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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2012年01月09日

高校選手権決勝 市立船橋×四日市中央工業@国立

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写真[1]kokuritsu0109.jpg伝統の青か。名門の白か。12月30日に開幕した高校選手権も、いよいよ決勝。90代目の王者が今日誕生します。
「"イチフナ"を優勝させたいという想い」を抱く、初優勝時のメンバーだった朝岡隆蔵監督に率いられ、9年ぶりの全国制覇まであと1勝に迫った市立船橋。県予選の決勝では最大のライバル・流通経済大柏を延長の末に振り切り、迎えた今大会も初戦の長崎日大に苦しめられながら、ラスト5分の2ゴールで逆転勝利。以降は清水商業、矢板中央、大分と個性的なチームを撃破して、この地まで辿り着きました。
一方、初めて"ヨンチュウコウ"が国立のピッチを踏みしめた代の主力だった樋口士郎監督が指揮を執り、20年ぶりの王座を初の単独優勝で飾りたい四日市中央工業。こちらは3回戦の立命館宇治、準々決勝の中京大中京と、共に1点ビハインドの終了間際に浅野拓磨(2年・菰野八風中)が同点弾を叩き込み、共にPK戦を制するなど「僕らにも訳のわからない風が吹いた印象」と樋口監督が評する中、ここまで駆け上がってきました。成人の日に聖地のスタンドを埋め尽くした観衆は43884人。快晴の下、両校の校歌斉唱を経て、市船のキックオフでラストマッチがその幕を開けました。
国立を貫いた58秒の衝撃。ラインを割りそうなボールに体を入れた市船の左SB鈴木潤(3年・名古屋FC)へ、中学時代のチームメイトだった寺尾俊祐(3年・名古屋FC)が諦めずにチェイスして獲得したCK。田村大樹(2年・LIBERO FC)が右から入れたボールを、ニアで西脇崇司(3年・愛知FC U-15)がフリック。田村翔太(2年・東海スポーツ)のシュートは市船GK積田景介(3年・市原五井中)がよく弾きましたが、ここに詰めたのは浅野。得点ランク単独トップに躍り出る今大会7ゴール目は貴重な先制弾。いきなり四中工がリードを奪いました。
早々に動いたゲーム。以降の主導権を握ったのも、アドバンテージを得た四中工。速いアプローチで相手に自由を与えず、特にミドルゾーンではことごとくボール奪取に成功。また、「相手のSHの所で一気に襲い掛かりたかったが、うまくいかなかった」と朝岡監督も明かしたように、14分には右SHの寺尾がサイドをぶち抜いてクロス。何とか市船CBの種岡岐将(2年・日光今市中)がクリアしましたが、サイドの攻防も四中工ぺースで推移します。
ただ、ペースの出ない市船で1人気を吐いていたのは右SBの米塚雅浩(3年・IRIS生野SS)。15分には右サイドをグイグイ持ち上がり、クロスは和泉竜司(3年・FC四日市)の前で西脇にクリアされましたが、20分にも再び右サイドをドリブルで運び、ミドルを枠の右へ飛ばすなど、和泉も「米塚は今日は久しぶりに上がっていた」と感じた程に積極性を披露。
さらに24分にはインターセプトから前に上がっていったCBの小出悠太(2年・ジェフユナイテッド千葉U-15)が、左サイドから折り返し。中とは合わず、本人も「思い切ってシュートを打てばよかった」と振り返ったものの、守備陣が攻撃の手数に関与します。
とはいえ、それは攻撃陣がなかなかチャンスを創れないことの裏返し。岩渕諒(3年・FRIENDLY)と、その下に入った和泉と菅野将輝(3年・ヴィヴァイオ船橋SC)にボールが入らず、「2トップにビビってラインが下がり過ぎた」と小出も認めた通り、全体の位置取りが低くなったことでフォローの距離も遠くなり、「奪ってからシンプルに前へ早く」(朝岡監督)という攻撃の狙いを体現できません。
逆に四中工は、キャプテンを務める國吉祐介(3年・FCクラッキス松戸)の出場停止を受けて、ボランチに入った生川雄大(3年・FC四日市)が「國吉の穴を全然感じさせず、非常に頑張ってくれた」と樋口監督も称賛したように、松尾和樹(2年・菰野八風中)と共に、目立ったサイドチェンジの潤滑油として機能。チームとして攻勢の時間も長くなり、30分には川本将太郎(2年・亀山中部中)のクサビを田村翔太が抜群のポストプレー。浅野がドリブルから放ったシュートは米塚がブロックしましたが、2トップの脅威も表出。「予想以上のサッカーができた」と樋口監督も話した通り、ファイナルの舞台でのびのびと躍動した四中工が1点をリードして、ハーフタイムに入りました。
さて、「前半は自分たちのサッカーがまったくできなかった」(岩渕)市船でしたが、後半はスタートからラッシュ。50分、和泉のパスをバイタルに潜って受けた菅野が枠の上へ外れるシュート。51分、和泉が右へ展開したボールは菅野を経由。岩渕が粘って繋ぐと、上がってきた米塚のシュートはGKに当たって枠の右へ。前への推進力がようやく出てきます。
