最近のエントリー
カテゴリー
アーカイブ
このブログについて
J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
昨年のその先へ。ラウンド16で屈した1年前のリベンジを果たすべく、太陽王が日立台のピッチへ立ちます。
アジアへのセカンドチャレンジは怒涛の3連勝スタート。ある程度余裕を持ってグループ突破を勝ち取った柏。迎えた先週のアウェイゲームは、昨年もグループステージで激突した全北現代とのリターンマッチでしたが、菅野孝憲のビッグセーブ連発もあってアウェイで0-2と先勝。ホームでの第2戦にクラブ、そして近年の日本勢にとって鬼門とも言うべき、ラウンド16越えを狙います。「代表がアジアのトップレベルを維持しているように、クラブチームも日本の代表としてACLに出ている以上は、しっかりアジアのトップを目指すべきだと思う」とキャプテンの大谷秀和。Jリーグの威信を懸けたゲームは、全北のキックオフでスタートしました。
「審判のジャッジに気を遣わなければいけない部分があった」と渡部博文が話したように、この日の主審のアブドゥラー・アルヒラリはコンタクトプレーに対して大半をファウルとジャッジ。流れがブツブツ切れるため、なかなか双方に攻撃のリズムが生まれない中、2分はエニーニョ、4分と6分はジョルジ・ワグネル、7分は再びエニーニョと、立ち上がりはFKでのチャンスが頻発します。
10分には柏にビッグチャンス。右SBに入った鈴木大輔のフィードを、クレオが頭で落とし、ワグネルがフリーで狙ったボレーはわずかに枠の右へ。13分には全北にビッグチャンス。スローインの連携ミスを拾ったクォン・ギョンウォンは、ミドルレンジから思い切った強烈な低空弾。右のポストを叩き、菅野に跳ね返ったボールはピッチに戻ってきましたが、お互いに1つずつ得点機を創り合います。
ただ、全体のリズムは全北に。柏は大谷を中盤アンカーに置き、その前に右から工藤壮人、栗澤僚一、茨田陽生、ワグネルを並べ、最前線にクレオを頂く4-1-4-1でスタートしましたが、「そんなにシステムが悪かったとは思っていない」と前置きした大谷が、「相手は自分たちがイメージしたダブルボランチにトップ下という綺麗な形じゃなかった」と話し、「トップ下の11番(イ・スンギ)がボランチより後ろにいたり2トップになったりしていて掴みにくかった」と栗澤も言及したように、比較的フラットな位置で浮いていたイ・スンギを誰が見るかにやや苦しんだ印象。それは、ただでさえアジアレベルを超越した高さを誇る上に、前述したコンタクトに対するジャッジの影響で「ファウルをしないように競り勝つのは本当に難しかった」(渡部)イ・ドングッがほとんどボールを収めるか落とせていたため、セカンドに対しても「11番のポジショニングが嫌だった」(栗澤)という側面もあって、少しずつ柏にとっては難しい展開に。
14分は全北。左サイドで繋ぎ、最後はエニーニョのシュートが枠の左へ。15分も全北の決定機。パク・ヒドが預けたイ・ドングッは完璧なリターン。1人かわして枠へ収めたパク・ヒドのフィニッシュは、しかし鈴木が懸命のゴールカバーで回避。15分にはエニーニョのFKにイ・ドングッが競り勝ち、パク・ウォンジェが押し込んだゴールはオフサイドだったものの、「流れがなかなか掴めなかった」と大谷。続く全北の時間。
決壊は想定内の意外な形。主審がタッチラインを割っていたとする副審のジャッジを見落とし、茨田がPKを獲得しながら取り消されたプレーを経た22分、既にこの日5本目のプレースキックとなったエニーニョのFK。二アサイドへ入ったボールはそのまま抜けてくると、増嶋竜也に当たってゴールへ飛び込みます。立ち上がりから維持していたエニーニョの高精度キックは想定内ですが、オウンゴールはある意味想定外。180分間のスコアは2-1。点差はわずか1点となりました。
ネルシーニョは早くも決断。「セカンドボールを取り切れず、取りたい高さでボールが取れなくなってきた。今日の相手にはうまくハマらず、変更せざるを得ない」と、システムを4-4-2へシフト。ボランチにはおなじみの栗澤と大谷が配され、右に茨田がスライド。工藤が1.5列目気味に中へ入り、全体のバランス是正に着手します。
これによって少しずつ「下でのパスが繋がり始めた」(栗澤)ことと、「セカンドに反応できるようになった」(渡部)攻守の流れを、一気に加速させたのは31分のカウンター。栗澤が粘って右へ付けると、茨田は左へスルーパス。フリーで受けた工藤が、カットインしながら右スミを狙ったシュートはクォン・スンテのビッグセーブに阻まれたものの、久々に揺れた日立台。変わりつつあるムード。
40分を過ぎると柏の連続セットプレー。40分、ワグネルの右FKを増嶋がバックヘッドで合わせたボールは枠の左へ。41分、ワグネルの左FKがこぼれると、反応した茨田のシュートはDFがブロック。そして、黄色の歓喜を生み出したのはこの日自身8本目のプレースキックとなったワグネルの左CKから。一旦クリアされたボールを再び収めたワグネルのクロスに、中で合わせたのは渡部。ボールはゆっくりとゴールネットへ吸い込まれます。相手の高さとジャッジにフラストレーションが溜まる展開も、耐えて耐えて飛び込んだCBの貴重な一撃。これで180分間のスコアは3-1。柏が大きなアドバンテージを奪って135分間が終了しました。
