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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
勢いのゼブラか、伝統のカナリアか。お互いに久々となる全国を懸けた一戦は駒沢第2です。
2次トーナメント初戦は大成の粘り強さに大苦戦。何とか終了間際に追い付き、PK戦で勝ち上がった成立学園。迎えた先週の関東第一戦も後半終了間際にPKで追い付くと、これまたPK戦でプリンス組を撃破。「しんどい時に何ができるかをずっと追い求めてきた」と就任1年目の太田昌宏監督も話す"新生"成立が、9年ぶりとなる夏の全国を狙います。
対するは高校サッカー界最大のビッグネームとも言うべき、名門中の名門として知られる帝京。初戦となった先週の東海大高輪台戦は前半で2点を先制される展開ながら、執念で2点を返すと、そのままPK戦でしぶとくセミファイナルへ。「今年は最後まであきらめないでやらないと勝てないというのは、本人たちが一番よくわかっていると思う」とは昨年から現場に復帰している荒谷守監督。覇者復活を宣言すべく、手中に収めたい4年ぶりとなる全国まではあと1勝です。10時キックオフのスタンドはほぼ満員。黄色いユニフォームがボールを蹴り出し、晴れ舞台へと続く最終関門の幕が上がりました。
1分経たずにチャンスを掴んだのは成立。右サイドから根本凪人(3年・成立ゼブラFC)が上げたクロスに、浅野裕永(3年・鹿島アントラーズつくば)が合わせたヘディングは帝京GK古島圭人(3年・湘南ベルマーレJY)がキャッチしましたが、いきなり惜しいシーンを創出すると、7分にもシュートチャレンジ。キャプテンマークを巻く金子拓矢(3年・ジェフユナイテッド千葉U-15)が右へサイドチェンジのボールを送ると、上村諒斗(2年・クラブ与野)がカットインしながら放った左足ミドルは枠の左へ。まずは成立が攻撃の手数を繰り出します。
一方の帝京は出場停止も含め、準々決勝からスタメンを4人変更。2トップも桶谷亮太(3年・帝京FC)と山駿介(2年・クマガヤSX)にそっくり入れ替え、やや回しに行ってリズムを掴めなかった先週の反省からか、山へと早めに長いボールを入れるスタイルを徹底。スタートから前へのパワーで圧倒する戦い方を選択します。
内田悠磨(2年・東松山ペレーニア)と荷平雅史(3年・アルビレックス新潟JY)で組んだCBでボールを握り、山本涼太(3年・東川口FC)と鈴木和真(3年・FC東京U-15深川)のドイスボランチが散らすサイドチェンジも効果的で、うまく押し込んでいた成立でしたが、徐々にリズムを奪っていったのはカナリア軍団。16分には左サイドを桶谷とのワンツーで抜け出した三浦勇介(3年・練馬開進第四中)が鋭いクロス。成立GK芝崎寛文(3年・柏レイソルU-15)がパンチングしたボールを、拾った古市拓巳(2年・岐阜VAMOS)はミドルに変え、ボールは枠の右へ外れたものの、ここから出始めた帝京の手数。成立も23分には山本のパスから金子が迎えた決定機も古島がファインセーブで回避すると、そのカウンターから山はフィニッシュまで。一層傾いた攻守の天秤。
25分も帝京。2トップの一角だった先週から2列落ちて、ドイスボランチに入った岩野広基(3年・GRANDE FC)のいいパスカットから、桶谷が右へ繋ぐと、武藤稜(3年・浦和レッズJY)は最高のグラウンダークロス。山のシュートは成立の右SB吉田将也(2年・成立ゼブラFC)がよく絞って懸命のブロック。32分も帝京。古市のFKから、こぼれを収めた木村俊輔(3年・Az'86 tokyo-ome)のミドルはゴール左へ。左サイドの三浦もよくボールを引き出し、ポゼッションとは裏腹に打ち出し始めたゴールへの積極性。
