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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
賜杯への、すなわちアジアへの挑戦。天皇杯は今日でベスト8を迎えます。
4回戦は川崎相手に前半で負った3点のビハインドを後半だけで追い付き、さらに勝ち越しゴールまで奪って、大逆転勝利を収めた大宮。実は現在公式戦14試合無敗を継続させており、国内でもトップクラスの好調を維持しています。
一方、JFLの横河武蔵野FCを相手にした4回戦は、田中順也の上げた1点で逃げ切った柏。リーグ戦では最終節でACL出場圏内を掴み損ねただけに、あのステージへ戻るべく、この大会に強い想いで臨んでいます。舞台は大宮の"ホーム"と言っても差し支えないであろう、熊谷スポーツ文化公園。関東に居を構えるクラブ同士の対決に7090人の観衆が集まり、大宮サポーターの"クリスマスソング"が響き渡る中、国立へと繋がる一戦はスタートしました。
3分は柏。ジョルジ・ワグネルの左クロスに、ファーへ飛び込んだ工藤壮人が合わせたシュートはゴール右へ。6分も柏。茨田陽生の浮かせたパスから、田中が放ったシュートは大宮ディフェンスがブロック。詰めた工藤が枠へ飛ばしたシュートは、大宮GK北野貴之にストップされましたが、いきなり工藤に2回の決定機が到来します。直後の6分には大宮。チョ・ヨンチョルが左サイドを運び、東のリターンから強烈なシュートを枠内へ。こちらも柏GK菅野孝憲がファインセーブで凌ぐなど、ゲームはハイテンションな入り方に。お互い"前"へ出ていくパワーを存分に発揮しあいます。
10分と11分には田中が枠外シュートを放ち、手数は柏が多く繰り出すような流れの中で、突如としてそんな空気を切り裂いたのは、久々のスタメン出場に燃えるオレンジのレフティ。12分、左サイドで下平匠、チョ・ヨンチョルと渡ったボールを、上田康太は確信に満ちたミドル。パーフェクトな軌道がGKの頭上を破り、ゴールネットへ舞い降りると爆発した歓喜。「正直スーパーなゴール」と工藤も脱帽したゴラッソで、大宮が国立へ一歩踏み出しました。
この1点で、やや柏に傾きつつあったリズムは反転。15分にはノヴァコヴィッチが太ももの負傷で長谷川悠との交替を余儀なくされましたが、影響は最小限。19分にもチョ・ヨンチョルと東のパス交換から、またも上田が狙ったミドルは枠の右へ。ベースポジションを取ったチョ・ヨンチョルのみならず、東も流れて受けることで柏の"右"を有効に切り崩します。
そして、追加点が生まれたのもやはり柏の"右"。23分、長谷川から左で引き出したチョ・ヨンチョルは、少し溜めてからシュート気味のクロスにトライ。飛び込んだ東の動きもあって、ボールは右のポストを叩くと、左のサイドネットへ転がり込みます。早くも大宮のリードは2点になりました。
「これ以上点を取られてはいけないし、点を取らないといけない」ネルシーニョの決断は28分。「攻撃のサポートもできず、守備でも優位に進められなかった」と右SBの藤田優人を下げて、澤昌克を投入。4-1-4-1気味の中盤アンカーに入っていた那須大亮を右SBに移し、澤は1トップを務める田中の下へ入り、4-2-3-1気味で全体のバランスを整えます。
それでも、「焦りが凄く出てしまって、コンパクトさを保てなかった」(大谷)柏を蹂躙する大宮。29分に東、36分に青木拓矢、38分には再び東が相次いでミドル。41分にもチョ・ヨンチョルがドリブルで運び、下平のクロスがこぼれたボールを渡邉大剛は枠内ボレー。ここは菅野が何とか弾き出しましたが、「システムが変わり、俺と茨田が相手のボランチを見るのか、東のコースを消すのかも後手になってしまった」と大谷が話したように、浮いた東を相変わらず捕まえ切れず、柏は攻守に後手を踏み続ける展開に。
