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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
5日後に迫った大一番。因縁のサッカールーズと激突する前に、日出ずる国へ招いて対峙するのは東欧の雄・ブルガリア。おなじみキリンチャレンジカップです。
引き分け以上で5大会連続のワールドカップ出場が決定するオーストラリア戦を前に、「誰が良い状態で、誰が良い状態でないのかを把握するため」(アルベルト・ザッケローニ監督)マッチメイクされたキリンチャレンジカップ。前回のゲームで招集を見送られた本田圭佑や岡崎慎司など一部の選手は合流が遅れているとはいえ、長友佑都はメンバーに名前を連ね、現状でザッケローニ監督が考え得るベストメンバーが日本に集結しています。
対するブルガリアにとって、次に行われるワールドカップ予選のゲームは9月であり、ヨーロッパのシーズンを終えたばかりの選手たちにとっても難しい状況での来日でしたが、メンバーを見るとほぼ主力クラスが軒並み顔を揃えた"本気"の構成。イタリア、チェコ、デンマークと同じグループに組み込まれたワールドカップ予選も、ここまで無敗の2位と好調をキープ。本大会を見据えても、日本にとって貴重な経験になるのは間違いありません。1年3ヶ月ぶりの代表戦に沸き上がる豊田スタジアムは、41353人の観衆に埋め尽くされた大入り満員。熱狂的なサポートに包まれる中、日本のキックオフでゲームの幕が上がりました。
試合が動いたのは開始早々の3分。スパス・デレフが栗原勇蔵に倒されて得たブルガリアのFK。左寄り、ゴールまで約30m弱の距離から、スポットに立ったスタニスラフ・マノレフは完璧な無回転で枠内へ。揺れて揺れて、差し出した川島永嗣の両手も弾くと、ボールが着地したのはゴールネット。プレミアリーグのフルアムに所属しながら、リーグ戦の出場は5試合にとどまったマノレフの痛烈な一撃。まずはブルガリアがアドバンテージを握りました。
勢いは継続。6分にイベリン・ポポフのドリブルから獲得したCKを、デレフが蹴り込んだボールは前田遼一がクリア。同じく6分、左サイドでSBを務めるヨルダン・ミネフのスローインから、デレフがスルスルとカットインしながらチャレンジしたミドルは枠を越えましたが、「新しいチームを創っている最中」(リュボスラフ・ペネフ監督)のブルガリアがホームチームを圧倒します。
日本のファーストシュートは8分。乾貴士が左から持ち込んで放ったシュートは左のサイドネット外側へ外れたものの、スタジアムを包むポジティブな歓声。14分には今野泰幸のクサビを乾がうまく左へ捌き、駒野友一のクロスは中と合わずも、ある意味狙い通りの形を創出します。ただ、実はこの一連はようやく出てきたいい形。上がらない攻撃のテンポ。
おそらくこのゲームで最も注目されていたのは日本のシステム。大方の予想通り、「監督もチャレンジしたいというのはヒシヒシと感じた」と長谷部誠も話した3-4-3をスタートからチョイス。最終ラインには右から吉田麻也、栗原、今野が並び、長谷部と遠藤保仁で組んだおなじみのドイスボランチの横には、右に内田篤人、左に駒野友一を配置。最前線に入った前田遼一のシャドー的な位置に香川真司と乾が入る布陣で、ザッケローニ監督は選手を送り出しました。
ただ、「守備の所では良い所が出たと思う」とその指揮官が話した通り、ある程度カウンターを狙う格好を採っていたブルガリアが、序盤以降はそこまで出てこなかったこともあり、守備面で大きな綻びは見られなかったものの、攻撃面では2つの点が気になりました。1つは3バックの攻撃参加。「自分が入っていたポジションだけがCBと言われていて、今ちゃんと麻也の所はSBって言い方をすると監督も言っていたので、SBと言われる所がもっと前に絡んでいかないと攻撃的な3バックというのはなかなか機能しない」とは栗原。左サイドは今野が積極的に攻め上がるシーンも多く、駒野も「今ちゃんとの連携に手応えはあった」と話したようにいいアタックを披露。10分と15分のCKも共に左サイドで獲得しています。逆に右サイドは「相手の基点になる選手」(栗原)のポポフが張り出していたこともあって、そのケアに追われた側面はあったにせよ、それでも今野と比較すると吉田の位置取りも中央気味で、内田に攻撃で関与していく場面はほぼなし。その部分でメインスタンドサイドを制されたことが、チーム全体の推進力へ与えた影響もあったように思います。