35分も帝京。右SBの増田隆市(3年・横河武蔵野FC JY)は左へ正確なサイドチェンジ。山が何とか繋ぎ、三浦が放った枠内シュートは芝崎がファインセーブ。37分も帝京。岩野がシンプルに裏へと落とすと、山は処理にもたついた相手CBと体を入れ替えて収め、三浦はシュートまでいけませんでしたが、単純さがもたらす脅威はさすが名門。「少し前半は硬かったかな」とは太田監督。やや帝京の圧力が上回った格好の前半は、スコアレスでハーフタイムへ入りました。
後半はスタートから、帝京が振りかざした必勝パターンの刀。山と桶谷を下げて、竜崎廉(3年・FC駒沢)と高橋優人(2年・横河武蔵野FC JY)をそのまま2トップへ投入する2枚替えは、準々決勝でもピタリとハマった交替策。さらなる前からの圧力を成立ディフェンスに突き付けます。すると、成立も42分に1人目の交替を敢行。上村に替えて中村諒介(3年・武南ジュニア)を左SHへ投入し、金子が右へスライド。両チームがテコ入れしたアタッカー陣。
この交替がより効果を発揮したのは帝京。「ウチもDFラインにスピードがあるわけじゃないので、そこを突いてきたのだと思う」と太田監督も話したように、竜崎と高橋は裏へと抜ける動きに加えて、成立のビルドアップへ果敢にプレスを掛ける守備面での貢献も抜群。43分に古市が蹴った右CKは、都内屈指のヘディンガー柳下大樹(3年・浦和レッズJY)に当たり切らずオフサイドに。46分には古市が綺麗なパスカットからスルーパスを送り、高橋が抜け出すもシュートは枠の左へ。さらに48分には竜崎のハイプレスから獲得したFK。右寄り、ゴールまで約25mの位置から古市が直接狙ったFKはわずかにクロスバーを越えますが、その2トップを入れ替えた効力は帝京側に色濃く、かつポジティブに反映されていきます。
51分には左から浦上吏騎(3年・FC古河)が右足で入れたクロスを、浅野が合わせたヘディングも古島にキャッチされ、嫌な雰囲気が流れ始めた成立。指揮官の決断も2枚替え。53分、金子と上田悠起(2年・成立ゼブラFC)、根本と町田ブライト(2年・鶴ヶ島南中)をそれぞれスイッチ。こちらも切り札の2年生コンビを解き放ち、劣勢を跳ね返しに打って出ます。
すると60分、中村は左から中へ切れ込みながらスルーパス。町田が完全に抜け出すも、古島も果敢に飛び出しシュートは打たせず。ルーズを町田が後方へ折り返すと、余裕を持ってトラップした上田の枠内シュートは再び古島のファインセーブに遭いましたが、交替出場の3人だけで創出した決定的なチャンス。一気に引き寄せたゲームリズム。
65分には帝京も古市の左CKから、柳下が何とか頭で触るもゴールは捉え切れず。続く成立のアタッキングタイム。67分には鈴木が左へ展開し、浦上が上げたクロスを中村が狙ったヘディングはクロスバーの上へ。71分にも浦上のスローインから、町田が反転して放ったミドルは古島がキャッチ。残すは最後の10分間。
72分は帝京。中央で粘って右に持ち出した三浦の決定的なシュートは、しかし浦上が決死のブロック。76分は成立。吉田が駆け上がり、浅野のリターンを左へ。町田のカットインシュートはクロスバーの上へ。80+2分は成立。中村を起点に鈴木がきっちり枠に飛ばしたミドルは古島も確実にキャッチ。2度鳴らされた長いホイッスル。ゼブラとカナリアの対峙は80分間で決着付かず。前後半10分間ずつの延長戦へ、全国切符の行方は持ち越されることになりました。
