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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
年越しを自らの勝利で掴み取った16校と、ここから登場する16校がそれぞれ相対する1月2日。高校選手権は2回戦です。訪れたのはサッカー専用スタジアムの中でも、歴史と伝統を誇る三ツ沢。第1試合は"年越し"の権利を掴んだチーム同士の対戦。佐賀代表の佐賀商業と東京代表の実践学園という顔合わせになりました。
初出場ながら上位進出を予想する声も多かった日本航空との初戦は、激しいシーソーゲームの末、後半アディショナルタイムに松尾渉(3年・多久東部中)の決勝弾で2-3と競り勝った佐賀商業。県予選決勝でも佐賀東と3-2の熱戦を演じており、"殴り合い"は臨む所です。
一方、聖地で東海大五と激突した開幕戦を、鴻田直人(3年・JACPA東京FC)のPKと原大和(3年・横河武蔵野JY)の50m独走弾で制した実践。インターハイの3回戦進出という、自らの記録を破るためにもここで敗れるわけにはいきません。横浜の空は快晴。最高のピッチコンディションの中、緑の芝へ実践がボールを蹴り出して、ゲームの幕は上がりました。
「言い訳にはできない」と実践のエアバトラー尾崎快斗(3年・POMBA立川FC)をはじめ、何人もの選手が口にしたものの、まず触れなくてはいけないのは、「ここまで風が強いかと思った」と実践を率いる深町公一監督も驚いた、ピッチに吹き付ける強風。その強さたるや、GKが蹴ったゴールキックが、押し戻されてペナルティエリア付近に落下するほど。そのため、まず押し込んだのはコイントスに勝って風上を選択した佐賀商業。
2分に左から大木悠輔(3年・佐賀鍋島中)が蹴ったFKは風で伸び、実践GK天野将貴(3年・FC杉野JY)が丁寧にキャッチ。4分にはルーズボールを拾ったエースの江口裕之(3年・江北中)がミドルボレーを放つも、枠の上へ。7分、またも左から大木が入れたFKはゴール前にこぼれるも、鴻田が間一髪でクリア。勢い良く前に出ていきます。
以降もセットプレーから続く佐賀商業の攻勢。8分には大木の左CK、9分には山崎一帆(2年・武雄中)のFKが相次いで実践ゴール前を脅かすと、12分には森永優希(3年・小城中)の高いボールで狙ったミドルが、わずかにクロスバーを越えるなど、ジワジワと押し込みます。
さて、「最初は風が強くて何もできなかった」(鴻田)実践に初めて訪れたチャンスは13分。原の果敢なカットを拾った臼倉崇弘(3年・ジェフユナイテッド千葉U-15習志野)が右からクロス。走り込んだ小林優(3年・FC Branco八王子)はわずかに届きませんでしたが、ようやく1ついい形を創り出しました。
すると、ここから変わり始めたゲームリズム。キーマンは本来の攻撃的な中盤ではなく、ボランチで起用された粕川竜貴(3年・FC府中U-15)。基本技術の高さに加え、「ここに来て本人の守備意識も強くなった」と鴻田も認める守備面での貢献度も抜群。15分過ぎからは「ディフェンシブで重たくなっていたドイスボランチから、粕川が前に出ていった」(深町監督)ことが、チームに前への推進力を与えます。
21分は実践。中里岳史(3年・青梅第三中)、小林と繋ぎ、原が狙ったミドルはDFに当たって枠の右へ。22分も実践。臼倉の右CKから、こぼれを粕川が回収して左へ送り、原のシュートは佐賀商業GK島ノ江佳祐(2年・大町中)がキャッチ。25分も実践。今度は原のパスを受けた粕川のミドルは、島ノ江が何とかセーブ。「徐々にペースを掴めた」とは鴻田。"風下"の実践がペースを奪還すると、30分にはFKのチャンス。臼倉が30m近い距離を無回転気味に枠へ飛ばすと、GKがファンブル。原が詰め、最後は鴻田のシュートがゴールネットを揺らしましたが、判定はオフサイド。スコアを動かすまでには至りません。
風上の内に何とか成果を手にしておきたい佐賀商業も、前半の最終盤にラッシュ。37分、森永のスルーパスに江頭資雄斗(2年・佐賀川副中)が走り込むも、鋭い出足で天野がセーブ。40分、大木が右から蹴り入れたCKに松尾が飛び付いたヘディングは、左ポスト直撃。40+2分、またも大木の右CKを、キャプテンの野方智文(3年・武雄中)が頭に当てるもボールは枠の上へ。「あんな状況なので、0-0はプラン通り」とは深町監督。スコアボードの数字は変わらず、最初の40分間は終了しました。
