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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
半世紀以上も前に初めてその前へ立ち、幾度となく閉ざされてきた扉を自らの手でこじ開けたのは16年前。ジョホールバルで、バンコクで、そしてタシケントで世界へと繋がった扉は今、過去に何度も奇跡を起こしてきた埼玉スタジアム2002へ。オーストラリアという最高のライバルを得て、今日戦うのはブラジルへの切符を勝ち取るべく臨むW杯最終予選です。
3月に開催されたヨルダンとのアウェイゲームに敗れたことで、W杯出場が持ち越しとなった日本代表。しかし幸か不幸か、その次のゲームは埼スタでのホームゲーム。史上初めて日本国内で本大会出場を決定させる可能性が出てきました。ただし、相手はカイザースラウテルンの地で、あるいはメルボルンの地で苦杯を嘗めさせられた、近年の日本にとって最大のライバルという印象も強い「アジアでもトップレベルの実力を持つ」(アルベルト・ザッケローニ監督)オーストラリア。その上、彼らはここまでの5試合でわずか1勝の3位に沈み、本大会のストレートインに黄信号が灯っているため、真剣度はおそらく過去のどの対戦よりも高いのは間違いありません。6万を超える青の染み渡る君が代。両国史上最も負けたくない戦いは19時30分、日本の天敵とも言うべきティム・ケーヒルがボールを蹴り出してその幕が上がりました。
少し探り合いのような立ち上がりを経て、先に青いスタンドを沸かせたのは「アジアでナンバーワンだということをピッチの上で証明しよう」と指揮官に送り出された日本。6分、共に合流直後にもかかわらず、スタメン起用された本田圭佑と岡崎慎司のパス交換で獲得したFK。左寄り、ゴールまで約30mの距離でスポットに立ったのは、本田ではなく遠藤保仁。短い助走から繰り出されたキックは、まさにボール1つ分枠の左へ。先制とはいかなかったものの、まずは最強の"飛び道具"で惜しいチャンスを創ります。
一方、まずはしっかり守備から入り、ケーヒルへ放り込む長いボールのセカンドを少ない人数で狙うオーストラリア。12分には左からSHのトミー・オアーがフィードを送り、ケーヒルが潰れると最後はブレット・ホルマンが放ったミドルは枠の左へ外れましたが、シンプルなアタックでフィニッシュまで。ファーストシュートはおそらく最小限の人数で最大効率のイメージ通り。
逆に相手が「勝ち点を取りたい戦い方」(長谷部誠)を選択し、「しっかりブロックを作ってくる」(ザッケローニ監督)中でも、少しずつ出始めた攻撃のリズム。14分には本田、岡崎、内田篤人の連携で獲得したCKを右から本田が入れると、フリーになっていた吉田麻也のヘディングはヒットせず。16分にも本田、香川、本田と繋がり、マーカーを深い切り返しで外した遠藤の左足ミドルはわずかにクロスバーの上へ。スムーズな連携のハーモニーが、先制への予感を漂わせます。
17分はオーストラリア。右サイドからロビー・クルースが中へ。ケーヒルのパスからホルマンが狙ったシュートは枠の左へ。19分は日本の決定機。本田、香川、本田、岡崎と非常に細かいパスワークから、最後は香川が打ち切ったシュートは「いまだにオーストラリアでナンバーワンのGK」とボルガー・オジェック監督も絶大な信頼を寄せるマーク・シュウォーツァーがワンハンドでファインセーブ。出し合う手数。
20分はオーストラリア。クルースがうまく落とすと、マーク・ブレシアーノのシュートは内田が全身を投げ出してブロック。21分は日本の決定機。カウンターから運んだ本田はマーカーを引き付けて引き付けて左へ。全力で外を回った前田遼一のシュートは、しかしCBのサシャ・オグネノブスキが懸命のスライディングで回避。出し合う手数。
