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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
新春に輝くシルバーの聖杯。1月1日の風物詩は天皇杯ファイナルです。対峙するのはガンバ大阪と柏レイソル。奇しくも4年前の元日と、まったく同じカードとなりました。
クラブ史上初となる屈辱のJ2降格からちょうど1ヵ月。その汚名は一時的なものだということを証明するためにも、このカップだけは是が非でも手に入れたいG大阪。町田、C大阪、そして準決勝の鹿島をすべて1点差で退け、3年ぶりの王座まではあと1つ。モチベーションが最高潮に達しているのは間違いありません。
一方、リーグ戦は最終節で勝利を手に入れられず、ACL出場圏内を確保できなかった柏。絶対的なエースのレアンドロ・ドミンゲスが3試合出場停止というディスアドバンテージを負いながら、大宮相手に2点差を引っ繰り返す大逆転劇を演じると、準決勝の横浜FM戦は2試合連続となる工藤壮人の決勝弾で、4年ぶりのファイナルへ駆け上がってきました。舞台は例年通り、快晴のナショナルスタジアム。「負けたら2位も初戦敗退も一緒」(大谷秀和)のラストバトルは、その大谷も「入場の時はちょっと感動しました」と言及する、両サポーターが創り出した最高の雰囲気の中、G大阪のレアンドロがボールに触り、キックオフされました。
開始37秒のシュートは帰ってきたあの男。柏はジョルジ・ワグネルが左へ送り、橋本和がクロス。澤昌克が競ったこぼれをレアンドロ・ドミンゲスがダイレクトボレーで狙ったシュートは枠を越えましたが、「決勝はテクニックより気持ちが大事」と語る10番が、今日に懸ける"気持ち"を早速表現してみせます。
ただ、主導権を握ったのは「試合への入りは、非常にスムーズにパスが回っていた」と松波正信監督も振り返ったG大阪。3分には倉田秋が左からカットインミドルでファーストシュートを取ると、1トップを務めるレアンドロの下に並んだ二川孝広、遠藤保仁、倉田がうまい距離感で受けて捌いてを実行し、ドイスボランチに入った今野泰幸と明神智和もどんどんサポートへ入ってくるため、「想像以上にサイドへ人数を掛けてきた」と大谷が話したように、常に数的優位で回し続けるボール。
9分には、右サイドでのパスワークから獲得したCK。遠藤の蹴ったボールをニアで岩下がすらし、レアンドロがゴールを陥れるもオフサイドの判定。12分にも右CKを遠藤が入れると、DFのクリアを倉田が狙った左足ボレーは枠の上へ。15分にも倉田が積極的な仕掛けからFKをもらい、遠藤のキックは菅野孝憲がキャッチしたものの、ジワジワと押し込む中でセットプレーから先制の機会を窺います。
さて、柏は守備に関して「回させているという気持ちで」(渡部博文)「前やサイドでボールを回されるのは、人数を凄く掛けられているのでしょうがない」(茨田陽生)という割り切りの中でも、特に左サイドの距離感が「受け渡しをニュートラルにできず、"キッカケ"を与えてしまった」とネルシーニョ監督も明言したように、うまくハマらず。これに関しては「人数を合わせるのか、少ない人数で対応するのかで後手を踏んでしまった部分はある」と左ボランチの大谷。加地亮というストロングも併せ持つG大阪の右サイドを封じ切れません。
それでも、17分にはクラッキが優雅なダンス。茨田のフィードを受けたレアンドロ・ドミンゲスは、凄まじいトラップからそのままドリブルで中央へ。シュートは岩下に当たり、こぼれを拾った澤もシュートは打ち切れませんでしたが、一瞬の閃きと破壊力を相手守備陣の喉元へ突き付けました。
