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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
日本中を熱狂の渦へと巻き込んだ、南アフリカの激闘からわずかに1年と3ヵ月あまり。指揮官も日本人からイタリア人へと変わり、香川真司や吉田麻也、李忠成など"非南ア組"の中からも主軸を任される選手が出てくるなど、まったく違うチームに生まれ変わったと言ってよさそうな、現在の日本代表。今日からは約3年後のブラジルを見据えた、新たなステージに入ります。アジア3次予選における開幕戦の相手は、やはり南アフリカで世界の舞台を踏んだ朝鮮民主主義人民共和国。いわゆる北朝鮮です。埼玉スタジアムのアウェイゴール裏には、浦和レッズと戦う際の"多い"アウェイサポーターと同じくらいか、あるいはそれ以上の同胞が集結。スタメン発表にもアン・ヨンハッ、リャン・ヨンギ、チョン・テセのJリーグ出身トリオがアナウンスされると一際大きな歓声が上がるなど、独特の雰囲気に包まれる中、遠くブラジルへと向かう航海の第一歩が漕ぎ出されました。
日本のスタメンはGK川島で、最終ラインが右から内田、吉田、今野、駒野。ドイスボランチには長谷部と遠藤が入り、本田と中村の離脱で注目された中盤3枚は、右から岡崎、柏木、香川という組み合わせ。1トップには李という11人を揃えてきました。一方、北朝鮮はワールドカップで採用していた5-4-1から、実質4-4-1-1にマイナーチェンジ。1トップには「アイツを基点にするのはわかっていた」と元同僚の川島も話したチョン・テセ。アン・ヨンハッはフラットな中盤4枚のセンターで、リャン・ヨンギは左に張り出します。
さて、ゲームは「後ろに引いてコンパクトにして、入ってきたボールにアプローチに行く」とザッケローニ監督も言及したように、8枚の人壁を築き、明確な守備姿勢を取った北朝鮮を、日本が高いポゼッションから攻め立てるという、予想通りの展開。2分には右サイドから柏木が蹴ったFKに、ニアで吉田がわずかに触れず、GKがキャッチするシーンがあったものの、以降は激しく降り出した雨と対照的に、動きの少ない静かな時間が続きます。
なかなか日本が攻めきれなかった理由は2つ。1つは岡崎が話した「せっかくサイドに行っても、クロスで終わってしまうのはキツかった」という部分。これには指揮官も「サイドでもう少しオフ・ザ・ボールの動きが欲しかった」と同調。特に右サイドでは内田が単調にクロスを上げるシーンが目立ち、中央となかなか合わずにチャンスへ繋がりません。岡崎も、逆の香川もサイドに開くタイプではなく、中央で勝負するタイプなのはわかりますが、北朝鮮のようにエリア内へ守備の人数を割いているチームには、ある程度サイドに相手を釣りださないと、クロスもよほど精度が高くない限り、効果を生み出さないでしょう。
もう1つは、香川が「中央に縦パスを入れた時にはチャンスになっていた」と話した部分。24分に日本がこのゲーム初めてのシュートを放ったシーンは、相手のクリアを遠藤がダイレクトでクサビを打ち込み、李の落としに柏木が右足でフカすという流れ。李のワンタッチポストは成功回数も多く、チームの中でも1つのリズムを創るツールになりつつありますが、香川の言葉を逆説的に捉えれば、なかなかここに縦スイッチが入らなかったのも攻撃が停滞した要因でしょうか。
32分に柏木のセンス溢れる浮き球スルーパスを、李がバックへッドで枠へ飛ばしたシーンと、33分に遠藤が入れたクサビを岡崎がヒールで落とすと、香川がドリブルから枠の右へ外した2つのシーンが、前半最大の見せ場。シュートゼロの北朝鮮に対して、日本もネットを揺らすことはできず、スコアレスでハーフタイムへ入りました。
双方メンバーの交替なく迎えた後半は、46分に長谷部が強烈なミドルを枠内に飛ばしてスタートしましたが、48分には日本のイージーミスから北朝鮮にチャンス。自陣深くで香川が中央に戻したボールは味方と合わず、チョン・テセの元へ。右に流れて放ったシュートはDFが体でブロックしたものの、こぼれを拾ったパク・ナムチョルのクロスも、あわやというボール。嫌な形から、北朝鮮にチャンスを創られてしまいます。
56分には、ユン・ジョンス監督も1枚目の交替カードを選択。パク・ナムチョルに替えて、スイスのバーゼルに所属している186センチの長身ストライカー、18歳のパク・クァンリョンを最前線に送り込むと、3分後にはチョン・イルグァンが右へ展開したボールを、チャ・ジョンヒョクがクロス。ファーで待っていたパク・クァンリョンが高い打点で当てたヘディングは、ゴールまで距離があったためにシュートとはならなかったものの、1つサイドを崩す形を創出します。
さらに61分には、パク・クァンリョンのポストプレーから、リ・チョルミョンがダイレクトで縦へ付けると、リャン・ヨンギの鋭いターンから繰り出したシュートは、何とか吉田が頭でクリア。この時間まで、後半のシュート数は双方互角。北朝鮮もアグレッシブさを表出させ、ゲームの行方はわからなくなってきました。
そんな流れを一変させたのは、やはりザッケローニ采配。60分、柏木に替わり、今やチームの切り札的な存在になってきた清武が登場すると、63分には右サイドで清武、香川、清武、香川と細かく繋いで、長谷部の折り返しから、こぼれを清武が枠内へ抑えたシュート。ゴールカバーに入ったチャ・ジョンヒョクが驚異的なクリアを見せ、ゴールとはいきませんが、決定機を創出すると、直後にもチャンス。64分、ショートコーナーから、遠藤のスルーパス。香川がヒールで戻し、最後はまたも清武がフィニッシュ。ボールはバーの上へ外れたものの、いきなり21歳がチームに推進力をもたらします。
