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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
先週から開幕した東京のインターハイ1次トーナメント。今日は昨年の全国出場校であり、都内のトーナメントでは無双の強さを誇った実践学園が早くも登場します。
ちょうど1ヶ月前に行われた関東大会予選は、出場権を懸けて臨んだ準決勝で東久留米総合に敗れ、関東への道を閉ざされてしまった実践。T1リーグでも現在3連敗中と苦戦が続きますが、「力がないわけではないので、1つ歯車が噛み合えば良くなる」とは深町公一監督。ここからの5連勝を目指し、チームのさらなるステップアップと2年連続での全国切符を狙います。
この前回王者に挑むのは、昨年の選手権予選に続いて顔を合わせることになった東京実業。7ヶ月前の対戦では善戦しながらも2-4で敗れており、当然リベンジを期する気持ちは強いはず。「実践さんとは去年も戦っているし、分析をした中でそんなに変わっていないはず」と片山智裕総監督。都内に新しい風を吹き込むべく、"アウェイ"の高尾へ乗り込んできました。キックオフは10時。両チーム共に多くの応援団が詰め掛ける中、東京実業のキックオフでゲームはスタートしました。
開始早々のビッグチャンスは実践。3分、右からレフティの藤江真也(3年・FC府中)が蹴り入れたCKへ、ニアに飛び込んだ佐藤稜大(3年・FC多摩)がドンピシャで合わせたヘディングはクロスバー直撃。昨年も数々の対戦相手に恐怖を与えてきたセットプレーの脅威は健在。早速、東京実業の喉元に決定機を突き付けます。
以降もペースは「ちょっとバランスを重視したが、悪い入り方ではなかった」と深町監督も話した実践。14分には左サイドをSBの大瀬貴己(3年・Az'86 tokyo-ome)がドリブルでえぐり、上げ切ったクロスを森田竜太(3年・FC府中)が流れながら当てたヘディングは枠の左へ。16分、17分と続けてCKを獲得すると、19分のFKはトリックプレー。大瀬が直接狙う雰囲気で中へ小さく流し、新井直人(2年・FC渋谷)は右へ。この間に裏へ潜った藤江はクロスを上げ切れなかったものの、悪くないトリックプレーを披露。守備面でも「ほとんど佐藤が跳ね返していた」と指揮官も言及した通り、相手のアバウトなロングボールには佐藤とキャプテンマークを巻く10番の福岡将太(3年・JACPA東京FC)で組んだCBコンビが圧倒的な高さと強さで弾き続け、相手にチャンスの芽吹きすらも許しません。
一方の東京実業は「いいディフェンスからやろうと話はした。キッチリキッチリやることを徹底させた」と片山総監督が話したように、まずはしっかり相手のアタックを受け止め、守備ブロックで弾く戦いを徹底。時折3トップの左を務める堀江啓汰(3年・横浜FCJY鶴見)のスピードや、キャプテンの萩原脩作(3年・横浜市場中)が繰り出すドリブルには可能性を感じさせますが、シュートへ結び付けるまでは至りません。
23分に大瀬が蹴った左FKは東京実業GK沖山璃樹(3年・横浜大綱中)がキャッチ。24分には右から藤江が入れたCKを沖山がパンチングで弾くと、こぼれを大瀬が思い切って狙ったシュートは枠の右へ。この2シーンに象徴されるように、大瀬の積極性は左サイドをしきりに駆け上がるオーバーラップにも反映され、チームの大きな推進力に。さらに、27分過ぎには「いつもあそこの3人はグルグル回しながらやっている」と右から藤江、森田、溝口和也(3年・練馬豊玉第二中)を配していた1トップ下の3人を、右から溝口、藤江、森田にチェンジ。「気分転換をさせながら」(深町監督)さらなる勢いを期待。
39分には溝口のドリブルから獲得したFKを藤江が蹴り込み、福岡が強引に当てたヘディングは枠の右へ。「ウチの基本とするディフェンスの部分はできていた。全然問題なかった」と深町監督。ゴールこそ奪えませんでしたが、相手のシュートをゼロに抑えた実践がゲームをコントロールした状態で、スコアレスの前半は終了しました。
後半はスタートから両チームに交替が。実践は溝口に替えて河合和樹(3年・三鷹F.A.)を投入。東京実業は左SBを安重秀哉(3年・川崎臨港中)から三島颯太(3年・江東第二大島中)へシフト。お互いバランスの微調整に着手すると、後半も勢い良く立ち上がったのはホームチーム。新井のパスを河合がシンプルにはたき、森田の放ったボレーは沖山が横っ飛びで何とか回避。大瀬の左CKはDFのクリアに遭うも、いいシーンを創ります。
そんな中、43分に生まれた東京実業のファーストシュート。前田航大(2年・MKFC)のパスを受けた滝田輝(3年・品川荏原第一中)は、右からカットインを敢行して枠内シュートを狙うと、ここは実践GK遠藤透(3年・FC GONA)がキャッチ。43分には萩原が中盤で収め、そのままスルーパス。走った前田より飛び出した遠藤が先にボールへ到達するも、わずかに変わり始めた勝負の潮流。
赤の狂喜。47分、左FKから得たこのゲーム初めてのCKは右。キッカーの萩原がファーサイドへ送ると、高い打点で折り返したのは長身CBの竹内涼太(2年・川崎チャンプ)。入れ替わったファーサイドで前田がプッシュしたボールは、スローモーションのようにゴールへ飛び込みます。一瞬静まり返ったグラウンド。一拍置いて広がった赤の狂喜。「ウチも高さがあったので、そこはチャンスかなと。相手のやってくることをウチもやってやろうと思っていた」と片山総監督。劣勢だった東京実業のスコアボードに、"1"の数字が浮かび上がりました。
