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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
一昨年のJリーグ。昨年の天皇杯。2つの"冠"を手中に収めた日本の王者が、躍動している"継続の舞台"はアジアです。
アウェイでの開幕となった貴州人和戦を0-1の勝利で潜り抜けると、ホーム開幕戦ではレアンドロ・ドミンゲスの2発を含む大量5ゴールを挙げて、セントラルコースト・マリナーズに大勝。さらに、先週アウェイで対峙した水原三星ブルーウィングスも、栗澤僚一が衝撃の2ゴールを記録するなど2-6で蹴落とし、怒涛の開幕3連勝を飾った柏。他のJリーグ勢が軒並み苦戦する中で、唯一2年続けての参戦という継続性を最大限に生かして、アジアを席巻しています。
対する水原は最初の2試合を共に引き分けると、前述したようにホームで柏に6失点を喫し大敗。現在、セントラルコーストが勝ち点4で2位に付けており、今日の結果次第ではグループステージ突破へ黄信号が点るため、「相手にしても落とせない一戦」と工藤壮人も表現したアウェイゲームに挑みます。平日ナイターにもかかわらず、メインスタンドもバックスタンドも黄色のサポーターが多数詰めかけ、青い水原サポーターも少数精鋭で駆けつける中、水原のキックオフでゲームの幕は上がりました。
いきなり開始31秒、日本凱旋に燃えるチョン・テセが枠内へ収めるオープニングシュートを放ったものの、その後のゲームは膠着。次のチャンスは、こちらも元千葉のパク・チョンジンが右から上げたアーリークロスをステボが頭で落とし、チョン・テセが粘り強いキープからシュートをバーの上に打ち上げた12分まで待つことに。動きの少ない展開が続きます。
この要因の1つは、柏がある程度無理をしない戦い方を選択したこと。「元々上がるタイプじゃないけど、サイドバックのマス(増嶋竜也)もしっかり残りながらバランスを取っていたのはそういう意識」とキャプテンの大谷秀和。ここ最近はリーグ、ACL共に失点がかさみ、「全員がゼロにこだわってやっていた」(大谷)こともあり、それほど果敢に攻撃を仕掛けず、まずはしっかりと守備の安定を図ることに腐心した印象です。
また、もう1つは強度の高い水原のアタックを、渡部博文と鈴木大輔のCBコンビを中心に、柏が軸足を置いた守備面でしっかり抑えたこと。チョン・テセとステボという「Jリーグにはなかなかいない、高さと強さを持ったタイプの2トップ」(大谷)に入るボールにも、チャレンジアンドカバーをハッキリさせながらうまく対応。一定の基点こそ創られたものの、そこへ入る2列目や3列目のサポートをきっちり分断させたことで、シュートまでは持ち込ませません。20分前後までの膠着した流れは、少し押し込まれる中でも、うまくゲームをコントロールしていた柏に因るところが大きかったと思います。
すると、先に決定機を創出したのは柏。20分、栗澤が左へ振り分け、ここは上がってきていた増嶋が後ろへ戻すと、ジョルジ・ワグネルは絶妙のクロス。巧みなトラップから「ゴールの位置は大体の感覚で打った」工藤の反転ボレーはわずかに枠の左へ逸れたものの、崩し切っての好チャレンジ。25分にも大谷の素晴らしいカットを起点に、田中順也からのリターンをダイレクトで大谷は中へ。走り込んだ工藤のボレーはヒットしませんでしたが、「僕個人としての感覚は悪くない」と語る工藤は好調をキープ。水原に失点の脅威を突き付けます。
ミドルゾーンでのボールの出し入れにあまり工夫がなく、2トップを生かし切れない水原も28分にビッグチャンス。こちらは元FC東京のオ・ジャンウンが左サイドで斜めに裏へ。反応したパク・チョンジンは左へ流れながらシュートを打ち切ると、ここは柏GK菅野孝憲がファインセーブで阻止しましたが、インプレーの中から惜しいシーンを生み出しました。
以降はボールも回り始め、少しずつリズムの出てきた柏がやや押し気味に。40分にパワーシュートが記憶に新しい、千葉や清水でプレーしたエディー・ボスナーが直接狙ったFKは、アウェイゴール裏に詰めかけた水原サポーターのど真ん中へ一直線。お互いに1度ずつ決定機を逃した前半は、スコアレスでハーフタイムへ入りました。
