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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
夢のステージで迎えた躍進の春。並み居る猛者を抑えて、堂々4位に付ける長崎。古巣対決となる知将・高木琢也監督に率いられ、乗り込むのは三ツ沢。今シーズン初の関東遠征です。
前節はアウェイ京都という難しいシチュエーションの中、1点を守り切る格好で開幕戦以来となる7試合ぶりの勝利を手に入れた横浜FC。思うように結果が出ない中でも、黒津勝や森下俊など新加入選手も少しずつチームにフィットしつつあり、次に狙うのはホームでの初勝利です。
対するは現在怒涛の3連勝中と、序盤のJ2で巨大旋風を巻き起こしつつある長崎。「1つ1つの積み重ねが連勝で、僕らはあまり意識していない」と古部健太が話せば、「全員が自信を持ってプレーしている」と岩間雄大。「負けてもともとのチームだから、変に構える必要はないし、ありのままのプレーをやろう」と指揮官に送り出された今日に、4連勝を懸けて挑みます。公式戦ではまったくの初対戦となる両者。新たな歴史のスタートとも言うべき一戦は、横浜のキックオフで時計の針が動き出しました。
まずその推進力を見せたのは、長崎が誇る左の"翼"。2分、左WBに入っている山田晃平はドリブル開始。運んで運んで、中へ低く潜ると、こぼれを拾った佐藤洸一がこのゲームファーストシュートを枠内へ収め、ボールは横浜GK柴崎貴広にキャッチされましたが、1つ前への意欲を見せると、以降はやや長崎に流れが。
前述の山田が積極的に縦へと仕掛け続けることが、全体に波及させた好リズム。7分には金久保彩が左からFKを蹴り入れ、こぼれを小笠原侑生が叩いたボレーは枠の上へ。15分にも金久保が右からアーリークロスを放り込み、こぼれを直接狙った岩間のボレーは大きく枠を外れたものの、「前半からハードに戦う予想はしていた」と高木監督も話したように、球際でもやや優位に立った長崎ペースで序盤は推移していきます。
一方の横浜は1トップに入る大久保哲哉へなかなかボールがうまく入らず、その下に構える4枚のアタッカーも厚みのある攻撃を仕掛けられません。また、気になったのはイージーなパスミス。特に中盤からサイドへ散らすボールがタッチラインを割ってしまうシーンが散見され、スタンドからも大きな溜め息が。パス回しにテンポが生まれてきません。
26分も長崎。金久保が右へ送ると、開いた小笠原はニアへクロス。飛び込んだ佐藤のシュートはヒットしませんでしたが、サイドからの崩しを披露。28分も長崎。右CKを金久保はマイナスに送り、最後は小笠原が反応するもシュートは当たらず。29分も長崎。高い位置でボールを奪うと、高杉亮太とのワンツーから佐藤洸一のシュートは横浜DFが何とかブロック。「向こうのハイテンションに、こちらがボールを持っている時に合わせ過ぎて慌てたかな」と山口監督も話した横浜は、押し込まれる時間が続きます。
ただ、山口監督が施した修正が引き寄せた流れ。30分に差し掛かる前から大久保と黒津のポジションを入れ替えると、31分には流れの中から初めてのチャンス。スローインから黒津、寺田紳一と繋がり、大久保が頭で右へ送ると、受けた黒津のクロスはGKにキャッチされましたが、ようやく創ったチャンスの芽。「少しリズムを掴んだ」(山口監督)横浜の逆襲。
39分、黒津が獲得したFK。中央右寄り、ゴールまで30mの距離から松下裕樹が直接狙ったFKは、GKに一歩の反応も許さなかったものの、鳴り響いたのは乾いた金属音。ボールは右ポストを直撃して、ピッチへ跳ね返ります。42分も横浜。左サイドでスローインの流れから、佐藤謙介が右足でクロスを送り、大久保が頭で折り返すと、松下はマーカーをスクリーンしながら反転シュート。枠へ飛んだボールは長崎GK金山隼樹がキャッチしましたが、「いずれリズムを掴むというのはあった」と山口監督。横浜が終盤に掛けては押し込む格好で、前半の45分間は終了しました。
すべてはここから。51分に沸騰した"俺たちの丘、三ツ沢"。佐藤が右へ散らしたボール。武岡優斗は右サイドを切り裂くと、素早くクロス。ファーサイドへ舞ったのはジャンボ大久保。頭で確実に捉えたボールは、サポーターがすぐ後ろに控えたゴールネットを激しく揺らします。「良い入り方をした」(山口監督)中での力強い先制点。大久保を左へスライドさせた采配スバリ。横浜が1点のアドバンテージを手にしました。
