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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
日本で唯一、第1種と第2種が公式戦で激突する可能性を持った大会が、1月1日にファイナルを置いている天皇杯です。味の素フィールド西が丘、略称"味フィ西"で行われるのは天皇杯の東京予選凖決勝。高円宮杯プレミアリーグに所属する東京ヴェルディユースと、JFLに所属する横河武蔵野FC。まさに第1種対第2種。そして2年前に行われたファイナルのリターンマッチでもあります。
中央大を延長で5-2、東洋大を3-2で撃破し、学生系の部代表として準決勝まで勝ち上がってきた東京Vユース。2年ぶり2回目の東京制覇へ、今日も含めてあと2勝まで迫ってきました。先月のクラ選では、1次ラウンドで抽選の末に敗退という、何とも割り切れない結果を受けての今大会だけに、モチベーションは高そうです。
対する横河はJFLの前期でかなり苦しんだものの、後期は「ディフェンスのてこ入れをしたことと、FWが点を取ってくれていることもあって」(依田博樹監督)、ここまで4勝1分け1敗と復調傾向。ようやく11位にまで浮上してきています。実は東京予選というのは、全国トップレベルの大学が乱立している地域だけに、JFLのクラブといっても勝ち抜くのはかなりハード。加えて、数年前までは佐川急便東京も同じ地域のライバルだったため、実は12年前に1度出場したのが横河にとっては唯一の東京を勝ち抜いて出場した天皇杯本選。今回は全国を懸けて、最強の高校生刺客と雌雄を決することになります。気温31.7度とまだ陽射しも充分の16時31分、東京Vユースのキックオフでゲームはスタートしました。
いきなりの衝撃は4分。安在和樹(3年・東京ヴェルディJY)の横パスを受けた中島翔哉(3年・東京ヴェルディJY)は、ゴールまで30m近くある位置から強烈なミドルにトライ。かろうじて横河GK藤吉皆二朗(20・明星→横河武蔵野Y)が触ったボールはクロスバーにヒットしたものの、そのクロスバーが揺れた以上にスタンドも激しく揺さ振られる幕開けとなりました。
以降もペースは「ボールを動かしてくるチームだし、元気があるので、少し受け身になるのはしょうがないかなと思っていた」(依田監督)という横河をあらゆる勢いで上回った東京Vユース。8分、今度は高木大輔(2年・東京ヴェルディJY)のミドルが藤吉を襲うと、15分には右サイドをぶち抜いた吉野恭平(3年・A.C AZZURRI)のクロスを、安在が叩いたボレーも藤吉がセーブ。16分にも吉野、高木と繋いで、菅嶋弘希(2年・東京ヴェルディJY)が落とすと、前田直輝(3年・東京ヴェルディJY)のダイレクトシュートは枠の右へ外れましたが、チャンスを連続して創出します。
横河の想定外は「相手は4-2-3-1で来ると思ったら、3-4-3で来た」(依田監督)こと。このミスマッチが、前田をはじめとしたバイタルへ潜り込む選手を捕まえ切れず、テンポよくボールを回される要因に。加えてドイスボランチの一角を務める中島のドリブルがキレキレで、これには依田監督も「あのドリブルはどうしようもないなと思った」と正直に話してくれました。
22分には前田が、23分には中島がミドルレンジからシュートを狙うなど、変わらず手数を繰り出す東京Vユース。ただ、徐々に相手のリズムを把握し始めた横河も、飛び込み過ぎずにとりあえずディレイさせるような守り方で凌ぎ出し、エリア内へ侵入される回数を減らしていきます。
この守備面の安定が、攻撃にも波及。特にシステム上、突きやすい相手3バックのサイドとWBのギャップを使えるようになり、36分には左サイドでスローインの流れから、遠藤真仁(26・柏レイソルY→ロッソ熊本)の上げたクロスに、関野達也(26・鹿島アントラーズY→青山学院大)がフリーでヘディング。ボールは東京VユースのGKポープ・ウィリアム(3年・東京ヴェルディJY)の正面を突き、ゴールには至りませんでしたが、1本目のシュートが決定機に繋がります。
すると39分、先制弾の歓喜に沸いたのは横河。右サイドでSHの小野祐輔(23・相洋→日本大)が縦に送ると、追い越したSBの林俊介(27・岐阜工業→東京学芸大)はバウンドを合わせるのと同時にGKの位置を確認した上で、優しい軌道で送り出したループ。このボールがフワリとサイドネットを揺らします。一瞬訪れた勝負の波を見逃さず、横河がリードを奪ってみせました。
