mas o menos

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

最近のエントリー

カテゴリー

アーカイブ

2013/01

S M T W T F S
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

このブログについて

J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2013年01月19日

高校選手権決勝 鵬翔×京都橘@国立

mas o menos
  • Line

kokuritsu0119.jpg「選手権のこの舞台は最高だと思うので、また戻って来たいです」(実践学園・深町公一監督)。「この大会は楽しいし、気持ちがいいし、終わってしまって寂しいので、この想いを知っているからこそ1年間頑張ってここに戻って来たいです」(帝京長岡・谷口哲朗監督)。届かなかった想いと、それゆえに知り得た想い。12月30日から積み重ねられてきた、46にも及ぶ"夢"の終着点。マッチナンバー47は聖地での決勝戦です。
「当たり前のことを当たり前にやるしかない」と松﨑博美監督が語る鵬翔。1回戦の東邦戦、2回戦の帝京大可児戦と共にスコアレスドローからのPK戦でしぶとく勝ち上がると、佐野日大と立正大淞南からは共に3ゴールを奪って快勝。1週間前の星稜と対峙した準決勝では2度のビハインドを追い付くと、6人目までもつれ込んだPK戦を制し、宮崎県勢初の大会制覇へ王手を懸けました。
対するは、「自分たちのすることを変わらずにやりたい」と米澤一成監督が話した京都橘。初戦は正智深谷相手に苦しいゲームをPK戦でモノにすると、以降も得点王を競い合う仙頭啓矢(3年・FCグリーンウェーブU-15)と小屋松知哉(2年・宇治FC JY)がゴールを積み重ね、準決勝では大会最強の守備陣を誇る桐光学園を、2トップと伊藤大起(3年・京都FC長岡京)の3ゴールで粉砕。「1回戦から目の前のゲームにこだわってやってきた」(米澤監督)姿勢を、最後の1試合まで貫きます。
戦うはずだった1週間前に我々の眼前へ広がっていた銀世界は、高校生を含む有志の雪かきで緑の絨毯へと回帰。両校の校歌が澄み渡る青空にこだますると、京都橘のキックオフでファイナルの火蓋は切って落とされました。
勢い良く飛び出したのはスカイブルー。2分に掴んだ日高献盛(3年・セントラルFC宮崎)の右CKはGKにキャッチされましたが、3分には北村知也(1年・セントラルFC宮崎)のヘディングを収めた澤中拓也(3年・摂津第三中)が枠の左へ外れるミドルにチャレンジ。積極的なアタックで立ち上がります。
ただ、先に決定的なシーンを迎えたのは京都橘。9分、仙頭の左FKはGKにキャッチされたものの、その流れから再び奪ったボール。仙頭のパスを受けた小屋松は、左サイドをえぐってえぐって中へ。3列目から飛び込んできた宮吉悠太(2年・J FORZA 滋賀)のシュートは、しかし鵬翔GK浅田卓人(3年・セントラルFC宮崎)が勇気溢れる飛び出しで回避。詰めた中野克哉(1年・YF NARATESORO)のシュートもDFが体を張って防ぎ、スコアは動きませんでしたが、スリリングなシーンを創出しました。
以降は鵬翔に手数。そのキーマンは前線で抜群の存在感を発揮した北村。広範囲を動き回る運動量はもちろんのこと、フィフティに近いボールを抜群のトラップ技術と身のこなしでことごとく収め、相手陣内の至る所で基点を創り出します。