65分にチョン・テセの強引なミドルを経て、ザッケローニ監督2回目の交替策は70分。「引いて守ってきたので、違うオプションが必要かなと思って投入しようと」李に替えて、追加招集となったハーフナーを投入。フル代表デビューという期待感もあって、194センチのストライカーにスタンドからは大歓声が送られました。
71分、長谷部が獲得したゴール中央20mのFK。遠藤の右足から繰り出されたボールはわずかに枠の右へ。73分、右サイドから内田のアーリークロスにハーフナーが合わせたヘディングはクロスバーの上へ。74分、遠藤のハイプレスから奪った長谷部がドリブルで持ち上がり、左へ送ったボールをフリーで打ったハーフナーのシュートはクロスバー直撃。一気にギアも数段階アップした感のある日本。先制ゴールへの期待感も一層高まります。
そんな中で少し興味深かったのは、ハイタワーのハーフナー投入に伴っても簡単に長いボールを増やした訳ではなかった部分。指揮官は「グラウンダーで繋いで、速いコンビネーションから裏を取るというスタイルの攻撃をしてきたので、新しいスタイルに急激に慣れるのは難しいし、そういうやり方には慣れていないと思う」と話し、CBの今野は「別にロングボール一辺倒になる必要はないと思ってやっていたし、そこはブレてなかった」と言及。実際にこのゲームにおいてはハーフナーに訪れた最大のチャンスは地上でのコンビネーションでしたし、ハイボールを使わなくてもチャンスは創れていましたが、それでも高さは相当な武器になっていたのも間違いないだけに、今後対戦相手が強くなってきた際のことを考えると、ハーフナー投入後のハッキリとした意思統一は必要になってくる印象を受けました。
81分、またもシュートコーナーから遠藤、長谷部と繋ぎ、香川のクロスに岡崎が右スミを狙ったヘディングは、北朝鮮GKリ・ミョングクがファインセーブ。84分、パク・クァンリョンが遠藤へのスライディングで足の裏を向けたという判定によって、一発レッドカード。やや厳しい判定で、ユン・ジョンス監督も「2人同時に退場させるのならまだしも、1人だけにレッドカードを出したのは納得いかない」と不満を述べましたが、これで数的優位を得た日本はさらにラッシュ。87分、長谷部の右アーリーに、飛び込んだ岡崎はわずかに届かず。雨の中、54624人が詰めかけたスタンドもフルボルテージで日本を後押しします。
88分、中央右寄り35m近い距離からチョン・テセが狙ったFKは力み過ぎか、川島がキャッチ。89分、パク・ソンチョルが左へ流れながらミドルを枠内へ。所定の90分を経過。第4審が掲示したアディショナルタイムは5分。最後の攻防。これはアジアを勝ち抜くために、どうしても1点を奪わなくてはいけない最後の5分間です。
91分、遠藤がエリア外へマイナスに蹴ったCKはフリーの内田に届きますが、シュートは大きく枠の上へ。92分、駒野の左アーリークロスを清武が収め、香川が左足で狙ったシュートは、チョン・グァンイクが体でブロック。直後のCK、遠藤が中に入れると、ニアで香川がフリック。今野は胸トラップから素早く左足を振り抜きましたが、ボールが選んだ先はクロスバー。直後のショートコーナー、長谷部が左から上げたクロスに、ニアで合わせた香川のヘディングは、ゴール右スミギリギリにコントロールされたものの、ここもGKリ・ミョングクがスーパーセーブで阻止。1秒ごとに増えていくゴールへの確実な予感と、1秒ごとに増えていくタイムアップへの恐怖。
94分、またもショートコーナーは清武。受けた長谷部がリターンすると、清武はワントラップから絶妙のクロス。中央にできた密集の中で、吉田の頭へ届いたボール。ヘディング一閃。揺れたゴールネット。揺れたスタンド。「後ろはずっと我慢してた。チャンスを狙ってた」という23歳が土壇場で大仕事。ザッケローニ体制下で臨む初のワールドカップ予選は、劇的なアディショナルタイムの決勝弾で日本が勝ち点3を強奪する結果となりました。
「非常に組織化されて集中力も高く、気持ちの準備ができていたチームだった」とザッケローニ監督が語り、「我々の計画通りの守備ができた。精神的にも肉体的にもよく戦ってくれた」とユン・ジョンス監督も振り返ったように、北朝鮮の健闘が光ったゲームでした。特に前半途中で負傷しながら、「精神力で最後まで戦い抜けると信じていたので、交替させなかった」と指揮官が話したGKリ・ミョングクを中心に、最後の所で体を投げ出せる守備の安定感は素晴らしかったと思います。終盤の退場がなければ、スコアレスドローで終わった可能性も十分あったはず。平壌での一戦は、日本にとってもさらに難しいゲームになるでしょう。
日本は、本田、長友といわゆる世界的にネームバリューのある2人を欠きながら、内容自体はその2人の不在を感じさせないようなゲームを展開。特に後半、清武投入以降の攻撃は、相手の運動量が低下した点を差し引いても、ゴールを予感させるには十分なボリュームだったことは間違いありません。すぐやってくるアウェイのウズベキスタン戦を考えれば、「勝ったことを自信にして、次に繋げたい」(川島)というメンタルの切り替えが重要。何はともあれ、ブラジルへと続く航海は5万5千の大観衆と共に歓喜を共有する、上々の船出となりました。 土屋
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