そんな展開の中、20分過ぎからはオーストラリアに変化が。ドイスボランチの一角に入っていたブレシアーノがボールを積極的に引き出し始め、一辺倒だったロングボールの減少に伴い、ある程度ボールを動かしていく流れに。また、1.5列目的なポジションニングでやや"浮いていた"ホルマンが、セカンド奪取にもパスワークにも巧みに関与。「ホルマンがトップの位置に入っていたりして、あまり押し上げられなかった」と話したのは長谷部。23分にはオアーの左FKが、マーカーを完全に外したケーヒルへ届くも、ボレーは大きく枠の上へ。26分にもルーク・ウィルクシャーの右CKから、こぼれをオアーが上げたクロスはケーヒルも合わせ切れませんでしたが、28分には長友佑都との大きなワンツーで、エリア内へ侵入した本田にはオグネノブスキが素早く寄せてシュートを打たせず。「前半25分くらいまではかなりウチのペースだった」とザッケローニ監督。裏を返せば、25分前後から確実に変化の兆しを見せたゲームリズム。
「非常にスピードのあるカウンター」(オジェック監督)は34分。左でボールを引き出したホルマンは、CB2枚の間を狙う最高のスルーパス。斜めに入ってきたクルースが裏へ潜り、川島との1対1に。ここはうまく間合いを詰めた川島が、シュウォーツァーに負けじとワンハンドでビッグセーブ。こぼれを拾ったケーヒルのループも枠を越え、スコアボードの数字は変わらなかったものの、ざわつく青のスタンド。突き付けられたカウンターの脅威。
以降は膠着した展開の中、37分に本田が打ったミドルは枠の右に逸れ、44分に岡崎が左足で枠へ飛ばしたシュートもシュウォーツァーがしっかりキャッチ。基本的には日本がゲームコントロールしながら、オーストラリアもポイントでの迫力をチラつかせた前半はスコアレスで終了しました。
後半もファーストシュートは日本。開始わずかに40秒、長谷部のパスをさすがのトラップで収めた香川のシュートは、DFのプレッシャーで枠は大きく逸れたものの、これがW杯出場へ懸けるラッシュの号砲。54分には遠藤を起点に前田が左へ捌き、香川が縦に持ち出してクロスを送ると、本田のボレーはゴール右へ。56分にも内田のパスから、本田が足の裏でヒール気味に残し、香川が枠へ収めたミドルはシュウォーツァーがキャッチしましたが、日本の一方的な攻勢に。
57分、香川、本田、香川、本田のフラッシュパス。香川にはオグネノブスキが間一髪で滑り、フィニッシュは見られなかった場内も、そのセンスと圧倒的な技術に溜め息と大歓声。59分、長谷部、本田と回り、遠藤が左へ付けると、香川のループは惜しくもクロスバーにヒット。運動量が低下してきたオーストラリアをジワジワと追い詰めていきます。
この圧倒的な時間帯の創出は、守備面の修正も大きなポイント。25分過ぎからカウンターを食らいがちになっていた状況を見て、ハーフタイムにザッケローニ監督は、「カウンターの状況になったらDFラインを下げて対応しよう。必ずSBのどちらか1枚が残って、CBと3枚の形をDFラインで取ってリスクマネジメントをするように」徹底。この指示は、後半のアタックが本田と香川を中心にそれほど厚みを要さなくても攻め切れていた流れも相まって、より忠実に遂行された印象。そしてその陰には、「日本の攻撃のリズムがよかったから守り易かった」と語った今野泰幸が、ケーヒル封じというタスクをほぼ完璧にこなしていたことも見逃せません。指揮官も「ケーヒルのマークという一番難しい役割だったが、非常に見事な仕事をしてくれた」と手放しで賞賛するなど、この大一番で自らの存在価値を改めて証明してみせた178センチのCB。攻守に歯車が噛み合い出した日本。
63分には右寄り、ゴールまで25m強の位置から本田が直接狙った無回転FKはわずかにクロスバーの上へ。67分にも右寄り、やはりゴールまで25m強の位置から本田が直接狙った縦回転FKはシュウォーツァーがキャッチ。71分には香川が右へ振り分け、岡崎が落としたボールをワントラップで打ち切った本田の右足ボレーは枠の左へ。「ピッチに立つとそれだけで違いを生み出せる選手」と敵将も評した、誰もが認める"主役候補"の主役へ躍り出んと前面に打ち出すゴールへの意欲。スタジアム中が叫ぶエースの名前。
さて、70分を過ぎても後半のファーストシュートを打つことができず、ほとんど前に出て行けなくなったチームを見て、オジェック監督が決断したのは72分。「中盤をしっかり強化しなくてはいけない」と、後半は前半と別人のように存在感のなくなったホルマンを諦め、同じ位置にダリオ・ビドシッチを投入。攻撃面というよりは守備面の増強に着手せざるを得ないオーストラリア。苦しい時間が続きます。
