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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
聖地で迎える第2試合は、スタイルの異なるチーム同士の激突。16年ぶりに国立へ戻ってきた神奈川代表の桐光学園と、1回戦の全国初勝利から一気に国立までステップアップした京都代表の京都橘がセミファイナルの舞台で対峙します。
「選手たちは"前評判が高い"とか"優勝候補"だとかは思っていないはず」と佐熊裕和監督は強調するものの、全国でも最大の激戦区とも言うべきプリンス関東を制し、他校からのマークも厳しい中で勝ち上がってきた桐光。四日市中央工業や作陽など、注目度の高かったチームを次々と退けながら、16年前の"1つ先"だけを着実に見据えています。
対するは、「1回戦から目の前のゲームにこだわってやってきた」と米澤一成監督が語る京都橘。大会前はノーマークに近い存在でしたが、初戦をPK戦でモノにすると、以降は丸岡や帝京長岡など曲者たちを相次いで撃破。大会最強2トップとの評価にも頷ける、仙頭啓矢(3年・FCグリーンウェーブU-15)と小屋松知哉(2年・宇治FC JY)を中心に、フィニッシュまで攻め切るスタイルで旋風を巻き起こしています。
とうとう辿り着いた「ずっと夢見てきた舞台」(仙頭)。2万6千を超える観衆が見つめる中、京都橘のキックオフで国立の時計は回り出しました。
「初めはみんな慌てていて、大丈夫かなと思った」(京都橘・永井建成・2年・京都FC長岡京)「国立という所に"飲まれた"所はあった」(佐熊監督)という立ち上がりを経て、3分に開いた中央の門。ボールを持った仙頭のスルーパスが、フリーで走り込んだ小屋松の足元へピタリ。独走からの1対1は桐光GK長津大裕(2年・横浜F・マリノスJY追浜)が鋭い飛び出しで防ぎましたが、いきなりの決定機は京都橘が創ります。
4分に右サイドのスローインから、野路貴之(3年・横浜F・マリノスJY)が1本目のシュートを放った桐光は、「相手が地力に勝るのは目に見えていたので、ディフェンスの意識を強めてゲームに入った」(米澤監督)という京都橘を前に、なかなかシュートシーンまで持ち込むことができません。
考えられた要因は大きく2つ。1つは「1回で勝てなかったとしても、体を当ててセカンドに集中しようと思っていた」とルーキーながらCBを任されている林大樹(1年・京都サンガU-15)が話した、京都橘の高いセカンドへの意識。比較的早めに野路と市森康平(3年・茅ヶ崎一中)で構成される2トップへ入れてくる桐光に対して、まずDFラインは「裏への対応を意識しながら」(林)その2トップを常に視界の前へ捉えるポジショニングを確保。入ったボールに対しては、「2人はいつも以上にセカンドを拾えていた」と守護神の永井も認めた、釋康二(3年・京都JマルカFC)と宮吉悠太(2年・J FORZA 滋賀)のドイスボランチが、しっかり挟み込んで「ゾーンで守っているので、どうしても弱い」(米澤監督)はずのセカンドをきっちり回収。二次攻撃を許しません。
もう1つは「ボランチを使いながら、サイドの高い位置で基点を創る」(佐熊監督)という桐光の狙いがハマらなかったこと。右の橋本裕貴(3年・町田JFC)と左の菅本岳(3年・川崎犬蔵中)というSHに対しては、「SBと協力して2人がかりで取ろうと言っていた」と左SHの中野克哉(1年・YF NARATESORO)が話した通り、京都橘もサイドの2人でうまく対応。ここでなかなかタメを創れなかったことは、SBのオーバーラップの少なさにも影響を与えていた印象です。
とはいえ、9分にはまたも2トップだけでエリア内まで侵入した京都橘も、「"上"で勝負するのではなく、"下"で勝負しよう」(仙頭)と小気味いいショートパス主体のパスワークや、高速2トップのドリブルで時折バイタル周辺は脅かすものの、最後はU-18日本代表にも名前を連ねている諸石健太(3年・横浜F・マリノスJY)を軸に、強烈な"下"にもうまく対処した桐光を崩し切るまでには至らず、ある意味がっちり噛み合った展開でゲームは推移していきます。
25分は桐光。諸石のフィードを市森が落とし、橋本が中へ入れると、上がってきた多田八起(3年・シーガル広島JY)はヒールでフリック。詰めた野路も菅本もシュートは打てなかったものの、ようやくいい形を創出。37分は京都橘。釋のヘディングを起点に仙頭も頭で繋いだボールを小屋松が残し、仙頭が狙ったシュートは力なく長津がキャッチ。そろそろスコアレスでの折り返しもチラつき始めた42分、訪れたのは橘の歓喜。
右から仙頭が中へ入れたボールは、少しDFに当たりながらも小屋松へ。10番は冷静に落とすと、中野が思い切ったシュートチャレンジ。これはクロスバーを叩きましたが、GKに当たったこぼれに反応したのは「ボールを渡したら、"何か"やってくれる」(中野)とチームメイトからも絶大な信頼を寄せられている仙頭。「僕が取ることが多いので、個人的に先制点を取ってやろうと強く意識していた」ゲームキャプテンの貴重な一撃。「いつも通りの先制点」(永井)で京都橘がリードを奪い、前半の45分間は終了しました。