23分はG大阪。中央左、ゴールまで約30mの距離から遠藤が直接狙ったFKはクロスバーの上へ。26分もG大阪。藤春廣輝のパスから、二川が左サイドへ潜ってクロスを送り、遠藤はわずかに触れず橋本がクリア。27分もG大阪。今度は倉田が左サイドを切り裂き中へ。トラップから1人かわして放った二川のシュートは、菅野が体を張って何とかキャッチ。29分も続けてG大阪。明神、今野、レアンドロと繋ぎ、遠藤が左足で放ったシュートはクロスバーの上へ。「明らかに流れはあった」(倉田)G大阪の連続攻撃。
強いられた劣勢に「交替をもって状況を変えるという決断」を下したネルシーニョ監督。32分、本来の右サイドではなく、1トップ下を任されながら、個人というよりはチームの難しい流れの中に埋没してしまった感のある水野晃樹を諦め、田中順也を1トップへ投入。澤昌克が1列落ちる、いつもの見慣れた配置へシフトします。
すると、いきなり柏が掴んだチャンス。34分、ルーズボールを収めたレアンドロのパスから澤が強烈な枠内ボレー。G大阪GK武田洋平も何とか弾き出し、CKへ回避します。直後、突然太陽王に射し込んだ光。ワグネルが左から蹴り込んだ軌道を、マーカーの丹羽大輝を無力化する高い打点からのヘディングで捻じ曲げたのは「ゴールを決めることしか考えていなかった」という渡部。パーフェクトな一撃が、柏サポーターの目の前でゴールネットに突き刺さります。近藤直也の負傷離脱を受け、今大会初スタメンとなったCBが大一番で強烈な輝きを放ち、苦しんでいた柏に先制ゴールが記録されました。
「ほぼパーフェクト」(遠藤)なゲームを披露しながら、まさかのビハインドを負ったG大阪。37分には遠藤の右CKがフリーの丹羽に届くも、ボレーはクロスバーの上へ。逆に39分には澤とのコンビネーションから大谷に惜しいボレーを食らい、45分に明神のスルーパスからレアンドロが抜け出しかけるも、那須大亮のカバーに遭ってシュートは打てず。45+1分にも、茨田が右へ振り分けたボールを那須がアーリーを上げ切り、田中のフリックから澤が枠の左へ外れるヘディングを放つなど、展開はフィフティに。ただ、リードは柏が奪い、前半の45分間が終了しました。
後半も先にチャンスを創ったのはG大阪。48分に右FKを、49分に左CKを相次いで遠藤が蹴り込むも、柏ディフェンスも集中してクリア。51分は柏にもセットプレーの好機。レアンドロ・ドミンゲスが柔らかいボールを放り、田中のヘディングはゴールを脅かすも、オフサイドの判定。柏は53分にも、左サイドで田中とのワンツーから橋本が上げたクロスを、ニアへ飛び込んだ澤がヒールで狙うなど、しっかりやり返します。
松波監督の決断は55分。「なかなかレアンドロの所にボールが収まらず、タメができれば後ろからの押上げがスムーズにいって、攻撃に厚みが出るかなという狙い」から、倉田を下げて切り札の家長昭博を早くもピッチへ送り込みます。
ここから再びG大阪が掴み返した流れ。59分、二川のパスからレアンドロが中央をドリブルで運び、打ち切ったシュートは菅野がキャッチ。60分、左から藤春が入れたクロスをレアンドロがワントラップからボレーを飛ばすも、ボールはクロスバーの遥か上へ。
62分、家長のキープから最後は藤春のミドルがまたもバーの上へ。手数は繰り出すG大阪。そして、64分に訪れた絶好の同点機。遠藤が右からFKを蹴ると、ファーサイドで合わせた岩下敬輔のヘディングはゴール方向へ向かうも、着地点はわずかに枠の右外側。どうしても追い付くことができません。
柏にとって前半と一番の違いは、セカンドボールをしっかり拾えるようになったこと。比較的ロングボールが多かったこともあり、「順也くんと澤くんの"競れる"2枚が入ったことで、セカンドが拾いやすくなった」とは茨田。ネルシーニョ監督も66分には、少し肩を痛めた大谷を下げて栗澤僚一を投入。予測のスペシャリストを起用し、中盤の強度を上げに掛かります。対する松波監督は68分、二川と佐々木勇人をスイッチ。これで、特に前半はその流動性に柏も苦しめられた両SHが共に交替ということになりました。