後半のファーストチャンスは全北。49分、エニーニョの左FKはゴール前にこぼれるも、菅野がしっかりキャッチ。まずは確実に相手のターンを凌ぐと、日立台2度目の熱狂はその2分後。51分、栗澤は機転を利かせたクイックリスタート。走ったクレオが中へ折り返し、DFのクリアが茨田に当たると、ボールはワグネルの足元へ。右に流れながら利き足とは逆の右足でコントロールしたシュートが、黄色いサポーターの待つホーム側のゴールネットを捕獲します。前半終了間際のシュートではヒットしなかった右足でのゴラッソ。頼れるチーム最年長の逆転ゴール。180分間のスコアは4-1。これで柏が圧倒的優位に立ちました。
「アウェイで2点取られたということは3点取らなければいけない」(全北・ファビオ・レフンデス監督)状況に追い込まれた全北は、すかさず相次いで2枚の交替を。52分にCBのチョン・インファンに替えてレオナルド・ロドリゲスを、53分にパク・ヒドに替えてケビン・オリスを投入すると、ボランチのキム・サンシクが最終ラインへ。イ・スンギがボランチに落ち、レオナルド・ロドリゲスは左SH。ケビン・オリスがイ・ドングッと前線に構える4-4-2へ布陣変更を施し、何とか3点を跳ね返す態勢を整えます。
それでも、結果的にはこの采配も柏の前に奏功したとは言えず。相変わらずイ・ドングッの高さは脅威であり続けたものの、「ファウルをしないような対応に切り替えた。逆にやらせるくらいの気持ちで、最後の部分でシュートコースへ足を出そうと近藤さんと話していた」と渡部が振り返った通り、前半よりもFKの献上数が激減。さらに、「後半は前目の方で相手のボランチへうまくプレッシャーに行けていたので、11番に攻撃をさせなかったのかな」とは栗澤。セカンド対応もドイスボランチ含めて万全に近い態勢で、ほとんどチャンスらしいチャンスを創らせず。62分にイ・ドングッが地上で捌いたポストプレーから、レオナルド・ロドリゲスが放ったミドルは、DFに当たるも菅野が完璧にキャッチ。危なげなく時計の針を進めていきます。
そして、日立台3度目の熱狂は69分。ワグネルのパスを引き出した大谷は、「うまく2人のDF間で駆け引きをしてくれていたので、僕もタイミングを見てから出せた」と中央を切り裂くスルーパス。駆け引きに完勝した工藤は、1対1も氷の冷静さでゴール左スミへグサリ。GK一歩も動けず。「あそこで相手も切れたと思う」と本人も振り返るトドメの一撃。180分間のスコアは5-1。大勢は決しました。
当然長いボールを放り込む全北に、余力を持って受け止める柏。72分にはエニーニョがわずかに枠の右へ外れる直接FKを繰り出すも、75分には茨田のクロスから工藤が枠を越えるジャンピングボレーで応酬。77分にはファビオ・レフンデス監督も3枚目のカードとして、C大阪や甲府、鳥栖、愛媛でプレーしたキム・シンヨンをピッチへ送り込み、「どんな試合でも、そして人生においても諦めてしまったら負けだ」という姿勢を打ち出しますが、83分にケビン・オリスが打ったシュートは枠の上へ外れ、84分にキム・シンヨンが打ち切ったシュートも増嶋が体でブロック。残すは5分とアディショナルタイム。
唯一ラウンド16に残ったKリーグ代表の意地。87分、エニーニョのフィードからうまく裏に潜ったレオナルド・ロドリゲスが完璧なトラップから、飛び出した菅野を外すラストパス。無人のゴールへケビン・オリスがプッシュ。このゲームは3-2。180分間のスコアは5-2。まさに一矢を報いることに成功しました。
勝利を確信した黄色いサポーター。勝利を確信した歌声。90+5分には両チーム入り乱れての小競り合いの中、「キム・シンヨンは日本語が喋れていたので周りの選手を抑えるような姿勢だったし、僕と彼の間には何もなかった」と話した大谷とキム・シンヨンの両者にイエローカードが出る不可解な判定もありましたが、ほどなくして吹かれたネクストステージ進出を告げるホイッスル。「自分たちの力に見合った結果が付いてきただけ。チャンピオンになれるチームだと思う」とクレオも胸を張った柏が、アジアの8強へ力強く歩を進める結果となりました。
「去年の悔しさはみんな口を揃えていて、そこのモチベーションはどのチームより高かった」と栗澤が言及した通り、ラウンド16突破にかける柏の執念が、全北を大きく上回った180分間だったと思います。そのモチベーションに加え、2年続けて挑んでいるアジアでの戦いで積み重ねてきた経験が、「システムも変わったり、先に失点したとしても切り替えて柔軟にやれた」(大谷)ゲーム運びに繋がったことも間違いないでしょう。「ワタルだったり澤くんが戻ってきて戦力になってくれるし、間違いなく今の自分たちより強くなっていると思う」と大谷が見据えたベスト8は3か月後。日本の太陽王から、アジアの太陽王へ。眩さを増した行進が止まる気配はありません。 土屋
J SPORTS フットボール公式Twitterをフォローしてフットボールの最新情報をチェック!