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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

Jリーグレポート 2012年11月18日

J1昇格プレーオフ準決勝 横浜FC×千葉@ニッパ球

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mitsuzawa1118.jpg3780分間に追加された90分間と90分間は歓喜か、あるいは絶望か。史上初の開催となるJ1昇格プレーオフ。まずはセミファイナルです。
3節で岸野靖之前監督を解任。後任にクラブOBでもある山口素弘監督を招聘し、再建を託したものの、就任から4試合未勝利と事態は好転せず、8節終了時では屈辱の最下位に沈んでいた横浜FC。ところが、「諦めの悪いヤツなんで」と自ら語る監督1年生が本領を発揮し出したのはここから。「調子のいい選手を使う」ポリシーは、勝利を収めた次のゲームでスタメンを大幅に変更することも。これが「全員が試合に向けて、いい準備をして迎えられる」(高地系治)というポジティブな"競争原理"に繋がり、37節で初めて昇格プレーオフ圏内へ浮上すると、そこからの5試合を4勝1敗で駆け抜け、堂々の4位フィニッシュ。大きなアドバンテージを握って、このゲームへ臨みます。
山口智、兵働昭弘、藤田祥史、佐藤健太郎など他クラブのレギュラークラスを次々と補強し、監督には水戸で実績を残した木山隆之監督が就任するなど、4年ぶりのJ1復帰へ高い期待を集めてシーズンに入った千葉。開幕ダッシュとはいかず、序盤戦こそ少しもたついたものの、11節から6連勝を飾ると、19節には首位に立つなど、J2屈指のタレント集団として大きな存在感を放ちます。しかし、夏過ぎから思うように勝ち点を伸ばせず、29節終了時点で7位まで転落するなど、一時はキャプテンの佐藤勇人も「正直厳しい時は厳しかった」と振り返ったように、昇格プレーオフ進出すら危ぶまれる位置に。ラスト3試合は7得点無失点と上り調子でこのデスマッチに突入していますが、5位というディスアドバンテージがどう作用するか。舞台は水色と黄色の10594人で埋め尽くされた三ツ沢。"後半"を戦う権利を得るための"前半"は、 千葉のキックオフでその火蓋が切って落とされました。
ファーストシュートは3分、寺田紳一のパスから高地が放ったミドルはわずかに枠の右へ。同じく3分、ゴールまで40m近い距離から、野崎陽介が狙ったロングはDFに当たって枠の左へ。「様子見ではなく、『1点を取りに来るな』と思った」とは千葉のCB山口智。まずは横浜が勢いを持ってゲームへ入ります。
8分も横浜。シュナイダー潤之介のキックから、大久保哲哉が競り勝つと、受けた野崎は反転からシュートを枠へ飛ばしましたが、これがホームチームの狙い。「最終ラインの裏を突きたかった」(山口監督)横浜に対して、「2列目からの飛び出しに注意していたが、予想通りに来た」と佐藤勇人が話せば、「わかりやすく野崎を狙ってきた」と山口智。お互いの思惑が交錯します。
10分に大久保の枠を越えるミドルを経て、千葉のファーストシュートは、即決定機。11分、武岡優斗が自陣でロスト。兵働からパスを受けた藤田は右へ。上がってきた米倉恒貴のシュートはシュナイダーがファインセーブで回避したものの、ようやくいい形が生まれました。
再び横浜の手数。18分に野崎の仕掛けで獲得したFK。中央やや左、ゴールまで約25mの距離から寺田が狙ったシュートはカベに。続けて18分、阿部巧のフィードを大久保がフィフティで落とすと、野崎のミドルボレーは岡本昌弘が何とかキャッチ。「非常にいい入り方をしてくれた」と山口監督も認めた横浜の時間が続きます。
ところが、「20分は凌がなきゃいけないと思っていた」(山口智)千葉に傾き始めた流れ。キーマンは谷澤達也。20分には渡邊圭二が打った枠内シュートの起点になるなど、山口智も「アイツにどんどん付けていけばというのはある」と評した谷澤が、バイタルかそれより低い位置で積極的にボールを引き出したことで、千葉に少しずつパスの回るリズムが。
25分には兵働のフィード一発に藤田が反応。堀之内聖とペ・スンジンに挟まれながら合わせたボレーは枠を外れるも、シンプルな狙いも形に。30分にも佐藤勇人とのワンツーから、谷澤が左へスルーパス。渡邊のクロスはDFにクリアされましたが、ペースは千葉へ移行します。
すると、布石を操った7番のキャプテンが大仕事。キッカケは25分のシーン。「1回兵働さんから裏へ出た時に結構狙えると思ったので、中盤にどんどん狙ってくれと伝えた」のは藤田。32分のクサビを「藤田が裏で欲しがっていたが、あえて足元に当てたら、相手のDFラインが藤田へ激しく来た」と振り返ったのは佐藤勇人。このちらつかせた撒き餌が結実したのは、3分後の35分。「向かい風だったし、GKとDFラインの間にボールを落とせばチャンスになるな」という佐藤勇人のピンポイントフィードは、絶妙の落下点。走り込んだ藤田はGKを鼻先でかわすと、無人のゴールへ丁寧に流し込みます。「いいタイミングでボールを出せた」佐藤と藤田のイメージシンクロが貴重な先制弾に。5位の千葉が1点を奪いました。