13分は鵬翔。川崎晧章(2年・ヴィラル木花SC JY)が中へ送ると、小原裕哉(2年・都城西中)のミドルはわずかに枠の右へ。14分も鵬翔。北村が獲得したFKを小原が蹴り入れるも、DFがクリア。16分も鵬翔。キャプテンの矢野大樹(3年・セントラルFC宮崎)が左へ振り分け、日高のアーリーに北村が飛び込むも、ボレーはヒットせず。
さらに立て続いたビッグチャンス。24分、右サイドで澤中が粘って残し、松永英崇(3年・宮崎中)のシュートに反応した北村のプッシュも、同じ1年生の倉本光太郎(1年・京都サンガU-15)がブロック。26分、小原が左から蹴ったCKは原田駿哉(3年・セントラルFC宮崎)にドンピシャで合うも、ヘディングは当たり切らずに枠の右へ。先制とはいきません。
すると、この前後から「CBの2人とアンカーの矢野で2トップを見るような形」(原田)で対応していた鵬翔ディフェンスに対して、「相手のラインも低くて、やりにくい所はあった」と振り返った小屋松を含む京都橘のアタッカー陣が躍動。28分、中野の右CKは浅田がパンチングで凌ぎましたが、拾った仙頭は右へ流れながら強烈な枠内シュートを浅田の正面へ。30分、宮吉のスルーパスをDFはクリアし切れず、拾った小屋松の思い切ったフィニッシュは右サイドネット外側にグサリ。最強2トップがそれぞれシュートを放ってみせます。
攻勢の橘。32分、相変わらず鵬翔の前線で気を吐いていた北村がCKを得るも、そこから京都橘のカウンター発動。小屋松のドリブルは必死に戻った小原が何とかカット。33分、ボランチの釋康二(3年・京都JマルカFC)を起点に仙頭が左へスルーパス。中野は大胆にニア上を狙うも、ボールは枠外へ。意気上がる赤い応援団。
35分を過ぎるとお互いのラッシュ。38分、川崎がセンスで放ったループミドルは枠の上へ。38分、仙頭も負けずに放ったミドルは浅田がしっかりキャッチ。39分、北村が小原とのワンツーからバイタルへ侵入するも、シュートは右足にヒットせず。チェスの如く、交互に出し合う一手一手。
沸いた国立。チェックメイトは41分。仙頭の巧みなヒールから獲得したCK。右から中野が入れたボールは一旦跳ね返されるも、再度中野がクロス。ここもDFがクリアしましたが、このボールをハーフバウンドで叩いたのは「今まで決めるチャンスはあったけど、決め切れなかった」CBの林大樹(1年・京都サンガU-15)。浅田もよく反応しましたが、手を弾いて転がったボールがわずかに越えたライン。「ホンマに実力のある1年」(小屋松)「安心して見ていられる」(GK永井建成・2年・京都FC長岡京)と先輩も太鼓判を押すルーキーが、この国立の舞台で大仕事。6試合連続で奪った先制点。京都橘がリードを握りました。
「1点取られても『まだ行ける』という気持ちはあった」と原田。鵬翔の反攻。42分、東聖二(3年・都城山田中)の浮かせたパスを、北村は絶妙のトラップからゴール左スミへ流し込むも、判定はオフサイド。44分、右サイドで9本のパスを繋ぎ、小原が左へ流したボールを日高は強烈な左足アウトでわずかに枠の右へ逸れるミドル。45+1分、小原、北村と回して、最後は澤中が枠へ飛ばしたシュートは永井がしっかりキャッチ。お互いに攻撃の持ち味を遺憾なく発揮した最初の45分間は、最小得点差で後半へ折り返しました。
最後のハーフタイム。松﨑監督の決断。「スタミナが心配だったし、少し時間が長いかなという気はした」ものの、ピッチへと解き放ったのは伝統の"13番"を背負う中濱健太(3年・ディアブロッサ高田FC U-15)。本来のエースをそのまま澤中がいた2トップの一角に据えるスクランブル発進に、勝利への想いを託します。
