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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
積み重ねたここまでの15試合で、黒星が付いたのはわずかに1。J2で最も"負けにくい"チームがさらなる躍進へと5月ラストゲームに挑む舞台は、昨シーズンから15戦無敗継続中のホーム・カンスタです。
J2昇格から5年。1年ずつ着々と成績を向上させ、昨シーズンはJ1へと続く一本道を確かにその視野へ捉える8位へと躍進。もはやその好結果に何の驚きもなくなりつつある岡山。今シーズンも引き分けこそ多いものの、前述したようにわずか1敗の5位と、あたかも当然のように昇格プレーオフ圏内を、さらには自動昇格圏内すら十分に狙えるポジションをキープしています。
対するは怒涛の3連勝から始まった4戦無敗が、前節の栃木戦で止まった16位熊本。順位だけを見ればボトムに近い印象を受けますが、リーグが混戦模様にある中で、まだ昇格プレーオフ圏内の6位とは勝ち点9差と決して開いていないのが実状。4月に加入した堀米勇輝、橋本拳人という年代別代表を経験している若手もすぐさま定位置を確保し、チームに繊細さとダイナミックさをプラスしています。初夏を思わせる26.9度のコンディション下、スタンドを埋めた8356人の大観衆。ビッグフラッグが揺れ、タオマフの花が咲き乱れる中、熊本のキックオフでゲームはスタートしました。
立ち上がりから積極的に繰り出された双方のミドル。2分は熊本。ファビオが中へ送ると、ルーズを拾った齊藤和樹のミドルは枠の右へ。6分も熊本。堀米が右サイドをドリブルで運び、ここもルーズを橋本がミドルに変えたボールは枠の左へ。7分は岡山。1トップ下に当たる2シャドーの一角に入った押谷祐樹が左足で狙ったミドルは枠の上へ。13分は熊本。左サイドで片山奨典のスローインから、最後は「アウトサイドで守備ができる」という吉田靖監督の評価から、今日は左SHで起用された仲間隼斗が枠内ミドル。ほとんどイーブンと言っていい流れの中、ミドルゾーンからのチャレンジが繰り返されます。
ただ、少しずつ目立ち始めたのは岡山が自陣で繰り返すボールロスト。特にボランチのラインでは影山雅永監督も「相手の自分のラインを越えた後のプレスバックで後手を踏んだ」と言及したように、岡山の生命線でもある千明聖典と仙石廉のドイスボランチへ、2トップが果敢にプレッシャーを繰り返し、大きな展開を未然に阻止。さらに、その2トップを含めた前の4枚が最終ラインも激しく追い回したことで、「DFラインからの展開も今日は封鎖されてしまった」(影山監督)ホームチーム。「僕がシャドーを見て、FWにボランチを見てもらう感じだったが、それほど混乱せずに守れた印象」とは橋本。19分にはようやく仙石から縦にいいクサビが入り、桒田慎一郎が右へ振り分けるも、石原崇兆のクロスはDFがクリア。シュートシーンまでは持ち込めません。
すると、カンスタを静まり返らせる一撃は21分。左から中央へ侵入していた仲間が運んで運んで、2人のマーカーも振り切って打ち抜いたシュートがゴール右スミへ豪快に飛び込みます。「あまり覚えていないが、少し滑って体勢を崩してしまったのが逆に良かったのかな」という21歳のゴラッソ。アウェイチームがまずはアドバンテージを握りました。
以降も熊本のアグレッシブな守備にさらされ、岡山がイージーにボールを失うシーンが多発。24分にも高い位置で相手のパスミスを拾った堀米がシュートをきっちり枠内へ。32分には岡山も右サイドで創った展開から、千明のラストパスを押谷がミドルで狙うも南雄太が確実にキャッチ。逆に33分にはドリブルから、35分には筑城和人の右アーリークロスから、共にファビオが岡山GK中林洋次にセーブを強いる枠内シュート。熊本の時間が続きます。
もう1つ岡山を停滞させたのは、2シャドーの機能不全。橋本も話したように、熊本は彼と原田で組んだドイスボランチが押谷と桒田をしっかり監視下に置き、バイタルへの"縦"をほとんど入れさせず。2シャドーの無力化は、すなわち1トップに入った荒田の無力化。35分には岡山が一瞬の隙を付く初めての決定機。桒田が今度は左へ送り、田所諒がグラウンダーで折り返したボールは荒田の足元に入りましたが、左足で枠へ飛ばしたフィニッシュは南がファインセーブで回避。「相手のやってくることの、さらに裏返しをするべきだったが、勢いに飲み込まれてしまった。多少前半はパニックになった所はあると思う」と影山監督。熊本が1点をリードして、最初の45分間は終了しました。
後半スタートから見せた影山監督の決断は配置変更。押谷と荒田を前線に並べ、その下に桒田を置いた3-4-1-2気味にシフトします。しかし、開始早々にまたもセカンドを奪われ、そこから堀米、齊藤、原田と繋ぎ、仲間が放ったシュートはDFがブロックしたものの、いきなりチャンスを献上してしまうと、2分後に歓喜へと包まれたのはアウェイの赤。48分、ロングボールを植田龍仁朗が弾ませ、寄せた齊藤はマイボールに収めると、そのまま右サイドをえぐって中へ。ファビオのシュートは中林が懸命のセーブでストップしましたが、詰めた仲間のシュートがゴール右スミへ転がり込みます。「後半のプランを遂行する前に得点を与えてしまった」と影山監督も渋い顔。点差が2点に広がりました。