1つの変化は少しミスの目立っていた和泉にプレーの安定感が戻ったこと。時には低い位置まで下りて、"捌いて前へ"のような形が多く、和泉をスイッチに全体の連動性が増していった印象です。もう1つは種岡と小出を中心に、相手2トップをスピードに乗らせるようなシーンを創らせなかったこと。「インターセプトには自信がある」という小出が速い出足でボールが入る前に奪い切るようなシーンと、「一発で裏へ行かれないように少し距離を取って」(積田)対応するシーンを使い分け、シュートを打てるような局面を創らせません。
「相手のプレッシャーが強く、奪った後にも起点がなかなかできなかった」(樋口監督)四中工の後半ファーストシュートは、68分に川本が放った少し勢いのないミドル。「前から奪いにいく姿勢を強く示し、テンポよくゴールに迫ることができた」(朝岡監督)市船が、ゲームの流れを完全に引き寄せます。
さらに69分には朝岡監督が交替を決断。菅野に替えて、「ずっと監督に「ラスト20分で仕事をしてくれ」と言われていたので、この時間帯で出るのは僕の"空気"だなと思った」という池辺征史(3年・Penya F.C.Barcelona Japan)を投入。勝負に出ました。
71分、米塚が獲得したCK。杉山丈一郎(3年・ヴィヴァイオ船橋SC)のキックに岩渕が頭で合わせるもクロスバーの上へ。74分、杉山のラストパスを受けて、負傷を抱える岩渕が難しい体勢から繰り出したシュートはわずかに枠の左へ。77分は岩渕が、79分には池辺が粘ってCKを獲得。82分、杉山の左FKを渡辺健斗(2年・ヴィヴァイオ船橋SC)が拾い、右から米塚が、左から杉山がクロスを入れるも、何とか四中工GK中村研吾(1年・ソシエタ伊勢SC)がキャッチ。「全体のラインが引いてしまった」(樋口監督)四中工を押し込む市船。
経過する時間。消えていく時間。89分、松丸龍(3年・船橋大穴中)が右から蹴り入れたFKに、ファーの岩渕がドンピシャで当てたヘディングも、ライン上に戻った川本が頭で掻き出すビッグプレー。90分、杉山の右CKはDFがクリア。追い付けない市船。第4の審判が掲げた数字は"2"。
91分、渡辺のドリブル。獲得したCK。杉山が入れたボールはゴール前で混戦。混戦。体で押し込んだ和泉。揺れたゴールネット。同点。同点。「オレらなら絶対に点を取れると話していた」(和泉)市船は死なず。土壇場でスコアは振り出しに戻り、90回目のファイナルにもう20分間が加えられることになりました。
両雄の円陣が解けてスタートした延長戦。91分は市船。鈴木のフィードを岩渕が落とし、池辺のシュートは飛び出した中村が体でセーブ。拾った和泉のシュートはバーの上へ。92分も市船。岩渕のパスから杉山がエリア内でシュートチャレンジも西脇がブロック。93分も市船。杉山の左CKを岩渕が頭でゴール方向へ飛ばすも、田村大樹がクリア。
94分は四中工。相手DFの交錯を見逃さず、拾った浅野はアイデア溢れるミドルループを枠に打ち込むも、積田がバックステップからファインセーブで阻止。97分は市船。和泉がドリブルから右へ送り、池辺が軽やかなステップから放ったシュートは中村がキャッチ。やや市船優勢も、「前半を思い出して徹底的に繋げ」と樋口監督から指示を受けた四中工も反攻。残すは10分。
102分の四中工。松尾のスルーパスから浅野が久しぶりに抜け出しかけるも、シュートはヒットせず。103分の四中工。金平将輝(3年・FC四日市)とのコンビで川島裕介(3年・菰野八風中)がエリア内へ侵入するも、米塚がクリア。104分も四中工。ショートコーナーから松尾のクロスを、西脇が枠へ収めたシュートは積田がキャッチ。
そして105分の市船。渡辺のパスをバイタルで受けたのは、2分前に「ずっと期待していたので、最後にピッチに立たせてあげたい」と朝岡監督が杉山に替えて送り出した宇都宮勇士(2年・八幡浜八代中)。宇都宮が短く流すと、和泉は巧みに切り返し、マーカーをかわして振り抜いた渾身の右足。左スミへ向かったボールはGKの伸ばした手を弾いてゴールへ飛び込みます。
「最後の最後で練習の成果が出た」10番を背負うキャプテンの豪快な一撃は、市船へ5度目の栄冠をもたらす決勝ゴール。「心ある選手に私は胸を打たれた」と話した指揮官と、「監督のためにやりきろうと思った」(池辺)という選手たちの信頼感が呼び寄せた逆転劇。市船が"イチフナ"らしさをこの大舞台で存分に発揮して、9年ぶりに全国の頂点へ返り咲く結果となりました。
ほとんどその手に掴みかけていた優勝が、あとわずかの所で指の間を擦り抜けていった四中工。それでも「非常に良いサッカーというか、自分たちのやろうとした精一杯のプレーをやってくれた。本当に褒めてあげたい」と樋口監督。選手の個性を尊重した攻撃的なスタイルで、古豪復活を強く印象付けて、国立を去っていきました。
「本当にこれが現実なのかということを周りの人に確認した」という就任初年度の朝岡監督で全国を制した市船。プリンス関東1部、インターハイとなかなか結果が出なかった中、最後に待っていたのは最高の結末でした。「1年前の僕らだったら、逆転して勝つことは多分なかった。この2、3ヵ月で凄くチームが"心ひとつ"になっていった」と池辺。Bチームも含めた一体感で手に入れた日本一。「自分たちで歴史を創ることができた」(岩渕)選手たちの手で、朝岡監督が国立の宙を舞いました。      土屋

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