mas o menos

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

最近のエントリー

カテゴリー

アーカイブ

2012/09

S M T W T F S
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            

このブログについて

J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2012年09月08日

天皇杯2回戦 柏×柏U-18@日立台

mas o menos
  • Line

201203111208000 hitachidai0908.jpg"王"と"王子"の邂逅。舞台は言うまでもなく、日立台宮殿です。
柏レイソル対柏レイソルU-18。92回に及ぶ天皇杯の歴史の中でも、史上初となるトップチームとユースチームの対峙。このスペシャルマッチにあたっては、柏U-18が灼熱の千葉県予選を勝ち抜き、1回戦では栃木県代表のヴェルフェたかはら那須を3-1で撃破したからこそ、その成果としてこの一戦が実現したという事実は、まず認識しておく必要があるでしょう。
キックオフ前からスペシャル感は満載。柏U-18のGK3人と、菅野孝憲、稲田康志の計5人が揃ってホームゴール裏へ向かえば、その後でやはりメンバー全員が挨拶に訪れた柏U-18の選手たちを、サポーターも「夢の日立台ダービーありがとう」という横断幕と1人1人へのコールで激励。さらにトップチームに対しては「プロの違いを見せつけろ!!」という横断幕を掲げます。スコアボードに「レイソルのエンブレムが2つ出る」(下平隆宏監督)「レイソルの敵もレイソル」(ネルシーニョ監督)という記念すべきゲームは素晴らしい雰囲気の中、柏U-18のキックオフで幕が上がりました。
先にシュートを放ったのは柏。4分、ネット・バイアーノが溜めて右へ送ると、レアンドロ・ドミンゲスのミドルは柏U-18GK伊藤俊祐を強襲し、DFが何とかクリア。5分には大谷秀和からパスを受けた、U-18出身の工藤壮人は鋭いミドルを枠内へ。ここは伊藤俊祐がファインセーブで凌いだものの、直後のCKでも近藤直也がヘディングシュートを繰り出すなど、柏が攻勢に出ます。
対する柏U-18は「緊張していて、足がガチガチだったのは見て取れた」と下平監督も話したように、いつものような前へのテンポアップが見られず、中盤もなかなかボールを受けられない状態に。中盤アンカーを務めるキーマンの秋野央樹も、12分には一瞬の迷いから栗澤僚一にボールを奪われ、ネット・バイアーノの決定機はオフサイドに救われましたが、らしくないプレーが出るなど「流れが悪い立ち上がり」(小林祐介)を強いられます。
すると、瞬時に牙を剥いた柏。14分、栗澤を起点にレアンドロが中へ。ネットのヒールリターンを受け、再びレアンドロが左足で狙ったシュートは、伊藤俊祐も一歩及ばず、ボールはポストの内側を叩いてゴールに転がり込みます。「レアンドロは凄くポジショニングが良かった」と秋野。昨年のJリーグMVPが個の力を発揮して、まずは柏がアドバンテージを握りました。
さて、早くもビハインドを追い掛ける展開となった柏U-18。そんなチームのムードを一変させたのは、「駆け引きの部分は十分通用したと思う」と話すユースの"イニエスタ"。19分、右サイドでボールを持った中川寛斗は、橋本和との駆け引きから完全に裏を取るスルーパスを吉川修平へ。吉川のグラウンダークロスは中と合わず、シュートには至らなかったものの、中川の視野とアイデアにザワめくスタンド。直後の20分には、御牧建吾のクサビをうまく間で受けた木村裕が、チームファーストシュートとなるミドルを枠の右へ。ここから、「徐々に自分たちのペースになっていった」と小林が話したように、ゲームリズムが柏U-18へ移行します。
25分には秋野の素早いリスタートから、橋本の裏へ潜った吉川はわずかにトラップが乱れ、フィニッシュまでは行けず。30分には小林の鋭いボールカットから、木村が獲得したFK。ゴールまで約25mの距離を、その木村が直接狙ったキックは、クロスバーを叩くも菅野は一歩も動けず。スタジアムに漂い始めた同点の予感。
すると、33分に柏U-18の真骨頂が。御牧とのパス交換から中谷進之介が右へ展開。SBの堤勇人は中川が空けたスペースに潜った吉川へ横パス。吉川からのリターンを堤が中に送ると、受けた小林は左へ。木村はダイレクトではたくと、川島章示もダイレクトで落とし、木村がダイレクトでシュート。ボールは枠を越えましたが、最終ラインから8人が連動してフィニッシュまで結び付けたこのシーンは、チームのスタイルをよく表していたと思います。また、この時間帯に効いていたのは木村。うまくスペースに潜り、中途半端なポジションで受けて基点を創る動きがかなり目立ち、彼のプレーが前への推進力をチームへもたらしていたように見えました。
