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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
上州最強決定戦はここ数年の県内タイトルを二分しているトップ・オブ・トップの真剣勝負。会場は当然群馬高校サッカーの聖地・敷島です。
2年ぶりの出場となった昨年の選手権では2回戦で敗退したものの、当時のレギュラーも多く残り、今年はプリンス関東1部でも横浜F・マリノスユースに4-0で大勝を収めるなど、6節終了時で2位と春先から好調をキープしている育英。「スーパースターはいないけど、穴がないというかそこそこみんなやれる」と一定の手応えを口にしたのは山田耕介監督。昨年逃した夏の県王者を奪還し、4年ぶりの全国制覇に挑むべく、ファイナルへ臨みます。
対するはその育英と県内2強体制を確立した感のある桐生第一。一昨年はプリンス関東2部や選手権での全国ベスト8を経験。昨年は結果という意味では苦しい1年になったかもしれませんが、今年を「昨年できなかったことに再チャレンジする」(小林勉総監督)シーズンと位置付ける上でも、このタイトルは譲れない所です。敷島は気候も芝生も共に最高のコンディション。桐一のキックオフで10時30分ジャストにゲームはスタートしました。
「高さでやられるだろうというのはあったけど、そこを拾われてオタオタした」と山田監督が振り返ったように、立ち上がりから勢い良く飛び出したのは桐一。3分、田中大輔(3年・Az'86 tokyo-ome)の左FKに、頭2つ分くらい抜け出した高い打点から打ち下ろした松島奨真(3年・前橋ジュニア)のヘディングは枠の左へ外れますが、一様にどよめくスタンド。4分には左FKを田中がニアサイドへ蹴り込むアイデアを見せるも、ここは育英GK荻野健人(3年・前橋FC)がキャッチ。8分にも左からやはり田中がFKを入れると、乾貴哉(2年・前橋ジュニア)のヘディングは当たり切らず、シュートにはカウントされなかったものの、桐一がセットプレーで育英ゴールへ迫ります。
今年の桐生第一は一目見ればわかるほどの大型集団。おそらく4、5人は180センチを超えており、当然"高さ"という強みがある中で、大半の選手が技術も大事に育成された前橋ジュニア出身ということもあって、足元のプレーにも自信を持つ、相手からしたら非常に厄介なチーム。セットプレーを獲得する過程では目を引くような崩しも披露するなど、序盤からやりたいことを十分にやれていた印象を持ちました。
14分の右CK、18分の左FKは共に田中のキックが中とは合わず、シュートまでは持ち込めませんでしたが、19分にはショートコーナーから田中と浦丸治也(3年・Az'86 tokyo-ome)の連携で惜しいシーンを創出。すると、直後に迎えた決定機も桐一。田中のパスを受けたボランチの角田駿(2年・前橋ジュニア)は、絶妙のタイミングで左へスルーパス。齋藤雄大(2年・前橋ジュニア)に訪れた1対1の勝負は、萩野のファインセーブに阻まれましたが、「立ち上がりからちょっと押し込まれた」と育英のキャプテンマークを任された樋口慎太郎(3年・横浜F・マリノスJY)も認めた通り、ここまでは完全に桐一がペースを掴みます。
さて、今年の育英がトライしているシステムは3-4-3。「ワイドにアップダウンできるヤツがいて、CBの素材が何人もいて、シャドー的な役割のヤツが何人もいたので、そういうタイプに合うのがこのシステム」と山田監督。「攻撃的なチームなので、前に人が多くなってやっていて楽しい」とはシャドーに入った上田慧亮(3年・横浜F・マリノスJY)ですが、今日はWBの右に入った池田壮磨(3年・東京ヴェルディJY)と、左に入った田邉真之介(3年・三菱養和巣鴨)を生かし切れず、全体の距離感もやや遠め。21分に相手のクリアを体で止めた上田慧亮が右からクロスを送り、DFのクリアミスを拾った小口大司(3年・裾花ヴィエント)がクロスバーの上に打ち上げた一撃がファーストシュート。攻撃のリズムは出てきません。
以降もボールアプローチも含めた出足で上回る桐一の時間帯。23分には左サイドでボールを持った田中が、2人の間をぶち抜いて中へ切れ込み枠内ミドル。27分には角田が相手ともつれたボールを体で収め、左へスルーパス。2度目の決定機を迎えた齋藤のシュートはわずかに枠の右へ外れたものの、いい形での逸機に先制への期待が高まります。
28分には育英に意外なチャンス。U-17日本代表でも不動のレギュラーを務める鈴木徳真(2年・FC古河)が裏へ落としたフィフティのボールに、桐一GKとDFはお見合いする格好に。ここへ詰めていた小口が頭を突き出して狙ったシュートは、偶然GKの頭に当たってゴールにはなりませんでしたが、わずかに変わった流れ。