もう1つはサイドにボールが入った時のクサビ。内田と駒野がボールを持つと、ターゲットとして香川と乾が中央に潜ってくるため、前田が有機的にパスワークへ絡めない時間が続きます。「相手の守り方もうまかったと言えばうまかったし、通すコースがなかったと言えばなかった」とは駒野。前田も少しずつサイドに流れるなど、受ける工夫を見せる辺りはさすがでしたが、ポストのリズムが掴み切れないからかロストもしばしば。この2つが「ボールを持った時の判断の遅れ」(ザッケローニ監督)に繋がっていた印象を受けました。
21分はブルガリア。スローインのこぼれから、左SBのヨルダン・ミネフが思い切って狙ったミドルは川島がファインセーブで回避。直後のCKもショートで始めると、ゲオルギ・イリエフを経由し、ブラディミル・カジェフのミドルはDFが体でブロック。「事前に3-4-3は予測していたし、よく日本を研究してそれに基づいた戦術を立てた」(ペネフ監督)ブルガリアがハマったままで推移する時間。
そんな中、24分に日本が繰り出した流麗なアタック。右サイドでボールを持った内田が斜めに入れると、香川はヒールでフリック。真後ろにいた前田が落とし、遠藤が右へ出したスルーパスを乾がゴール。ここはオフサイドを取られましたが、前の3枚にWBとボランチが絡んで好機を演出。27分にも吉田のパスから、乾は香川とのコンビでエリア内へ。こぼれを駒野が枠へ収めたシュートはGKにキャッチされるも、徐々に攻撃でもそれらしい流れが。31分にも駒野と乾が絡み、1人かわした香川のフィニッシュはブルガリアGKブラディスラフ・ストヤノフが好セーブ。乾と香川の躍動で流れは日本へ。
33分には吉田からパスを引き出した遠藤が左へピンポイントパス。香川のフィニッシュ直前で、懸命に戻ったラドスラフ・ディミトロフがクリア。41分にも香川が左から斜めの動きでパスを引き出し、付けた駒野のクロスはゴールキックになってしまいましたが、乾と香川の個人技に拠る所は大きかったとはいえ、攻撃には好転の兆候が。44分、45+1分、45+1分とブルガリアが繰り出した3連続CKもシュートまでは至らず、前半の45分間はブルガリアが1点をリードして終了しました。
「前回やった時よりは、守備の部分とか意思統一できて悪くはなかったと思う」と長谷部が振り返った3-4-3は45分間のみのテスト。後半はスタートから長友、清武弘嗣、酒井宏樹、ハーフナー・マイクと一気の4枚替えで、「普段から使っている」(ザッケローニ監督)4-2-3-1へ。最終ラインは右から酒井、栗原、今野、長友。1トップに据えられたハーフナーの下には、右から清武、香川、乾というセレッソトリオが再結成。「いつもやっているのでスムーズ」(栗原)な並びで、残りの45分間に挑みます。
躍動する桜3人衆。52分、酒井が右から入れたスローインを香川はシュートに変えるも、前半途中から負傷退場したイリヤ・ミラノフに替わってCBへ入ったアレクサンデル・アレクサンドロフが体でブロック。55分、栗原を起点に清武、香川と繋がり、清武のフィニッシュは枠の右へ。57分、清武、香川、清武と回り、乾のラストパスを清武が打ち切ったシュートもDFがブロック。即興と郷愁で奏でるハーモニーが煽る得点への期待。
58分の圧巻はブルガリアの1トップ。カウンターのチャンスも、中央で3人に囲まれたデレフ。囲まれ、運び、囲まれ、運んで、突如ミドルレンジから強烈に枠内へ。川島もファンブルしながら何とか収めた好シュート。これがラストプレーとなり、直後に交替でピッチを去ることになりましたが、ベンチメンバーを見ても最も身長の低い170センチながら、体格を感じさせない強さと巧さで1トップを務め上げたデレフを見ると、改めて最前線へ入る選手に求められる要素は身長だけではないことを再認識させられました。
前述したようにペネフ監督も55分にガジェフに替えてフリスト・ズラティンスキを、59分にデレフに替えてイリアン・ミツァンスキを相次いで投入。ミツァンスキの下に、1.5列目的な役割としてポポフがスライド。イリエフがドイスボランチの一角に落ち、ズラティンスキは左SHへ入るなど、少し配置も組み替えながら、「中盤で組み立てる所でボールを奪い、自分たちの攻撃に繋げる」(ペネフ監督)狙いの体現に努めます。
さて、「香川や乾、長友、清武がスペースに動きながら受けた時は良い所が出た」と話したザッケローニ監督。ということは、スペースに動きながら受けた時"以外"に不満を感じたとも読める発言の"裏"。前田の献身で良くなりつつあった1トップを絡めるコンビネーションは、ハーフナーの投入で再び霧の中へ。懸命さは伝わるものの、パスワークへ関与することがほとんどできず、3シャドーのリズムに乗り切れないプレーが続いてしまいます。
64分はブルガリアに交替。ポポフとゲオルギ・ミラノフのスイッチ。68分には清武の高精度CKに栗原が合わせるもクロスバーの上へ消えるヘディングを放つと、68分の交替もブルガリア。イリエフとステファン・ベレフのスイッチ。ザッケローニ監督も満を持した格好で69分、乾に替わってピッチへ解き放ったのは中村憲剛。3シャドーの中央に中村が入り、香川が左へ移る布陣。"ケンゴシステム"で同点、そして逆転への勝負に出ます。