とはいえ、「とにかくこの大会でも勝たなくてはいけない」(ネルシーニョ監督)柏もトップチームの意地。38分に工藤が、45分にネットが掴んだ決定機は、共に伊藤俊祐のファインセーブに阻まれ、直後の45分にもジョルジ・ワグネルの左クロスからフリーで打った工藤のボレーは枠を外れましたが、続けてチャンスを創ると、違いを見せたのはやはり10番。
45+1分、ワグネルのパスをエリア内まで入ってきた大谷が落とし、ワグネルは中へ。ポッカリ空いたレアンドロのシュートは、正確にゴール左スミを射抜きます。流れの良くない時間帯でも、焦れずにやり過ごした柏の老獪なゲーム運び。2点に差が開いて、最初の45分間は終了しました。
ハーフタイムを挟み、先に動いたのはリードしている柏。工藤と那須大亮を下げて、澤昌克と藤田優人を投入。システムも4-4-2から4-2-3-1へシフトします。これが奏功した形で、すぐさま動いたスコア。47分、増嶋竜也のフィードに反応した澤は「靴に接着剤が付いてたんじゃないかな」と自ら笑った絶妙のトラップで縦へ持ち出し、ニアサイドの天井へ豪快なシュートを突き刺します。「修正ができる前に失点してしまった。打つ手は早いなと思った」と下平監督。さらに点差が広がりました。
何とか1点を返したい柏U-18でしたが、相手のシステムチェンジと「秋野をほぼマンツーマンでケアするように言われた」澤の存在もあり、前半のようにはボールが走らず、52分にはレアンドロのボレーを伊藤俊祐が辛うじてファインセーブで凌ぐなど、守備の時間が長くなっていきます。56分には堤のフィードへ吉川が走り込むも、シュートは飛び出した菅野が体でブロック。変わらないスコアボードの"ゼロ"。
57分には下平監督の決断。「秋野を下ろして、フリーにした方がもっとパスを供給できる」と、堤に替えて伊藤光輝を中盤の前に送り込み、小林がアンカーへ、秋野がCBへ、御牧が右SBへそれぞれスライド。スムーズなパスワークの復活を狙います。
62分は柏。レアンドロが右へ振ると、藤田は中央へクロス。ネットに訪れた決定機は、「アイツは1対1に強い。以前は"ダメキャラ"だったけど、今は信用しています」と小林が話し、レアンドロも「スピードがあって、いいGKだったと思う」と称賛した伊藤俊祐が今日5本目のファインセーブで阻止。
66分には足が攣ってしまった木村と平久将土が交替。この平久の投入前後は伊藤光輝の積極的な受けて捌いてもあり、「少し中盤でスペースを握り始めることができた」(下平監督)ものの、「球際の強さや足が"一歩"出てくる所」(秋野)に違いを見せる柏を前にして、チャンスは創り切れない柏U-18。
77分に田中順也がGKも外したループは中谷が掻き出すと、78分に最後の交替。吉川を下げて白井永地を右SBへ投入。御牧がCBに戻り、秋野が再び一列前へ。中川は右に開き、何とか1点を奪うための勝負に出ます。
86分には後半に入って初めて崩した形から決定機。右サイドで秋野がスルーパスを繰り出すと、裏を取った白井は中へ折り返し、ボールはフリーの中川へ通りましたが、シュートはヒットせず。そして90分のラストチャンスは、ようやく掴んだCK。伊藤光輝が左から蹴り入れたボールは、密集をすり抜けて秋野の下へ。「チャンスと思ったけど近藤さんが目に入り、コントロールが大きくなって、DFに当ててしまった」と秋野。こぼれに反応した平久のシュートも、菅野がさすがのシュートブロックでゴールを割らせません。3分間加えられたアディショナルタイムも消えると、「最高に幸せな時間」(小林)の終演。史上初の兄弟対決は、トップチームが力強く勝利を収める結果となりました。
試合後には両チームの選手が全員でピッチを1周するシーンが。憧れのトップチームの選手から話し掛けられ、握手を求められる高校生たち。この光景は「ユースの選手たちが本当に頑張って、ここまで辿り着いたから、こういうご褒美がもらえたのかなと思っています」という下平監督の言葉に凝縮されるような、本当に素敵な光景でした。
アカデミーにとって、同時にクラブにとっても集大成であり、「これが第一歩」(秋野)でもある特別な一戦は、前半の中盤辺りから太陽が顔を出し、強い陽射しが照りつける中で行われていました。ただ、ピッチにはその太陽よりもまばゆい光を放つ"太陽王"と"太陽王子"が確かに存在していたと思います。         土屋

  • Line