「最近失点から始まっているので『またか』という雰囲気になってしまう」(深町監督)実践の全国へ懸ける執念。失点から3分後の50分、左サイドへ侵入した河合のクロスに田嶋翼(3年・FC Branco)が反応。マーカーともつれる格好になると、主審はディフェンスファウルを認め、ペナルティスポットを指し示します。少し微妙なジャッジにも見えましたが、実践にとっては千載一遇の同点機。キッカーは大瀬。狙った右サイドのゴールネットを揺らした球体。ビハインドにも屈しなかった実践が、すぐさま追い付いて見せました。
55分に動いたのは東京実業。中盤で奮闘していた木下諒人(3年・川崎橘中)を下げて、小澤純(2年・品川荏原第一中)を右サイドへ配置。滝田が左、前田は3トップ下、堀江が最前線へとそれぞれスライドすると、60分には小澤のドリブルから堀江を経由し、萩原の左足ミドルは枠の上へ。奪いに行く1点と白星。
深町監督が「高い位置を取り過ぎて、少しバランスを崩してしまう」と見ているSHへテコ入れを決断したのは67分と69分。まず、「5割6割くらいのコンディション」(深町監督)ながら、今日はチームの切り札的な役割を担う中村仁哉(3年・TACサルヴァトーレ)を、続いて富田峻介(3年・町田JFC)を相次いでピッチへ解き放ち、立ち位置も変えつつ勝負に出ます。
71分は実践。新井が右から左足クロスを送り、こぼれを狙った河合のミドルはDFをかすめてわずかにクロスバーの上へ。直後も実践。中村が自ら蹴ったCKのこぼれを河合から引き出すと、やや焦ったシュートは枠の右へ。73分は東京実業。ほとんど"無"の状態にもかかわらず、ゴールまで35m強の距離から突如として堀江がチャレンジしたミドルは、揺れて落ちてクロスバーにハードヒット。出し合う手数。
75分に揺らされたゴールネット。萩原の左FKは飛び出した遠藤、跳ね返したいディフェンス、押し込みたいオフェンスが入り乱れての混戦に。この浮き球を竹内が頭で押し込み、東京実業が勝ち越しかと思われた瞬間、主審が吹いたのはオフェンスファウルを宣告するホイッスル。ここも判断が分かれるようなシーンだったと思いますが、判定はノーゴール。80分間では両者譲らず。前後半10分ずつの延長戦へと戦いの舞台は移されることになりました。
延長は20分間を通じて実践が攻勢に。85分、富田の左クロスを河合が何とか当てたヘディングは枠の上へ。86分、田嶋の左カットインシュートは沖山が何とかキャッチ。90分、延長開始から左SBへ移っていた福岡が粘って上げたクロスから、富田が振り切ったボレーも枠の上へ。
90+1分、中村が自陣から蹴った長いFKを、福岡がうまく合わせたバックヘッドも沖山がキャッチ。100分のラストチャンス。左から中村の入れたFKを福岡がフリックするも、やはり沖山ががっちりキャッチ。直後、主審のホイッスルから聞こえてきたのはタイムアップの音色。スコアは動かず。ネクストラウンドへの進出権はPK戦へ委ねられます。
迎えた11mの1対1。後攻の実践は1人目が痛恨のシュートミスで枠外へ。一方、「練習してきたことを信じるしかない」(片山総監督)というメンタルで臨んだ東京実業は滝田、宮田剛(2年・川崎橘中)、三島、高橋竜功(3年・川崎東橘中)と4人目までが全員成功。実践も2人目以降は全員が成功し、いよいよ回ってきた5人目。先攻は東京実業。
決めれば勝利の大事なキッカーは、「サッカーに対する想いを非常に持っている」と片山総監督も太鼓判を押すキャプテンの萩原。キックは右。GKが飛んだのも同サイド。3秒後に弾けたのは、アップセットを告げる赤い歓喜の輪。「今年のチームは凄くマジメな選手たち。そこに尽きるなと思う」と総監督も賞賛した東京実業が、王者をアウェイで葬り去り、1次トーナメント決勝へ駒を進める結果となりました。
ゲーム自体はコントロールしながらもなかなかゴールが奪えないまま、最後はPK戦で2年連続代表の夢を絶たれた実践。「決して悪い試合ではなかったが、今日に関してはセットプレー頼みになってしまったかもしれない」と深町監督も話した通り、流れの中から創った得点機は決して多くなく、ゴールと試合を決め切れなかった大きな代償を払うことになりました。ただ、悔しい敗戦にも気丈に応援団へ今後の決意を語った福岡を中心に、守備面は一定以上の強固さを誇っており、「ここで彼らが本気になってくれたら嬉しい」という指揮官の言葉に応えられるかどうかが、選手権までに残された宿題と言えそうです。
「向こうがみんな上手だった」と敵将も認めたPK戦を力強く制し、金星と言っていい昨年のリベンジを果たした東京実業ですが、「目標は3回勝って2次トーナメントに出ることですから」と片山総監督も手綱を緩めるつもりはまったくありません。「勝った以上は次への準備をしっかりしないと」と気を引き締めた総監督。"不撓不屈"の校訓を体現する伏兵が、高らかに主役候補へと名乗りを上げました。 土屋
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