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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
天皇を頂く朝廷に、将軍を頂く幕府の世から、あるいはそれ以前においても、相容れずに生まれた対立の構図。"首都"と"古都"が激突する、J2昇格合戦の第二戦です。
前節は富山に1-0で競り勝ち、再び自動昇格圏内の2位へ浮上した東京V。1年半ぶりの古巣復帰となった柴崎晃誠もフルタイム出場を果たすなど、終盤のラストスパートへ向けて好材料が揃いつつあります。対する6位の京都は、17節からまさかの7試合勝ちなしで8位まで後退したものの、そこからの反発力は目覚しく、現在4連勝中。とうとう昇格プレーオフ圏内の6位まで順位を上げてきています。勝ち点差もわずかに3の、上位直接対決は"首都"味スタ。湿度80%というジットリとした気候の中、京都の中村充孝がボールを蹴り出して、好カードの幕が上がりました。
ゲームが始まると、両チームに前節と異なるポイントが。東京Vは今シーズンのベースになっている4-4-2ではなく、中盤に右から和田拓也、中後雅喜、柴崎晃誠を揃え、トレスボランチ気味の4-3-3を採用。前線は阿部拓馬が中央に入り、右には小池純輝、左には飯尾一慶が並びます。
一方の京都は「少し前に重心が掛かるかなと思った」という大木武監督の予想から、前節はドイスボランチの一角を務めていた中山博貴を右SHに移し、右SHだった工藤浩平をボランチで起用。お互いに中盤の構成へ変化を付けてきました。
そんなイレギュラーな噛み合わせの中、「立ち上がりはうまくいってなかった」と中後が話し、「立ち上がりから悪くなかった」と大木監督が真逆の印象を口にしたように、この采配がまず奏功したのは京都。「工藤がしっかり引いてボールを受けていた」(大木監督)こともあり、得意の短いパス交換もスムーズに。
12分にはその工藤が起点になり、宮吉を経由して中山がフィニッシュ。ここは東京VのGK土肥洋一がファインセーブで阻みましたが、直後のCKも決定機。工藤の蹴ったボールは一旦跳ね返されるも、再び工藤の下へ。短いパスを受けた駒井善成の左クロスはゴール前でフリーになった秋本倫孝まで届き、シュートは弱く土肥にキャッチされたものの、続けて東側のゴール裏を沸かせます。
さて、なかなか前へとボールが入っていかず、チャンスの芽が見えてこない東京V。「後ろに人数が多くならないようにしたかったが、実際は多くなってしまった」と中後が振り返った通り、中盤の3人は前へ出ていくタイミングが掴めず、3トップがそれぞれの位置で孤立。また、右の森勇介、左の中谷勇介と攻撃参加に特徴を持つ両SBも、ワイドに張り出したFWとの兼ね合いからかオーバーラップが少なく、「ボールを動かす時に、何かおもりを持っているような感じ」と川勝良一監督も表現したように、厚みのある攻撃を繰り出せません。
とはいえ、以降は京都もエリア内へは侵入しきれず、ゲームは20分過ぎから完全に膠着状態へ入ると、ほとんどシュートのない展開が続き、時間ばかりが経過。少し中盤の配置を変えた東京Vも43分と45+1分には、中後の右CKから刀根亮輔のヘディングという、まったく同じパターンから前半の全シュートを放ちましたが、どちらも枠外。得点の香りが薄い45分間はスコアレスで終了しました。
迎えた後半は、早々に大きくゲームの流れを変えるアクシデント。48分、東京Vは高橋祥平が縦に付けると、中後がダイレクトでラストパス。前掛かっていた京都のDFラインと完全に入れ替わった小池は独走。一瞬躊躇して飛び出したGKの水谷雄一もかわし、あとは無人のゴールへ流し込むだけというシーンの結末は、追走した福村貴幸が覚悟のファウル。吉田寿光主審が提示したレッドカードに、抗議することなくピッチを後にした福村。京都は残り40分近くを10人で戦うことになりました。
エリアすぐ外のFKは中後と小池の呼吸が合わず、当座の危機は脱した大木監督の決断。「なかなか狙っていいボールが入っていなかった」と判断した宮吉を下げて、酒井隆介を福村が抜けた左SBへ投入。中村を最前線に置いた4-4-1にシフトします。
53分こそ工藤の右CKから、こぼれをバヤリッツァが左足で狙うシーンが見られましたが、やはりボールを握るのはホームチーム。この時間帯は中盤の距離感も悪くなく、時折スイッチが入る阿部のドリブルも大きな脅威。「リズムはずっと良かった」と川勝監督も言及したように、数的有利を攻勢に繋げます。
ところが、突如として緑を切り裂いた紫の閃光。65分、右サイドで安藤淳が粘って中へ送ると、受けた工藤は素早く中村へ。一瞬アプローチが遅れたのを見て、中村は早い間合いから右足を振り抜くと、ボールはゴール左スミへ飛び込みます。「素晴らしいゴール」と指揮官も称賛した先制弾。堂々たる正面突破から、10人のアウェイチームがリードを強奪しました。
ワンチャンスをゴールに結び付けられた東京Vは、71分に中後を下げて巻誠一郎を投入すると、明確な4-4-2へ回帰。さらに75分には中谷に替えて梶川諒太をボランチへ送り込み、和田を左SBにスライドさせて、反撃態勢を整えます。ただ、巻というスペシャリストの存在もあってか、どうしても長いボールを使うことが多くなり、このセカンドに対しては「サイドに出たセカンドボールには意識を高めていた」(工藤)「セカンドボールを拾えるか拾えないかが勝負の決め手」(秋本)と2人が口を揃えたように、京都が高い意識で確実に対応。
また、ボールの出所に対しても得点の前後から2トップ気味になった駒井と中村がしっかりチェイス。「後ろとしてはズレたりするだけで良かった」とは秋本。着実に時間を削り取っていきます。さらに、中盤の広大なスペースをカバーしていた中山と工藤を、それぞれ内藤洋平と倉貫一毅に入れ替え、ゲームのクローズに着手。
対する東京Vは78分に柴崎晃誠が右へ振り分け、森のクロスを巻が何とか頭で合わせたシュートが、後半の45分間で唯一のシュート。「シュートに対しての動きの質や量が、昨日や一昨日ゲームをやったような感じ」とは川勝監督。刀根を最前線に上げたパワープレーも実らず、6分間のアディショナルタイムを経て、短く2度鳴り響いたホイッスル。「1人1人が責任を持って、しっかり走ることができた」(工藤)京都が粘り強く1点を守り切り、怒濤の5連勝を達成する結果となりました。
東京Vは今日に関しては新布陣がハマらず、それが攻守に影響を及ぼした格好に。「中盤は攻撃のリズムが悪く、相手との距離を取り過ぎていた」と川勝監督。また、西紀寛の不在という要素が、思った以上に響いたようにも見えました。
勝った京都は数的不利をはねのけ、貴重な勝ち点3を獲得。「ウチの守備はしっかり"ボールに行く"やり方なので、10人でも守り方はハッキリしている」とは工藤。「日頃の練習でこなしていたことをやってくれて、見ていてとても嬉しかった」と指揮官が、最後まで"スタイル"を貫いた選手たちに対して、最高級の賛辞を送ったのが印象的でした。 土屋
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