トップ4で満足していては、いつまで経っても強くなれない

トッテナム vs. ACミラン（中央 ハリー・ケイン）

マウリシオ・ポチェッティーノ、ルイス・エンリケ、トーマス・トゥヘル、ロベルト・デゼルビ……。トッテナムの次期監督と噂される4人の男たちだ。

ハッピーエンドでもバッドエンドでも、アントニオ・コンテ現監督は今シーズン限りで退団する。胆のう摘出手術後の回復が思わしくないこと、昨年10月から4か月で3人の友人、知人が他界した心労も重なり、フットボールに対する情熱をすっかり失ってしまったという。

また、守備的なアプローチがサポーターに嫌われている。ACミランとのチャンピオンズリーグ・ラウンド16第二戦でも、デヤン・クルゼフスキに代えてダビンソン・サンチェスを投入。センターバックのクリスティアン・ロメロが退場処分になったとはいえ、勝利のためには2ゴールが必要な場面にもかかわらず、FWを下げDFをピッチに送り込んだ。本拠トッテナム・ホットスパー・スタジアムから、ブーイングがわいたのは当然である。

留まる理由はどこにもない。

さて、ポチェッティーノとトゥヘルは、レアル・マドリーの次期監督候補ともいわれている。低調な闘いに業を煮やしたフロレンティーノ・ペレス会長が、カルロ・アンチェロッティ監督との契約を今シーズ終了後に解除する、という情報も飛び交いはじめた。

ポチェッティーノとペレスは相思相愛とイングランドで伝えられ、トゥヘルはスペイン語をマスター中と、ドイツ方面から聞こえてきた。おそらく、憶測の域を出ない情報だ。しかし、競合相手がマドリーになった場合、トッテナムに勝ち目はない。それがフットボール界のヒエラルキーだ。

こうして、デゼルビとL・エンリケが残った。

「ビッグクラブに興味はない」

チェルシーの新監督候補にも挙げられているデゼルビは、噂にまったく取りあわない。エゴの少ないスモールスカッドでみずからのスタイルに磨きをかける──が、彼の理想だ。しかも、ブライトンの監督に就任してまだ7か月。他クラブのオファーに耳を傾けるのは時期尚早、と考えているようだ。

さらにL・エンリケに関しては、イングランドのタブロイド紙が発信元だ。前スペイン代表を待望する声は、ノースロンドンから聞こえてこない。

そして新監督候補以上に危惧されているのが、ハリー・ケインの去就である。今シーズンもタイトルとは縁がなかった。常日ごろから「愛するトッテナムで戴冠」を公言する稀代のストライカーの夢はまたしても水泡に帰し、クラブとの契約は2024年6月までだ。

堅実な経営に重きを置くトッテナムのダニエル・レヴィー会長は、移籍市場に莫大な投資はしない。サポーターが拍手喝采し、メディアが驚くような大物は、今夏も獲得しないだろう。

「トップ4入りで満足していては、いつまで経っても強くなれない」

ケイン本人も、クラブの姿勢に少なからぬ疑問を抱いていた。気になる移籍金は、1億〜1億2500万ポンド（約160億〜200億円）といったところか。ケインとリンクされているマンチェスター・ユナイテッド、マドリーなら、簡単に支払える金額だ。

したがってトッテナムの新監督は、ケインのいないチームを率いる公算が極めて大きい。ビッグネームが引き受けるとは思えない。

文：粕谷秀樹