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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
2009年10月24日、J1第30節。16位柏が13位山形をホームへ迎えて行われた、残留争い直接対決。順位を考えても、勝ち点を考えてもお互いに絶対負けられない戦いは、57分に宮沢が決勝ゴールを挙げた山形がアウェイで勝利。結果、柏はJ2降格の憂き目に遭い、小林伸二監督が「あのシーズンは柏戦の勝利が大きかった」と振り返った山形は奇跡とも言われたJ1残留を果たしました。あれから2年。J2での1シーズンを経験した柏は、このゲームに勝利すればJ1の首位返り咲きという驚異的な躍進。一方の山形は、残留対象チームの甲府まで9ポイント差の17位と非常に苦しい状況。あの日とは大きく立場の変わった両者の対峙は、あの日と同じ初秋の日立台です。
気温は27.5度。季節外れと言っていい夏日の中でキックオフされたゲームは、2分に山形がファーストシュート。小学生時代から在籍していた古巣との対戦に燃える太田が左足ミドルを放つと、5分には柏も佐藤のクリアミスを拾った栗澤がミドルを枠へ飛ばし、山形GK清水がファインセーブ。続けて5分も山形。長谷川が右足ボレーにチャレンジするなど、いきなり打ち合う形から始まりましたが、「ゲームの入りは悪くなかった」とボランチを務めた佐藤が振り返ったように、序盤からペースを掴んだのは山形。C大阪に6-0と大敗を喫してから、「15mくらいラインを落として」(山形・小林伸二監督)安定を図った守備に関しては、スペースをうまく消して、バイタルへの侵入にもタイトに対応。柏は「スペースを使うよりもクサビを受けられる選手」として小林監督が警戒していた北嶋もなかなか前線で基点になれず、攻撃の手数を繰り出せません。
また、山形は攻撃面でも10分に船山が1本のパスで裏を突き、伊東のトラップミスがなければ決定機になったシーンや、15分に山田、伊東と繋いで、船山のラストパスに長谷川がわずかに届かなかったシーンなど、チャンスの芽は創出。「ある程度の所までは行けていた」と小林監督も話した通り、うまく攻守にハマっていた印象。19分には伊東が左へ展開すると、宮沢を経由して山田の上げたクロスに、ニアへ伊東が飛び込んだヘディングは、枠内を捉えるあわやの一撃。「チャンスもしっかり創れていた」(佐藤)山形のリズムが続きます。
柏は「選手の距離感もよかったので、そんなに嫌な感じはしなかった」とは栗澤ですが、ネルシーニョ監督が気になったのは「セカンドボールを拾われていた」こと。これは栗澤も「澤とジョルジ(・ワグネル)がSBを見る形が多く、中央の枚数が足りなかったので、SHもボランチを見るように指示があった」と言及。中盤を引き締めにかかりますが、29分には宮沢、伊東と繋ぎ、小林のクロスを長谷川が合わせたヘディングは、DFも触ってわずかにバーの上へ。「30分ぐらいまではラインを落としてまでも良い攻撃をしてくれた」という小林監督の言葉にも頷けます。
ところが、そこまで1本の決定機もなかった柏に、突如として舞い降りた絶好の先制機。31分、ワグネルが蹴った左CK。中央で数人がもつれて倒れると、扇谷健司主審は石井が増嶋を倒したというジャッジを下し、PKを指示します。キッカーはワグネル。1度目のキックは清水の逆を突いて左スミへ決まりますが、澤がエリア内へ入っていたという判定で蹴り直しに。すると難しい2度目も左スミギリギリへコントロールし、清水もわずかに及ばず。「そこまでバランスを崩してまで攻めなくてもいいと思っていた」(栗澤)柏からすれば、ラッキーな先制点。そして、ほとんどプラン通りにゲームを進めていた山形にしてみれば何とも「もったいない」(小林監督)失点。なかなか攻撃の形を創れなかった柏がリードを奪って、前半の45分間は終了しました。