さて、「逆に1点を返したら、ウチの方がメンタル的に有利に立つ」と考えた山口監督はすぐさま施策。野崎と高地のポジションを入れ替え、4-2-3-1気味にシフト。なかなか創れない高い位置や中央での基点を意識した布陣に組み替えます。とはいえ、45分には高地の左CKから寺田が、45+2分にはやはり高地の左CKから武岡が、それぞれ狙ったミドルはゴールに到らず。最初の45分間は千葉がリードを獲得して終了しました。
ハーフタイムを挟んでも、流れは変わらず。46分、兵働の左CKを、ニアで藤田が合わせたヘディングは枠の左へ。51分、 谷澤の右CKはシュナイダーにキャッチされたものの、深い位置までの侵入を意味するセットプレー。そして53分、基点は収まる藤田の"足元"。佐藤勇人のクサビをしっかり収めた藤田が落とし、兵働はダイレクトで敵将も「突いてくるだろうなと思っていた」阿部の裏、イコール右サイドの裏へ。走り込んだ米倉は1人旅からGKの股下へズドン。完璧な崩しから大きな大きな追加点。点差が広がりました。
引き分けはすなわち勝利。つまり、2点を返せばファイナルへの切符は手に入る横浜。「行かなければいけない」山口監督の決断は55分。野崎を下げて、田原豊を投入。三ツ沢に出現したツインタワーの摩天楼。早くも勝負に出ます。しかし、次にスコアボードへ踊った数字は"1"ではなく"3"。58分、高橋峻希のスローインを藤田が受け、兵働が頭で返すと「とりあえず思い切って打った」藤田のミドルはゴール左スミへ一直線。0-3。予想外の展開が目の前で繰り広げられます。
30分間で3ゴール。かなり厳しいミッションが課せられた横浜。59分には堀之内のフィードから田原が左足のボレーを枠へ飛ばすも、岡本がしっかりキャッチ。以降はボールの収まり所とギアを上げるポイントが見いだせず、シュートまで持ち込めない中、68分には2枚目の交替カードとして、永井雄一郎を佐藤謙介に替えて投入。高地をボランチ、永井を左SHへ明確に配すと、69分には高地のパスから田原が左足ミドルにチャレンジしましたが、ボールはゴール右へ。縮まらないスコア。
木山監督が動いたのは69分。「米倉も疲れ始めて、斜めに入れられたボールを拾われ始めた」状況を見て、その米倉と大岩一貴をスイッチ。「まだ体力が十分に残っていた」高橋を右SBから一列上げて、「セットプレーの高さを加えるために」大岩を右SBへ送り込む、手堅い采配を振るいます。
横浜最後の交替は76分。大久保がベンチに下がり、カイオがピッチへ。「クロスを上げられてもウチのCBは強いし、他の選手もこぼれ球に反応して、みんな集中を切らさずにやっていた」(兵働)千葉を前に、より機動力にプラスをもたらす10番を投入して、地上戦でコツコツ詰めたいビハインド。
82分は横浜。阿部が付けたボールを永井は右へ回すも、武岡は渡邊に寄せられシュートを打ち切れず。83分も横浜。左から右足で上げた寺田のクロスに、田原が合わせたヘディングはクロスバーの上へ。報いたい一矢。84分も横浜。武岡を起点にカイオを経由して、最後に田原が枠へ収めたシュートは、岡本がファインセーブで阻止。そのCKから、最後はカイオが強引に放ったミドルを田原が押し込むもオフサイドの判定。「よく最後までファイトした」と山口監督も評価したように、横浜は諦めない気持ちを前面に押し出すも、崩れない千葉の牙城。
88分、「完璧な試合」(木山監督)の仕上げ。谷澤が右から蹴ったCK。兵働との交替で投入されていた荒田智之のボレーはシュナイダーが弾き、大岩のシュートはペ・スンジンがブロックしたものの、最後は佐藤健太郎の豪快なボレーがゴールネットを貫きます。黒子的に主要なキャストを担ってきたレフティの移籍後初ゴールが打ち止めの合図。「チームとして凄くまとまってきた」(佐藤勇人)「本当にいいサッカーができているし、結果に繋げられている」(山口智)と下部組織出身の2人が自信を口にした千葉が、0-4という衝撃的とも言うべき最高の結果で"後半"への挑戦権を手に入れる結果となりました。
今日に関しては、1トップの差がそのまま勝敗に直結した印象です。10分にこのゲーム唯一のシュートをミドルレンジから枠の上へ飛ばし、なかなか前でボールを収め切れなかったホームチームの1トップに対して、4本放ったシュートの半分をゴールへ沈め、2点目の基点になったようなポストプレーもほぼノーミスでこなしたアウェイチームの1トップ。古巣相手に「特別な想いはなかった」と、冷徹に仕事を完遂した藤田の矜持。3年越しの悲願達成へ「あと1つ」(山口智)。千葉が残すはわずかに90分間です。
そして、最後に横浜の大逆襲にも触れない訳にはいきません。前述したように、最下位から1勝ずつ積み上げて、辿り着いた昇格プレーオフのステージ。今日は悔しい結果に終わりましたが、「選手が作り上げたものはゼロになるわけではないし、彼らの評価が落ちるわけではない」と山口監督が胸を張ったように、賞賛されるべきシーズンだったのは間違いありません。そして、何より「監督は大変だよと言いながら、何回も何回もやっている監督さんも、海外でやっている監督さんもいらっしゃいますし、そういう想いが今日わかってきたなと思います」と話した指揮官の手腕に対しても、最大限の敬意を表したいと思います。      土屋

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