70分の悪夢。長友のファウルはブルガリアのFKへ。キッカーはレフティのズラティンスキ。右から速いボールを放り込むと、「替わった17番(ゲオルギ・ミラノフ)に誰が付くかがハッキリしていなかった。自分のマークに付こうと思って全力で走っていったら、そこにボールが来た」という長谷部の足にヒット。「クリアしなくてはいけなかった」と反省するキャプテンの意外なオウンゴールで、点差が2点に広がりました。
途端にバタついた日本へ襲い掛かるブルガリア。73分、今野のパスミスからカウンター。マノレフが右へ送り、3列目から飛び出したベレフのクロスはファーのズラティンスキまで届くもDFが間一髪でクリア。74分、今度はズラティンスキが左サイドを抜け出し、中へ折り返すと、フリーで走り込んだベレフのシュートは枠の右へ逸れましたが、漂い始める3点目の予感。
76分に創った日本の決定機。長谷部が粘って右へ繋ぐと、清武のクロスはドンピシャで中央へ届くも、ハーフナーのヘディングはクロスバーの上へ。78分には中央右寄り、まさにマノレフが沈めたのと似たような位置から遠藤が直接狙ったFKは、しかし枠の左へ。煮え切らないスタジアム。80分にザッケローニ監督が最後のカードとして送り出したのは、長谷部に替えて細貝萌。チャンスも創れないまま、ゲームが突入したアディショナルタイム。
90+1分は日本。清武の右CKは高精度で中央を捉えるも、ハーフナーのヘディングは再びクロスバーの上へ。90+3分も日本。ハーフナーがポストになれず、相手に奪われたボールを再奪取した中村の強烈なシュートは、ストヤノフがファインセーブで阻止。90+4分のラストチャンスも日本。長友のパスから、中村が当てた縦パスを清武が裏へ。飛び出した長友が冷静に押し込み、スタジアムに熱狂が訪れましたが、上がっていた副審のフラッグ。直後、ブルガリアの勝利を告げるタイムアップのホイッスル。「今日起用した選手のパフォーマンスには非常に満足している」とペネフ監督も賞賛したブルガリアが、通算5度目の対戦となった日本相手の無敗を継続する結果となりました。
まず、ブルガリアがかなりの好チームだったことは間違いありません。デレフやポポフ、ズラティンスキなど技術の高い選手も多く、2枚のCBを逃がし所に使ったビルドアップも効果的で、チームとしてやりたいことはかなり徹底されていたと思います。「日本でやる試合で、こういう相手もなかなかないなと思った」と長谷部が話せば、「非常に良いチームだった。ワールドカップ予選で結果が付いてきているのも頷ける」とザッケローニ監督。この時期に当たるには格好のスパーリングパートナーでした。
日本に関しては、「良かった所と悪かった所と両方が出たと思う」と長谷部が言及した前半の3-4-3も、守備面と20分以降の攻撃面は決して悪くなかったように感じました。選手たちが一様に口を揃えていたのは、「なかなか継続的にやれる機会もなかったから、本当に挑戦だと思う」(栗原)「途切れ途切れというか、3-4-3をやって4-2-3-1をやっての繰り返しなので、ずっと続けていくことで成熟していくと思う」(駒野)という"継続性"の部分。それでも、「結果が最重要でない試合は、新しいオプションを試すのはいいこと」と話すザッケローニ監督の言葉はおそらく本音半分といった所。当然このゲームをスカウティングしているオーストラリアへ2つのシステムの対策を練らせる意味でも、20分以降に関しては一定の成果を得られたのではないでしょうか。
「3試合で4失点を喫しているので、ナーバスになってしまう部分はあるかもしれない」と長谷部も触れたセットプレーに関しては、結果的に2失点を許したシーン以外にも、21分にスローインから打たれた枠内シュートや、30分に最終的にはオフェンスファウルになったCKからの際どい枠内シュートなど、いくつか危ないシーンが見られました。当然今の日本は押し込める試合も増えており、相手のチャンスがカウンターかセットプレーに限定されることも多いので、どうしても目立ってしまう側面もあると思いますが、「体を当てるだけでも全然違うし、もう1回集中するだけでも全然違うと思う」と栗原が話したように、高さのあるオーストラリア戦に向けて微調整を図ってほしいポイントです。
課題と収穫。オプションとスタンダード。挑戦と浸透。「負けからは何も起きないし、負けは好きではない」というイタリア人指揮官は、"負け"を喫したこと以上にこのゲームを意味のある90分間だったと捉えているような気がします。史上初となる日本での歓喜へ。舞台は整いました。 土屋
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