中村太主審がラストバトルの再開を告げるホイッスルを鳴らすと、いきなり見せ付けられた中濱の快足にどよめくスタンド。変わった空気。すると、その効果がわずか4分でもたらした成果。49分、中濱が左サイドで強奪したCK。小原が正確にニアへ落としたボールを、飛び出したGKの数十センチ手前で叩き込んだのはCBの芳川隼登(2年・セントラルFC宮崎)。「自分が決められて嬉しい」とはにかんだ2年生の同点弾は、準々決勝から数えて6点連続でのセットプレー弾。"想定外"と"想定内"の化学反応で、スコアは振り出しへ引き戻されました。
「1点取れたら2点、3点と取れるぞ」と指揮官から送り出された鵬翔は、強みを生かして"裏"を徹底。走る13番。51分にも中濱がドリブルで押し込み、こぼれを日高が枠の左へ外れるミドル。「健太さんが出られれば、チームの戦力が上がる」と北村。エースの推進力が、チーム全体に"前"への意識をもたらします。
とはいえ、同じ快足なら京都橘にも「スピードは全国でも通用することがわかった」と自ら語るこの男。55分、宮吉が出足鋭いカットからスルーパス。そのまま右サイドをぶっちぎった小屋松のクロスはDFにブロックされましたが、こちらもケガを抱え、「最後なのでできる所までと思ってやった」10番がそのスピードで対抗してみせます。
この小屋松が間接的にもたらしていた京都橘ディフェンスの自信。後半立ち上がりこそ、中濱のスピードに翻弄されましたが、「紅白戦で知哉に慣れていたので、大したことないかなと思った」と守護神の永井。林と橋本夏樹(3年・ガンバ大阪門真JY)で組むCBを中心に、徐々に中濱をうまく消すことに成功すると、61分に仙頭、小屋松、伊藤のコンビで獲得したCK。中野が蹴ったボールに、うまく合わせた林のヘディングは枠の右。
ボリュームの上がった"シング・シング・シング"をBGMに、千両役者の協演。64分、最高のトラップから左へ流れた小屋松は「2トップとのバランスは取れてきた」中野のリターンを受けて縦に持ち出し、「感覚で『啓矢くんがいるな』というのはわかっていた」とピンポイントクロス。走り込んだ仙頭は、右足アウトでGKとDFの間に通すシュートをゴールネットへ滑り込ませます。アシストの小屋松に並ぶ7番の大会5ゴール目は、相手より一歩優勝に近付く貴重なアドバンテージ。またも均衡が崩れました。
68分も京都橘。相手CKのボールを奪い、林のパスを小屋松が収め、仙頭のループはGKが何とかキャッチ。70分も京都橘。小屋松が縦へ運び、中野が潰れ、伊藤がフリーで放ったシュートはわずかにクロスバーの上へ。72分は鵬翔。右サイドでSBの松永が縦へ送り、東は華麗に浮き球で1人かわしてフィニッシュを取るも、永井がファインセーブで阻止。73分、時間が惜しい鵬翔は松永が全速力でピッチアウトして、宇田津力斗(2年・川南唐瀬原中)が入ると、システムも前線に右から宇田津、北村、中濱を並べた4-3-3へシフトします。
3点目が欲しい京都橘。74分、釋が裏へうまく落とし、中野のループは枠の上へ。80分、右サイドのショートコーナーから、仙頭のクロスを伊藤が頭で狙うも枠の左へ。81分、小屋松が右へ流れながら打ち切ったシュートは浅田がキャッチ。1点差のままで最終盤へ。
翔んだのは左の"槍"。83分、日高が渾身のドリブルでエリア内へ侵入すると、難しい対応を迫られたDFのアプローチで両者転倒。中村主審が指し示したのはペナルティスポット。鵬翔にPKが与えられます。迷わずボールを掴んだのは、キャプテンの矢野。「緊張したけど、思い切り枠に蹴れば大丈夫」。今大会自身4本目となるPK。永井も「コースは読んでいたが」、力強く揺さぶったゴールネット。「去年まで失点したら2点3点と取られるチームだった」(浅田)鵬翔が、準決勝同様に2度のビハインドを跳ね返し、ゲームは前後半10分ずつの延長戦へ決着を持ち越すことになりました。
