10分の攻防に備えます。
79分は広島。塩谷が裏へ落とし、ミキッチが右から左足で上げたクロスに、高萩が頭で飛びつくも菅野がキャッチ。83分も広島。高萩がショートで始めたCKを清水が戻し、高萩はそのままクロス。石原がこぼれを収め、ミキッチのクロスは密集を抜けて柏のスローインへ。85分も広島。ミキッチのパスを石原がうまく捌き、中央からフリーで高萩が放ったシュートは菅野が何とかキャッチ。「守備を固められ、そこをこじ開けられない」(水本)広島。着々と刻まれていく時間。
86分に起こったアクシデント。メインスタンドサイドで鈴木と清水が接触。タックルに入った清水が鈴木を倒した格好になると、東城穣主審はイエローカードを提示します。72分にも藤田の突破に対するファウルでイエローカードをもらっていた清水は、これで退場処分に。その少し前に清水はスタンドを騒然とさせるファウルを犯しており、それと併せてのレッドカードという印象も。広島は一気に苦しくなりました。
10人での戦いを強いられた森保監督は、89分に千葉とパク・ヒョンジンをスイッチ。最終ラインに右から塩谷、水本、森﨑和幸を並べ、青山が1アンカー気味の3-1-4-1気味の布陣で、最後まで1点を奪いに行く姿勢を前面に。それでも、ゲームのラストチャンスは90分に田中の右FKからクレオがフリーで枠の上へ飛ばしたヘディング。広島も諦めないマインドは見せ続けましたが、アディショナルタイムの4分も丁寧に消し去った柏が、90分間では負けながらも180分間で何とか逃げ切り、2年連続となるセミファイナルへ駒を進める結果となりました。
「非常に緊張感のあるゲーム」というネルシーニョ監督の言葉にも頷ける、ヒリヒリするような好ゲームでした。結果的にお互いアウェイで勝利を収める結果となりましたが、やはり勝敗を分けたのは広島からすれば「最悪でも1対1で終わらせておくべきだった」(水本)第1戦。180分間で戦うカップ戦の難しさや面白さが凝縮された、「お互いにリスペクトし合って、2戦通して良い戦いができた」(工藤)素晴らしいクォーターファイナルでした。 土屋
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