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このブログについて

J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

スタッフブログ 2013年01月20日

選手権取材後記~鵬翔の"理由"~

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第91回全国高校サッカー選手権大会は、
大雪に見舞われた1月14日の決勝戦が首都圏開催以来、
悪天候では初めてとなる中止となり、主催者の協議により新たな日程が設けられ
1月19日に順延開催される事となった。
両校ともに初の頂点を目指し戦った決勝戦は、
宮崎県代表・鵬翔が2度のリードを許しながらも、
決定力高い2トップを擁する京都府代表・京都橘を相手に2-2(PK5-3)という結果で
宮崎県勢初となる悲願の初優勝を手にし、幕を閉じた。


今大会、最後まで粘りの守備を遂行し、4度のPK戦を制して初優勝を勝ち取った鵬翔。
年々増加傾向が見られるPK戦は、今大会も例外ではなく、
引分けに持ち込まれた試合が多かったように思う。
開幕戦の実践学園(東京B)対東海大五(福岡)、
フクダ電子アリーナで取材を行った1回戦から準々決勝、
そして4強が出揃い国立競技場で行われた3試合の計12試合の中で、
実に半数となる6試合がPK戦により決着がつけられた。
大会全体をみても、PK戦へもつれ込んだ試合は、全47試合中16試合にも及び、
過去2年間を振り返っても、第90回大会は12試合、第89回大会は8試合と、
PK戦となった引分け試合が年々増加している事が分かる。
そんな今大会の中で、宮崎県に初の優勝旗をもたらす事となったのは、
決勝戦までの6試合で4度のPK戦を制してきた鵬翔だった。
PK戦となれば、キッカーとキーパーの練習の成果に加え、
勘や運、芝の状態や強いメンタリティ、分析力など様々な要素がもつれ合い、
全く予想のつかない結果となる事が多い。
3回戦の旭川実業(北海道)対立正大淞南(島根)は、
旭川実業の堅い守備に苦戦しながらも、高い攻撃能力を誇る立正大淞南が先制。
1・2回戦をスコアレスドローによりPK戦の末勝ち上がってきた旭川実業が、
その後同点に追い付き、第89回大会でベスト4入りを果たした
立正大淞南をPK戦まで追い込んだ試合があった。
しかしこの試合で3度目のPK戦となった旭川実業は、
立正大淞南GK添谷舞樹(3年・松江嫁島SCパラバール)に
コースを見破られていた事もあり、3人連続で失敗してしまう。
結果は、1-1(PK3-0)となりPK戦で勝ち上がる難しさを知る試合でもあった。
中でも決勝戦で4度目のPK戦を迎える事となった鵬翔は、
1回戦・正智深谷(埼玉)以来のPK戦となった京都橘の選手達よりも、
余裕を持ってPK戦に臨んでいたようにも見えた。
今大会5得点ずつを記録し、揃って得点王となった
京都橘のFW仙頭啓矢(3年・FCグリーンウェーブU-15)と
FW小屋松知哉(2年・宇治FC JY)の2トップは、
鵬翔の守備網に攻撃を阻まれ、時間内に決着をつける事は出来なかった。
優勝を決定付けた、PK戦最後のキッカーとなった鵬翔GK浅田卓人(3年・セントラルFC宮崎)は、
試合終盤にPK戦へもつれる事を想定し、
準決勝・星稜戦で苦い思いをしたPK戦の場面を思い出し、
決勝では思いっきり蹴ってやろうという強い気持ちを持って試合に挑んでいた。