後半は風上に立った実践が、前半の流れそのままに攻め込む展開に。41分、原のパスから上がっていた左SBの佐藤剛(3年・あきる野FC)が打ったシュートは島ノ江がキャッチ。42分、原の左クロスをGKがファンブルするも、佐賀商業DFが何とかクリア。44分には佐賀商業も大木のラストパスから、森永が抜け出すも鴻田が決死のタックルで回避。逆に44分には粕川が素晴らしいボールカットから、わずかに枠の上へ外れるミドルを繰り出すなど、実践がよりパワーを持ってチャンスを生み出します。
先にカードを切ったのは深町監督。50分、中里に替えて「ウチのジョーカー」と信頼を寄せる渡辺隆斗(3年・牛込第三中)を投入。「ドリブルでここまでのしあがってきたので、誰にもそこは負けないというプライドはある」と語るアタッカーにあと"一押し"を託します。ただ、51分に決定的なシーンを迎えたのは佐賀商業。長いボールを実践ディフェンスがクリアできず、山崎は左へ流れながら強烈な枠内シュート。渾身の一撃は天野のファインセーブに阻まれたものの、一瞬の脅威を強烈に打ち出しました。
実践も54分には、渡辺が左サイドで2人を翻弄しながら、上げたクロスはDFが何とかブロック。55分にも渡辺のクイックリスタートから原が抜け出しかけ、島ノ江が必死にクリア。さらに60分、深町監督は臼倉と伊藤健人(3年・横河武蔵野JY)を入れ替え、「両SHを入れて、後半勝負に出よう」(深町監督)という考えていた策を実行に移します。
60分、右からのクロスを渡辺が粘って繋ぎ、粕川のパスを森栄司(3年・府ロクJY)が打ったミドルは枠の左へ。63分、渡辺のパスから小林のミドルは島ノ江がキャッチ。69分、粕川のパスカットから小林がトライしたミドルはバーの上へ。そして、実践が創った決定機は70分。粕川が右へ振り分け、伊藤の上げたクロスを原がソフトタッチ。渡辺の放ったボレーは、しかしわずかにゴール左へ。あと一手まで迫りながら、崩れない佐賀商業の砦。
77分には完璧な崩しから、スタジアム中が腰を浮かせたビッグチャンス。渡辺の仕掛けを起点に、原が丁寧に繋ぐと粕川のミドルは糸を引くような軌道でゴールへ向かうも、聞こえてきたのはクロスバーが奏でる乾いた金属音。このゲームのMVPをあげたい粕川のフィニッシュも、先制ゴールには結び付きません。
アディショナルタイムは短い2分。PK戦もちらつき始めた80+1分、大木が放り込んだ「GKに向かって蹴って、大きい3人が飛び込むイメージ」(松尾)のボールは、向かい風に抗ってゴール方向へ。天野が懸命に触ったボールはクロスバーに当たって跳ね返ると、ここへ反応した松尾が無人のゴールへ押し込みます。「小3から高1までFWだった」というCBの2試合連続アディショナルタイム弾は、チームをベスト16へ導く"サヨナラ"ゴール。「ああいうミラクルが続いていますね」と相良監督も笑顔を見せた佐賀商業が、勝負強さを発揮して次のステージへ駒を進める結果となりました。
「最後の最後で守り切れなかったのは自分たちの甘さ」(尾崎)「最後の最後で隙が出ちゃったかなと思う」(鴻田)とCBコンビが振り返った実践は、あと少しの所でインターハイに並ぶ舞台への挑戦権を取り逃がすことになりました。とはいえ、最後の失点は客観的に見ても「誰を責めてもしょうがない」(深町監督)1点。今シーズンの都内ではあらゆる一発勝負のコンペティションで結果を残すなど、名実共に東京王者にふさわしいチームだったと思います。
大会前は7割くらいだったという"心"の部分も、「8割9割整ってきたかなと。残りの2割程度は彼らが1つ上のステージに上がった時に、これから大学や社会で創り上げていくもの。自分でしっかりと判断して言動できる社会人になって欲しいなと思います」と深町監督。「悔いが残らないと言ったら嘘になるけど、3年間いい高校サッカー生活でした」(鴻田)「3年間すごく楽しかったです」(尾崎)。大きな充実感と、ほんの少しの後悔を残して、実践の3年生たちが躍動した"冬"は終わりを告げました。 土屋
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