92分は京都橘。仙頭のドリブルシュートは浅田がキャッチ。95分は鵬翔。相手CKからのカウンターに中濱が抜け出しかけるも、2回戦以降はレギュラーに定着した京都橘の左SB吉中波緒人(3年・奈良YMCA)はイエロー覚悟で突破を阻止。96分も鵬翔。中央右、ゴールまで約30mの距離を日高が得意の左足で直接狙うも枠の上へ。
102分は鵬翔。日高の右CKはDFがクリア。直後に小原が蹴った右FKもシュートまでは結び付かず。103分は京都橘。倉本のフィードを仙頭が収め、そのまま放ったシュートは浅田もファインセーブ。105分は鵬翔に交替。万雷の拍手が送られた北村と高妻賢太朗(3年・セントラルFC宮崎)がスイッチ。109分は京都橘に交替。こちらも1年生ながら奮闘した中野と赤澤祥平(2年・FCグリーンウェーブU-15)がスイッチ。110分のラストチャンスは京都橘。赤澤からのリターンを受け、仙頭が枠へ飛ばしたミドルは浅田がキャッチ。90分間でも、加えられた20分間でも決着は付かず。大旗の行方は大会史上2度目のPK戦へ委ねられます。
鵬翔1人目は矢野。「精神的な柱としてみんなを引っ張ってくれた」と松﨑監督も認めるキャプテンは、試合中と同じコースへ力強く成功。京都橘1人目は仙頭。丁寧に右スミを狙ったボールは、完全にGKの逆を突くもポストを叩いて枠外へ。チームを決勝へ導いた最大の功労者がまさかの失敗。1人目で差が付きます。
鵬翔2人目の東は確実に左スミへ成功。京都橘2人目の小屋松は冷静に左スミへ成功。鵬翔3人目の芳川は「前に2人が蹴るので、それを見てGKの予測を考える」という狙いで、見事GKを外す成功。京都橘3人目の宮吉は左上の凄まじいコースに成功。鵬翔4人目の小原は「触ったけどコースがうまかった」と永井も一歩及ばず成功。外せば終わりとなる京都橘4人目の釋は、強烈なプレッシャーを跳ね除けて左上に蹴り込み成功。
決めれば戴冠の鵬翔5人目は、星稜戦でも同じ5人目のキッカーとして臨んだPKを外している浅田。「前回外していて、嫌な印象は残っていた」中で、「今日は思い切り蹴ってやろうと」想いを籠めたボールが、11m先のゴールネットに鋭く突き刺さります。夢舞台に浮かび上がった残酷なコントラスト。「凄く気持ちの強いPKをずっとやってくれた」と指揮官も語る、4度目となったPK戦勝利の先に待っていた頂点。「精神的にも技術的にも日々強くなるのが、目に見えてわかった」(松﨑監督)鵬翔が、日本一の称号に輝く結果となりました。
「立ち上げ当初はここまで来られると思っていなかった」と米澤監督が振り返る京都橘は、"負ける"ことなく大会を後にします。本人にとっては無情な結果になりましたが、ここまでチームを牽引してきた仙頭のPK失敗ならば、誰もが納得する幕切れだったのではないでしょうか。「生きていく上で凄くいいことを学んだんちゃうかなと思います」と米澤監督。3年生の想いは、「もう1回ここへ戻って来たい」(小屋松)という下級生に引き継がれました。
「こんなに逞しい選手を持てて幸せです」と最高の笑顔を見せた松﨑監督。就任30年目で鵬翔としても、宮崎県勢としても初の頂点に辿り着きました。6試合を振り返ってみると、「技術以上に"気持ち"で押し切ったのではないでしょうか」(松﨑監督)「全員"気持ち"が強いと思います」(原田)と2人が声を揃えた"気持ち"が、4つのPK戦勝利という驚異的な勝負強さに繋がったのは間違いありません。そして、それを創り上げたのは、「サッカーをやってきて良かったなと思います」としみじみ語ったベテラン監督のたゆまぬ努力。62歳の名将が国立の青空に舞いました。          土屋

  • Line