今大会、鵬翔が頂点を勝ち取るまでに「神がかった」という言葉や「粘り強い守備」、
「セットプレー」といういくつかのキーワードが試合をこなす中で出てくるようになった。
1・2回戦ではアンカーに入るキャプテン矢野大樹(3年・セントラルFC宮崎)と
DF原田駿哉(3年・セントラルFC宮崎)、芳川隼登(2年・セントラルFC宮崎)の
CBコンビが中心となり無失点に貢献するも
スコアレスドローが続き、PK戦を戦い抜いてきた。
「PKは正直得意ではなく、練習でもあまり止めた事が無かった」と話すGK浅田は、
「神がかった」セーブを披露しチームに貢献してきた。
3回戦では守備の要である矢野が、今大会のチーム初得点を記録し
3-0で佐野日大(栃木)を破り第83回大会と並ぶベスト8へ駒を進めた。
準々決勝では、「粘り強い守備」を武器に
2試合で8得点を記録している立正大淞南と対戦。
守備から入り機を見て得点を狙う鵬翔は、
「セットプレーが得意な相手からセットプレーで先制をし、勢いに乗る事ができた」と
松﨑博美監督が話したように、前半の内に2つの「セットプレー」で2-0とリード。
後半はPKによる今大会初失点を喫したが、FKから追加点をあげ、
DF原田、柏田崇走(3年・国富本庄中)、芳川の守備職人が1ゴールずつ決め、
宮崎県勢初のベスト4進出、初の国立行きを手にする快進撃を成し遂げた。
国立が舞台となる準決勝では、高さのある2トップを擁する星稜(石川)と対戦。
この試合では、今大会初となる先制点を与え、流れの中からの失点も喫してしまった。
「これでもう、ツキは無くなってしまったのかもしれない」と
一瞬頭をよぎったという松﨑監督だったが、
ピッチ上では精神的支柱である矢野が中心となり、
失点後もチームメートの士気を落とさず声を掛け合い、
得点の機会は必ず巡ってくる事を信じ、落ち着いて試合に戻っていくことができた。
守備をベースに試合を運び、得点の機会を探って行くと、
準々決勝に引き続き、MF小原裕哉(2年・都城西中)の直接FK、
柏田のFKを原田が落としMF東聖二(3年・都城山田中)が押し込む形で、
2度のビハインドという難しい展開にも関わらず、
2つの「セットプレー」でスコアを2-2とし、PK戦へ持ち込んだ。
初の国立という重圧にも負けず、3度目となるPK戦を制し、2試合連続で得点をあげた鵬翔は、
「セットプレー」という武器を国立で見せつけた試合でもあった。
試合後は「神がかり」という言葉を用いながら松﨑監督は選手達を称え、
初の決勝進出を手にする事となった。


鵬翔はこの1年間で、長く選手権の舞台から離れていた悔しさをばねに、
宮崎県内の予選を勝ち抜くチーム作りに取り掛かった。
まずは失点を無くすため、守備を強化。
足の早い選手を前線に配置しショートカウンターで得点を狙うチーム作りを心掛けてきた。
決勝戦は出場停止で欠場となった右SB柏田が出場してきた試合では、
スターティングメンバーにはDF登録選手を5人起用している。
4バックの前にアンカーのDF矢野を置き、中央の守備を固める。
決勝戦で右SBを担当したMF松永英崇(3年・宮崎中)は、
準々決勝・立正大淞南戦では左SHに入り、
左から松永・矢野・右SH東の中盤3枚が中央に絞り、
立正大淞南の猛攻に耐え凌ぐ攻守のバランスを見せていた。
矢野はこの試合後に「チームが気持ちを一つにし、守備から入る事を共通の理解として
持っていた事が良い材料となった」とベスト4まで勝ち上がった勝因を話している。
今大会チーム内で得点を記録したFW登録選手は、163㎝と小柄ながら、
がむしゃらにチームの為にプレーをするFW北村知也(1年・セントラルFC宮崎)のみだが、
県予選決勝戦で左ひざを負傷、昨年12月に手術を行いながら
本大会に間に合わせたエースFW中濱健太(3年・ディアブロッサ高田FC)や、
体格を活かしポスト役をこなすFW澤中拓也(3年・摂津三中)など、
粘りの守備力に加え、前線で体を張れる選手達のチームへの貢献度も高かった。
セットプレーのチャンスをものにするプレースキッカーの小原や
DF日高献盛(3年・セントラルFC宮崎)のキックの精度は高く、
「試合を重ねるごとに、自分のプレーも良くなって来ている」と小原は話し、
セットプレーから獲得した5ゴールのうち、調子を上げて以降は3ゴールに絡んでいる。
好セーブを続けるGK浅田、最終ラインとアンカー矢野の粘りの守備、
体を張れる2トップに加え、プレースキッカーが常に2選手いるチーム状況で、
それぞれの役割をチームの試合運びに合わせて発揮してこれた事で、
得点を取り返す力、落ち着いてPK戦を制する力を試合ごとに選手達は身に付けていった。