畳み掛けるフリエ。52分、佐藤謙介がDFラインの裏へ落としたパスに、走り込んだ黒津は強烈なシュートを枠内へ打ち込み、金山も呼応するファインセーブ。突如として着火したゲームの導火線。
54分に動いた高木監督。「金久保は危険なプレーをすることができるので、中央を少し活性化したい」と、佐藤洸一に替えて古部健太を左WBへ送り込み、山田を左から右WBへ。金久保のポジションを「自由にやれる部分はある」と自ら語る2シャドーの一角へ移行させます。
すると、57分にはFK、61分にはCKとセットプレーを蹴りながら、感覚を整えていた金久保の見せ場が到来したのは65分。クリアボールを拾った古部は短く金久保へ。中に少し持ち込みながら、「相手DFが足を伸ばして股が空いたので狙った」シュートは、狙い通りマーカーの股下を抜けると、そのままゴール左スミへ吸い込まれます。「振り抜く力を持っている」と高木監督も評した金久保の同点弾。スコアは振り出しに引き戻されました。
さて、西嶋弘之が負傷でピッチ外へ出ており、交替選手を用意している最中に10人で失点を喫した横浜。66分にまずはその西嶋を小野瀬康介と入れ替え、さらに69分には寺田と中里崇宏もスイッチすると、最終ラインは右から武岡、ペ・スンジン、野上結貴、森下俊という顔ぶれに変わり、失点前の「自分たちの良いリズム」(山口監督)を取り戻しにかかります。対する長崎も、少し押し込まれ始めていた右サイドにテコ入れ。小笠原と替わって、右寄りのシャドーへ投入されたのは前田悠佑。両指揮官が繰り広げる頭脳戦。激闘は残り20分の攻防へ。
70分は長崎。井上裕大のスルーパスに抜け出した水永翔馬のシュートは、柴崎がファインセーブで阻止。74分も長崎。金久保が右サイドをぶち抜き中へ送るも、岩間はエリア内で時間がかかり、シュートは弱く柴崎へ。76分も長崎。複数で囲んで相手ボールを奪い、高杉のパスから前田は枠の右へ外れるミドル。選手交替や配置転換にも「練習からやっているし、誰がどこへ動いてもみんな理解しているので、混乱することはない」と岩間。「スタメンも途中出場の選手もしっかりハードワークできている」(古部)長崎のラッシュ。
77分には山口監督の決断。大久保と田原豊を入れ替え、前線へパワーを。81分には高木監督の決断。山田と松橋章太を入れ替え、前線へパワーを。激闘は残り10分の攻防へ。
82分の絶叫。金山のパントキックを水永が得意のヘディングで繋ぎ、松橋は左へ。縦に持ち出してまたぐ「よくやるヤツ」でサイドを突破した古部の選択は、「GKや誰かに当たって入ってもいいし、とりあえず中に速いボールを入れようという"シュータリング"」。本人の「ファーまで届くように」という想定とは裏腹に二アサイドを襲ったボールは、右ポストを叩き、柴崎に当たってゆっくりとゴールへ転がり込みます。「当然スタメンで出たいけど、与えられた役割を100%こなすのがプロ」と語った古部のJリーグ初ゴールは貴重な貴重な逆転弾。長崎がとうとうリードを奪いました。
焦る横浜。いなす長崎。「選手たちがプレッシャーを掛けに行ったことで、良いボールを配球させず、最後に余力を残してランニングができた」と高木監督。「練習から凄く走っているので、それが最後の場面で出ている」と岩間。難敵相手に安定感すら感じさせるゲーム運びでアディショナルタイムの3分も危なげなく消し去ると、鳴り響いたホイッスルは4連勝を祝うファンファーレ。長崎が堂々の勝ち点3を逆転で奪い切る結果となりました。
「今は"夢"を見ている段階」(高木監督)という長崎が、"夢"を見続けられている要因がよくわかるような90分間だったと思います。「点を取った後のチームのまとまりを見ていても、一丸となってやる姿は、またチームとして成長したなと思う」と高木監督。アウェイで優勝候補の一角と対峙しても、正面からぶつかっていく姿勢を最後までピッチ上の11人が崩さなかったことが、長崎に白星がもたらされた最大の要因ではないでしょうか。「僕たちは下から這い上がってきた。失うものは何もないので、失敗を恐れずに全力でやるだけ」(金久保)。究極のチャレンジャーにとって、既にJ2は"夢"ではなく、確かな"現実"として日常へ組み込まれ始めています。
土屋
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