43分に那須の右クロスを、うまく捉えた田中のヘディングもクロスバーにヒット。「結構絶望的な前半」(橋本)「選手たちは目的もなくピッチに立っていた」(ネルシーニョ監督)。先制以降は大宮が100点に近いゲーム運びを見せ、ハーフタイムに入りました。
後半がスタートしても、大枠の流れは変わらず。50分には長谷川が獲得した大宮のFK。左寄り、ゴールまで約25mの位置から上田が直接狙ったキックはバーの上へ。すると、ネルシーニョ監督は2枚目の交替策。54分に「いつもの質ではない」田中を下げて、水野晃樹を右SHへ送り込み、工藤が最前線にスライドします。
57分に訪れた決定機は大宮。カウンターからチョ・ヨンチョルが左アーリー。収めた東のフィニッシュは、しかし菅野がファインセーブで回避すると、結果的にこのワンプレーがキーポイントに。この直後のCKからボールを奪った柏のカウンター発動。水野が絶妙のフィードをラインの裏へ出すと、DFより早く落下点に到達した澤は、前に出ていたGKを無力化する美しいループをゴールへ送り届けます。時間は59分。2-1。
オセロのように入れ替わった攻勢。63分は柏。近藤直也が右へ深く出し、懸命に追い付いた水野のクロスは、工藤もわずかに打ち切れず。65分も柏。水野の右CKを増嶋竜也が当てたヘディングは枠の左へ。71分も柏。水野の右CKに那須が合わせたヘディングはわずかに枠の右へ。「晃樹が入って、チームが息を吹き返してくれた」と指揮官も言及した"アウェイチーム"。
75分には青木に訪れた大宮の決定機を、「ダメもとで滑った」橋本は体を張って阻止。また、那須の安定感と水野の推進力で、大宮の左サイドを「後半はうまく消せていた」(工藤)こともプラスに作用し、「コンパクトさに綻びが出た」(ベルデニック監督)大宮を押し込み続けます。
76分には橋本が縦にうまく持ち出し、左からピンポイントクロスを送るも、水野のヘディングはクロスバーの上へ。80分には増嶋のヘディングから大谷が右へスルーパスを送り、水野のシュートはわずかに枠の右へ。少しずつ合い始めたゴールへのスコープ。そして執念が実を結んだのは83分。前半はあれだけいいように使われながら、後半は逆にホットゾーンになった"右"が起点に。
那須が粘って付けたボールを、茨田はセンス溢れるリターン。那須のクロスは左へ流れましたが、ワグネルが間髪入れずに折り返すと、ニアで頭から突っ込んだ増嶋の気迫が、ゴール右スミにボールを吸い込ませます。これが昨年のJリーグ王者が持ち得る底力か。残り7分でスコアは振り出しに戻されました。
「誰一人下を向いている選手はいなかった」(工藤)所から這い上がった勢いは本物。アディショナルタイムは3分。凱歌を上げるのは橙か、黄色か。
90+3分、近藤のクサビを澤は最大限の技術と闘志で那須へ。クロスマシンと化した那須がボールに魂を吹き込むと、「駆け引きで勝ったのは覚えているが、珍しくどういうシュートだったか覚えていない」工藤の完璧なヘディングが、左スミギリギリのゴールネットへ突き刺さります。絶叫と咆哮。その時間、92分38秒。沈みかけた太陽王の復権。「決定機を外しても悲観的にならず、頭を切り替えてやろうと自分に言い聞かせていた」エースの劇的な決勝弾で、柏が4年ぶりのベスト4を手繰り寄せる結果となりました。
「前半が終わった時、腹立たしく、非常に悔しく、がっかりした気持ちでロッカーに戻った」ネルシーニョ監督。「今年でも上位に入る」(工藤)強い言葉で、ハーフタイムにチームへ喝を入れたようです。ただ、当然それだけではなく、2回の交替策と配置の変化を施したことが勝利へ繋がったのは火を見るより明らか。「前半の質を上回るモノを出してくれた」(ネルシーニョ監督)選手と、それを引き出した名将。柏はアジアへの重い扉に少しだけ手が掛かりました。 土屋
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