最近のエントリー
カテゴリー
アーカイブ
このブログについて
J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
12位と7位がわずか勝ち点3差で対峙する、今シーズンのJ2を象徴するような好カード。まさに折り返し地点となる前半戦ラストゲームはケーズデンキスタジアム水戸です。
7勝6分け7敗という勝敗に加え、得点も失点も22とまったくのイーブンで21節を迎えた12位水戸。前節は難敵京都をアウェイで0-1と撃破して4試合ぶりの勝ち点3を獲得しており、チームの調子は上向き傾向に。前々節のG大阪戦から採用した3バックも一定以上の成果を獲得。昇格戦線に殴り込みを掛ける意味でも、今日はシーズンのキーゲームになり得る一戦です。
一方、無敗が続くここ4試合は11ゴールを奪い、首位を快走するG大阪を総得点で上回るなど、リーグ屈指の攻撃力を有している7位の山形。「ゲーム内容も含めた最近の戦い方には満足できるものも数多く出てきた」と奥野僚右監督が話す中で、ハッキリした数字を見れば課題は明白。西河翔吾の負傷離脱を受け、古巣対決に臨む作田裕次がCBへ入った守備陣の奮闘に注目が集まります。気温は20.6度と肌寒ささえ感じるような初夏の夕暮れ。両チームのサポーターが大きな声援を送る中、山形のキックオフでゲームはスタートしました。
ファーストシュートは2分。左サイドで獲得したCKを中村太亮が蹴り込むと、こぼれに反応したロメロ・フランクはミドルにチャレンジ。ここは水戸GK本間幸司がしっかりキャッチしたものの、作田同様に古巣相手となるこのゲームへ懸ける想いを、ボールに乗せて立ち上がります。
ところが、6分の出来事が招いた「イレギュラーな試合」(奥野監督)。中盤でロメロ・フランクと競り合った橋本晃司は、確かに腕を掴まれていたものの、振り払った手がロメロ・フランクの顔面にヒット。近くで見ていた池内明彦主審は躊躇なくレッドカードを提示します。ロメロ・フランクのファウルがアドバンテージを取るプレーだったかにはやや疑問が残りますが、当然判定は覆るはずもなく、水戸はわずか6分で数的不利を被ることになりました。
それでも、サッカーとは不思議なもの。「しっかり守備してカウンターという形で集中できた」とは本間。「相手の人数が少なくなると難しい部分はある」と林陵平。ここから2度の決定機を創出したのは10人で戦う前者。9分には作田のドリブルが大きくなった所を山村佑樹がかっさらって右サイドを独走。シュートはうまくコースを狭めた山形GK常澤聡が体に当てて回避しますが、22分にもやはり水戸のカウンター炸裂。相手のFKを拾った鈴木隆行が繋ぎ、左サイドに開いた鈴木雄斗はピンポイントで裏へ。「CBが結構高いポジションを取っていたので、裏が狙えるなと」感じていた島田祐輝はまったくのフリーで抜け出し、このシュートも飛び出した常澤に阻まれ、ゴールには繋がらなかったものの、「人数が少ない方が闘志溢れるプレーで、相手の動きを凌駕することは多々ある」と奥野監督も言及した通りの展開に、自然と上がるスタジアムのボルテージ。
ブルーの沸騰は29分。ここも山村が粘って運んだカウンター。その山村は左へ。鈴木隆行は寄せたDF2枚の間を強引にぶち抜き、一気に開けた視界。2度のファインセーブを後ろ盾に飛び込んだ常澤。37歳のストライカーが選択したのは、ピッチ上に流れるすべての時間を止めた美しいループ。静寂からの爆発。まさにパーフェクトなフィニッシュ。鈴木隆行の技術と経験が融合したゴラッソで、10人の水戸がリードを強奪しました。
さて、数的優位の中で1点を追い掛ける展開となった山形。カウンターからの連続被決定機には「相手が前線の1トップも一生懸命守備する。そういった所でちょうど間の位置にポジションを取られる訳で、CBがなかなか出て行きづらいし、他の選手も捕まえづらいという状況が生まれる」と奥野監督。攻撃面では「ちょっと攻め急いだ所はある」とCBの堀之内聖。ボールの回りにもスムーズさを欠き、全体的なアタックも右サイドに偏重。2分以降は1本のシュートも打てないまま、時間ばかりが経過していきます。
37分には島田の左CKに、4-4-1になった布陣のCBで奮闘していた冨田大介がわずかに枠の左へ外れるヘディングを見舞うなど、2点目もしたたかに窺う水戸。山形も42分には伊東俊と中村のトリックFKから、伊東の左クロスをファーで作田がドンピシャで合わせたヘディングも、本間が超ファインセーブで阻止。ホームチームが築いた堅陣を崩しきれません。
同点ゴールは唐突に。直後のCKは43分。中村が右から蹴り入れたボールも冨田がヘディングでクリアすると、ボールはエリア内で山村の手に当たってしまいます。池内主審のジャッジはハンドでPK。「確かに手には当たっていたけど、厳しい判定」と本間も苦笑しましたが、ここも当然判定は覆りません。キッカーは林。向かって左を狙ったキックは、本間もわずかに触ったものの、ゴールネットを揺らします。好調をキープする林はこれで3戦連発。山形が何とかスコアを振り出しに引き戻して、最初の45分間は終了しました。