76分に訪れたサッカールーズのビッグチャンス。狙われたのは今野が前半から気にしていた「SBが上がった裏のスペース」。ブレシアーノが右へ正確に振ったパスから、ウィルクシャーも正確なグラウンダークロスを中央へ。そこにいたのはやはりケーヒル。満を持して現れた打倒日本の刺客が右足を振り抜くと、ボールがヒットしたのは恐れずに飛び込んだ吉田の体。プレミアでの日々で鍛えられてきた男の高い集中力。変わらないスコア。
長谷部のミドルが枠の左へ外れるのを見届けると、ザッケローニ監督が動いたのは80分。1人目の交替は前田に替えて栗原勇蔵。3バックへの移行も想定される中、実際は栗原がそのままCBに入り、今野が「練習はしていなかった」左SBへスライド。長友が1列前に押し出される格好の4-2-3-1を継続させたままで勝負に出ます。すると、すぐさまその配置転換が奏功。香川が丁寧に左へ落とすと、受けた長友の前には広大なスペース。走って走って、持ち込んだフィニッシュはコースが甘く、シュウォーツァーの手元に収まったとはいえ、いきなり活用された長友の脚力。10分間になった残り時間へ広がる期待。
狂喜乱舞。舞ったのは黄色の巨人。82分、ブレシアーノが左へ送ったボールを、オアーは鋭く縦に持ち出しながら、利き足の左で何とかクロス。しかし、緩やかな放物線を描いたボールは、「届くかなと思った」川島が差し出した指先の数センチ上を通過すると、そのままサイドネットへ吸い込まれます。「個人的にはほぼ偶然だと思う」(ザッケローニ監督)「少しアンラッキーな形」(本田)「狙っていないと思う」(今野)と誰もが口を揃える意外な形でのゴールでしたが、正真正銘の先制点。オーロラビジョンに"1"の数字が浮かび上がりました。
85分には内田とハーフナー・マイクを入れ替え、前線を本田との2トップに移行。86分にビドシッチのポストから、クルース、ケーヒルを経由して、オアーが放った枠内ミドルは川島がしっかり抑えると、87分には岡崎と清武もスイッチ。展開的にやむを得ないとはいえ、やや後手を踏みつつも1点への執念を采配に込めるザッケローニ監督。しかし、88分には慎重さの求められるFKを本田がイージーなキックミスでフイに。いよいよ追い込まれた日本。
埼スタを包む熱狂と絶叫。本田のミドルから獲得した90分の右CK。キッカーの清武は「蹴ろうか迷ったが、ボールが欲しそうだったので」シュートコーナーで本田へ。上げたクロスは二アサイドのマシュー・マッケイがブロックしましたが、直後に頭を抱えたのはマッケイとそのチームメイト。当たったのは左手だという主審の判断。土壇場も土壇場で日本にPKが与えられます。
キッカーは判定直後から片時もボールを離さなかった本田。本田対シュウォーツァー。5歩の助走から振り抜かれた左足。自らの左に飛んだシュウォーツァー。「結構緊張していた」本田の選択は「取られたらしゃあない」ど真ん中。揺れたゴールネットとスタジアム。"候補"が最後の最後で踊り出た主役。「負けたらすべて自分の責任だと言うし、勝ったらすべて選手を称賛する。人間的に素晴らしい監督」と長谷部も認めるイタリア人指揮官に率いられたサムライブルーが、初めて日本で世界への扉をこじ開ける結果となりました。
W杯出場権獲得が自身の監督キャリアに与える意味を問われ、「日本に呼ばれたのはW杯に出場するためで今日決められた。ただそれだけ」と話したザッケローニ監督に象徴されるように、この成果はあくまで1つのステップに過ぎないというスタンスを誰もが取っていたのが印象的でした。「W杯でベスト16に行ったことで満足してしまった所があったという話をしていた選手もいたが、そういう気持ちになったらそれ以上は勝てないという話もしたし、今のチームはそれ以上の高い目標を持ってやっていることを確認し合った」とブルガリア戦後に行った選手ミーティングの存在を明かしたのは長谷部。「正直勝ってW杯出場を決めたかった」という岡崎の言葉は、全選手の偽らざる本音でしょう。15日から開幕するコンフェデレーションズカップに向けて、「皆さんは期待していないかもしれないけど、僕は優勝を狙っている」と本田が話せば、「本気でW杯優勝を狙っているので今日は通過点」と長友。初めて日本で出場権を獲得したW杯は、初めて世界の頂に確固たる信念を持って挑む大会になりそうです。 土屋
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