アーセナルの中盤に魅力的なトライアングルが誕生する！

移籍金は英国人史上最高額の1億500万ポンド（約192億1500万円）。ライスがアーセナルにやって来る

セスク・ファブレガスがユニフォームを脱いだ。

とにかく、いろいろやらかしてきた。アーセナルからバルセロナ、バルセロナからチェルシーに移籍した際は、ともに残留とクラブ愛を強調しながら、舌の根も乾かないうちに前言を翻している。一部のグーナー（アーセナル・サポーター）がセスクのユニフォームを燃やす動画を投稿するほど、愛憎の対象になってしまった。

また、サー・アレックス・ファーガソンにピザを投げつけたり、レアル・マドリーのキャプテンを務めていた当時のセルヒオ・ラモスに「文句があるのなら直接オレにいいやがれ」と喧嘩を売ったり、感情の激しさも垣間見せた。

しかし、卓越した状況判断に基づく長短緩急のパスが、世界中のフットボールファンを唸らせたこともまた事実である。

スペイン代表の一員として2008年と12年のヨーロッパ選手権、10年南アフリカ・ワールドカップの優勝を味わった。また、バルセロナで一度、チェルシーで二度のリーグ優勝に貢献し、タイトル獲得数は実に16にも及ぶ。06/07シーズンにはアーセナルで、14/15シーズンにはチェルシーでアシストキングに輝くなど、つねに異彩を放っていた。

現在36歳。引退後はイタリア・セリエBのコモでコーチに就任。いずれアーセナルやチェルシー、あるいはバルセロナの監督を務める日もやって来るに違いない。

さて、アーセナルはセスクをはじめ、デニス・ベルカンプ、パトリック・ヴィエラ、トマス・ロシツキ、メスト・エジルなど、中盤に数多くの名手を輩出してきた。彼らの妙技を語りはじめると、世界中のグーナーが時間の経過を忘れる。そして来るべき23/24シーズンの陣容は、アーセナル史上最高といって差し支えない。

マーティン・ウーデゴーア、カイ・ハヴァーツ、デクラン・ライス！　スタイリッシュ、かつアーティスティックなトライアングルが誕生する。

ラスト30メートルで決定的なシーズンを創出するウーデゴーアは、リーダーシップという鎧も身にまとった頼るになる男だ。ハヴァーツはスペースに飛び出す感覚にすぐれ、ライスは攻守ともに貢献度の高い世界屈指のバランサーだ。

無敗優勝を飾った03/04シーズンのヴィエラ、エドゥ、シウベルト・シウバを想像力でしのぎ、22/23シーズンのマンチェスター・シティをチャンピオンズリーグ、プレミアリーグ、FAカップのトレブルに導いたケヴィン・デブライネ、イルカイ・ギュンドアン、ロドリの域に到達するまで、長い時間は必要としないだろう。

22/23シーズンの2位でチームは自信に満ちあふれている。21年夏以降の二年間で3億1000万ポンド（約567億3000万円）もの巨費を市場に投じ、今夏もすでにハヴァーツとライスの獲得に1億7000万ポンド（約311億1000万円）を要しているとはいえ、CL出場権奪回に伴うテレビ放映権料、好調が続く本拠エミレーツスタジアムの収入などをふまえると、ファイナンシャル・フェアプレーに抵触するリスクも低い。

アーセナルは極めて順調だ。今後は市場が締まる8月31日まで現有勢力を精査し、不要と考えられる者は知名度の大小に関わらず換金対象とし、トラブルの発生率を抑える工夫も必要だ。

248日も首位に立ちながらリーグ優勝を逸した22/23シーズンの悔しさを晴らす新シーズンは、ノッティンガム・フォレストとのホームゲームで開幕する。いきなり、ゴールラッシュか！

文：粕谷秀樹