後半はスタートから山形に交替が。少し痛みが出たという堀之内に替えて、CBに石井秀典を投入。1枚目のカードはやや想定外な切り方を余儀なくされて、反撃の45分間へ向かいます。対する水戸は前半の10人がそのままピッチへ。47分にはやはりカウンターから鈴木雄斗がピンポイントフィード。走り込んだ近藤岳登が少しもたつき、シュートシーンには至りませんでしたが、前半同様に攻撃の意志統一は徹底。48分には中島裕希にエリア内から打たれたシュートも、4バックの左SBへ回った尾本敬がしっかりブロック。前半の流れをうまく後半へ繋げることに成功します。
「重ねてイレギュラーな形になった」と奥野監督が表現した出来事は48分。ルーズボールを追った鈴木隆行へ、石井がややボールに関係なく肘気味にチャージすると、鈴木隆行はピッチ外にあったペットボトルを石井の方向へ蹴ってしまいます。池内明彦主審の判定は一発レッドカード。確かに行為自体は褒められたものではなく、柱谷哲二監督も試合後に「選手を庇う気持ちは一切ない」と断じたものの、同情の余地は十分にある退場劇。水戸は残り時間を9人で戦うことになりました。
こうなると当然水戸の意識は「1-1で最低でも引き分けるというスタンス」(本間)。山村を最前線に、中盤は右から鈴木雄斗、西岡謙太、島田が並ぶ4-3-1の布陣を敷き、山形と残り時間へ立ち向かいます。50分は山形。比嘉厚平が右から粘って上げたクロスを、中島が当てたボレーは枠の左へ。51分も山形。ロメロ・フランクが右へ送り、山田拓巳のクロスを中島が頭で合わせるも枠の左へ。52分も山形。ロメロ・フランクがミドルレンジから狙った左足シュートはわずかにゴール左へ。57分も山形。右からのショートコーナーを、最後は作田が打ち切ったシュートも近藤が全身でブロック。59分も山形。中村のクロスに伊東がヘディングを敢行するも枠の右へ。「声は今までで一番出ていたかもしれない」と島田。120%で続く水戸の集中。
64分に奥野監督は2人目の交替を決断。比嘉を下げて、「サイドの崩しを機能的にしたいし、ゴール前の迫力を出したい」と負傷明けの山﨑雅人をピッチへ。単調になりがちだった攻撃陣に、経験豊富なベテランのエッセンスを加えると、66分には柱谷監督も1人目の交替に着手。前からのプレスに奮闘した山村と難波宏明をスイッチ。チーム全体の運動量へてこ入れを図ります。
69分も山形。中村の左クロスをロメロ・フランクが頭で落とし、山﨑が放ったシュートは細川淳矢がブロック。71分も山形。ロメロ・フランクが左へ振り分け、中島が入れたクロスは尾本が体を張ってオフェンスファウルを獲得。スタジアムも含めた一体感で凌ぎ続ける水戸。奥野監督も74分には最後のカードとして、右SBの山田拓巳を下げると、本職は左SBの石川竜也をドイスボランチの一角へ投入。伊東が右SBへ、秋葉勝が右SHへそれぞれスライドして、残り15分間の勝負へ打って出ます。
決壊の時は77分。右サイドで獲得したCKを蹴るのは石川。ベテランのレフティが正確にニアサイドへ落としたボールを、中島がうまくフリックで流すと、詰めたのは「前で逸らしてくれた。狙い通りのプレー」と話した山﨑。「彼らが持っている経験というものをチームに流し込んで欲しい」と指揮官に送り出された2人のベテランが大仕事。とうとう山形が逆転ゴールを手にしました。
冷徹な追加点はやはりこの男。80分、「右サイドを崩してもらいたい」(奥野監督)と縦関係に並んだ伊東と秋葉のコンビネーションから、秋葉がフリーで繰り出した正確なクロスを、ニアサイドで確実にゴールへ流し込んだのは林。ここ3試合で5ゴールと大爆発のストライカーが奏でたバイオリンはジラルディーノへのオマージュ。「最後の90分が終わった所で勝ち切っているように持って行こう」と後半のピッチへ送り出された山形が、キッチリと勝ち点3をアウェイで獲得する結果となりました。
「レフェリーどうのこうのじゃなくて、我々のフェアプレーに反したものが出てしまった。とても残念なゲームで、今日来てくれたお客さんの皆さんに申し訳ない。これも監督の問題だと思う」と柱谷監督は会見で潔く話しましたが、レフェリーにゲームが大きく左右されたことは間違いありません。映像で見返しても、池内主審が下したジャッジの1つ1つは確かに正しい判断がなされていたかもしれませんが、ゲームコントロールというある意味では一番大事な部分で、残念ながら早々に揺らいだ信頼感を最後まで取り戻すことができずに、90分間が終わってしまった印象を受けました。個人的にも水戸が新しく導入した3-4-2-1のシステムを楽しみにしてスタジアムを訪れたにもかかわらず、わずか6分間ではほとんどその仕上がりや狙いもわからずじまい。おそらく見ているすべての人にとって消化不良なゲームになってしまったのが、返す返すも残念でなりません。 土屋
J SPORTS フットボール公式Twitterをフォローしてフットボールの最新情報をチェック!