勢いを持って後半へ入ったのは、何が何でもゴールを奪いたい水原。47分、チョン・テセのポストプレーから、ステボは右へ展開。パク・チョンジンが右へ持ち出して放ったシュートは枠の右へ。48分、右からホン・チョルが蹴ったFKに長身ボランチのパク・ヒョンボムが頭で合わせるも、シュートには至らず。50分、今度はキム・デギョンが右から蹴り込んだCKを、ニアでパク・ヒョンボムがフリック。ボールはファーサイドのステボまで届くも、シュートは力なくゴール左へ。先制点への意欲を前面に打ち出します。
57分には柏に後半ファーストチャンス。工藤が獲得した右CK。ジョルジ・ワグネルが左足を振るい、増嶋が何とか折り返すと、ボールはフリーの渡部へ。アジアへの道を切り拓いた男の左足シュートは、しかしクロスバーの上へ。こちらも先制とはいきません。
ソ・ジョンウォン監督が続けざまに切ったカード。57分にはチョン・テセと元甲府のデナン・ラドンチッチを、59分にはパク・チョンジンとソ・ジョンジンを相次いで入れ替え、期待する攻撃への新しい化学変化。直後、ホン・スナクのスローインをラドンチッチが落とすと、パク・ヒョンボムが枠内ミドル。変わりつつある風向き。ネルシーニョ監督も61分には茨田を下げて、クレオを最前線へ投入。「プランとして持っていたが、やるなら後半から」というクレオと田中の2トップにシフトさせ、「いつも監督に右サイドでの要求も聞いている」と語る工藤が右SHへスライドします。
すると、66分に訪れた千載一遇の先制機。パク・ヒョンボムが鋭く当てたクサビを、キム・デギョンがワンタッチで裏へ。抜け出したラドンチッチ。構える菅野。1対1の帰結は枠の右へ外れるシュートミス。頭を抱える青。安堵の溜め息を漏らす黄色。スコアボードの数字は変わりません。
逞しく柏の反攻。69分、完全にポジションを掴んだ感のある藤田優人のスローインを田中が頭で繋ぎ、クレオのボレーは惜しくもバーの上へ。71分、栗澤が右へ送り、工藤のピンポイントクロスはファーの田中が収めるも、シュートは打てず。74分、ジョルジ・ワグネルの左CKから最後は藤田が狙ったシュートはDFが決死のブロック。76分、藤田、ジョルジ・ワグネルとパスが回り、大谷は左へ。受けたクレオはステップを踏んで中に入り、二アサイドを狙ったシュートを放つもわずかに枠の左へ。ちらつかせるゴールへの強い意思。
「拮抗した難しいゲームバランス」(ネルシーニョ監督)の一戦は最終盤へ。「0-0でもOKという流れ」と工藤が話せば、「0-0でも決して悪くはない。それは後半の途中から意識していた」と大谷。「チーム全体の意思統一はできていた」(工藤)中で、リスクを冒さず、攻撃はカウンターを念頭にしっかり守り切る構えの柏。
84分、ピッチ中央、ゴールまで約25mの距離からエディー・ボスナーが再び直接狙ったFKは、カベにハードヒット。87分、ホン・チョルが右から蹴ったFKはジョルジ・ワグネルが頭でクリア。3分追加されたアディショナルタイムも確実に潰し切ると、日立台の夜空に響き渡るバンジャル・アルドサリ主審の長いホイッスル。「勝ち点を1試合1試合積んでいくこともものすごく大事」とは大谷。水原にとって「とても残念な試合」(ソ・ジョンウォン監督)は、両者に勝ち点1ずつが振り分けられる結果となりました。
これで4試合を消化して3勝1分けと、今節でのグループステージ突破は決まらなかったものの、無敗継続となった柏。アジアと対峙しているJリーグ勢の中でも圧倒的な安定感を誇っています。それでは果たして多くの選手が口にする、昨年の"経験"とは何なのでしょうか。キャプテンの大谷に問うと、「なかなか難しいですね」と前置きしながら、「レフェリーやJリーグにはないような当たりの強さも含めた対戦相手のイメージができているのは凄く大きい。『相手にデカいヤツがいるな』というのをメンバー表を見てわかるのではなく、どういうサッカーがアジアでは多いのかというのも去年実際に色々なタイプのチームとやってわかったので、そういう所はイメージしやすいですよね」とのこと。柏から世界へ。積み重なった経験則から昨年の雪辱を果たし、さらなるステージへと駆け上がるための階段は、すぐ目の前まで迫っています。 土屋
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