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だが、UEFA加盟国ではないサウジアラビアにはこのルールは適用されない。
サウジアラビアのクラブはそれほどの収入があるわけではない。巨額の強化費用はすべてオーナーの懐から支出されているのだ。
サウジアラビアのクラブはもともと政府が国民福祉のために、豊富な資金を投じて設立したものだ。
僕は、昔、首都のリヤドにあるアル・ヒラルやアル・ナスルを取材したことがあるが、グラウンドや体育館などクラブの施設がその構造もレイアウトもそっくりだったので驚いた。つまり、クラブの施設は政府が設計をして一斉に建設したものだったのだ(塗装は各クラブのクラブカラーになっている)。
サウジアラビアは世界最大の産油国。政府は使い切ることすら不可能とも言われる膨大な収入を得ている。そして、その政府の権力と富を独占しているのがサウド家の王族で、各クラブも王族がオーナーとなっている。
最近になってスポーツに対する投資を拡大させているのが、政治権力を掌握しているムハンマド皇太子だ。反対派を厳しく弾圧し、批判的だったジャーナリストを殺害したという嫌疑をかけられているが、一方で女性の自動車の運転を解禁するなど、改革派の顔を持っている。スポーツに投資し、2027年のサッカー・アジアカップ招致に成功。将来はオリンピック招致を狙っていると言われており、クリスティアーノ・ロナウドやネイマールなどの獲得もそうした政策の一環ということになる。
巨額な収入をどのように使おうと彼らの勝手なのではあるが、それが「ファイナンシャル・フェアプレー」というサッカー界の規律を乱すとしたら、何らかの規制が必要だろう。
ヨーロッパのサッカー界にとっては、サウジアラビアが何をしようとそれが収入になるのなら歓迎すべきことなのかもしれない。だが、一部のクラブがそんなサウジアラビア資金による収入を得るとすれば、「ファイナンシャル・フェアプレー」の精神は骨抜きにされてしまう。
まして、こうした巨額のオイルマネーを使って強化したクラブがACLを席巻するようになったとすれば、アジアのサッカー界にとってけっして看過できない。
かつて“爆買い”で栄えた中国のサッカー界は“カネ”に汚染されて、すっかり荒廃。協会幹部から代表監督までが取り調べを受け、代表チームも弱体化してしまった。
長期的に考えれば、マネーゲームがサウジアラビアのスポーツを豊かにすることはないと思えるのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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