69分は柏。FKを栗澤とクイックで始めたレアンドロ・ドミンゲスの枠内ミドルは武田が何とかフィスティングで回避。直後のCKをレアンドロ・ドミンゲスが蹴ると、ニアで合わせたワグネルのダイビングヘッドはわずかに枠の左へ。ブラジリアンコンビが圧巻のチャンスメーク。追加点を狙います。
「レアンドロや家長が前を向いた時は脅威」と茨田も話したように、"個"は時折違いを生み出すものの、全体の流動性は停滞した感のあるG大阪。80分に家長のパスから、レアンドロがドリブルで運んで放ったシュートは、増嶋竜也がしっかり体でブロック。球際での勝負ではむしろ柏が上回っていた印象で、84分には橋本が佐々木への激しいチェックでボールを奪い、シュートまで持ち込むなど、積極的な守備で時間を確実に潰していきます。
85分に松波監督が切った最後のカードは、CBの丹羽と武井択也のスイッチという選択。今野が最終ラインに下がり、武井は左SBへ。藤春を一列前に押し上げ、その少し前から中央に入っていた家長とレアンドロの2トップにすべてを託すことになりました。所定の90分間は終了。アディショナルタイムは4分。
90+1分、柏のカウンター。茨田を起点に田中が右へ繋ぎ、レアンドロが枠へ飛ばしたミドルは武田がキャッチ。90+2分、左から藤春が入れたアーリーをDFがクリアしたボールは、フリーになっていた家長の下へ。青の歓声と黄色の悲鳴がこだまする中、しかし家長はスリップしてしまい、シュートはヒットせず。変わらないスコア。
90+3分、左から今野が放り込んだアーリーは渡部がクリアして、オフェンスファウルを獲得。90+4分、武井のアーリーはここも渡部がクリアして、オフェンスファウルを獲得。「最後のほうは全部ナベくんに来ましたね」と茨田も笑う、渡部執念の連続クリアで少しずつ"その時"が近付いてきます。そして94分17秒、吉田寿光主審のホイッスルは、"アジア"へのプレリュード。「こういう1-0で勝つのは、なかなかリーグ戦ではなかったことで、粘り強くできたと思う」と大谷も笑顔を見せた柏が、今年最初に昇った太陽のまだ輝く国立で、37年ぶりにカップを掲げる結果となりました。
まさに「すべてのレイソルに関わる人たちの勝利」(ネルシーニョ監督)だったと思います。準々決勝、準決勝と決勝弾を叩き込み、チームをファイナルまで導いた工藤壮人。準決勝では橋本の出場停止を受け、スタメンフル出場で勝利に貢献した山中亮輔。準決勝まで不動のCBとして、シーズンを通じて波のないパフォーマンスを発揮してきた近藤直也。そして、いい時も悪い時もレイソルを支え続けたチーム最年長の安英学。
「自分がAチームにいる時も、Bチームとの試合はミス1つできないような雰囲気があった。チーム全体も1人1人の力も、どこにも負けないくらい上がってきていると思う」と言及したのは、今日の出場選手で最年少の茨田。シーズン中に5人がチームを離れる中、国立の舞台に立つことはなかった選手も含めて、24人と2種登録の若者が切磋琢磨した結果が、この総力戦で勝ち取ったタイトルだったのは間違いありません。そして、最後に今大会初スタメンの渡部が優勝を引き寄せるゴールを挙げたという事実が、何よりそれを象徴していたのではないでしょうか。
「凄く成長できる大会だし、毎年出たいと思える大会」と大谷も話したACLへの再挑戦。思えば天皇杯の初戦で倒した柏U-18の5選手も加わる2013年、"太陽王"が新たな歴史へのスタートを高らかに宣言しました。 土屋
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