桐光のキャプテンマークを巻く大田隼輔(3年・町田JFC)のロングスローで幕を開けた後半は、51分に京都橘の右SBを務める1年生の倉本光太郎(1年・京都サンガU-15)がオーバーラップから思い切ったミドルをDFに当てるシーンを創りましたが、少しずつペースを握っていったのは関東王者。最終ラインからじっくりボールを回しながら、サイドにボールを広げつつ、ギアをテンポアップさせられそうな瞬間を窺います。
52分は桐光。SBの中島駿(2年・町田JFC)が上げたクロスに、市森が合わせたヘディングは永井がキャッチ。58分も桐光。絶対的な司令塔の松井修平(3年・川崎フロンターレU-15)がドリブルで運び、こぼれを市森が狙ったミドルは枠の左へ。64分も桐光。左サイドから松井が入れた2連続CKは、吉中波緒人(3年・奈良YMCA)と永井がそれぞれ回避。同点までは至らないものの、徐々に膨らみつつあるその可能性。
66分も桐光。松井のパスを受け、菅本の左カットインミドルはクロスバーの上へ。69分も桐光。ここも松井のセンス溢れるスルーパスから野路のシュートがこぼれたボールを市森が狙うも、「あのシーンは気合でやれたかなと思う」と振り返った林が懸命に体を入れてクリア。70分も桐光。左から菅本の上げ切ったクロスがこぼれ、大田が放ったシュートは中野がブロック。「チームがバタつく場面でも、声を掛けて落ち着かせるようにしていた」という林と、その林が「体を張ったらあとはナツ君が何とかしてくれる」と信頼を口にした橋本夏樹(3年・ガンバ大阪門真JY)のCBコンビを中心に、京都橘が凌ぎ続けます。
動きにくい展開の中、先にカードを切ったのは佐熊監督。71分に「なかなかボランチの所が機能しなかった」という判断から、多田と佐藤建太(3年・湘南ベルマーレJY)を入れ替え、74分にもSHの菅本を下げて有田和明(3年・TOKYU sports system Reyes FC YOKOHAMA)を送り込み、中盤の攻撃性を厚くして勝負に出ると、75分には「1つの持ち味」(佐熊監督)という大田のロングスローがゴール前の混戦を呼び、京都橘は伊藤大起(3年・京都FC長岡京)が何とかクリア。試合はラスト15分の攻防へ。
76分、突如として生まれたゴールは追加点。右サイドで仙頭が縦に入れると、DFと併走しながら追い掛けた伊藤が相手のクリアを体に当て、ボールは小屋松の足元へ。飛び込んだマーカーを冷静に外すと、さらなる冷静さで流し込んだボールはゴールネットへ美しく到達。頼れる10番の得点ランク単独トップとなる大会5ゴール目が飛び出し、京都橘が大きな2点のアドバンテージを獲得しました。
「1失点までというゲームプラン」(佐熊監督)が終盤で崩壊した桐光。78分には大田が右から投げ入れたロングスローを、中島がヘディングで合わせるも永井が何とかキャッチ。79分には野路が左へ振り分け、中島のクロスに大田が頭から飛び込むも永井がキャッチ。直後、3枚目のカードとして市森と田中昇平(3年・桐光学園中)をスイッチさせ、何とか食い下がりたい桐光へトドメを刺したのは必殺カウンター。
84分、相手のロングスローを掻き出すと、投入されたばかりの赤澤祥平(2年・FCグリーンウェーブU-15)が左サイドを全力で駆け上がって中へ。DFと小屋松が交錯すると、右へ流れたボールに走り込んでいたのは伊藤。スタメンアタッカー陣の中では唯一ここまでゴールのなかった3年生が、この大舞台で試合を決定付ける大きな3点目をゲット。勝利を確信し、弾けたエンジの輪。
体調不良で2回戦以降は欠場を余儀なくされていた、本来のキャプテン高林幹(3年・京都サンガU-15)も89分から国立のピッチを踏みしめ、とうとう埋まったラストピース。「今大会初の無失点も最高だし、試合内容も満点」と守護神の永井も笑顔を見せた京都橘が、4175校の頂点へ王手を懸ける結果となりました。
どうしても2トップの活躍が目立つ京都橘ですが、個人的には3人の1年生が効いていると思います。準々決勝の帝京長岡戦ではゴールもマークし、国立の舞台でも1点目に繋がるシュートを放った左SHの中野。専守のタイミングとオーバーラップのタイミングを的確に使い分けられる右SBの倉本。そして、69分の絶体絶命とも言うべきピンチを冷静に回避してみせたCBの林。今日もそれぞれ違うポジションで、3人揃って与えられた役割を確実に全うしてみせました。「自分はプロを目指していて、プロでは年の差とか関係ないので、こういう所で経験を積ませてもらえるのは大きい」と林が話せば、「鵬翔も1年生がいると思うので、それに負けないように、試合に出られることに感謝して優勝したい」と中野。古都の"16歳トリオ"がファイナルに向け、主役の座を虎視眈々と狙っています。 土屋
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