「1点取れていて相手が来るから、そこをうまくいなせたかなというのはあった」と原田も話したように、前へと行きたい気持ちと冷静な判断がシンクロしないホームチーム。56分に素晴らしいインターセプトを披露した桒田の"次"は、かなり無謀な枠外ミドル。10分前後お互いにシュートシーンがなく、65分に荒田へ訪れたミドルのチャンスも、ボールはクロスバーのかなり上へ。縮まらないスコア。
完璧な追加点は直後の65分。南のキックを齊藤が巧みに頭で落とすと、仲間は最高のスルーパスでリターン。チームトップスコアラーの冷静なストライカーが左足でゴール右スミをパーフェクトに捕獲。まさにシンプル・イズ・ベスト。最小限の流れで手にした最高の成果。「やろうとしたことを忠実にやってくれた」と"ここまで"のチームを賞賛した吉田監督。0-3。意外な大差が付いてしまいました。
両指揮官が異なる狙いを持って揮った交替策。吉田監督が動いたのは72分。足が攣っていたという堀米に替えて、ベテランの藤本主税をそのまま右SHへ投入。75分の影山監督は一気に2枚替え。下がったのは仙石と荒田。入ったのは三村真と久木田紳吾。三村は左SH、久木田は最前線に入り、田所がボランチへ。「前半からあのペースでずっと来ていたので、多少間が空きだした」と影山監督が話し、「3−0になってから、後ろと前が間延びして真ん中が空いてしまって狙われた」と熊本のキャプテンマークを巻く吉井孝輔も言及したように、その"真ん中"の有効活用を意識させるような選手交替を敢行します。
それでもまだチャンスを創るのは熊本。77分、右CKを藤本が短く出し、仲間のリターンから最後に原田が狙ったミドルはバーの上へ。78分、1本のフィードで抜け出した齊藤のシュートはGKが懸命にキャッチ。岡山も81分には三村が獲得したCKを田所が蹴るも、シュートには結び付かず、82分に田所が入れた左FKも、植田のヘディングは枠の上へ。これを見た影山監督のラストカードは84分。桒田を下げて、近藤徹志を3バックの右へ送り込み、その位置にいた後藤圭太が最前線へ。スクランブルで最後の勝負に打って出ます。
カンスタの沸騰は89分。後藤のポストプレーを起点に、石原が右から素晴らしいアーリークロスを放り込むと、ファーで久木田が折り返し、最後にボレーで合わせたのは押谷。DFの隙間をすり抜け、ゴールネットへ到達したボール。変わったスコアボードの"ゼロ"。1-3。2点差に。90分に途中出場の北嶋秀朗がミドルレンジから枠を強襲させたシュートも中林がワンハンドで回避。上がるスタンドのボルテージ。
カンスタの沸騰は90+1分。田所のリターンを後藤が右へ繋ぐと、ここに走り込んで力強くシュートを打ち切ったのはまたしても押谷。南の手を弾いて、ゴールネットへ到達したボール。「一番喰らっちゃいけないカウンター。考えられない未熟なミスで許せない」と語気を荒げた吉田監督。「我々のチームとしての意志が1つになった」と影山監督。変わったスコアボードの"イチ"。2-3。1点差に。
「長いボールが入った後の処理でやられた」(原田)熊本へ、容赦なく降り注ぐ岡山のフィード。勇気を持った飛び出しによって、相手選手との接触で危ない態勢のまま落下した南が傷むアクシデントがあり、その復帰にスタジアム中から拍手が送られる素晴らしいシーンを挟んだため、延びたアディショナルタイムもとうとう終焉の時。最後に掛けた岡山の圧力を熊本が防ぎ切り、タイムアップの笛が吹き鳴らされたのは97分50秒。「後味がちょっと悪いが、勝てたことを前向きに捉えたい」と吉井。楽勝ムードから一転、最後は薄氷を踏む想いを強いられながら、熊本が岡山のホーム連続無敗をストップする結果となりました。
岡山は全体を通じてみれば、「アレぐらい上回られたら、熊本のペースで終始行かれてしまったのは、ある意味必然かなと思う」と影山監督が振り返った通り、らしくないイージーミスも多く、負けゲームと表現していい88分間だったと思います。ただし、「岡山はホームで1点取ると勢いが付く」と吉井も言及するほどに心強いサポーターをバックに付け、意地を見せた最後の2分間とアディショナルタイムに、彼らがこの5位という位置にいる理由を垣間見た気がしました。
「もう5分くらいあったら逆転されていたと思う」と指揮官も明言した終盤のヒヤヒヤも経験しながら、連敗回避に成功した熊本。とはいえ、トータルで見れば「非常にアグレッシブで目指すようなサッカーを遂行してくれた」という吉田監督の言葉にも頷ける内容だったのは間違いありません。「うまく崩して点を決めるのは簡単ではないから、今日みたいな形は得点のパターンとして多いと思うし、それでもしっかり決められたのはチームとしては良かった」と堀米が語った通り、相手のミスやGKからのプレースキックをうまくゴールに結び付けたしたたかさが今日は勝利に直結。リーグ最南端からの刺客は"カモンロッソ"と勝ち点3を手土産に、カンスタを後にしました。 土屋
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