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サッカー フットサル コラム 2023年12月28日

「栄光の歴史ふたたび」がセクシーな耳なじみだとしても・・・

粕谷秀樹のOWN GOAL,FINE GOAL by 粕谷 秀樹
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L・マルティテス(中央)とカゼミロ(右)の戦線離脱によりユナイテッドはバランスを崩した

L・マルティテス(中央)とカゼミロ(右)の戦線離脱によりユナイテッドはバランスを崩した

エリク・テンハフ監督は弱音を吐いていない。

「1月中旬までにはリサンドロ・マルティネス、カゼミロ、メイソン・マウントが戦列に戻ってくる。われわれマンチェスター・ユナイテッドの選手層は充実し、より強くなるだろう。

確かにそのとおりだ。昨シーズンのプレミアリーグで3位に入り、カラバオカップ優勝のチームを支えたのはL・マルティネスとカゼミロ、ブルーノ・フェルナンデスの3選手だった。

勝負に “たられば” は禁物であるものの、L・マルティネスが健在なら、ハリー・マグワイアはセンターバックの定位置を奪い返せなかった。カゼミロのコンディションが整っていれば、スコット・マクトミネイは移籍していたに違いない。

したがって、ふたりの実力者が復帰するユナイテッドは秩序がもたらされ、後方からのビルドアップも安定感を増す公算が大きい。

また、攻守の切り替えが素早く、テンハフ好みのMFであるマウントも、このまま沈黙しているとは思えない。中盤センター、二列目中央、右ウイングでも適用する汎用性は、非常に貴重なアイテムだ。

ここにレフトバックとCBを高いレヴェルでこなすルーク・ショー、成長著しいアレハンドロ・ガルナチョとコビー・メイヌーも擁しているのだから、テンハフが強気になるのは当然だ。

しかし、マーカス・ラシュフォードは精彩を欠いている。アンソニー・マルシャルとともに、ボールロストしても我関せず……。レギュラーに定着して8シーズン目を迎えたが、周囲の期待に応えたのは昨シーズンと2019/20シーズンだけだ。そのほか5シーズンは好不調の波が激しかった。

19節のアストンヴィラ戦で、ラスムス・ホイルンドにようやくプレミアリーグ初ゴールが生まれた。ポストプレーは及第点で、チャンピオンズリーグの5得点も高く評価できるとはいえ、プレミアリーグのパフォーマンスは合格点にほど遠い。フリーになっていてもパスが来なかったり、相手DFに囲まれているのにボールが来たり、対人プレーを得意とするCBには苦戦する。

マルシャルはあのザマだ。

攻撃力整備はラシュフォードの復調、ホイルンドの覚醒を待つしかない。一部で噂されているセル・ギラシー(シュトゥットガルト)との交渉開始は、いまのところ同選手のエージェントが発信したおとぎ話だ。テンハフも前線を強化するプランは持っていないという。

ただ、19節終了時点のゴール期待値28.4は、ブレントフォード(31.1)やエヴァートン(29.7)を下まわるリーグ10位。21ゴールは降格圏にあえぐルートンに並んで16位という不様だ。トップスコアラーは5得点のマクトミネイ。ポジショニングを理解せず、やたらと高い位置をとりたがるMFが、である。

攻撃力増強は喫緊の課題であることに疑いの余地はない。

ところで、グレイザー・ファミリーに代わってフットボール部門を統括するジム・ラトクリフ卿は、どのように考えているのだろうか。

「下部組織出身者と英国系の選手を中心に再編する」

この2~3か月、ラトクリフ卿の周辺から頻繁に聞こえてくるフレーズだ。サー・アレックス・ファーガソンもデイヴィッド・ベッカム、ポール・スコールズ、ライアン・ギグス、ニッキー・バット、ガリーとフィルのネヴィル・ブラザーズを軸に栄華の土台を築いた。栄光の歴史ふたたび──は耳なじみがセクシーだ。

もちろん、慣れ親しんだ玉座は一朝一夕にして奪い返せない。前回も報じたように、ユナイテッドを投資の対象としか見ていないグレイザー・ファミリーの愚策が、ライバルとの格差を絶望的なまでに広げている。

それでも、マンチェスターで生まれ、ユナイテッドを愛するラトクリフ卿の着任は、アメリカ人オーナーが主導した悪政が終わりを告げる予兆だ。

ガルナチョはラシュフォードから定位置を奪う勢いだ。ピッチ全体を俯瞰するかのようなメイヌーのゲームメイクには惚れ惚れする。19歳と18歳の若者はともに下部組織出身であり、0-2から大逆転劇を演じたアストンヴィラ戦(前出)は復活のプロローグだ。

ユナイテッドの春はすぐそこまで来ている。いまは、そう信じるしかない。

文:粕谷秀樹

粕谷 秀樹

ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。

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