後半に入ると、まずは柏にビッグチャンス。48分、北嶋のポストを受けた橋本が左サイドからクロスを上げると、澤が頭で合わせるも清水の正面。さらに54分、59分と深い位置まで攻め込んでCKを獲得するなど、少しずつ攻撃にテンポが出てきます。この要因としては、山形のドイスボランチも前に出る回数が増え始め、全体のラインは上がったものの、少し空き出したバイタルで2トップがクサビを受けられるようになってきたことが挙げられそうです。特に工藤は前半の終盤から、キッチリ前でキープするシーンが目立ち、攻撃のリズムを創るのに貢献していたと思います。
さて、何とかここから2点を取りに行かなくてはいけない状況の山形でしたが、58分にアクシデント。右SBの小林が負傷してしまい、替わりに本来はCBの園田がそのままの位置に入ります。さらに62分には太田がゴール左、25m強の位置から直接FKをサイドネットの外側へぶつけると、直後には宮沢を下げて、切り札とも言うべき宮崎を投入。65分にはその宮崎が起点となり、太田のアーリークロスに伊東が競り合い、こぼれに船山が反応したものの、中途半端なヘディングになってしまい、フィニッシュには至りません。
ただ、「変に点を取りに行ってやられても意味がない」と佐藤は話したものの、ゴールが必要な状況にしては、山形のアタックに思い切りが感じられず、「ボールを回すのか、速く攻めるのかの判断」(小林監督)がやや曖昧に。前半はしきりにボールを引き出していた伊東も、流れの中に埋没してしまいます。
69分に動いたネルシーニョ監督。北嶋と澤を下げて、田中と茨田を送り込む2枚替え。1点をリードしている状況で攻撃の選手を投入してきました。すると70分にはいきなりチャンス到来。相手の連携ミスを奪った茨田は「パスの質を上げてほしい」というネルシーニョ監督の起用理由に応えるような絶妙スルーパス。工藤のシュートは前田が決死のブロックで阻止したものの、73分には右サイドで酒井、工藤に茨田を加えた細かいパス回しからCKを獲得。「2人が入ってから、いい形でボールが回った」(栗澤) 柏が「攻めのバリエーションを落とさず、後ろはカウンターを受けないように、ゲームをコントロールすること」(ネルシーニョ監督)を徹底して遂行。
76分には相手CKを奪い、3対2のカウンターになりましたが、少し勝負パスのタイミングがズレると、意識的にスローダウンして繋ぎ直すシーンも。「慎重なリスクマネジメントは意識しながらやっていた」と大谷。確実なプレーを選択し、時間を着々と潰していきます。
山形で悔やまれるのは3枚目の交替カード。伊東と山田が足を攣る中、「前の選手を替えたかったですけど」(小林監督)最終ラインを放置はできず、80分に山田を下げて、Jリーグデビューとなる中野圭を投入。仕方なかったとはいえ、ゴールの欲しい状況で古橋と大久保を2枚とも起用できなかったのは痛恨でした。
実際、中野も82分にアーリークロスを上げるなど、全力は尽くしましたが、交替した山田や、右の園田も含めて「クロスに工夫がなかったのは残念」と指揮官が話した通り、外から攻める意識の先にシュートが生まれません。そして95分、日立台を切り裂いた試合終了のホイッスル。「今日が首位に立つラストチャンスだと思って臨んだ」(大谷)柏が、20節以来となるトップの座を奪取しました。
山形はシュート数でも相手を上回るなど、ゲーム内容は決して悪くなく、「やってることは間違ってないと思う」と佐藤も話しましたが、PKの1失点が重くのしかかって勝ち点は積み上げられず。残留は極めて厳しい状況になったと言わざるを得ないと思います。
勝った柏は「今は勝ち点3を積み上げることが大事」と大谷が話したように、結果のみが問われる一戦で、苦しみながらも確実に勝ち点3を獲得。何人もの選手が口にした「大宮戦と同じことを繰り返さない」という課題をしっかりクリアしました。残りは5試合。「今日の1勝は大きな一歩」とネルシーニョ監督も手応えを語った太陽王。戴冠式はもうすぐそこです。 土屋
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