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サッカー フットサル コラム 2024年2月6日

故ヨハン・クライフが名付けた《周辺》に追い詰められたシャビ

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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衝撃的な発言で我々を驚かさせたシャビ

衝撃的な発言で我々を驚かさせたシャビ

「バルセロナの監督をするのは、残酷で不快だ」

衝撃的な言葉だった。

シャビが今季限りでベンチを退くことを発表してから1週間経った。スペインスーパーカップとコパ・デルレイで連続敗退後に、リーグ優勝も絶望的になった。だから、辞任はあり得ることだったが、「残酷」で「不快」という表現には驚いた。

これではまるで三行半。“将来的にも監督をするつもりはない”という決別表明ではないか。

解任・辞任経験のない名監督などいない。

リバプールのユルゲン・クロップも今季限りを発表したばかりだし、グアルディオラだってバルセロナでの最後のシーズンは追われるように出て行った。シャビには経験が足りなかった。ならば経験を積んで戻ってくればいいじゃないか。

「(監督を)続ける意味はまったくない、と言うところまで、精神的な健康面、生きる意欲という面で恐ろしく消耗した」

何がシャビをここまで追い詰めたのか?

それは、かの有名な「周辺」ではないか。

バルセロナはクラブ、会長、監督、選手のことを過小評価する者たちに囲まれている。クラブの一挙手一投足を見張りチェックし、悲観的でネガティブな意見を吐く者たちだ。

といっても、純粋な意味での「敵」ではない。「周辺」はレアル・マドリーファンではない。普段はバルセロナファンであり味方なのだが、クラブやチームがつまずくと一斉にネガティブキャンペーンを行う敵に豹変する。

「周辺」を目撃した者はいない。

便宜的に「者たち」と書いたけども、特定の人物や集団を指すわけではなく、ネガティブで気紛れな空気を指す。楽観的なスペイン人一般に比べて、悲観的だと言われるカタルーニャ人の気質が影響しているのかもしれない。

最初に「周辺」の毒性に気づき、「周辺」の名付け親となったのは、故ヨハン・クライフだ。

今から30年以上前、92年4月チャンピオンズカップ(現CL)のグループステージでバルセロナはスパルタ・プラガに1-0で敗れた。決勝進出に向けて悲観的な空気を読み取った監督クライフは、こう言った。

「なぜゴールできないのか? それは『周辺』の悪影響のせいだ。だからこのクラブはやっかいなのだ」

発言後、バルセロナは決勝に進出して、クラブ史上初の欧州王者に輝いた。栄冠の歴史とともに「周辺」は忘れられない言葉となったわけだ。

「周辺」は目に見えない。単なる思い込みで、現実には存在しないのかもしれない。だが、人の心にダメージを与えるには、疑心暗鬼や強迫観念だけで十分だ。

暗闇に鬼がいる。私の陰口が聞こえてくる。誰も信用できない。周りは敵だ……。

実際フロント内部にシャビに批判的な者はいたようだが、その声を疑心が増幅した可能性はある。

「周辺」に追い詰められたシャビは、自分の疑心にも蝕まれた、とも言えるのだ。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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