そんな鵬翔選手の中心にいるキャプテンの矢野は、自身も緊張感を持って試合に臨む中、
チームメートが楽しんでプレー出来るようにと、声を出す事を忘れない。
良いプレーをした選手は褒め、ミスをした選手でも励ましの声をかける事で
チームを盛り上げていこうと心がけている。
キャプテンになってからは、「自然と相手の目を見て声をかけるようになった」といい、
ピッチ内でのコミュニケーションを欠かさない。
鵬翔を率いて30年目となる松﨑監督は、
「選手達が精神的にも技術的にも、日々成長して行くのが目に見えていた」と今大会を振り返り、
「特に矢野は精神的な柱としてチームを引っ張ってくれていた」と絶大な信頼を寄せている。
小学校の頃から同じクラブで共にサッカーをしてきた原田は、
「性格はピッチ内外に関わらずまじめで、信頼できる最高のキャプテン」と話し、
「ハートが強く偉大な先輩です」と今年の春に最上級生となる小原はキャプテンを慕う。


決勝戦の順延開催日となった1月19日まで、
5日間の準備期間を設ける事となった鵬翔と京都橘の両校。
共にメンバー内に負傷を抱える選手もいた事から、
療養期間と相手を分析する事などにも時間を費やし、
順延された決勝戦当日は、快晴に恵まれ
ベストなピッチコンディションで試合を迎えることとなった。
試合は41分にセットプレーの流れから
京都橘・DF林大樹(1年・京都サンガU-15)が先制をし1-0の京都橘リードで前半を折り返す。
京都橘の背後のスペースを突こうと、後半頭から中濱を投入した松﨑監督。
この判断が吉と出た鵬翔は、49分に中濱のドリブル突破で得たCKを
小原が芳川の頭に合わせ、早い時間帯で同点へと持ち込んだ。
しかし鵬翔の粘り強い守備に対し、多彩なパスセンスと攻撃力を持つ仙頭と小屋松に、
1年生MF中野克哉(1年・YF NARATESORO)が絡んだ素早い崩しから、
64分に今大会5ゴール目となる勝ち越し点を仙頭に奪われてしまう。
「失点しても負ける気はしなかった」と粘り強い守備からの攻撃に自信を持つ原田を筆頭に、
鵬翔イレブンは再び気持ちを落ち着かせ試合に戻った。
松﨑監督は右SB松永に代えて
FW宇田津力斗(2年・川南唐瀬原中)を投入し攻撃的選手を前線へ送り込んだ。
鵬翔は、京都橘の仙頭、小屋松の2トップに注意を払いながら京都橘のゴール前を脅かして行く。
試合は2-1と京都橘がリードのまま終盤の83分。
日高のドリブル突破に反応した京都橘DFがエリア内で痛恨のファウルを冒してしまう。
鵬翔はペナルティキックを獲得しキャプテンの矢野がボールをセット。
これを落ち着いて決め同点とし、
2戦連続2度のビハインドから抜け出す底力を見せた鵬翔が息を吹き返した。
初優勝をかけた鵬翔対京都橘の決勝戦は、
90分間で決着がつかず、10分ハーフの延長戦に入った。
時計は100分、110分と回り、スコアは2-2のまま勝敗はPK戦へと委ねられた。
先攻となった鵬翔は、これまで3度のPK戦全てにおいて1番手を担ってきた矢野が、
力強いシュートでゴールネットを大きく揺らし成功。
続く京都橘1人目は、GK浅田が飛んだコースの逆を突いたが、
蹴りだされたボールは右ポストに弾かれ、鵬翔はここでも運を味方に付けた。
以降成功を続けた鵬翔は、5人目に回りキッカーはGK浅田。
準決勝での痛恨のPK戦を胸に、全国制覇を手にする最後の1球がゴールネットを揺らし、
宮崎県代表・鵬翔は悲願の初優勝を達成した。
守備の選手として攻撃に顔を出す機会の少ない矢野だが、
3回戦での今大会チーム初ゴールをあげ勢いをもたらしたのはキャプテンのゴールからだった。
決勝戦の大舞台では、同点弾となる貴重なPKのチャンスを落ち着いて決め、
初戦から鵬翔に味方をしてきたPK戦へとチームを引き連れた。
試合後の表彰式では、降雪が続く14日の国立競技場で口にした通り、
宮崎県に持ち帰る為の"優勝旗"をしっかりと手にしていた矢野。
「初優勝」という大きな手土産を持って聖地国立を後にした鵬翔イレブンだった。
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矢野

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