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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
16位熊本と17位福岡の対峙。お互いに昇格プレーオフ圏内へ食い込むことはかなり厳しい状況と言わざるを得ない中、このゲームだけは是が非でも勝利を収めなくてはいけない一戦。それが"バトルオブ九州"です。
アウェイでの連敗を経て、帰還したホームでは昇格争いに参戦している大分を撃破して、ホーム連勝を飾った熊本。今シーズン最後にして連戦となる"バトルオブ九州"をホームで迎えるからには、勝ち点3で締め括りたい所です。対する福岡は4試合勝利がなく、とうとう前節で熊本に順位で追い抜かれる格好に。Jリーグの先輩として、そして昨シーズンのJ1クラブというプライドに懸けても、負けが許されないゲームであることは間違いありません。今日も8152人の観衆を集めたKKウイングは最高の雰囲気。熊本のキックオフで熱戦の火蓋が切って落とされました。
いきなりの沸点。まだ時計の秒針が一周したばかりの2分。右サイドで獲得したCKを養父雄仁が蹴り入れると、マーカーに完全に競り勝った高橋祐太郎は頭でハードヒット。バウンドしたボールはGK一歩も動けず。「僕の強みでもある」(高橋)絶対的な高さという武器が早くも炸裂した格好で、熊本が先手を奪いました。
ボールこそ開始直後から持つ時間が長かった福岡は、「相手のブロックの前でパスを回している感じ」(山口和樹)が否めず、加えて中盤でのイージーミスも少なくなく、なかなかエリア周辺でのアイデアが出てきません。18分には成岡翔、鈴木惇と繋いで、最後に城後寿が左足で放ったミドルは力なくGKへ。また、20分には藏川洋平の何でもないフィードに、「チグハグな対応が多かった」(山口)福岡の最終ラインは連携がうまく取れず、熊本のFW齊藤和樹にあわやというシーンを創られるなど、攻守にリズムの悪い時間が続きます。
ところが、次にゴールが記録されたのはアウェイチーム。22分、熊本は自陣の深い位置で選手の距離間が悪く、詰まったようなボールの流れになると、養父が中央にまさかのミスパス。これをまったくのフリーで受け取ったオズマールが難なくプッシュ。信じられないような凡ミスで、スコアは振り出しに戻りました。
さて、リードを奪ったことで「アグレッシブに行く所がやや欠けてしまった」(高木監督)時間帯に、嫌な形で失点を許した熊本。26分には、武富孝介からパスを受けた藤本主税の右クロスに齊藤がヘディングで合わせるも、DFに当たってバーの上へ。32分には南雄太のキックを福岡ディフェンスがお見合いしてしまい、GKの飛び出した鼻先で無人のゴールへ流し込むだけだった齊藤のヘディングは枠の左へ。33分にはフィードを収めた齊藤のラストパスから、武富が打ったシュートはDFがブロック。左右によく動き、基点創りにフィニッシュにと奮闘していた齊藤がチャンスに絡むものの、ゴールを決め切るまでには到りません。
すると34分、熊本にアクシデント。先制ゴールをマークした高橋が、ピッチの中央で足を押さえて転倒。プレーの続行が不可能になってしまいます。急遽ベンチから呼ばれた北嶋秀朗が、アップもそこそこにピッチへと入りますが、予期せぬタイミングでの交替を強いられたホームチーム。しかし、「自分自身覚悟を決めてピッチに入った」という34歳が、スタジアムに熱狂の嵐を巻き起こすことになります。
その時が来たのは45+1分。武富を起点に、「なかなか『うん』と言ってくれなかったが、僕が彼を口説けたのが最大の理由」と高木監督がその起用について語った"左SB"の原田拓は「キタジさんがDFと駆け引きしているのが見えたので、DFとGKの間に速いボールを入れようと」最高のクロス。ボールを呼び込んだ北嶋は「CBが自分から離れていたのはわかっていたし、GKが自分から見て右に動いたのも見えた」という冷静さと、「絶対に決めるというか、決めないということはありえない」という決意で魂のヘディング。ボールは完璧な軌道でゴール左スミへ突き刺さります。「自分で納得できるプレーをするのはさすが」と元日本代表FWの指揮官も称賛した一撃で、熊本が勝ち越しに成功してハーフタイムに入りました。