よもやの失点を喫した東京Vユースでしたが、やはり並の高校生たちではありません。43分に中島が単独突破から強烈な枠内シュートを放つと、直後に見事な同点弾。中島の素晴らしいスルーパスを受け、裏へ走った安西幸輝(2年・東京ヴェルディJY)がピンポイントクロスを上げると、菅嶋はボレーで難なくゴールを陥れます。前半の内にきっちり仕返し。スコアは振り出しに戻って、前半は終了しました。
後半も大枠の構図は変わらず。攻める東京Vユースに、守る横河。46分、前田、安西、前田と細かく繋いで、高木が放ったシュートは藤吉がセーブ。48分、安在の左クロスをスタンディングでハードヒットさせた高木のヘディングは枠の上へ。50分、山口陽一朗(2年・東京ヴェルディJY)を起点に、菅嶋とのワンツーで抜け出した高木のシュートは、当たり出している藤吉がファインセーブ。
止まらない高校生軍団。57分、中島が3人のDFを翻弄して打ち切ったシュートは、何とか藤吉が足でストップ。58分、中島がゴール左、約25mの距離から直接狙ったFKは枠の上へ。耐え続ける横河。
しかし、この流れに変化が加えられたのは59分の交替策。冨樫剛一監督は前田を下げて、澤井直人(2年・東京ヴェルディJY)をボランチへ投入。中島が2トップ下へ入ります。このシフトチェンジは「ウチ的には良かった」と依田監督も話した通り、横河にとってはラッキーな采配。これでバイタル周辺でのパス回しが鈍った上に、中島のドリブルもチェックしやすい位置が起点になり、少し横河ディフェンスに余裕が生まれます。
とはいえ、相変わらず手数は東京Vユース。68分、吉野のスルーパスから、相手の裏へ潜った安西が中へ。菅嶋のフィニッシュは横河CB平岩宗(25・中京大中京→駒澤大)が体でブロック。69分、中島の左CKを安在が頭で枠へ飛ばしたシュートは、藤吉がファインセーブ。71分、吉野の縦パスを受けて素早くターンした菅嶋のミドルは枠の上へ。同じく71分、中島、菅嶋と回り、安西のミドルは枠の上へ。追加点にはなかなか届きません。
逆に75分を過ぎると、「攻撃のリズムがなくなってきた」(依田監督)相手を尻目に、岩田啓佑(25・川崎フロンターレY→早稲田大)が積極的にボールを捌き出した横河ペース。終了間際の89分には、左サイドを独力で運んだ加藤正樹(26・青森山田→駒澤大)がそのままミドルを放つと、ボールはわずかに枠の右へ。90分間で決着付かず。ゲームは前後半10分ずつの延長戦にもつれ込みました。
本選よりは前後半で5分ずつ短い延長戦とはいえ、この気候もあってお互いになかなか連動した攻撃は繰り出せない展開に。98分には横河。岩田の右CKから、こぼれを小山大樹(31・FCトリプレッタY→静岡産業大→群馬FCホリコシ)が右クロス。矢部雅明(23・浦和レッズY→静岡産業大)がフリックすると、関野のヘディングはポープがしっかりキャッチ。
99分はシステムを4-4-2に変えていた東京Vユース。中島が繋いで、左から安西がカットインしながら狙ったシュートは枠の右へ。100+1分には吉野が2枚目の警告で退場処分となってしまいましたが、大勢にそこまで影響はなく、延長戦でもスコアは動かず、PK戦が決勝進出チームを決定する手段になりました。
先攻の東京Vユースは、中島が恐ろしい程の冷静さでゴール。後攻の横河は、岩田がポープに触られながらもゴール。ここからはお互いに失敗なく4人目まで成功。プレッシャーのかかる5人目も澤井、矢部共にGKの逆を突いて成功。PK戦でも白熱の攻防が続きます。
6人目も双方が沈め、迎えた7人目。このシチュエーションで、藤吉は相手のキックを完璧にストップ。ドローに持ち込んだ主役が、再び輝きを放ちます。横河7人目は林。左に蹴ったボールは、ポープわずかに及ばず。最初と最後を締める林のゴールで、横河が決勝へ勝ち名乗りを上げる結果となりました。
9対22というシュート数が表わすように、ゲーム自体は東京Vユースが圧倒していたと言ってもいいような内容でした。横河が上回ったのはおそらく「このトーナメントは内容がどうであれ、勝たないと意味がない」(依田監督)という割り切りと、「JFLも振るわないので、このトーナメントで2つ勝つ」(同)という今大会に懸ける想い。またサッカーの奥深さを改めて思い知るようなゲームでした。 土屋
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