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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
尾張の"赤"か、それとも阿蘇の"赤 "か。リアルレッドバトルは天皇杯4回戦です。
リーグ戦は7位という結果に終わり、ACL圏内を確保することができなかった名古屋。3年連続となるアジアへのチャレンジを手にするべく、目指すのは一番高い所のみ。例年師走の戦いは欠場していた田中マルクス闘莉王も満を持して参戦するなど、"本気"でタイトルを狙います。
対するは、2回戦で岐阜との4-3という乱打戦を延長で制すと、3回戦でもJ1・2位の仙台を延長で振り切り、クラブ史上初のベスト16まで勝ち上がってきた熊本。「この大会に勝てば勝つほど、年末に向けてプレーやトレーニングをできるチームは全国でも減っていく。そういうチームになれる喜び」(高木琢也監督)を知り、さらなる"年末"へと歩みを進めるため、国内屈指のタレント集団に立ち向かいます。舞台は雨上がりの瑞穂。「自分の中では去年まで対戦していた相手だし、名古屋が"格上"だという気持ちはまったくなかった」と話す北嶋秀朗がボールを蹴り出し、ゲームの幕は上がりました。
最初に積極性を披露したのは、成長著しい名古屋のアンカー。3分、ピッチ中央でボールを受けた田口泰士は、ゴールまで30m近い距離から無回転ミドルを枠内へ。熊本GK南雄太も冷静に弾き出しましたが、まずはいいチャレンジで相手を牽制します。5分も名古屋。今日は最前線に入った闘莉王が右へ鋭いスルーパス。金崎夢生もグラウンダーで中へ送り、永井謙佑にはわずかに届かなかったものの、体現する狙い。早々に主導権を奪取しました。
攻勢の名古屋で目立ったのは右サイドからのアタック。スタートは右に永井、左に金崎が並びましたが、この2人の流動性に小川佳純と藤本淳吾のインサイドハーフ2人もうまく絡み、闘莉王のポストを基点にしながら、サイドを攻略しにかかります。すると先制点もキッカケは"右"。
15分、右サイドからのクロスを、熊本DFがクリアしたことで得たCK。小川の蹴ったボールは一旦弾かれるも、再び小川へ。短く後ろに下げると、藤本があえて打ち上げたクロスを、高い打点のシルクヘッドでゴール左スミへ送り届けたのはやはり闘莉王。「サイドからのクロスにはよく対応していた」(高木監督)熊本ディフェンスも、これにはお手上げ。ホームチームがアドバンテージを手にしました。
さて、「浮き足立っている感じはあった」と北嶋も振り返る熊本は、ボールこそある程度はしっかり繋がる中で、縦へのテンポアップにスイッチが入りません。19分には養父雄仁の左CKを、廣井友信が頭でクロスバーの上へ飛ばしたのがようやく最初のチャンス。22分には永井のクロスから小川、同じく22分には小川のクロスから藤本がそれぞれ惜しいヘディングを披露するなど、追加点の入りそうな雰囲気が、スタジアムに充満します。
ところが、次にスコアを動かしたのは劣勢だった熊本。23分、シンプルな縦パスで右サイドを抜け出した武富孝介はえぐって中へ。「空いている所で受けようと」走り込んだ齊藤和樹のフィニッシュが、鮮やかにゴールネットを揺らします。まさにワンチャンス。大学時代を愛知で過ごした齊藤の一発で、すぐさまアウェイチームが追い付いてみせました。
以降は熊本に勢い。25分には高い位置での囲い込みでボールを奪い、最後は前に出ているGKを確認した武富が40mロングを枠の右へ。27分にも「ナナメにボールが入ったら、コンビネーションで攻撃できる」という指揮官の言葉通り、ナナメのクサビを起点に、細かいパスワークで名古屋を翻弄。シュートまではいきませんでしたが、少しずつリズムが出てきます。
ただ、熊本に散見されたイージーなミスは即ピンチに直結。28分、吉井孝輔が自陣深くで囲まれロスト。金崎のラストパスから闘莉王が枠へ飛ばしたシュートは、南がファインセーブで回避。30分、大迫希のミスパスをかっさらわれ、藤本のスルーパスを打ち切った永井のシュートも南がキャッチ。いい流れを手放しかねないミスが、立て続けに起きてしまいます。
とはいえ、名古屋もなかなかギアが上がらず、攻撃自体は停滞。展開は膠着状態に。このまま折り返すかに思えた43分、流れとは無関係な"個"の煌めき。熊本のハメるプレスを受け、ややラフに蹴った田中隼磨のフィードを、一瞬で決定機に変えたのは闘莉王の頭。フリーで拾った金崎が冷静にゴール左スミへ流し込みます。「あの高さは正直手に負えなかった」と高木監督。再び点差が開きました。