成立の大応援団が歌う"カントリーロード"に送られ、成立のキックオフでスタートした延長前半は帝京ペース。83分、竜崎が粘って粘って右へ振り分け、武藤がえぐってグラウンダークロス。竜崎のスルーを経て、走り込んだ古市のミドルはクロスバーの上へ。89分、武藤、竜崎、延長開始から投入された阿久津義和(3年・帝京FC)、竜崎と細かく回り、高橋がシュートを打つ寸前で、こちらも延長前半からピッチへ入った成立の左SB丸紘生(3年・ジェフユナイテッド千葉U-15)が必死にクリア。90分、自陣から相手GKを見た増田の55mロングシュートは、芝崎が辛うじてキャッチ。変わらないスコアボードのゼロ。
延長後半は成立ペース。中でも目立ったのは「今日は一番良かった」と太田監督も絶賛した鈴木。落ちない運動量はもちろんのこと、相手に寄せ切るパワーや中盤でボールを引き出す動きも秀逸。彼に引っ張られる形で終盤に迎えたラッシュアワー。93分、左から丸の上げたクロスを、ファーで町田が叩いたボレーは弱く、古島が丁寧にキャッチ。96分は決定機。浅野が右へ送ると、山本が繋いで吉田のクロスはファーへ。中村が全身を伸ばして頭で落とすと、山本はフリーで飛び込みましたが、シュートは当たらず古島が構えた両手の中へ。96分の連続決定機。ここも浅野が右へ送ると、町田は最高のクロスを送り届けるも、中村のボレーは枠のわずかに左へ。
死力をさらに振り絞る最終盤の撃ち合い。98分は成立。上田が左へサイドを変えると、浅野のカットインシュートは枠の左へ。99分も成立。芝崎のキックをそのまま収めた浅野が、右へ持ち出しながら枠へ飛ばしたシュートは古島がキャッチ。100分は帝京。CBのキャプテン小川一矢(3年・FCトッカーノ)が古市へ付け、武藤のクロスに反応した阿久津のシュートはゴール右へ。100分間でも彼らの勝敗を決するには足りず。お互いに準々決勝に続いて、PK戦で次のラウンド、すなわち全国への挑戦権を奪い合うことになりました。
先攻は成立。1人目の丸は冷静に右スミへ沈め、幸先の良いスタート。後攻は帝京。すると、ここで魅せたのは成立の守護神。「データをしっかりシバに伝えて、1本は止めるという話をしていた」という太田監督の言葉通り、芝崎は準々決勝と同じコースに蹴ったキッカーのキックを読み切り、貫禄のシュートストップ。明暗がハッキリ分かれます。
成立が送り出した2人目以降は、浅野のクッキアイオは別として、3人目の上田、4人目の中村と「後悔しない所に練習通り蹴る」(太田監督)指示を忠実に体現しつつ、全員が成功。帝京も3人連続成功で、いよいよ運命の5人目。
キッカーは3年生の荷平。この大事な準々決勝と準決勝でスタメンに抜擢された男に託された命運。荷平が選択したのは向かって右。古島が飛んだのは自身の右。豪快に揺らされたゴールネット。「練習から手を抜かずに100%やろうというのが合言葉。本当に選手が粘り強くやってくれた」と太田監督。3試合連続PK勝ちという驚異的な勝負強さを発揮した成立が、9年ぶりとなる夏の全国への挑戦権を獲得する結果となりました。
最後の最後までお互いが持てる力をすべて出し切ったような好ゲームでした。勝敗を分けたのはPK戦という"運"がもたらす要素の強いものでしたが、「自分がキチッと後悔しないところに蹴るということだけをやらせている」と太田監督も話したPK戦の練習や、相手キッカーの特徴をPK戦の直前に芝崎と話していた森岡幸太GKコーチの分析など、ディテールを突き詰めた執念に、勝負の女神がほんの少しだけ味方をしたのかもしれません。「日本一を目指そうという所から出発して、選手も最初は難しいんじゃないのという感じだったが、練習から『日本一になるにはどうしたらいいか』と常に言い続けてきた成果が出たのかなという感じはする」と太田監督。十条のゼブラが8月、念願の全国へ飛び立ちます。 土屋
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