後半もまずスタジアムを沸かせたのは赤の39番。エリア内で齊藤が懐の深いキープから右へ送り、北嶋のシュートはゴール右へ外れましたが、2トップの連動でチャンスを創出します。53分には福岡に同点機。左サイドでボールを持った成岡が、DFラインの裏へ斜めのパス。フリーで走り込んだオズマールのシュートは、わずかに枠を外れてサイドネットの外側を揺らしますが、このゲームで初めて崩した形から決定機を生み出しました。
前田監督の決断は57分。「攻守において高橋(泰)との距離感が空いてしまい、中途半端になっていた」と判断したオズマールを下げて、坂田大輔を投入。前線に変化を加えます。59分は福岡。「福岡の1つの形として抑えなくてはいけない」と高木監督も警戒していた尾亦弘友希を起点に、高橋を経由して、ここも成岡が右サイドの裏へ浮かせてラストパス。走り込んだ城後のボレーは南がファインセーブで回避したものの、6分前とまったく同じ斜めのパスから決定的なシーンを創出。
少し福岡に傾き出した流れ。押し込まれる熊本。すると、この状況を打開したのも"火の国"のストライカー。63分、右サイドの深い位置で浮き球をうまく収めた武富が中へ送ると、元チームメイトの古賀正紘を背負った北嶋。「ワンツーをもらうつもりだった」と話した武富の動き出しを巧みに利用し、「食いつくと思っていた」古賀を右足のアウトサイドを使った「非常に速い」(高木監督)ターンでひらりとかわすと、そのまま左足でシュートへ。ボールは綺麗な弧を描いて、逆側のサイドネットに吸い込まれます。「自分だけではゴールは生まれない。チームメイトに感謝したい」と仲間を称えた北嶋のドッピエッタ。熊本が大きな3点目をもぎ取りました。
点差が広がり、苦しくなった福岡は64分に2枚目の交替策。成岡に替えて石津大介をそのままSHへ投入。より攻撃的な布陣へシフトすると、70分には城後、鈴木と繋いだボールを石津は加速したスピードで右へ運び、マーカーを振り切ってフィニッシュまで持ち込むも、ここに立ちはだかったのはまたも南。右足1本で弾き出すビッグセーブ。ゴールに固く鍵を掛けてみせます。
75分には右SBを小原章吾から木原正和にスイッチして、勝負に出たアウェイチーム。3分後の78分、鈴木のパスから末吉隼也のミドルが枠内を襲うも、南は冷静に掻き出す圧巻のセーブ。福岡にとって遠い1点。
一方、今日の熊本を象徴するようなシーンは79分。CKの流れから、木原が右サイドを高速ドリブルでぶち抜こうとチャレンジすると、懸命に体を入れて食い下がり、最後は木原にオフェンスファウルをさせたのはFWの齊藤。「意思疎通というか、守備でも攻撃でも色々なものを共有することがチーム全体に浸透しているなと感じる」と高木監督。2点差のままでゲームは最終盤へ。
81分には最後のカードとして吉井孝輔と仲間隼斗をスイッチすると、北嶋を最前線に配し、その下に右から齊藤、仲間、藤本を並べ、武富を「試合ではやったことがない」というボランチへ下げる選択でクローズに入った熊本。
落ち着いたゲーム運び。着実に消し去る時間。両手で煽る藤本。一段階上がったスタンドのボルテージ。様々なモノがシンクロしなから、迎えたタイムアップのホイッスル。火の馬の咆哮。「やっとこのチームの力になれたなと思う」と話す、遅れてきたストライカーの2ゴールで、熊本が最高の勝ち点3をサポーターへ贈り届ける結果となりました。
「キタジさんの初ゴールに貢献できて良かった」(原田)「周りも取らせたいという思いはあった」(南)と2人が声を揃えたように、誰もが待ち望んでいた北嶋の移籍後初ゴール。その結果は、高木監督も「あれだけのキャリアを積んでいても、努力することによって結果を出す姿は若い選手のお手本になると思う」と話したように、日頃から100%の準備をしてきたからこそ為し得たものであることは疑う余地がないでしょう。
そう考えると、個人的に今日のゲームで一番体を張って攻守に貢献していたように感じた齊藤へ、その北嶋の持つ"日常"が着実に影響を与えていることも見て取れた気がします。「これが始まりで終わりじゃない」と言い切った北嶋。稀代のストライカーが熊本という地にゆっくりと、しかし確実に息づき始めていることを体感することのできた90分間でした。 土屋
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