2分後、この日の主役候補に自ら名乗りを上げた24歳の衝撃。45分、廣井の短いFKを引き出した齊藤は突如としてドリブルを開始。運んで、運んで、運んで、気付くと目の前にはGKのみ。齊藤の視界が捉えた、ゴールネットに収まる球体。「練習でもあんなのはない」と自らも驚くドリブル独走の「スーパーゴール」(北嶋)。スコアは振り出しに引き戻され、前半の45分間が終了しました。
迎えた後半のファーストシュートは熊本。47分、齊藤同様に愛知で大学生活を送った藏川洋平が、枠を越えたものの果敢なミドル。49分は名古屋。藤本が右へ振り分け、永井の左足クロスに闘莉王が合わせたヘディングは南がキャッチ。52分も名古屋。エリア左でボールを持った金崎がパス気味に送り出したシュートは、南がうまく弾いて名古屋の選手も詰め切れず。54分は熊本。右サイドを粘って持ち出した藏川が、齊藤とのワンツーから中へ。武富のワントラップシュートは枠の左へ。"個"の脅威分、名古屋に怖さはあるものの、ほとんど一進一退と言っていい時間が続きます。
57分は名古屋に決定機。またも金崎が左で仕掛けてクロスを送り、南が弾いたこぼれに小川が詰めるも、ボールは枠の上へ。59分は熊本に決定機。名古屋の最終ラインで連携が乱れ、奪った齊藤はフリーの武富へ付けるも、シュートはクロスバーを越えてしまいます。
ここが1つの分岐点でした。「追い付いていく形の点の取り合いでは、正直分が悪かった」と高木監督。熊本から見れば、結果的に常に先行される展開を強いられ、勝ち越す絶好機もフイに。そして獰猛な赤鯱が火の馬を飲み込んだのは65分。再三再四仕掛けまくった金崎が、ここも左から枠内シュート。南はよく弾いたものの、丁寧な一刺しでゴールを射抜いたのはナンバー10。「いい所に転がってきたので、あとは転がすだけだった」という小川の一撃で、名古屋が三たび勝ち越しに成功しました。
ストイコビッチ監督が動いたのは直後の66分。田口と阿部を下げて、ダニルソンと玉田圭司を投入すると、闘莉王を最後尾まで落とし、右にダニエル、左に増川隆洋を配した3バックに。中盤には右から田中隼磨、ダニルソン、小川、藤本を並べる3-4-3にシフトして、「ウチのあるべき姿」(増川)で安定を図ります。
一方の高木監督は72分に養父と原田拓を、76分に北嶋と高橋祐太郎を入れ替え、ボランチの吉井をCBの矢野大輔と廣井の間に落とし、こちらも3バックに。中盤は右から大迫、藏川、原田、片山が並び、高橋の下に齊藤と武富が入るような3-4-2-1気味の布陣で、同点への意欲を押し出します。
そして大事な次の1点が記録されたのは79分。シルクパスを中央から通したのは、パワーと繊細さを併せ持つダニルソン。うまく呼び込んだ永井は、南の肩口を破る絶妙ループで4点目。交替選手が質の高さを見せ付け、このゲームで初めて2点の差が付きました。
諦めない熊本も、83分には入ったばかりの仲間隼斗が強烈な弾道を枠へ収めるも、楢崎が落ち着いてセーブ。逆に85分、左クロスが流れたボールを磯村亮太が残し、田中隼磨のピンポイントクロスを、意外なヘディングでゴール右スミギリギリへ送り込んだのは玉田。高木監督も「走力とプレースピードには差を感じた」と認めたように、最後は名古屋がJ1の意地を見せ付ける格好で、来週も瑞穂で戦う権利を獲得する結果となりました。
名古屋は「自分たちで難しい試合にしてしまった」(楢崎)側面はありましたが、闘莉王や金崎、そして交替選手としては"反則級"の玉田やダニルソンなど、やはり強烈な個が持つ破壊力を改めて示したと思います。いよいよアジアへの道がはっきりと見えてきたのではないでしょうか。
敗れた熊本は、結果的に退任が発表されている高木監督のラストゲームとなりました。在任期間の総括を問われ、「すべての選手が順調ではなかったが、初めて見た時よりも成長してくれた。3年のスパンとはこういうことなのかと、本当に勉強できた。サポーターの皆さんとすべての選手に感謝の気持ちでいっぱい」と指揮官。最後に遺したベスト16という成果を、「こういう相手を倒さなくてはいけないということを突き詰める気持ちが、みんなに芽生えてくれることを願う」と北嶋が話した"気持ち"にクラブとしても個人としても繋げることが、高木監督の3年間に対する恩返しになるのかなあと、おぼろげながら感じました。 土屋
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