タイガー軍団の咆哮は33分。右サイドで獲得したFKを上田竜哉(3年・鹿島アントラーズつくば)が蹴り入れ、ニアで「体にちょっと当ててコースを変えようと思った」樋口がヒールフリック。これに反応した上田慧亮はエリア外から距離のあるボレーにチャレンジすると、ボールは最高の軌道を描き、左ポストの内側を叩いてゴールへ飛び込みます。ケガ明けで久々のスタメン復帰に「自分が出ているゲームで負けられないので、絶対に点を取ってやろうと思っていたけど、あんなシュートは決めたことがない」と笑った7番のゴラッソ。加えて、「『FKとCKの動きのアイデアはないのか』と、『桐生第一さんを見習えよ』と昨日怒ったばかり」という山田監督に対して、「そう言われていたので監督を見返すつもりでやりました」と樋口も言及した、"してやったり"のセットプレー弾。苦しんでいた育英が、38分にも上田竜哉の惜しい直接FKが飛び出すなど、すっかりペースを奪い返した格好でハーフタイムに入りました。
後半はスタートから育英が主導権を完全に握ると、先にベンチが動いたのもリードしている育英。上田竜哉に替わって、こちらもケガ明けの廣瀬慧(3年・柏レイソルU-15)を投入。昨年からのレギュラーで、攻撃に彩りを加えることのできるアタッカーをピッチへ解き放ち、貪欲に追加点を狙う意思をチーム全体に徹底させると、早くも48分にはその廣瀬が上田慧亮とのワンツーでエリア内へ侵入。フィニッシュには至らなかったものの、いきなり"違い"を見せ付けます。
徐々に勢いを削がれ、劣勢に回った桐一は50分にセットプレーからチャンス。自陣から松島が長いボールを送り込んだFKに、ボランチの木村光希(3年・前橋ジュニア)が競り勝ち、エリア内へ入ったボールに浦丸が頭で飛び付くもヒットせず。ストロングでもシュートシーンまでは至らず、「ボランチを使ってうまくリズムを創れた」(樋口)育英に付け入る隙を与えてもらえません。
「持ち味は前からのプレッシング」(樋口)「今は育英のプレッシングサッカーが生かせている」(小口)と2人が声を揃えた、"プレッシング"の結実は60分。高い位置までボールを追い掛け、ミスパスを誘発させたボランチの佐藤祐太(3年・横浜F・マリノスJY)は、マイボールを素早く右へラストパス。「祐太はボールを持ったらいつも自分を見てくれるので、絶対に来ると」走り出していた小口はGKの位置を一瞬で把握すると、冷静にゴール左スミへ流し込みます。「プリンスでもあの位置でボールを取ることは結構多い。そういう所で取ったらチャンスになるというのは理解しているので狙っていた」というストライカーの準備勝ち。点差が広がりました。
こうなると、「ウチのDFはほとんど失点しないので、1点取れればいけるなと思っていた」と上田慧亮も自信を口にした育英が、右から柿崎雅也(3年・今市中)、樋口、高田龍司(3年・FC東京U-15深川)で組んだ3バックの安定感を後ろ盾に、落ち着いてゲームをコントロール。失点直後から松島を最前線に上げて勝負に出た桐一をうまくいなしながら、63分には小口とのコンビネーションから廣瀬がフィニッシュまで。67分に桐一もSHからボランチへスライドした田中を起点に、角田が縦に放り込んだボールを齋藤が巧みなヘディングで狙うも、荻野がしっかりキャッチ。着々と潰していく時間。
山田監督も67分には田邉に替えて、U-17日本代表候補の渡邊凌磨(2年・レジェンド熊谷)を投入すると、システムも4-4-2にシフト。70分には上田慧亮が右へ送ったボールを渡邊凌磨はヒールで残し、廣瀬の強烈なシュートは桐一GK依田龍司(2年・東京ヴェルディJY)が辛うじてファインセーブで回避。果敢に狙う次の1点。
73分には桐一も1人目の交替カードとして鈴木順也(2年・ヴェルディSS小山)を送り込み、長身の乾も前線に上げて何とか1点を返しに出ていきますが、山田監督は78分にこちらもU-17日本代表候補の渡邉良太郎(3年・グランセナ新潟)を小口と入れ替えると、「高い選手を上げてきて放り込んでくるので」5バックへ移行。80分に迎えた桐一のラストチャンスも、田中のクロスに飛び込んだ浦丸のヘディングはわずかに枠の左へ。「最初からあんな感じでやれればいいんですけど」と山田監督も後半のパフォーマンスに納得の表情を浮かべた育英が、2年ぶりとなる夏の全国切符を力強く勝ち獲る結果となりました。
今年の育英は一味違うのではないでしょうか。「個々の能力はそんなに高くなくても、団結力があって"チーム"として勝っていけるチーム」と上田慧亮が話したように、全体の雰囲気も含めたチームのまとまりは抜群。3バックの導入も「4バックと併用していた時期にキャプテンの(樋口)慎太郎がサッカーノートで直訴してきた。自分たちでやりたいというので、『そうか。だったらそれでやろう』となった」と明かしたのは山田監督。そういう良い意味での信頼関係が指揮官と選手の間にも生まれているようです。代表組以外にも個性的な選手が揃っており、噛み合ったときの爆発力には無限の可能性がありそうな、面白いチームに仕上がっている印象も。全国に向けて、「上位を狙うのは当たり前だけど、初戦をしっかり勝って波に乗って、どんどん目標を高く設定していきたい」と話してくれたのは樋口。タイガー軍団は真夏の福岡で頂点に立つだけのポテンシャルを十分に秘めています。 土屋
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